3 社会、経済、生活を支える道づくり
 
1.現状と課題
 
(1)道路をめぐる現状
 イ 社会・経済・生活と道路の関わり
 [1] 社会を支える
 道路は、国民生活に不可欠な、電気・電話・ガス・上下水道などのライフライン収容空間として活用され(道路占用割合:上下水道、電気(管路):100% 電話(管路):99% ガス:90%)、ライフラインの確保に資する役割を果たしているとともに、阪神・淡路大震災の際には、幅員の広い道路がライフラインの確保とともに延焼の防止に大きな効果を発揮するなど、防災空間としての役割も果たしている。
 さらに、国内旅客、貨物輸送における自動車交通の占める割合は年々増加しており、地方圏においては自動車交通が社会活動の基盤となっている。
 
 [2] 経済を支える
 経済の発展とともに運転免許保有者数、自動車保有台数は急激な伸びを示している。これに伴って自動車走行台キロも大きな伸びを示している。このことは、自動車交通が経済の発展と密接不可分であることを示している。
 高速交通網の整備は、空港ターミナル機能の向上や地域の商業活動の活発化など、地域の経済活動の活性化に寄与している。
 また、重厚長大型から加工組立型への産業構造の変化に対応して、必要な材料の調達、製品の輸送が容易な高速道路のインターチェンジ(IC)周辺に多くの工場が立地していることも経済を支えている一面である。
インターチェンジまでの時間距離別区分でみた小売額
  
インターチェンジからの距離別工場立地件数
 
 [3] 生活を支える
 野菜、果物、水産品、日用品等日常生活に必要な主要品目の輸送のほとんどを自動車輸送が分担している。
 また、阪神・淡路大震災の影響によって高騰したレタスの価格が、高速交通が確保されるにつれて次第に安定するなど物価の安定にも寄与している。
 さらに、高速道路網の整備は宅配便の1日配達圏を拡大し、生活の利便性に寄与しているとともに、医療機関の少ない地域においても、高度医療、救急医療の利用が可能となるなど地域における高度医療を支援している。
品目別機関別輸送分担率(平成9年度・輸送トンベース)
  
愛媛県新宮村周辺の医療ネットワーク
 
 ロ 多様な道路の機能
 [1] 社会・経済・生活を支える多様な道路の機能
 道路の機能は多面的であり、使われ方は多様である。鉄道や航空等の様々な交通機関を支える基盤であるとともに、長距離から短距離まであらゆる自動車交通を担っている。道路整備の進展は、多様な生活活動を可能にし、また高速道路インターチェンジ周辺の多数の工場立地を見ても、高速道路は沿道の住民に新たな勤務地を供給しているといえる。
 戦後、人流、物流における自動車の分担率は、わが国の産業構造及び消費構造の高度化、多様化等により、飛躍的に増加を続けているものの、物流における多品種・少量輸送、ジャストインタイム輸送等国民のニーズの多様化・高度化がみられるなか、都市内道路における貨物輸送の積載効率が低下してきており、渋滞、人流とともに、地域別、距離帯別に、自動車の使われ方が異なっており、各種交通機関の連携のもとで、効率的な輸送体系を形成することが重要となっている。
 
 [2] 社会空間(社会の共有空間)の確保・再生
 道路は、国土空間の有効利用を図り、地域を支える総合的な社会基盤である。特に、生活や社会面での安全性の確保や質の高い生活空間の充実を図っていく上で、道路は社会の共有空間として、地域、都市の極めて重要な構成要素である。
 例えば、水道管の全て、ガス管の90%が道路の下に収容されているなどライフラインのほとんどが道路の地下に収容されており、道路は空間という側面においても、人とくらしを支える最も根幹的な施設として、あらゆる分野の社会活動と深い関わりを持っている。
 また、道路は良好な市街地の骨格形成、都市や地区のシンボル形成等の機能、消防活動や避難路、緊急輸送路など防火活動のための空間としての機能を有している。その上、緩衝空間、通風、採光、修景、人々が集い、憩う場としての活動空間の形成、美装化といった環境空間としての機能、地下鉄などの公共交通施設等の収容空間としての機能を担っている。
 このため、今後は、道路の持つ空間機能を発揮させ、個性や魅力あるみちづくりを行うため、歩道、植樹帯、中央帯の幅員をより広くするよう配慮するなど、空間機能に着目した新たな道路整備のあり方を構築するとともに、全国の情報通信ネットワーク形成に資することが重要な課題である。
多様な道路の機能
 
 ハ 道路整備の現状
 ・道路整備の水準
 戦後50年が過ぎ、道路整備について、戦後の歩みを振り返ると、そのスタート段階である終戦直後のわが国の道路は、空襲や財源不足から、荒廃が甚だしく、損傷の激しい簡易舗装がわずかに残されたほかは、砂利道ばかりで、人や自動車の通行はいたるところで難渋を極めている状態であった。
 このような中、本格的な道路整備は、昭和29年に策定された「第1次道路整備五箇年計画」から始まり、現在の「新道路整備五箇年計画」によって強力に進められているものの、未だ整備の途上段階にあり、今後とも着実な整備の推進が求められているところである。
 例えば、高規格幹線道路については、平成10年度末で供用延長が7,377kmとなるが、これはようやく全体計画の半分に達した状況であり、高速道路の整備水準や空港・港湾と高速道路網のアクセス状況は欧米と比べて依然低い水準にある。また渋滞による時間損失は年間で国民1人当たり約42時間、金額に換算すると全体で12兆円にもおよび、交通渋滞が大きな問題となっている。
 防災性・利便性等と関係の深い都市の道路面積割合については、東京都区部においても13.6%と欧米都市に比べ低く(ワシントンDC25%)、歩道の整備状況をみても必要延長量の53%に過ぎないなど、社会の共有空間としての機能向上が求められている。
 さらに、全国で夜間の環境基準を超える道路の割合が約65.5%に及んでいるなど、環境面での対策の一層の充実も求められている。
 
高速道路整備水準の国際比較
 
(2)道路整備の3つの視点
 道路は人や物、情報の交流を支える基盤施設であるとともに、航空・船舶・鉄道などの全ての交通機関をネットワーク化して、交通体系全体を支えている。また、ライフラインの収容空間としての機能や都市の骨格を形成する機能を果たすなど、様々な空間機能を備えた国土・地域・都市を支える最も基礎的な社会資本である。
 こうした道路の有する多様な機能を人中心の視点から再構築し、国土・地域・都市を支える公共空間としての道路の機能を最大限に発揮させるため、以下の3つを施策の展開における基本的な視点として据える。
○空間機能の向上 
 質の高い生活環境を形成するため、国民が活動できる唯一の連続した公共空間としての特性を活かし、社会の共有空間としての機能を高める施策を展開する。
○交通機能の向上
 効率的な社会経済活動を支援するため、様々な交通機関を支える道路の特性を活かし、人やモノ等の移動の効率性を高める施策を展開する。
○新しいライフスタイルへの対応
 21世紀の新しいライフスタイル実現の鍵となる、情報化や環境保全に関する施策を展開する。
 以上の視点を踏まえ、道路政策を強力に推進する。
 
2.平成10年度、11年度の主要施策
 
(1)新道路整備五箇年計画の推進
 21世紀を目前に控え、社会生活、経済活動が、人中心の安全で活力に満ちた社会・経済・生活の実現を図るとともに、参加と連携による国土づくり・地域づくり、輸送の合理化に寄与し、もって均衡ある国土の発展と活力ある経済・安心できるくらしの実現に資することを今後の道路整備の基本的な方針とする新道路整備五箇年計画に基づき、道路整備を効果的・効率的に推進する。
 
 イ 社会・経済・生活の緊急課題への対応
 社会、経済、生活が直面する物流の効率化、中心市街地の活性化、高度情報化、渋滞対策、交通安全対策、防災対策、環境保全等の緊急課題を解決していくため、新道路整備五箇年計画の基本的方針の下、道路の持つ多様な機能を効率的に発揮できるよう、道路政策を推進する。具体的には、「新たな経済構造実現に向けた支援」「活力ある地域づくり・都市づくりの支援」「よりよい生活環境の確保」「安心して住める国土の実現」を4つの柱として、道路整備を効果的・効率的に推進するとともに、道路網の管理の充実を図ることとする。
 まず、新たな経済構造実現に向けた支援として、交流ネットワークの充実と地域相互の交流促進を図るため、高規格幹線道路、地域高規格道路等の整備を推進する。また、複合一貫輸送を促進する空港、港湾等への連絡道路の整備や車両の大型化に対応した橋梁の補強等を推進するとともに、中心市街地の活性化に資する道路の整備を推進をする。さらに高度情報通信社会の構築に向け、光ファイバー等収容空間の整備、高度道路交通システム(ITS)に対応した道路の整備等を推進する。
 また、二つ目の柱である活力ある地域づくり・都市づくりの支援としては、「第3次渋滞対策プログラム」等に基づき、バイパス・環状道路等の整備など交通容量拡大策を推進するとともに、交通需要マネジメント施策やマルチモーダル施策、路上工事の縮減に資する共同溝の整備等を推進する。また、都市構造を再編しつつ、快適で活力ある都市を構築するため、都市高速道路等の整備を推進するとともに、土地区画整理事業、市街地再開発事業、電線共同溝の整備等による電線類の地中化については、今年3月に策定した新電線類地中化計画に基づき強力に推進する。さらに、自立的な地域社会の形成を図るため、交流ふれあいトンネル・橋梁整備事業など地域の連絡を強化する道路の整備や奥地等産業開発道路等の整備を推進する。
 三つ目の柱であるよりよい生活環境の確保を図るための施策としては、安全な生活環境を確保するため、歩道の設置や交差点改良などによる道路交通環境の整備や交通安全教育の充実など関係機関と連携して総合的な交通安全施策を推進する。
 また、良好な環境創造のため、地球温暖化の防止に資する渋滞対策等を推進するとともに、自然環境と調和の取れた道路の整備、良好な生活環境の保全・形成に資する環境施設帯の整備や沿道整備事業等を推進する。
 四つ目の柱である安心して住める国土の実現を図るための施策としては、国土の安全とくらしの安心を確保するため、維持管理の充実等を図るとともに、防災対策、震災対策、避難路の整備、積雪寒冷特別地域における冬期交通の確保を図る事業等を推進し、道路網の管理の充実を図る。
 
 ロ 道路政策の進め方の改革
 事業目的と社会的な効果を十分に確認しながら投資を判断する時代へ移行していることに対応して、道路政策をより効果的・効率的に推進するため、重点化・効率化、事業等の評価・改善、透明性の確保、適切な役割分担等の視点から道路政策の進め方の改革を図る。
 具体的には、コスト縮減の推進など道路事業の効率化事業の評価などの評価システムの導入透明性の確保パブリックインボルブメント(PI)の実施など国民参加型のオープンな道路政策国民と行政,官と民,国と地方が適切に役割分担した新しいパートナーシップの確立などを図る。
 
 ハ 新技術の開発・導入の促進
 環境・エネルギー問題の顕在化安全・安心に対する要請の高まり産業の空洞化道路ストックの老朽化等の喫緊の課題に対応しつつ、道路利用者のニーズに即応した効果的・効率的な道路整備を推進するため、新道路技術五箇年計画に基づき、産学官及び異分野の技術開発の促進・連携強化を図り、計画的・総合的な技術研究開発を推進する。