第5章 21世紀初頭の国土への展望
我が国は、2010年から2025年にかけて高齢化が世界最高の水準に達すると予測されているが、この時期には東京をはじめ多くの都市圏で人口の減少が進むものと推計されている。こうした少子高齢化や人口減少がもたらす社会・経済・地域・暮らしへの影響については、少なくとも、戦後ほぼ一貫して需要後追いの対応となり大きな問題を遺した都市の過密構造が緩和され、道路ネットワークの整備と連携しつつ、既成市街地の再構築をはじめ活力と魅力に溢れるコンパクトな都市構造への再編や環境への負荷の少ない循環型社会を目指す上で、好機到来と考えることができる。
このように、住宅・社会資本の整備の分野において2025年までの四半世紀は『ストック・メンテナンスの世紀』であるのと同時に、高齢化・人口減少の進展、地球環境問題の深刻化する中で、都市構造再編など安全で活力ある国土づくり、循環型社会の形成、さらに安心して暮らせる生活空間の実現が求められる総合的な『国土マネジメント』の時代でもあるといえよう。
また、活力があり後世の人々にまで長く愛着を感じられるまちをつくるためには、現在地域に残されている貴重なまちなみ・景観を守るという視点が大切であるのと同時に、まちなみをつくるのは関係者(行政、住民、事業者)一人一人のまちづくりへの想いと努力の積み重ねによることをよく認識し、関係者がまちづくりに対するコンセンサスを立体的なイメージとして共有しながら得られたコンセプトで新たなまちなみの景観を生み出すことも重要となる。さらに、まちなみを構成する個人の「住まい」についても、リフォーム・中古住宅流通・賃貸住宅に係る市場整備により、土地資産の保有よりも、ライフステージ・ライフスタイルに応じた居住サービスを選択・利用した住替えが進むものと思われ、この面からも耐久性の高い「社会的資産」としての住宅ストックの再生、維持管理、循環を通じた居住水準の向上が期待される。『造景の世紀』の美しいまちづくりに加わっていく中で、コミュニティの一員としての公共心や自己責任意識さらには環境共生の精神も一層求められる。
「個」の確立した個人に自由な選択と自己責任が求められ、それに対応した諸制度の改革も進む今日、個人が自己実現のための活動の一環として、地域の人的ネットワークやNPOなどの一員として、少子・高齢社会を支える「公」の意識をもって社会に貢献することが期待されている。そうした意識を持ったひとづくりのため、社会資本整備やまちづくりの分野でも「公共事業への住民参加」「景観」「高齢者・障害者の”居住”」、さらには「コミュニケーション行政」等の観点から、「場」を提供できることを紹介した。建設行政としては、こうした取り組みやお手伝いを積極的に進めていきたいと考えている。これら住民と行政相互の協働、共創作業によって、伝統・文化や個性を育み、環境と調和した魅力ある「人と国土」が実現するのである。
また、建設分野においても、地球温暖化問題への対応や自然との共生をはじめ、内外の循環型社会の形成に向けたスピード感のある取組みを積極的に進めていく必要がある。このため、建設廃棄物の再資源化を徹底する「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」等に基づき総合的な関係施策を講ずるとともに、耐久性の高い良質な住宅・社会資本の整備・管理、さらには、流域全体・社会全体を視野に入れた健全な水循環系の形成等を通じ、環境負荷の軽減に積極的に取り組んでいきたい。
したがって、これからの国づくりの目標を、国家と地域(コミュニティ)の魅力づくりに不可欠な「活力と美しい環境」を創造することに向けることが大切であり、これからの四半世紀は社会経済の大転換期の中で、内外の人々が日本を魅力的と感じる新たな国土づくり・まちづくりに向かう時代と位置づけることができる。
また、建設省は、平成13年1月から、中央省庁等改革により北海道開発庁、国土庁及び運輸省と統合し、新たに国土交通省として再編される。国土交通行政は、人々の身の回りから国土全体の姿まで、国民の暮らしや経済社会、安全の確保、環境や地域と幅広く密接に関連しており、行政に対する国民の多様なニーズと時代潮流に対応したニーズの変化を的確に把握しつつ、幅広い行政分野にわたり、総合性を発揮することが必要であり、計画、事業、規制、融資、税制など多様な施策手法が活用されている。これらにより、今後国土構造の大転換が求められる中で、統合のメリットを活かした、よりよい行政サービスの提供を目指し、21世紀の我が国の国づくり・まちづくりを支えていくこととしたい。