第4章 美しい景観のまちを育むために

 戦後以来、我が国は急激な都市への人口集中により都市化社会が形成されていった歴史を経て、現在は人口の移動も減少傾向にある中で、人々がまちに定住する成熟した都市型社会の時代を迎えている。このような都市の歴史の転換期に際し、経済的・物的な豊かさばかりではなく、心の豊かさ、ゆとりと美しさに満ちた暮らしが求められており、まちづくりについても、住宅・社会資本施設の量的な充足から、ゆとりや美しさのある良好な生活空間の創造や環境への配慮が求められるようになっている。建設省においては、環境基本法(平成5年)を踏まえて平成6年に環境政策大綱を策定して以来、住宅・社会資本整備に際しては、健全で恵み豊かな環境を保全しながら、人と自然の触れ合いが保たれた、ゆとりとうるおいのある美しい環境を創造することが建設行政の使命であるとの認識の下に環境施策を推進してきたところである。なお、詳細については、「第2 国土建設施策の動向」の「I 環境政策の展開」を参照されたい。
 「美しい景観のまち」は人々の生活に快適さ、豊かさ、ゆとりを与えることで、人々のまちに対する新たなニーズに応えるばかりではなく、美しい景観に魅了された人々を引き付け、まちに活気を呼び起こすことにより、まちの国際競争力の源泉であるソフトパワーとなる。このため、本章においては、「美しい景観のまち」を育むための様々な主体による積極的なまちづくりへの参加のあり方について明らかにしたい。
 なお、「景観」の中には「自然景観」のように、自然を中心に構成される景観も考えられるが、ここでは、まちで暮らす人々の日々の生活やまちづくりのための活動と一体となって、人々が育むものとしての都市の景観について焦点を当てて検討したい。