2 リーダー・専門家の育成

 まちづくりにおいては、「景観をよくしたい」「きれいなまちに住みたい」という住民の思い入れや意識が基礎として大切になる一方で、それを実現するためには、都市計画や景観について専門的な知識や実務経験を有する専門家がリーダーとして住民を先導し、またアドバイザーとして住民の活動を支援していくことが必要である。
 まちづくり・景観づくりには多岐にわたる専門的な知識が要求されており、例えば、都市計画、建築基準に関する法制度に関する知識や、建築・土木工学、景観デザイン等に関する知識、経済学、社会学の知識などが必要となる。また、市町村などの行政との連携を図るための経験や地域の実情に対する十分な理解、関係者を取りまとめて多くの人の異なる意見を合意に導いていくリーダーシップを備えていることも大切である。模型を作成することやコンピュータ・グラフィクスを使用して、視覚的にも分かりやすい説明をする能力も必要となる。一人の者がこれらの知識や経験を全て持っている必要はなく、各分野の専門家がまちづくりに参加し、知恵を出し合うことも、機動的なまちづくりにとって重要な要素となる。大学レベルの都市計画に関する学科においても、これらの文系・理系の枠を超えた総合的な能力を身に付けさせることが必要である。
 市町村アンケートの中には、「まちづくりにおけるリーダーと会員との景観に関する認識の差が大きい」ために住民協定による景観への取組みが失敗した例も報告されており、リーダーが「浮いてしまう」ことのないよう、配慮する必要がある。
 また、地方自治を担う行政の側においても、地方分権の推進の流れの中で、市町村のまちづくりにおける役割が増大することを認識しなければならない。このため、長い目で、景観設計に配慮し、事業の設計、施工から維持管理に至るまでの一連のプロセスに習熟した専門家を育てることが必要である。また、住民との関係においても、意欲的にまちづくりについて提案し、自主的な活動を繰り広げる住民とコミュニケーションを図り、住民の「やる気」をまちづくりの実践に結び付けていく「コーディネーター」としての機能を発揮することも期待される。
 最近では、都市基盤整備公団においても、民間による共同建替えのコーディネートをはじめとした技術的コンサルタントを行っており、これまでの住宅整備やまちづくりに関して培ってきたノウハウを提供している。
〈まちづくりの専門家集団・谷中学校〉
 谷中は東京台東区にある、上野・西日暮里・根津・千駄木に挟まれ、戦災や震災に遭わなかったために明治・大正期の昔ながらの建物や、安政の大地震の後に修繕したといわれる町屋も多く残る地域である。
 谷中学校は平成元年に、谷中の近隣にある東京芸術大学建築科などの大学院生・卒業生と郷土史家、地域雑誌編集者といった地域の有志が中心となって、都市計画、デザインなどのまちづくりの専門家集団として結成し、町屋を改装して「谷中学校寄り合い処」という拠点を置いている。現在会員は200名程度である。
 谷中学校は町会に加入してまちづくりのシンクタンクとして活躍しており、町会や商店会の住民は、若い住宅や芸術の専門家が谷中の町に新風を吹き込んでくれる、と期待している。谷中学校は平成4年、5年に行った「下町型住宅のあり方に関する調査」では行政との窓口となるとともに、谷中の住宅に関する情報パンフレット「下町型住宅絵解き知恵袋」を発行するなど、個人が身近に相談できる専門家として活躍し、住民と一体となった谷中の住まいづくり、暮らしづくり、芸術性あふれるまちづくりのための取組みを行っている。
〈彩の国さいたま都市づくりアカデミーの地域リーダー育成〉
 「都市づくりアカデミー」は埼玉県、住宅供給公社及び都市基盤整備公団の共同事業で、まちづくりを担う人材を育成するために、昭和63年、「まちづくり大学校」としてスタートし、平成10年に「都市づくりアカデミー」に改組した。「都市づくりアカデミー」は、まちづくりにおいて、行政と地域住民が一体となることの重要性を認識した上で、地域リーダー養成コースをはじめとし、一般県民への都市づくりへの理解を深めてもらうための講座や「ふるさとウォ-キング」などを行っている。特に地域リーダー養成コースでは、平成11年度までに計738名の卒業生を生み出し、10日間のコースを年10回開催している。受講生は首長、区画整理組合関係者等で、都市計画制度、訴訟事例、合意形成の技術、まちづくり事例、都市デザイン等を学び、卒業生の約75%は卒業後実際にまちづくりの現場で活躍している。

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