(9)下水道整備の推進と新たな展開

イ 下水道の役割と新たな課題
 生活環境の改善、浸水の防除を役割として始まった下水道は、その後、河川、湖沼等の公共用水域の水質保全を役割に加え、着実に整備が進められてきた。しかし、普及率の地域間の格差が顕在化している一方、下水道が100%近く普及している地域においても、依然として閉鎖性水域等で水質改善が十分でない場合があり、高度処理の一層の推進や合流式下水道の改善、市街地の路面等から降雨時に流出する汚濁への対策等が求められている。さらに、市街化に伴う都市型水害の頻発や都市の水循環の問題に対応するため、従来の速やかに雨を集めて流す対策から、貯留・浸透等流出抑制の対策へと発展させ、都市の雨水を質量両面で管理する必要がある。このように普及率のみでは表せない問題またはこれまでの雨水対策では対処できない問題、大都市における既設下水道施設の老朽化・能力不足の問題等が顕在化してきており、下水道の機能自体の高度化が求められてきている。
ロ 下水道整備の推移と現況
 我が国における近代下水道は、東京でコレラが大流行し、下水道の必要性が認識されたことにより、明治14年に横浜、次いで明治17年に東京・神田地区で、その建設がはじまった。明治33年には、旧下水道法が制定された。本年はこれより100年目に当たり、これを記念した近代下水道制度100周年記念行事を開催することとしている。
 下水道の計画的な整備は、昭和38年度を初年度とする第1次の下水道整備五箇年計画により開始され、平成7年度を最終年度とする第7次下水道整備五箇年計画へと発展してきた。現在、平成8〜14年度を計画期間とする第8次下水道整備七箇年計画に基づいて事業を推進しているところである。これまでの五(七)箇年計画の推移を図2-V-9に示す。このように、社会資本整備の充実を背景に目覚ましい勢いで投資額を伸ばし、事業の進展が図られてきた結果、平成10年度末における下水道処理人口普及率は、なお十分な整備水準とは言えないものの、58%にまで達することとなった。しかしながら、人口5万人未満の都市の下水道処理人口普及率は2割程度にすぎないなど、都市規模別の整備水準には大きな格差があり、この格差是正のため、さらに下水道整備を推進していく必要がある。一方、浸水の防除について、全国の雨水対策整備率は、平成10年度末で49%にとどまっており、今後とも下水道による積極的な浸水対策が必要である。
 平成12年度においては、特に、普及の遅れている中小市町村の下水道整備を一層推進することをはじめ、頻発している都市型浸水に対応した浸水対策の実施、公共用水域の水質改善を促進するための高度処理等を推進することとしている。
 平成11年度は事業費約36,430億円(公共下水道、流域下水道、都市下水路、特定公共下水道及び特定環境保全公共下水道)をもって2,600ヶ所(同)において事業を実施しており、12年度は事業費約31,099億円(同)をもって新規49ヶ所(同)を含む2,588ヶ所(同)において事業を行う予定である。
ハ 効率的な普及促進
 汚水処理施設には、下水道、農業集落排水、合併処理浄化槽等があり、それぞれに特色を有しているが、下水道事業の効率的・効果的な推進を図るためにはこれらとの連携強化を図る必要がある。このため、都道府県の全域を対象とした汚水処理施設の整備に関する「都道府県構想」や省庁横断的な協議調整機関の活用等により事業間の調整を推進している。
 また、複数の汚水処理施設が共同で利用できる施設を下水道で整備する「汚水処理施設共同整備事業」を実施する等連携を図っている。
 一般に中小市町村の下水道は小規模なため、大規模な下水道と比較して効率性・経済性が劣る場合が多いので、複数の市町村による下水道施設の共同化・共通化を図る「特定下水道施設共同整備事業」や、下水道が整備されるまで相当の年月を要する地域で中間的な処理施設等を設置する「フレックスプラン」等により、効率的・経済的な下水道事業の展開を及び中小市町村への下水道の普及促進を図っている。
 下水処理により発生する下水汚泥は下水道普及率の向上とともに増加しているが、下水汚泥の処理地の確保は年々困難となっており、下水汚泥の安定的・経済的処理処分が必要となっている。このため、日本下水道事業団が複数の都市から発生する下水汚泥を一括処理する施設の建設・管理等を行う「下水汚泥広域処理事業(エースプラン)」、都道府県が流域下水道と周辺の公共下水道から発生する下水汚泥を集約処理する「流域下水汚泥処理事業」等を行っている。
 また、過疎地域活性化特別措置法が失効し、過疎地域自立促進特別措置法が成立したことにともない、都道府県が市町村に代わり公共下水道の幹線管渠等を整備する「都道府県代行制度」を平成12年度以降も継続する。
ニ 都市における浸水の防除
 近年、都市部においては、市街化等によって短時間に大量の雨水が流出することに伴う浸水被害が拡大していることから、管渠による雨水排除に加え、雨水の貯留・浸透を行うことにより流出量を低下させることが重要となっている。特に、浸水被害が頻発し河川及び下水道の整備が急がれている流域や、下水道からの雨水放流量が河川に大きな影響を及ぼす流域等では、河川整備等と整合を図った総合的な都市雨水対策計画を策定し、貯留・浸透などの流出抑制策を含めた総合的な下水道雨水対策施設の整備を推進する。
 また、都市の地下空間利用の進展に加え、最近は都市内の降雨が短時間、局所的に集中する傾向にあることにより、都市部は構造的に浸水に対して脆弱となっている。このような状況から、地下空間が高度に利用されている地区において下水道事業を集中的に実施し、早急に安全度の向上を図るため、平成11年度第2次補正予算において地下街等内水対策緊急事業を創設した(写真2-V-1)。
 雨水対策は、下水道の重要な役割の一つであり、第8次下水道整備七箇年計画では、市街地において少なくとも5年に1回程度の大雨に対する浸水防除を図り、平成14年度までに下水道雨水対策整備率を55%とすることを目標としている。今後は、整備目標を達成すべく積極的に雨水対策を推進するとともに、特に人口が集中し、都市機能が集積している地区等については、少なくとも10年に1回程度の大雨に対して浸水する区域を解消するよう、整備水準の向上を図ることとしている。
ホ 公共用水域の水質保全
 我が国の水質汚濁の状況は、環境基準の設定されている有害物質については、ほぼ環境基準を達成しているが、有機汚濁については、全体の約4分の1の水域で環境基準が達成されていない。特に湖沼や内海内湾等の閉鎖性水域や都市内河川の中には、依然として水質汚濁の著しいものがある。
 公共用水域の水質改善には、下水道整備の促進により、水域に流入する汚濁負荷を低減することが重要である。水質環境基準を達成、維持するために必要な下水道整備を最も効果的に実施するための総合計画である流域別下水道整備総合計画(流総計画)の策定を推進し、これに基づき、生活排水対策等として下水道の整備を計画的に進める。特に閉鎖性水域の富栄養化対策や水道水源の水質保全等のため、通常の下水処理より処理水の水質向上が図られる高度処理を推進する。また、市街地の非特定汚染源から流出する雨水に含まれる汚濁負荷の削減対策を実施していく。さらに、環境ホルモンについて、関係部局と連携しつつ、実態把握とその対処方法の検討等を行う。
ヘ 下水道資源及び施設の有効利用について
 下水道は、水、汚泥、熱等の多くの利用可能な資源・エネルギーを有しており、それらを再利用することによって、省エネルギー・リサイクル社会の実現に向けて大きな役割を担っている。
 下水処理水については、環境用水、工業用水、水洗便所用水等への活用及び積雪の排除、地域冷暖房の熱源等への活用を実施している。
 下水汚泥については、普及率向上に伴い発生量が増大し、最終処分が困難となっていることから、脱水や焼却等による減量化を図るとともに、下水汚泥のコンポスト(肥料)化及び焼却灰や溶融スラグの建設資材化による有効利用を実施しているところである。
 地球温暖化防止対策の推進に関する法律が平成11年4月に施行されたことを受け、二酸化炭素等の温室効果ガスを削減するため、節電等省エネルギーを促進するとともに、下水汚泥の消化ガス発電や汚泥焼却熱のエネルギーの有効利用を一層促進しているところである。
 都市のアメニティ向上や防災拠点のため下水道施設の公園等としての上部空間利用が実施されている。
 下水道管渠内において第三者が光ファイバーを設置することが可能となり、一部でその活用が望まれており、東京都区部等において第三者による光ファイバーが設置され、下水道管渠内の活用が進んでいるところである(図2-V-10)。
ト 下水道施設の機能の高度化
 下水道整備が進みその施設ストックが増大するにつれて、水環境、都市活動に果たす役割は増し、下水道に要請されるニーズも多様化している。これらに応えるべく、より高度な機能を発揮できるように、合流式下水道の改善、改築・再構築、地震対策等、下水道施設の高度化を進めていく。
 大都市の大半を占める合流式下水道は、雨天時に汚水や管渠内に沈殿していた汚物が未処理のまま河川等に放流され、衛生上、また、水質保全上の大きな課題となっている。このため、合流式下水道の改善を計画的に推進する。
 老朽化した施設の更新に際しては、単なる従来機能の回復を行うだけでなく、浸水安全度の向上や高度処理、合流式下水道の改善等の下水道の機能向上と一体となった効率的な改築・再構築を推進する。
 下水道施設は、水道、電気、ガス等と並び重要なライフラインであり、地震等の災害時においてもその機能が損なわれないように施設の耐震性の向上や処理場のネットワーク化等を図るとともに、処理場の防災拠点化等地震対策を推進する。
チ 良好な水循環・水環境の保全・創出
 近年、水循環をめぐっては、安全でおいしい水の確保や閉鎖性水域における富栄養化対策、生態系の保全や水辺の創出、頻発する渇水への対応などの多くの課題がある。下水処理水は年間124億トンであり生活用水の4分の3に相当しており、都市の水循環のかなりの部分が下水道を経由していることになる。このように、下水道は水循環系における重要な構成要素であることから、「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」でまとめた基本的方向等を踏まえ、水循環健全化に向けた施策の基本方針を策定し、下水道整備の促進や高度処理の推進を図るとともに、下水処理水・雨水の再利用や生態系の多様性等を確保するための下水道を重点的に推進する。
リ 維持管理の充実
 下水道整備の進捗に伴い、下水処理場が約1,300ヶ所、管渠敷設延長が約29万kmに達する等下水道施設のストックについても増大している。このような状況を踏まえると、下水道の機能を十分に発揮させるには、従前にもまして、適正かつ効率的な維持管理が求められているところである。このため、下水道管理者である地方公共団体の維持管理体制の強化、水洗化の促進に努める一方、施設の延命化を図る計画的かつ予防的な維持管理を推進するとともに維持管理業務の適正な民間委託の推進を図っているところであり、平成11年度においては、官民ともにメリットのある維持管理の民間委託のあり方等について検討を行った。さらに平成12年度においては、下水道処理施設維持管理業者登録業務が国土交通省の発足に併せて地方整備局等へ委任されるため、当該業務のシステム化を行うこととしている。
ヌ 下水道財政の充実
 下水道管理財源は、下水道使用料収入及び地方公共団体の一般会計繰入金等からなっているが、下水道財政を充実させるためには、効率的な下水道経営を行うとともに、下水道使用料の適切な設定及び徴収を行うことが必要である。このため、使用料が適切な水準に達していない地方公共団体にあっては、長期的な収支の均衡に配慮しつつ、必要に応じて使用料の見直しを行い、使用料水準の適正化に努める必要がある。
 また、下水道をはじめとした公共料金関連事業においては、事業を効率的に実施するためには情報公開を行い、利用者からの理解を得、チェック機能を働かせることが重要であること等から、政府において事業横断的ガイドラインの策定について検討が進められているところである。これらの動きを踏まえ、「経営情報公開のガイドライン」が策定された。
 さらに今後の循環型社会の構築に向けて下水道に新たな役割が求められることを鑑みると、これらに即した費用負担のあり方の検討が必要となっている。
ル 下水道事業の新たな展開
 社会情勢の変化を踏まえた下水道事業の将来像を検討するために、「下水道政策研究委員会」(委員長:松尾友矩東京大学大学院教授)が設置され、「今後、国民から期待される下水道の役割とは何か。また、その役割を実現するための整備・管理はどのように行われることが適切か。」について審議し、地方公共団体、有識者及び関係団体等下水道関係者に幅広く意見聴取を行った上で、中間報告をとりまとめた。
 中間報告の主な内容は以下の通りである。
1)下水道整備の現状と課題を指摘
2)21世紀社会を「人」「水」「地球」の3つの視点からとらえ、望ましい姿を描く
3)それを実現するための下水道の新たな役割を提示
4)下水道の有すべき8つの機能を示し、具体的施策を提言
5)関係部局との連携と役割分担の重要性を指摘
6)費用負担や役割分担を中心に引き続き検討
 今後は、中間報告に基づき、引き続き各方面の意見を聞きながら詳細な検討を行い、新たな下水道事業及びその基礎となる技術開発を展開していくこととしている。
ヲ 新たな役割に対応した事業制度
 こうした新たな役割に対応し、先駆的・モデル的に事業展開を図るための制度として新世代下水道支援事業制度を実施している。
 当該制度は、水環境創造事業、リサイクル推進事業、機能高度化促進事業の3事業から構成され、平成12年度当初にはそれぞれ11ヶ所、7ヶ所、8ヶ所で新たに採択している。今後とも、これらの事業の一層の推進を図っていく。
ワ 多様なニーズにこたえる技術開発
 国民及び社会の下水道に対する要望を踏まえ、新たな役割に対応したこれからの下水道技術開発の方向性を明らかにするため、「みんなで創る、水・まち・地球の新世紀」を基本理念に、新・下水道技術五箇年計画を策定した。計画に基づき、5つの主要課題(1)良好な水環境の創出、2)安全・安心で快適なまちづくり、3)省エネルギー・リサイクル型社会の形成、4)効率的な事業推進、5)アカウンタビリティの向上)について、国、地方公共団体、大学、民間等が、適切な役割分担のもと、技術開発を計画的・有機的に推進することとしている。
カ 地方公共団体を支援する日本下水道事業団
 日本下水道事業団は、地方公共団体における下水道技術者の不足を補うとともに、高度な技術的要求にも対応することで、下水道の整備を促進している。平成11年度総予算4,561億円のうち4,253億円をもって650ヶ所の終末処理場等の建設及び実施設計を地方公共団体から受託したほか、下水道技術者の研修、技術検定及び下水道に関する技術開発、技術評価等を行った。平成12年度は総予算3,908億円のうち、3,633億円をもって受託建設事業等を行うほか、上記業務を継続して実施する予定である。
 また、地方公共団体の要請に基づき、下水汚泥広域処理事業(
上記ホ参照)を平成11年度は事業費279億円(うち財政投融資資金63億円及び民間資金26億円)をもって兵庫地域、大阪北東地域及び大阪南地域において実施した。平成12年度も引き続き3地域で事業費245億円(うち財政投融資資金36億円及び民間資金33億円)をもって建設工事及び維持管理を行う。

C2512901.gif

C2512902.gif

C2512903.gif