2 平成11年度、12年度の主要施策

(1)入札・契約制度の更なる改善

1) 中央建設業審議会建議
 建設市場は、現在、かつてみられない大きな構造変化に直面している。その第一は、建設投資が低迷している中で、建設業者数が増加していることである。第二に、公共投資を取り巻く環境の大きな変化である。第三は、我が国建設市場の国際化による競争の激化である。こうした中で、特に公共事業への依存度が高い中小・中堅建設業者にとって、今後厳しい時代を迎えることが予想されることから、技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境の整備を進めていくことが急務であり、1)技術力による市場競争の促進、2)新たな企業経営の展開、3)適正な競争環境の整備、4)建設生産システムの合理化の推進などを積極的に進めていく必要がある。
 このような認識の下、中央建設業審議会においては、平成8年6月に基本問題委員会を設置し、その精力的な議論を基に、平成10年2月4日に「『建設市場の構造変化に対応した今後の建設業の目指すべき方向について』〜技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境の整備〜」を建議した(以下「平成10年建議」という。)。
 平成10年建議は、入札・契約制度のさらなる改善と建設業の構造改革の推進の2つの柱によって構成されており、まず、入札・契約制度の更なる改善として、
1)民間の技術力を活用する多様な入札・契約方式の導入
2)入札・契約手続の透明性の一層の向上
3)地方公共団体における改善の徹底
また、建設業の構造改革の推進として、
1)建設業許可業種区分の見直し
2)経営事項審査等企業評価制度の在り方
3)不良・不適格業者の排除
4)経営力・技術力の強化のための企業連携の促進
5)元請下請取引の適正化
について具体的方策が示されている。
 関係機関においては、この平成10年建議を踏まえた積極的な取組みが進んでいるところである。
2) 入札・契約制度改革の定着・浸透と入札・契約制度の更なる改善
 公共事業は国民の貴重な税金を使って行われるものであり、厳正かつ公正に執行されなければならないことは言う間でもないことである。しかしながら、平成5年に相次いで発生した公共工事をめぐる不祥事により、公共事業に対する国民の信頼が大きく損なわれるに至った。
 このような事態を重く見た中央建設業審議会は、同年12月に「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」を建議し(以下「平成5年建議」という。)、少しでも「不正の起きにくい」システムとすることを目的として、透明性・客観性、競争性を大幅に高めるための入札・契約制度全般にわたる抜本的な改革を打ち出した。具体的には、大規模工事についての一般競争方式の導入、指名競争方式の改善、履行保証制度の抜本的見直し等である。
 また、国際的な建設市場の開放を背景として、大規模公共工事の分野について世界の主要国を中心に国際調達のルールが定められつつあったことから、政府は、平成6年1月に「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(以下「行動計画」という。)を閣議了解し、我が国の公共事業に関し、国際的に見てもなじみやすい入札・契約手続の整備を図った。
 これらに基づく公共工事の入札・契約制度改革については、各発注機関においてその一層の定着・浸透に努めているところである。
 さらに、平成10年建議において、多様な入札・契約方式の導入や予定価格の事後公表等の入札・契約制度の更なる改善について所要の措置を講じるよう要請されるとともに、平成10年3月31日には「規制緩和推進3か年計画」が閣議決定され、その中に、平成9年12月12日の行政改革委員会最終意見を踏まえて、「公共工事の規制の在り方」が盛り込まれたところである。
 以上のような状況を踏まえ、建設省をはじめとする各関係機関においては、今後とも、公共工事の入札・契約制度について透明性、競争性の一層の向上に努め、適正で効率的な公共工事の執行を確保していく必要がある。
イ 一般競争方式の実施と指名競争方式の改善
1) 一般競争方式の本格的実施
 行動計画においては、国については基準額450万SDR(現在の邦貨換算額:7億5,000万円)以上、政府関係機関については基準額1,500万SDR(現在の邦貨換算額:25億円)以上の大規模工事について一般競争方式を採用することとされた。
 これを受けて、建設省直轄工事については平成6年度当初予算に係る事業から一般競争方式を本格的に実施し、平成11年度の実績は252件であった。また、すべての国・政府関係機関においても、既に一般競争方式を導入している。
 一方、地方公共団体については、行動計画に基づき、自治省と連携しながら都道府県・政令指定都市の基準額1,500万SDR以上の大規模工事については一般競争方式を採用するよう勧奨しているところであり、自治省と共同で行った地方公共団体の入札・契約手続に関する実態調査の結果によれば、都道府県・政令指定都市のすべてが一般競争方式を導入している。
 一般競争方式は競争性が高い反面、不良・不適格業者が混入する可能性等のデメリットも指摘されていることから、建設省としては、個々の入札ごとに適正な参加条件を設定すること等により工事の質の確保に配意するとともに、適宜執行体制その他の見直しを行うよう自治省と共同して要請している。
2) 指名競争方式の改善
 指名競争方式は、工事施工の質の確保を図るため、発注者が信頼し得る施工業者を指名により選定し、入札を行う方式であり、国・地方を通じ幅広く活用されている。また、同方式自体は諸外国でも使われており、正しく使われれば効率的な入札制度である。しかしながら、指名に伴う不祥事の発生のおそれ、入札参加意思のある者に対する参加機会の確保が不十分などの問題点が指摘されていたことから、指名競争方式の改善を推進している。
 具体的には、指名基準及びその運用基準の策定及び公表、指名業者名並びに入札経過及び結果の公表、入札辞退の自由の明文化等を実施することにより、手続の客観性・透明性の確保に努めているところである。
 また、建設業者の技術力、受注意欲を指名に反映させるために、建設省直轄工事においては、平成5年建議等に基づき、平成6年度より新たな指名競争方式として「公募型指名競争方式(注1)」「工事希望型指名競争方式(注2)」(平成6年度は「意向確認型指名競争方式」)を実施している。これらの方式は、いずれも入札参加意欲のある建設業者から提案された技術資料を踏まえて、指名を行うものであり、技術資料を提出したにもかかわらず指名から外れた者に対しては、その要請に応じ、非指名理由を説明することとしている。
ロ 入札・契約制度の更なる改善
 平成10年建議においては、入札・契約制度の更なる改善として、平成5年建議に基づく入札・契約制度改革の流れをさらに進め、透明性・競争性の一層の向上を図るため、
1)民間の技術力を活用する多様な入札・契約方式の導入(入札時VE(価格競争型)、技術提案総合評価方式、契約後VE、設計・施工一括発注方式)
2)入札・契約手続の透明性の一層の向上(経営事項審査の結果の公表、資格審査・格付けの結果の公表、予定価格の事後公表)
3)地方公共団体における改善の徹底(取組姿勢の向上、発注体制の強化・支援)
について具体的方策が示されている。また、平成10年3月31日に閣議決定された規制緩和推進3か年計画においても、総合評価方式の導入、予定価格の事後公表、等級の公表等について明記されている。このため、建設省をはじめとする各関係機関においては、これらを踏まえた取組みに努めている。
 建設省直轄工事においては、平成9年度から、入札時VE(価格競争型)や契約後VEについて試行を行っている(表3-II-5)。また、総合評価方式についても、平成10年11月より試行が開始された。この総合評価方式については、平成11年2月に地方自治法施行令が改正され、地方公共団体でも入札に同方式を活用することが可能となっている。
 また、経営事項審査については、平成10年7月より審査結果が公表されることとなった。予定価格の事後公表については、建設省をはじめいくつかの都道府県で平成10年4月から実施され、平成11年6月には都道府県レベルで45団体が公表を実施することとなっている。
ハ 公共工事における企業評価の在り方
 平成10年2月4日の中央建設業審議会建議においては、経営事項審査を中核とする企業評価制度について、量的な指標である完成工事高の比重の見直し、建設業者の技術力・経営力の重視等の観点からの見直しを行い、規模の競争ではなく技術力・質による競争を促すような制度とする必要があるとの指摘がなされている。この指摘を受け、
 ・完成工事高の比重の縮減
 ・経営状況分析の比重の拡大
 ・技術職員評価の見直し等の改正
が行われ、平成10年7月1日より施行された。
 一方で、最近の建設業界を取り巻く経営環境の変化は著しく、建設業者の経営状況が公共工事の発注者のみならず広く国民の注目を集めている状況の中で、建設業者の経営状況が経営状況分析の評点に一層的確に反映されるようにしていく必要があることから、同建議においては、経営事項審査に係る経営状況分析に関し、指標の見直しを含め新たな手法について検討すべきであるとの指摘がなされている。この指摘を受け、
 ・経営状況分析の12指標の全面的な見直し
 ・連結決算の経営状況分析への反映
が行われ、平成11年7月1日より施行された。
 この一連の見直しにより、今後、建設業者の経営健全化が促進されることが期待される。
ニ 不良・不適格業者の排除
 建設業は、様々な専門工事業者が参加する重層的な下請構造となることが避けられず、こうした構造が施工体制における責任分担の不明確化やペーパーカンパニー等の不良不適格業者の参入をもたらす要因となっていると考えられる。こうした不良・不適格業者の存在を放置することは、適正な競争を妨げるだけでなく、まじめに努力し、技術力を向上させようとする優良な建設業者の意欲を削ぐことになりかねない。
 このため、不良・不適格業者の排除を図り、公共工事の品質確保、コスト縮減等を実現する必要がある。また、いわゆる「上請け」についても、一括下請負につながりやすいため、その的確な排除が必要である。
 そのため、建設省としては、発注者支援データベース・システムの活用(注3)、施工体制台帳の活用と現場施工体制の立入点検等からなる不良不適格業者排除対策の考え方を平成10年12月25日に自治省と連名で各都道府県に対して通知し、各発注機関と連携して積極的に不良・不適格業者排除を行っている。
ホ 地方公共団体における改善の徹底
 入札・契約制度の改善を進めるに当たっては、公共工事の発注件数で約9割、発注金額で約7割を占める地方公共団体の対応が大きな課題である。このため、建設省においては、平成5年に自治省との間に「建設省・自治省入札・契約手続改善推進協議会」を設置し、地方公共団体における入札・契約手続及びその運用の改善について、共同して実態調査とその結果を踏まえた通知を行うなど、様々な取組みを行っているところである。
 今後、入札・契約制度の改革の一層の定着・浸透を図るとともに、多様な入札・契約方式の導入や予定価格の事後公表等の入札・契約制度の更なる改善を進めるため、建設省としては、今後とも自治省と連携して取組み姿勢の向上などを進め、各地方公共団体における改善の徹底を図ることとしている。



(注1)公募型指名競争方式:工事概要、対象ランク及び技術資料の作成・提出方法等について事前に掲示し、入札参加意欲のある建設業者から提出された技術資料の審査を踏まえ、指名業者を10者程度選択する方式
(注2)工事希望型指名競争方式:建設業者が資格審査のとき申し出た希望する工事の内容、工事の規模、建設業者の地域的特性等を勘案し、技術資料の提出を求める者を10数者〜20者程度選択し、建設業者から提出された技術資料の審査を踏まえ、指名業者を10者程度選択する方式
(注3)発注者支援のためのデータベース・システムの活用:
 建設工事の施工実績に関するデータベースと建設業の許可情報、経営事項審査結果情報、監理技術者情報等の建設業者の企業情報データベースの2つの情報を、発注機関に対して一体的に提供するために、平成8年4月JACIC−CE協議会が設立され、「発注者支援のためのデータベース・システム」として情報提供を開始している。
 このシステムでは、公共工事の各現場に配置される監理技術者資格と他の工事現場との重複配置の有無を確認することができるようになっている。
 平成10年建議においては、「現状においては発注段階で不良不適格業者を排除する方策としては、この発注者支援データベース・システムを活用することが最も効率的と考えられ、地方公共団体にとってのシステム活用上の利便性の向上と併せて、このシステムの普及を図っていくことが必要である」とされており、今後とも市町村まで含めた地方公共団体の意識の啓発に努めながら、このシステムの導入促進を図っていくこととしている。

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