(2)産業活動活性化の要請への対応

 いわゆるバブル経済の崩壊以降、日本経済を立て直すため、高コスト構造是正等の観点から規制緩和等を実施し、経済を活性化することが求められてきた。最近では、長引く経済低迷を打開するため、新規産業創出、既存産業の競争促進や不振企業の経営再建等サプライ・サイドからの改革をさらに推進していくことが求められている。このような取組みにより、価格の低下、ニーズに対応したサービスの多様化等の便益を消費者が享受すると同時に、事業者の競争力が強化され、経済全体が活性化されることが期待される。
 国土交通分野に関連する産業(以下「国土交通産業」という。)についても20世紀終盤より、規制改革等を通じた活性化策が講じられてきたが、すでに交通産業分野等で一定の効果が出ている。なお、規制改革を推進するに当たっては、公正な競争の促進や交通事業の基盤整備といった市場原理を活用するための環境整備、あるいは、安全の確保や消費者利益の保護といった市場原理のみでは十分対応できない課題への対応が必要となる。


<交通産業における規制改革等を通じた活性化策とその効果>

 交通産業の分野では、昭和60年代から他分野に先んじて改革が進められ、日本国有鉄道の民営化、国内航空線のダブルトラック・トリプルトラック化等が行われた。その後も、貨物自動車運送事業における需給調整の撤廃(許可制への移行)や各機関の運賃規制の緩和等が進められた。平成8年12月には交通事業に対する需給調整規制を原則として廃止することが決定され、現在この方向で改革が進んでいる。
 これら政策の効果について、国土交通省は国内航空市場における近年の規制緩和(8年度における運賃規制の緩和及びダブルトラック・トリプルトラック化基準の緩和)や羽田空港のスロット拡大の経済効果を分析した。これら政策の効果として、家計や他産業への波及効果を考慮しない場合でも毎年数千億円の消費者の利益(消費者余剰(注))がもたらされ、累計で約6兆円に達するとの分析結果が出ている。

(注)ある量のサービスに対して消費者が支払って良いと考える最高額の総和と実際に支払われた金額の総和の差をもって消費者利益を定量的に表す経済学上の概念。

図表I-2-34 航空政策による消費者利益(国内航空市場)
図表I-2-34 航空政策による消費者利益(国内航空市場)



 また、内閣府(旧経済企画庁)は、交通を含むいくつかの産業について近年の規制改革による消費者余剰の増加を算出した。これによると、鉄道、貨物自動車運送事業について特に大きな増加がみられ、車検、国内航空の分野でも着実に消費者の利益が増進していることになる。このように、これまでの規制改革は大きな消費者利益をもたらしたと考えられる。

図表I-2-35 規制改革による利用者メリット(消費者余剰)
図表I-2-35 規制改革による利用者メリット(消費者余剰)



 規制改革等を通じた活性化に加え、 最近では、構造改革の影響を受ける産業に対する再生策を講じていくことも求められている。
 特に就業者650万人(12月)を擁し、雇用の受け皿としても貢献してきた建設産業については、雇用者対策に十分配慮しつつ、建設産業の再編等の構造改革を促進させることが重要である。
 また、物流業等が物流コストの面で他の産業の経営に大きな影響を与えている実態に鑑み、全産業の活性化に資するための物流効率化等を図っていくことが求められてきた。このため、1990年代においては、規制緩和を始めとして産業における物流コストを低減するための様々な取組みが行われてきた。現在では、全業種の売上高に占める物流コストの割合は着実に低下している。


図表I-2-36 売上高物流コスト比率の推移
図表I-2-36 売上高物流コスト比率の推移



 しかし、後述するように、グローバル化の進展により国家間の競争が激しくなる中で我が国の国際競争力を維持していくためには、コストも含めて国際的に競争力のある物流市場の構築に向けて、引き続き取り組んでいく必要がある。
 さらに、観光産業は近年世界的に急成長しており、WTO(国際観光機関)によれば全世界の観光による消費額は2020年に1995年の約5倍の規模に拡大すると見込まれ、21世紀のリーディング産業の1つになることが期待されている。我が国においても観光産業の規模はGDPの2.2%、雇用者数の2.9%を占めていると推計されている。しかし、これらは国際的に比較すると低い水準であり、訪日外客や国内観光の伸び悩みが背景にあると考えられる。今後は訪日外客誘致や国内観光の振興を促進することにより、我が国においても観光産業をリーディング産業に育成していくことが必要である。


図表I-2-37 世界各国の観光産業の規模・雇用
図表I-2-37 世界各国の観光産業の規模・雇用



 

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