第2節 産業の再生

1. 建設産業の再生

(1)建設産業の再編とセーフティネットの確立の促進

 我が国の建設産業は、国内総生産の約13%に相当する約70兆円の建設投資を担うとともに、全産業就業人口の約10%を占める650万人の就業者を擁する我が国の基幹産業である。
 建設産業は投資の低迷、建設業者数と建設投資のバランスの崩壊など市場の大きな構造変化の中で、厳しい経営環境に直面している。
 建設投資をみると、平成13年度の見通しは約67.1兆円で、建設投資のピークであった4年度(約84.0兆円)と比べると20.1%減少している。その一方で、建設業者数をみると、13年3月末は585,959社で、4年3月末(522,450社)と比べると12.2%増加している。また、これらのうち公共工事の部分については、13年度(見通し)の政府投資は29.4兆円で、4年度(約32.3兆円)と比べると、9.1%の減少となっている。これに対して公共工事を元請で受注した業者数と考えられる公共工事前払実績業者数をみると、12年の累計は85,292社で、4年の累計(65,309社)と比べると30.6%の増加となっており、公共工事の受注においても厳しい競争が繰り広げられているものと考えられる。
 この結果、建設産業の利益率は大きく低下しており、12年度の営業利益率は1.6%、経常利益率は1.6%で、ともに4年度(3.8%、3.2%)の半分程度となっており、また、全産業の平均(2.6%、2.5%)を下回っている。また、13年の倒産件数を見ると5,852件で、4年(2,845件)と比べると2.06倍となっている。
 このように建設産業は厳しい経営環境となっているが、中長期的にも建設投資の大きな伸びは期待できず、今後とも厳しい状況が続くものと考えなければならない。

図表II-9-17 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-9-17 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移

図表II-9-18 建設業者倒産件数と負債総額の推移
図表II-9-18 建設業者倒産件数と負債総額の推移



 このような状況から、企業同士の合併等の連携の強化による再編が不可避と考えられる。供給過剰な状況が優良な中小企業の淘汰、品質の低下などを引き起こすことが懸念される中で、行政としては、健全な市場メカニズムを通じた再編が行われるよう環境整備を進めることが必要と考え、13年2月9日に「建設産業の再編の促進について」を決定した。
 さらに、13年4月6日の緊急経済対策においては、金融再生と建設産業を含む産業再生を車の両輪として一体的に進めることが重要とされ、特に建設産業については、市場原理に沿った公共工事の発注方策の検討等、建設業界の再編の促進に向けた市場環境の整備を進めるとされたところであり、これらの施策について実施可能なものから順次実施している。これらを通じて、技術と経営に優れた企業が伸びられる環境や各企業が多様な経営戦略をとることを可能とする環境を整備していくことが必要と考えている。

<「建設産業の再編の促進について」概要>

I 施策の基本的方向
 1)技術と経営に優れた企業が生き残る環境整備
 2)多様な企業連携を支援するための環境整備
 3)自主的な経営改善の促進
II 具体的施策
1.緊急に実施すべき施策
(1) 技術と経営に優れた企業が生き残る環境整備
 1)入札・契約制度における技術力の重視、工事施工状況の評価、施工体制の適正化
(2) 合併、業務提携等の企業連携の促進
 1)共同受注型業務提携の支援による企業連携の促進
 2)営業譲渡、共同出資子会社を活用した企業連携等の促進
2.実施に向けて早急に検討を進めるべき施策
(1) 公共工事の瑕疵担保保証の在り方の検討
(2) 特定建設業許可の財産的要件の見直し
(3) 入札参加資格における経営状況の評点(Y評点)等の活用の検討
(4) 会社更生法等を申請した企業に係る競争参加資格の取扱いの検討
 上記の「建設産業の再編の促進について」及び「緊急経済対策」を受けて、再編促進施策についてさらなる検討を行うため、外部の有識者からなる「建設産業の再編の促進に関する検討委員会」が開催され、13年10月には「中間取りまとめ」が発表されたところである。
 また、こうした再編促進と併せて、下請代金の保全やリフォーム等の新規産業への参入、海外展開等を促進することによって雇用機会の創出を図るとともに、厚生労働省等と連携しつつ、建設業雇用問題協議会等を活用した労働移動の円滑化を促進する等、セーフティネットの確立を図るべく、取り組んでいる( (5) を参照)。

<建設産業の再編の促進に関する検討委員会中間取りまとめ(主なポイント) >

○建設産業の再編の促進に関する基本的考え方
・再編は市場における健全な競争を通じて行われるべきもの。行政の役割は各企業の多様な経営戦略を可能とする環境の整備。
・公共部門の発注者として、企業の破綻リスクの評価やそのヘッジが重要な課題。
○当面講ずべき措置
・大規模工事における履行保証割合の引上げ(30%)
・特定JV工事への履行保証の導入
  ・企業の信用力に応じた前払金保証料率の設定
○今後検討すべき措置
・入札参加時点における技術力・経営力のある企業の選別(金融機関による保証、前払金制度の見直し等)
・下請企業の保護のための保証制度の導入
・持ち株会社等を活用した経営統合への支援方策
・特定建設業許可への自己資本規制の導入、特定JVに係る経営悪化企業のスポンサー規制の導入

 

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