第II部 国土交通行政の動向 

(1)既存ストックの有効活用

1)住宅市場整備行動計画(アクションプログラム)の策定
 今後の住宅政策においては、国民がライフステージに応じた住替えや買換えを通じて既存住宅ストックを十二分に活用し得るような市場を整備する必要がある。このため、平成13年8月に、消費者が安心できる住宅市場の整備に向けて、民間と国・地方公共団体が取り組むべき施策について、その実施時期を明示した住宅市場整備行動計画(アクションプログラム)を策定した。

2)中古住宅市場流通のための環境整備
日米の人口千人当たりの中古住宅流通量を比較すると、日本は米国の約13分の1(1997年)であり、日本での中古住宅流通の規模は米国に比べて極めて小さい。

 
図表II-4-1-1 日米の人口1,000人当たりの住宅着工戸数及び中古住宅流通量の比較

日米の人口1,000人当たりの住宅着工戸数を比較すると、2000年の時点で、日本は9.7戸、アメリカは6.7戸であるが、同様に日米の人口1,000人当たりの中古住宅流通量を比較すると、1998年の時点で、日本は0.9戸、アメリカは18.4戸となっており、アメリカでは2000年には18.6戸と増加している。アメリカにおける中古住宅流通市場が確立されていることがわかる。
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 このため、中古住宅の一層の流通促進に向けて、質の高い住宅を安心して売買できる中古住宅市場の環境整備のため、
・既存住宅の性能表示制度の普及・促進
・不動産市況情報の提供促進
・住宅の修繕・管理等の履歴情報の登録・提供のためのシステム構築
・中古住宅の質を考慮した価格査定システムの構築
等の施策を推進しているところである。

3)リフォーム市場の活性化
住宅ストックを有効利用し、長く使っていくためには、インテリア等の充実、台所・便所・浴室の設備改善や屋根・外壁の補修など住宅の構造や設備の維持・向上を行うリフォームが必要である。また、高齢社会を迎え、自宅の浴室や便所等におけるバリアフリー工事の必要性も高い。このように、リフォーム市場における潜在的な需要は今後高まっていくものと思われる。このため、消費者がアクセスしやすく、信頼できるリフォーム市場の整備と活性化に向けて、住宅市場整備行動計画に基づき、
・増改築工事における瑕疵保証保険制度の創設
・標準的なリフォーム工事契約書等の普及・促進
・リフォーム事業者に関する情報提供システムの整備
・リフォーム工事の内容や見積もりのガイドシステムの開発・普及
・リフォームの容易な長期耐用型住宅の技術開発
・集合住宅のリフォーム技術の開発・普及
等の施策を推進している。

 
図表II-4-1-2 住宅リフォーム市場規模の推移

設備等の修繕・維持費と増築・改築工事費とを合わせた狭義のリフォーム市場規模も、住宅着工統計上、新設住宅に区分される増築・改築戸数の工事費とリフォーム関連の家庭用耐久消費財、インテリア商品等の購入費を加えた金額をいう広義のリフォーム市場規模も、1996年以降おおむね減少傾向にあり、2001年には、狭義では5.23兆円、広義では7.19兆円の規模にとどまっている。
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4)公共賃貸住宅ストックの計画的改善
 公営住宅については、躯体を残して内装等について全面的な改善を行うとともに共用部分のバリアフリー化等を行うトータルリモデル事業、公営住宅ストックの約半数を占める中層の階段室型共同住宅へのエレベーター設置等を行う個別改善事業等の公営住宅ストック総合改善事業を推進することとしている。

 
図表II-4-1-3 公営住宅ストック総合改善事業による住戸改善実績戸数

公営住宅ストック総合改善事業による住戸改善実績戸数は、平成8年は13,496戸であったが、平成13年には21,818戸になる見込みである。
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 公団賃貸住宅においては、昭和40年代に供給した住宅を中心として空家発生時に住宅性能等の向上を図る「リニューアル」や、床段差の解消等の性能向上と所得に応じ家賃の軽減を図る「高齢者向け優良賃貸住宅」への改良を実施し、既存ストックの有効活用を行っている。

5)マンション管理の適正化と建替えの円滑化
 平成13年にはマンションストック戸数は約406万戸に達し、マンションは、特に都市部において、国民の主要な居住形態としての地位を占めている。

 
図表II-4-1-4 マンションストックの推移

マンションストックは年々増加しており、平成13年末には、約406万戸のストックがあり、約1,100万人以上が居住していると推計される。
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 マンションにおける良好な居住環境を確保するためには、その管理が適正に行われることが必要である。そのため、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(「マンション管理適正化法」)が13年8月より施行され、マンションの管理の適正化のための指針の策定、マンション管理士制度の創設、マンション管理適正化推進センターの設置等が行われた。13年12月には第1回マンション管理士試験が実施され、14年9月末現在で、マンション管理士登録者数は5,072名にのぼる。
 また、今後、老朽化したマンションの急激な増加が見込まれることから、居住環境の良好なマンションへの建替えを円滑化していくことも必要である。このため、建替え主体への法人格の付与、区分所有権や担保権などの権利を建替え後の建物に円滑に移行するための措置、従前居住者の居住安定措置等を内容とした「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」が14年6月に成立、同年12月に施行され、あわせて、補助、融資、税制上の特例措置等総合的な支援措置が創設・拡充された。
 さらに、14年12月、「建物の区分所有等に関する法律及びマンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」が成立、公布され、建替え決議の要件の合理化及び手続の整備、団地内の建物の建替え承認決議及び一括建替え決議の制度の創設、マンション建替事業の施行の手続の整備等が図られた。
 また、15年度においては、優良建築物等整備事業及び都市再生住宅制度の補助並びに住宅金融公庫の融資の要件の抜本的な緩和を行うこととしている。

 
図表II-4-1-5 マンション建替事業の流れ

マンション建替事業の流れは、区分所有法による建替え決議をした者が、マンション建替組合を設立し、権利変換計画の作成、権利の変換等を行い、建替え工事を実施し、再建建物に入居できるという流れである。これに対し、補助、融資、債務保証、税制による総合的な支援措置が行われている。

6)既存オフィスの住宅への転用
 都心部等を生活拠点として生活するニーズの高まり等に呼応して、良質な賃貸住宅の供給を推進することが求められている。
 このため、既存ストックの有効活用による効率的な供給にも対応するため、既存建築ストックの都市型住宅への転用に対する税制等による支援の拡充、採光に関する建築基準法上の規定の合理化、設計施工指針の作成の措置を講じ、既存オフィスビル等の住宅への転用を支援することとしている。

 

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