第II部 国土交通行政の動向 

1.交通分野のIT化

(1)公共交通分野のIT化

 公共交通分野においては、従来より情報通信技術の活用によりその安全や定時走行等の運行の効率化が図られてきた(座席予約システム、列車運行管理システム等)。しかしながら、最近における携帯電話や携帯情報端末の普及と技術の高度化については、それらの積極的な活用は未だ十分なものとなっていない状況であり、今後の技術の進歩に合わせた交通分野への応用に対する期待は大きい。この分野においては利用者の利便性を向上させるため、以下の施策が行われている。

1)ICカードシステムの導入促進
 ICカード乗車券の利便性が広く評価され、平成13年11月に東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が東京近郊区間において「Suica(Super Urban Intelligent Card)」を導入するなど、現在、様々な交通事業者において導入及び導入に向けた検討が行われている。IC(Integrated Circuit 、集積回路)を内蔵したICカードは磁気式のカードに比べ、1)より多くの情報を記憶できる、2)カード自体で情報処理が出来る、3)高度なセキュリティ機能を有する、という特長を有している。
 また、無線で通信を行う非接触型のICカードは読取り機器にかざす(軽く触れる)だけで情報のやり取りができ、出改札や運賃の支払いの際にもパスケースから取り出す必要が生じないので、高齢者・身体障害者等の移動制約者を含むすべての利用者にとっての利便性の向上や、混雑の緩和に資すると評価されている。
 現在、磁気式の定期券やSFカードが広く利用されているが、上述のSuica等のように、一部の公共交通事業者においては既にICカードを利用した乗車券システムが実用化され、平成15年度より関西地区において、JR西日本及びスルッとKANSAIにより実導入が図られる予定であるなど今後ますます普及するものと期待されている。

 
<Suica>


 
図表II-4-4-1 交通系ICカードの導入状況(平成15年1月現在)

北海道道北バスのドゥカード、福島交通のバスICカード、JR東日本、東京モノレール、東京臨海高速鉄道のスイカ、東急トランセのトランセカード、北九州交通局のひまわりバスカード等、さまざまなICカード乗車券が導入されており、大阪圏民鉄によるするっと関西、JR西日本のイコカ等も導入予定である。

 さらに、国土交通省においても学会、産業界、行政機関のメンバーで構成される「次世代交通フォーラム」を設置し、ICカードや携帯端末等を活用した公共交通分野のIT化に関する実践的な政策研究を進めるとともに、ワールドカップサッカー大会の開催期間中、電子乗車券、複数通貨対応の電子マネー等の機能を複合した多機能ICカードプロジェクト、携帯端末を利用した交通対策支援システムに関する実証実験を行った。
 また、各交通事業者が導入するICカード乗車券の共通化・相互利用化は、1枚のカードでの乗継ぎ・乗換えが可能となるため、利用者利便の向上の観点から極めて重要である。このため、国土交通省では、ICカード乗車券の共通化・相互利用化に必要なセンターシステムの構築に対して補助等を行い、全国規模における共通化・相互利用化の促進を図っていくこととしている。

2)「e-エアポート」構想の推進
 我が国と世界を結ぶ玄関口となる国際空港については、不慣れな旅行者をはじめ誰もが必要な情報を入手できる環境を整備するとともに、セキュリティを確保しつつ、各種の手続きを迅速化、簡略化すること等が必要である。さらに、国際空港における高度IT技術の集中的な投入は、我が国の先端ITを国内のみならず、世界に対し広くアピールするという効果も持つ。
 このような観点から、「e-Japan2002プログラム」(平成13年6月IT戦略本部決定)等に基づき、世界最先端のIT技術を多面的に用いることにより飛躍的な機能向上を図るという「e-エアポート」という概念の下に、1)空港における待ち時間や空港に至るまでの移動時間を有効活用するための高速インターネット接続環境の創出、2)空港アクセスの円滑化等のための利用者への総合的な情報提供、3)バイオメトリクス(生体認証技術)をはじめとした高度IT活用による航空チェックイン手続きの迅速化、等について、新東京国際空港公団、関係企業等と協力して、総合的に取り組んでいるところである。

 
図表II-4-4-2 「e-エアポート」構想の推進

国際空港において、インターネット接続環境の構築、チェックイン手続き等のIT化の推進、携帯端末を利用した混雑状況等のリアルタイムな提供、フライト情報と連動したアクセス交通情報の提供等、ITを総合的に活用することで、空港利用者の利便性を向上し、世界と日本の距離感を短縮させる。

3)デジタル公共交通情報の提供 
 公共交通機関に関する情報については、現在大手の交通事業者を中心にそれぞれのホームページ等での公開等が行われているが、まだ時刻表や運賃等の固定的な情報に留まるものが多い。今後は、各交通事業者が保有する時刻表、運賃等の固定情報のみに止まらず、遅延等運行状況や混雑等まで含めた交通動態についての情報を柔軟に加工、分析できる様式にデジタル化し、ドア・ツウ・ドアでの移動に必要な情報がパソコンのみならず携帯電話等の携帯端末で即時に入手出来るようにすることにより、将来的には天気予報のように人々にとっての基礎的な情報インフラとして活用されることが期待される。
 上記「e-エアポート」においては、航空運航時刻に応じたアクセス交通情報を即時に提供するという実証実験を実施しているが、このような先進的な取組みに加え、バス情報提供の着実な普及等を図ることも重要である。

4)移動制約者支援モデルシステムの研究開発
 バリアフリー化の促進にITを活用するという観点から交通ターミナル内の施設への誘導や列車接近時の自動警報などの情報提供など、移動制約者の公共交通利用を支援するモデルシステムの研究開発を実施している。現在、国土交通省では総務省と協力して実証実験を行いつつ、実用化に向けた研究開発を進めているところである。

5)デマンド交通システムの構築
 需給調整規制の廃止などの規制緩和が進められる中、地域住民の足を確保するためには、地域自らが創意工夫により地域の実情に合った新たな交通システムを考えることが必要である。特に交通不便地域における高齢者や障害者などへの移動手段対策など、市場原理が働きにくく、かつ、緊急に対処すべき問題は、最新の情報通信技術を活用することによって対処すべきものと思われる。国土交通省では最新の情報通信技術を駆使して住民のデマンド(要求)をきめ細かく把握し、効率的な運行を図るデマンド交通システムを構築し、平成14年度には、石川県志雄町等において実証実験を実施している。

 
図表II-4-4-3 デマンド交通システム

デマンド交通システムにより、利用料金を極力抑えつつ利用者個人個人の移動ニーズに対応することが可能となる。

 

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