第II部 国土交通行政の動向 

(2)ITSの推進

 ITS(Intelligent Transport Systems)は、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築するもので、高度な道路利用、運転や歩行等の負担の軽減を可能とし、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の飛躍的向上を実現するものである。これにより、今日の自動車社会が抱える、交通事故や渋滞、環境問題、エネルギー問題等の諸問題の解決に大きく貢献することが期待される。
 また、ITSの実用化の進展は、自動車産業、情報通信産業等に関連する分野において、大規模でかつ新たな市場の形成に結びつくことも期待できる。
 このため、平成8年にITS関係5省庁で策定した「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」に基づき、道路インフラの観点からは、ETCや走行支援道路システム(AHS)、歩行者ITS等の開発・導入等を、また自動車交通の観点からは、先進安全自動車(ASV)の開発・普及、道路運送事業の高度化、スマートプレート等を中心に、以下の施策を行っている。

1)ITSの導入・展開

(ア)ETCの普及促進
 有料道路の料金所をノンストップ・キャッシュレス化することにより渋滞解消や利便性の向上を図るために導入を進めているETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)については、平成14年7月より「ETC前払割引」を導入したり、ETCの路車間通信方式(DSRC)を活用した多様なサービスの実現に係る研究開発を推進するなど普及促進を図っており、14年度末までに全国の主要な約900箇所の料金所にサービスを拡大することとしている。

 
図表II-4-4-4 ETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)

ETCとは、料金所に設置されたアンテナが自動車の車載器と無線通信し、料金支払いをノンストップ化するシステムのことであり、高速道路渋滞の主な要因の一つである料金所渋滞の解消、緩和を図っている。

(イ)道路交通情報提供の充実
 渋滞情報・交通規制情報等をリアルタイムでカーナビゲーションシステムに提供できるよう、道路交通情報通信システム(VICS)について、施設整備を推進し、平成14年度中に概ね全国でサービスを開始する。

(ウ)道路運送事業におけるITSの活用
 公共交通、トラック輸送等、国民生活の重要な足として機能している道路輸送事業の高度情報化を図るために高速バスのリアルタイムな位置情報を収集し、利用者に提供するとともに運行管理に活用する「高速バス運行情報システム」や、特定地域内における貨物の集荷情報の一元化による道路運送事業の効率化を目指した「都市内IT集荷集約システム」等による実証評価実験等を実施し、その整備に係る課題や効果の明確化を図ることにより民間事業者による導入を促進している。また、効率的なバス情報提供のためのシステム化を推進するために時刻表や路線・系統等のデータに関する標準形式等を定め、その普及啓発活動を行っている。

(エ)歩行者支援のITSの推進
 道路空間をはじめとした一般の公共空間において、円滑な移動を支援する歩行者ITSの技術開発、実証実験を推進している。

 
図表II-4-4-5 歩行者ITSが目指すサービス

歩行者の円滑な移動を支援するために、危険等の注意喚起、周辺情報提供、経路案内などのサービスを提供する歩行者ITSの推進が行われている。

2)ITSに関する技術開発

(ア)走行支援システム
 ITを活用し、道路(AHS)と車両(ASV)が協調することによってドライバーへの情報提供や、警報、運転操作の支援により、事故を削減し、安全で快適な自動車の走行を実現する走行支援システムの研究開発を推進している。

 
図表II-4-4-6 走行支援システムのイメージ(追突事故防止のシステムイメージ)

走行支援システムとは、ITを活用し、道路側からの情報を車両側がリアルタイムで受け取ったり、警報、運転操作の支援等のシステムであり、事故を削減し、安全で快適な自動車走行の実現を図っている。

(イ)先進安全自動車の開発・普及
 先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)は最新のエレクトロニクス技術を自動車に装備して高知能化を図ることにより、自動車の安全性を格段に向上させることを目的とするものである。ASVを用いることで、交通の円滑化などITSの推進を図ることができるようになる。
 国土交通省ではASV技術の新たな技術開発を行うとともに、普及促進を目指して産・学・官の協力体制で検討を進めている。
 全車両にASV技術が導入された場合には、年間の死亡事故・重傷事故の約4割を削減することが見込まれている。

 
図表II-4-4-7 先進安全自動車

先進安全自動車とは、歩行者保護及び突き倒し防止前部構造、路面センサー、前方障害物センサー、周辺視認性向上カメラ、後方障害物センサー等を備えた自動車のことである。

(ウ)ナンバープレートの電子化
 電子ナンバープレート(スマートプレート)とは、ナンバープレートの情報や自動車登録ファイルに記載されている情報などを記録したICチップを、ナンバープレート上に取り付けたものである。個車情報に関する基盤技術として、車両識別への活用など、今後の自動車交通行政に不可欠な新しい社会の共通インフラとしての期待が高まっている。
 そのため、平成12年度から「スマートプレート実用化に向けての検討調査委員会」を開催して各種の実験やセキュリティの確保などのソフト面からの検討を行っており、14年度には、フィールド試験を行うとともに、スマートプレートの発行管理を含む総合実証実験を行った。なお、15年度においては、17年の日本国際博覧会の開催に向けて、愛知県等での実証実験を行うことを目標に研究開発を促進している。

 
図表II-4-4-8 スマートプレート

スマートプレートとは、現行ナンバープレートの情報及び自動車登録ファイルに記載されている情報をナンバープレート上のICチップに記録したものである。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む