第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開 

(2)水辺を活かした事例

 
島根県松江市 〜松江堀川の再生〜


 松江市は、人口約15万人の県庁所在都市であり、古くから水の都として親しまれ、西に夕景の名所宍道湖、東に中海が広がり、両湖を結ぶ大橋川を挟む形で市街地が形成されている。また、松江市は、京都、奈良に並び「国際文化観光都市」の指定を受けている。

 観光名所の一つでもある松江城の築城の際に内堀・外堀として整備された堀川は、「水の都・松江」の象徴として親しまれてきたが、生活用水、水上交通としての用途を失い、道路・宅地へと転用するための埋立ても進み、川幅が狭められ水の流れも悪くなっていった。さらに、都市化の進展による生活排水の流入増加等により、水質汚濁が進んだ。

 こうした中、堀川のあり方に危機感を持ち、昔の堀川を取り戻そうとする市民の動きが始まった。昭和55年には、地元青年会議所の会員が「よみがえる堀川の会」を発足させ、遊覧船による堀川の有効活用を市に提案した。また、他の市民団体による貸しボートや錦鯉放流など様々なイベントも行われた。このような市民の取組みを受けて、行政も、平成6年度に水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンス21)を策定し、宍道湖からの導水、ヘドロの除去、下水道の整備等の水質浄化に総合的に取り組むとともに、堀川周辺の護岸、親水テラス等の整備、周辺商店街の再整備などを行った。こうした地域住民と行政との堀川再生への取組みにより、堀川は流れを取り戻し、平成2〜5年の平均が10.0であった生物化学的酸素要求量(BOD)(注)75%値が平成11年には3.2に減少するまで水質も改善された。平成9年には遊覧船の運航が実現し、松江市には欠かせない新しい観光資源となっている。
 また、遊覧船の運航に当たっては、遊覧船の船頭として高齢者や中高年齢者を採用しており、単なる観光事業としてではなく、地域の高齢者等の雇用対策、生きがいづくりにも貢献している。

 遊覧船の運航が始まったことで、観光客が川からまちを見るという視線が生まれ、川沿いの道路や河岸の修景などが行政によって行われるとともに、住民による川沿いの住宅の修景や花壇の設置も行われるなど、城下町にふさわしい景観の形成への動きがおこっている。

 
<遊覧船>



 
<遊覧船から見た川沿いの景観>



 さらに、堀川沿いの遊覧船の発着場の近くにある旧日本銀行松江支店の歴史的な建物が、市民の保存要望を受けて、市の観光開発公社とTMO(まちづくり会社)により体験型工房として整備されたほか、様々な観光施設等の立地も進み、平成7年には年間約330万人であった観光客が14年には約460万人に増加している。

 平成15年からは、「神在月」の時期に、伝統行事の「鼕(どう)行列」にあわせて神在月ウォークや城下町松江をイメージする武者行列を開催するなど、滞在型観光地づくりを目指した都市観光推進の取組みが行われている。

 
<鼕(どう)行列>



栃木県小山市 〜思川の有効活用〜

 小山市の中心を流れる思川は、市民に水と緑、豊かな恵みを与えてくれる母なる川として、市のシンボルとなっている。思川をより一層有効に取り込んだ個性豊かなまちづくりを推進するため、行政と市民からなる実行委員会によるアユ祭り等のイベントの開催や源流域との交流、桜の里親制度による桜堤の整備と里親同士の交流促進など、市民が思川への親しみ・愛着を高めるような取組みが行われている。市民の美化意識も高まり、市民に親しまれる自然豊かな川となってきている。

 
<思川の桜堤>




(注)水中の有機物を分解するために水中の微生物が消費する溶存酸素量

 

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