第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開 

(6)特色ある住民中心の活動が見られる事例

 
岩手県遠野市 〜女性が活躍する地域づくり〜


 遠野市は、北上山系の一画に広がる農業を中心とした人口約2.8万人の盆地のまちである。この地で語り継がれてきた素朴な民話は、柳田國男著『遠野物語』として、日本民俗学発祥の基礎となり、「民話のふるさと遠野」として知られている。

 遠野市西部の田園地帯に位置する綾織地区では、地区内の全世帯が参加する「綾織町地域づくり連絡協議会」が設置されており、このもとで、多様な団体が連携しながら地域づくりが進められている。
 特に、女性による地域づくりの取組みが活発に行われており、ほ場整備事業が導入された際に、農家の女性達が、「田んぼの中に公衆トイレを作ってほしい」という女性ならではの視点から要望を行い、その結果、平成9年に全国初となるほ場整備での公衆トイレの設置が実現した。この要望に際して結成された「あやおり夢を咲かせる女性の会」では、この成功を契機に、1)夢を語ること、2)綾織らしい環境づくり、3)次世代のために、4)女性の生き方−を活動の方向性として、積極的に地域づくりに取り組んでいる。

 
<綾織地区の田園と公衆トイレ>



 平成10年に情報交流センター「遠野風の丘」(11年道の駅に登録)が開設されると、会では、地元の多彩な農産物を食材としてふるさとの味を提供する「夢咲き茶屋」を開店し、蕎麦、団子、おにぎり、おでん、きりせんしょ、かねなり等を販売した。夢咲き茶屋は11年からは企業組合で運営を行っているが、好評を博し、13年には売上高が5,000万円を超えた。販売する農産物は、地区の若者の農業担い手グループから仕入れたり、地元の中学校で学校農園を設けて栽培してもらうなどしており、地産地消の取組みを地域に広げている。

 
<夢咲き茶屋>



 また、有機堆肥づくりや地名の由来である羊毛からの織物加工などにも取り組んでいる。さらに、北東北3県の農村グループに呼びかけて、北東北の各地の鍋料理を囲んでお互いの交流を深める「ナベナベサミット」を企画運営し、農家以外の日頃接点のない都市部の住民との交流の端緒を築く取組みを行っている。平成15年7月には、「あやおりを元気にする会」の発足を呼びかけ、空き店舗を利用した転作作物の加工・販売を図るなど、地域づくりを先導している。

 さらに、零細な稲作農業に強い危機感を有していた農業後継者たる若者達も、魅力ある農業の実践や農村の実現のために、自らが地域農業の担い手となることを図る「あやおり夢現会21」を組織した。あやおり夢現会21では、営農の効率化を目指し、ほ場地区の営農を受託するなどの取組みを行っている。

群馬県高崎市 〜市民と協働してすすめるまちづくり〜

 高崎市では、中心市街地の商店主を中心とする「高崎中山道元気会」によるまちなかに賑わいを取り戻すための各種イベントの開催、地元大学の学生の団体「たかさき活性剤本舗」による中心市街地の活性化に対する調査・研究・提言、地元をいきいきとした街にすることを目指すボランティアグループによって企画・運営される高崎映画祭の開催、市民の代表者から結成される委員会による高崎音楽祭の開催など、行政の支援を受けつつ、市民の活発な活動が行われている。

 
<高崎音楽祭>



神奈川県小田原市 〜実践的実験を通じ市民とともに進化する研究所〜

 小田原市は、外部の有識者と市民、市の職員が研究員となる「政策総合研究所」の設立や、産業文化の発信拠点となる「なりわい交流館」の整備など、市民主体のまちづくりを推進している。
 研究所では、調査研究と実験的な実践を踏まえた行政・事業者・市民への提言等を行っており、新たなまちづくりの取組みや担い手の発掘につながっている。例えば、国府津地区では、電線類地中化事業を契機として、研究所が提言した手法を活用することにより住民の間に街並み形成の気運が高まっている。さらに、市民研究員による実験から、市民と団体、団体と団体、市民と行政などのつなぎ手となる、まちづくりの中間支援組織「小田原まちづくり応援団」が設立されるなど、研究所の活動から様々な取組みが生まれてきている。

 
<国府津地区の街並み調査>



福井県武生市 〜地区単位の振興計画づくり〜

 武生市は、地域の身近な課題への取組みは、住民が自ら考え行動することでよりきめ細かな対応が可能となるとの考えから、小学校を中心とした地区単位での住民による振興計画の策定と振興組織による取組みの実施を推進している。市では、個人市民税の一定割合を各地区の振興組織に対する交付金の財源として確保するとともに、振興組織に対しても費用の一定割合を会費等による自己財源により調達するよう求めている。

 
<地域振興ワークショップ>



岐阜県多治見市 〜ふれあいサロンの開設〜

 多治見市では、高齢化が進む中、高齢者の生きがいづくり、介護予防施策のため、小学校の余裕教室を利用した宅老所の開設や保育園への宅老所の併設を行い、地域ボランティア等による運営の下、高齢者の健康の保持・増進や生きがいづくりとともに、高齢者と児童・園児との異世代交流も図られている。また、商店街の空き店舗を利用した、地域住民や商店街利用者のための交流・休憩施設も開設している。

 
<宅老所(ふれあいサロン養正)>



佐賀県七山村 〜活力あるむらづくり〜

 七山村では、過疎化が進む中、地域の連帯感や共同意識が希薄となり、地域の共同作業や祭りの実施に支障が生じ始めている。そこで、集落ごとに選出された地域のリーダー同士の意見交換や先進地視察等によりリーダー育成を図るとともに、集落ごとに設置した集落推進委員会等で策定された計画に基づく福祉、環境、生活文化など地域の実践活動への助成を行い、行政と一体となった住民による自主的な地域づくりを推進している。

 
<地区住民による農家レストランの検討>



 

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