第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開 

(2)新規市場の開拓

【個人客を焦点にした倉庫保管・運送サービス】
 現在、倉庫業界においては、各社とも物流コスト削減傾向が顕著である。「物流を通して社会に貢献する」という目標を掲げているC社は、このような厳しい経営環境の中で、ハード面での投資を必要とせず、長年のノウハウが生かせる新規事業として、不特定多数の個人向けに少量保管するという新たなニーズに着目したサービスを平成12年8月から始めた。

 
<個人向け倉庫サービス>



 当該サービスは、荷物の「個数預かり」や「日数単位保管」に、集配の運送サービスを付加したもので、保管料も荷物の体積や重量によって設定し、1日単位、1個単位で契約できるように工夫した。また、インターネットの普及とともに開始した事業であるため、主にインターネットによる運営を行っている。これはIT技術を利用し、潜在的な需要を引き出すことで、顧客を獲得しようとする戦略である。サービス開始以降、着実に売り上げを伸ばしている。
 今後は、さらに簡単に電話一本で申込みのできるシステムを構築するとともに、他業種とも連携を積極的に進めていく。

【便利屋タクシー】
 タクシーは、最近まで旅客輸送という単一のサービスしか提供できなかったが、規制緩和の中で平成元年から、緊急を要する需要に応じるための事業が認められるようになった。
 そこで、北海道のD社は、タクシーが利用個々のニーズに対応したきめ細かで多様なサービスを24時間、年間を通して提供できる機動力に着目して、それまで都市部では困難とされていた「お買い物サービス」、「お届けサービス」、「病院受付代行サービス」、「自家用車トラブルアドバイス」といった生活支援サービス事業を平成12年8月から開始した。現在、このサービスのニーズは月に30〜40件で、経営の柱とはなっていないが、顧客を大切にする姿勢、タクシーという24時間動いている移動体としての社会貢献の観点から重要な事業であると位置づけている。

 
<便利屋タクシー>



 また、今後、潜在的なニーズを把握し、更なるサービスの拡大を検討していくとともに、現在エリアが限定されていることから、他のタクシー会社にも働きかけ、当該サービスのエリア拡大を図っていくこととしている。

【高齢化社会へ向けたニーズの対応】
 我が国の65歳以上の人口は2,200万人(平成13年10月現在)であり、障害者の総数は約600万人と推計されている。E社では、昭和40年頃から運転補助装置付車両等の車両改造に取り組み、56年には完成車の発売を開始したが、その後、高齢化や福祉社会の進展、障害者の社会参加といった社会的背景からの福祉車両へのニーズの高まりを受け、平成5年には6車種6タイプに過ぎなかった福祉車両のラインアップを、14年には52車種110タイプへと大幅に拡充している。

 
<福祉車両>



 福祉車両は、主に施設や病院などへの送迎用、またはタクシー等の用途で使用される業務用の需要(オフィシャルユース)と、家庭で使用される個人需要(パーソナルユース)に大別され、在宅福祉の拡大等から、家庭での利用が特に拡大している。
 また、一方的な助けではなく、身体の不自由な人が求めている「できることは自分で」という福祉機器への要求も考慮し、車種や機構、装備等のバリエーションを多彩に揃えるとともに、利用者からのフィードバックを開発に反映し、より一層の洗練を進めている。
 福祉車両に対するニーズは年を追うごとに確実に高まり、平成14年度の福祉車両の市場規模は約3万8,000台となっており、E社ではこのうち1万4,300台(シェア約38%)を販売している。

【外国人客を焦点に絞った家族旅館】
 F旅館は昭和55年頃、小規模な設備が、宿泊客のニーズに合わなくなり、経営が厳しくなった。このような経営の危機から脱却するため、外国人客の受入れを推進するジャパニーズ・イン・グループに加入し、外国人客を積極的に受け入れてきた。その際、低価格な料金設定を行うとともに、近所の飲食店に外国人客の受入れ英文メニューの作成を依頼し、朝食についても希望者のみに提供することとし、外国人客が安価に滞在しやすいように心がけた。その結果、年間客室稼働率が95%を超え、これまで、80カ国、延べ10万人を超える外国人客を受け入れ、現在の宿泊者数の約8割超が外国人客となっている。

 
<旅館による獅子舞の披露>



 また、家族的なもてなしや趣を重視する宿泊客のニーズに対応するため、今後も家族旅館としてのかたちで経営していくこととしている。

【無料巡回バスによる地域活性化】
 平成11年当時、東京の臨海副都心においては、各施設が点在しているために、来訪者が目的の施設に立ち寄るだけで帰ってしまい、来訪者が域内に定着しないという現象がおきていた。臨海副都心まちづくり協議会では、施設を巡る交通手段があれば、来訪者に域内を回遊してもらえ、その結果、地域にビジネスチャンスが生まれるという貸切バス事業を行うG社の提案の下、同社と連携して、同地区に“ベイシャトル”の運行を開始した。また、大手町・丸の内・有楽町の都心地区においても、同様にビジネスに特化した街から賑わいのある街に転換する一助として、地元の大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会やNPO法人等とG社が議論を重ねた結果、同地域の14企業の共賛により大手町・丸の内・有楽町地区シャトルバス運行委員会を立ち上げ、G社と連携して、同地区に“丸の内シャトル”の運行を開始した。ともに、地域企業と交通企業が連携して利用者負担のない都心内回遊バスという新たな市場を開拓した点に特色がある。

 
<丸の内シャトル>



 さらに、これらのバスについては、それぞれ臨海副都心と丸の内の景観にふさわしい独自のデザインが施された低床バスで、“丸の内シャトル”においては、日本仕様にあわせて研究開発した低床、低公害、低騒音の電気バスが導入されている。

【自社のノウハウの商品化】
 地域の住宅建設に大きな役割を果たしている地域工務店は、厳しい競争の中、環境共生や省エネルギー、介護、改修、健康への配慮等住宅に対する消費者の多様化・高度化する要求に対応していくことが求められており、住宅建設業務、事務管理業務の品質向上と効率化、コスト削減を実現することが重要となっている。
 注文建築住宅の設計・施工等を行っているH社は、社長の思いを受けて、従来の慣習にとらわれることなく、自社の住宅建築の工程全般を見直し、品質を確保しつつコストの削減を実現した。また、このノウハウを、工程別に材料と工賃を組み合わせてコストを計算することができるコンピューターソフトと経営に関する研修等の支援を行うシステムとして商品化したところ、これまでに2,000社以上の地域工務店に導入されている。さらに、このシステムを導入した地域工務店の一部とは、共同開発や共同購入にも取り組んでおり、提供する住宅の種類の増加やさらなるコストの低減につながっている。

 
<研修の模様>



【発想の転換から生まれた無散水消雪システム】
 雪国における歩道等の積雪対策として、地下水を活用し、散水して消雪する散水消雪システムがあるが、地域によっては地下水の枯渇や地盤沈下といった問題が生じてきた。I社では、こうした問題への対応として、地下水を散水せず、地下水の持つ自然の熱エネルギーだけを利用して雪を消すという発想の転換から、散水消雪システムを応用して、散水せずに地下水を循環させる無散水消雪システムを実用化し、この分野の先陣を切った。さらに、この技術を応用して、地下水を採取できない地域などでも利用できる地中熱を利用した無散水消雪システムの開発にも取り組んでいる。

 
<無散水消雪システムの施工例>



【建設業からの異業種進出】
 建設投資の減少など地域の建設業は厳しい環境に置かれており、異業種への進出に取り組んでいる企業も見られるところである。このような取組み事例の一つとして、J社では、健康への意識が高まる中、オーストリッチ(ダチョウ)の肉が低カロリー等の特色を有する食肉で、飼育も広い土地が確保できれば大規模な施設を要しないこと等に着目し、建設業に軸足を置きつつ、休耕田、遊休荒廃農地、廃校跡地等の遊休地を活用したオーストリッチの飼育と食肉や化粧品・皮革製品等の加工品の販売に取り組んでいる。
 地元の特産品として県や町の支援を受け、オーストリッチの知名度の向上と販路の拡大に努力しているところである。

 
<オーストリッチ>



 

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