第II部 国土交通行政の動向 

(2)都市環境インフラの再生

1)大都市圏における貴重な自然環境の保全・再生・創出
 国土交通省、農林水産省、環境省及び首都圏の都県市からなる「自然環境の総点検等に関する協議会」では、首都圏における自然環境を総点検し、25箇所のゾーン及び13河川を「保全すべき自然環境」と位置付けるとともに、自然環境が有する多面的な機能に着目して設定した基本目標を実現するための「首都圏の水と緑のネットワーク」の検討を行っている。

 
図表II-3-3-11 首都圏の保全すべき自然環境

保全すべき自然環境として抽出されたゾーンは、三浦半島ゾーン、多摩丘陵ゾーン、三富新田ゾーンなど25箇所が、抽出された河川は利根川、花見川など13河川がある。

 平成15年度には、この保全すべき自然環境のうち、前年度より継続して検討する4地域に新たに5つの地域を加えた9地域について、関係する国の機関や都県市、NPO等で構成される作業部会を開催し、地域における自然環境の保全・再生・創出における課題、水と緑のネットワーク形成に向けた地域レベルでの取組み、行政と市民やNPO等との協働による具体的な取組み等について検討を行っている。
 これらの検討を踏まえ、自然環境の保全・再生・創出を総合的に考慮した水と緑のネットワークを形成するための基本方針となる「首都圏の都市環境インフラのグランドデザイン」を平成16年3月に取りまとめた。
 今後は、これらの成果を活用し、近郊緑地保全区域の新たな指定や、行政と市民やNPO等の多様な主体との連携支援などに取り組むことで、広域的視点に基づく「首都圏の水と緑のネットワーク」の構築を推進していく。

2)臨海部の緑の拠点の形成
 都市再生プロジェクト第三次決定の「臨海部における緑の拠点の形成」を受けて、東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、同尼崎臨海部において、国、港湾管理者等が連携して「臨海部の森づくり」を進めている。こうした臨海部の大規模緑地の整備は、廃棄物海面処分場跡地の有効活用やヒートアイランド現象の緩和に加えて、多くの市民が親しめる「海辺の里山」の創出が期待できる。そのためには、従来以上に利用者の視点に立った整備と維持管理が求められ、整備手法や利用方法の計画検討段階から、市民ボランティア、NPO等と行政との協働を促進している。

3)都市の緑の拡大
 都市のヒートアイランド現象の緩和、樹木によるCO2の直接的な吸収・固定による地球温暖化の防止、多様な生物の生息生育基盤の確保等を目的とした、良好な自然的環境の保全と創出による緑豊かな都市環境の実現を図るため、道路・河川・公園等の事業間連携により効率的・効果的に緑を生み出していく「緑の回廊構想」を推進するとともに、公園緑地の整備及び都市緑化・緑地保全を総合的・計画的に推進することにより、緑とオープンスペースの確保を図っている。
 (ア)公園緑地の整備
 都市における自然再生、多様な生物の生息生育基盤の確保等を行う「自然再生緑地整備事業」、クールアイランドや風の道の形成など都市環境を改善するため重点的な緑地の整備及び緑化を行う「緑化重点地区整備事業」、国民の環境保全活動や環境学習の場となる環境ふれあい公園の整備など、都市環境の改善や生物多様性の確保等に資する公園緑地の整備を推進している。
 (イ)都市緑化・緑地保全の総合的・計画的推進
 市町村が策定する緑に関する総合的かつ基本的な計画である「緑の基本計画」(都市緑地保全法に基づく法定計画)に基づき、都市緑化、緑地保全を推進する。
 また、固定資産税の軽減措置が受けられる緑化施設整備計画認定制度により、屋上や壁面も含めて都市における緑化を積極的に推進しており、平成15年3月末までに、8箇所で活用されている。

4)河川の再生
 大都市における水循環の主軸である主要な河川について、河岸の再自然化、水質の改善、親水空間の整備等により、河川の再生を重点的に推進する。
 平成15年度においては、東京都心部の渋谷川・古川における環境の再生、大阪圏の大和川において環状道路と一体的に整備する高規格堤防の推進、道頓堀川における環境の再生、広島市の太田川において水の都を再生するための親水護岸等の整備を行う。

5)海の再生
 東京湾の水質改善には、これまで地方公共団体をはじめ各行政機関において、環境改善のための施策が行われてきたが、後背地に膨大な人口を抱える閉鎖性海域である東京湾は流入する窒素、りん等の汚濁物質により富栄養化が進み、赤潮や青潮が発生し、生息生物に多大な影響を与えるなど、水質の改善が進んでいない状況にある。
 平成15年度から、15年3月に取りまとめられた「東京湾再生のための行動計画」に基づき、陸域からの汚濁負荷削減方策として、水質総量規制制度に基づく事業場への規制等を実施するとともに、下水道の整備、地域事情に応じた農業集落排水施設の整備、浄化槽等の各種生活排水処理施設の整備、河川直接浄化、湿地や河口干潟の再生、森林の整備・保全等の水質改善事業を推進している。
 また、海域における環境改善対策として、干潟・藻場の再生・創造、汚泥の除去や底質の改善などを効果的に推進している。さらに、東京湾の環境把握を目的として、東京湾奥部に設置した観測装置や人工衛星を利用して赤潮・青潮の継続監視と発生の原因の推定を行い、この結果を含めた環境情報を市民に提供するなど、環境保全への意識の向上や水質改善への自主的な取組みを促すこととしている。
 平成15年7月には、新たに「大阪湾再生推進会議」を設置し、15年度末までに大阪湾の水質改善のための行動計画の策定を行う予定である。

6)水循環系再生構想の策定
 「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」では、神田川流域(東京都)及び寝屋川流域(大阪府)をモデル流域として、長期的な観点からの水循環系再生構想を平成15年6月にとりまとめた。
 これらの構想では、流域の水循環に関わる水問題を総合的な視点から解決するため、水量、水質、水辺環境の観点から都市の水環境の現状と課題及びその背景となっている歴史的経緯等を分析した。そして、水循環系再生の際の基本理念と目標、これを達成するための施策として環境用水の確保、下水処理水の有効利用、浸透能の回復等を提案している。寝屋川流域では、この再生構想を受けて、関係府市が平成15年度から構想に提案された施策の具体化に着手している。

7)琵琶湖・淀川流域圏の再生
 琵琶湖・淀川流域圏を健全な姿で次世代に継承することを目的として「歴史・文化を活かし自然と共生する流域圏・都市圏の再生」の実現を図るため、関係地方公共団体等からなる協議会において平成16年度内に琵琶湖・淀川再生のための構想について取りまとめを行い、流域全体で一体的・総合的に施策を推進することとしている。

 

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