第II部 国土交通行政の動向 

3 建設産業の再生

(1)建設産業の現状と経営革新等の促進

 建設業は、国民生活及び経済社会活動の基盤である社会資本整備の直接の担い手であるとともに、国内総生産・全就業者数の約1割を占める我が国の重要産業の一つであるほか、特に地方部において多くの就業機会を提供することにより、雇用の確保に大きく寄与するなど、地域経済においても大きな比重を占めている。建設投資を見ると、平成16年度の見通しは約51.9兆円で、ピークであった4年度(約84.0兆円)と比べると約4割減少している。一方、建設業者数(許可業者数)を見ると、16年3月末は558,857業者で、5年3月末(530,655業者)と比べると5.3%増加している。このように、建設業は、深刻な過剰供給構造となっており、受注の減少、利益率の低下により厳しい経営環境が続いている。
 加えて、産業全体では収益力の回復が着実に進んでいるにもかかわらず、建設業は過当競争の影響から収益力が大きく低下している。平成15年度の売上高営業利益率及び同経常利益率は、それぞれ1.4%、1.6%となっており、4年度(3.8%、3.2%)の半分以下の水準にとどまっているほか、15年度の全産業の平均(2.8%、2.7%)を大きく下回っている。また、倒産状況を見ても、16年の倒産件数は4,093件と近年減少傾向にあるものの、依然として全産業倒産件数の約3割を占める状況にある。

 
図表II-5-5-9 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移

平成16年の建設投資見通しの名目値は、民間投資額が前年より0.6兆円増加し、31.5兆円、政府投資額は前年より2.6兆円減少し、20.4兆円となった。また、平成15年の許可業者数は55万9千社、平成16年平均の就業者数は584万人となり、就業者数は7年連続の減少となった。
Excel形式のファイルはこちら


 
図表II-5-5-10 建設業の倒産状況

平成16年の建設業者倒産件数は、前年より974件減少し4,093件、負債総額は6,094億円減少し、1兆161億円となった。
Excel形式のファイルはこちら


 こうした中、大手ゼネコン等については、金融機関の不良債権処理が加速する中で過剰債務の処理や経営合理化を迫られ、法的整理に移行し、あるいは合併、持株会社化等の経営統合に向かうなどの再編の動きが既に進行しており、市場規模の縮小に応じたスリム化が進んでいる。一方、比較的公共工事への依存度の高い中小・中堅建設業は、公共投資の減少が続く中、業者数は横ばいが続き、完成工事高や利益率は低下基調で推移しており、再編・淘汰が避けられない状況となっている。
 過当競争がこのまま続いた場合、建設業がこれまで果たしてきた効率的かつ適正な施工を通じた良質な社会資本の提供という基本的な使命を果たすことが困難になるおそれがある。特に、中小・中堅建設業は、地域の社会資本整備の担い手であるだけでなく、多くの就業機会を提供するなど、地域の経済社会の発展に欠かすことの出来ない役割を担っている。また、災害時には、その被害を最小限にとどめるとともに早期復旧を図る上で、地元業者の迅速な対応が不可欠である。地域の基幹産業である建設業の衰退は、地域の経済・雇用に悪影響を及ぼすおそれがあることから、地域再生の観点からも中小・中堅建設業の再生を図ることは喫緊の課題である。
 中小・中堅建設業の再生を図るためには、過剰供給構造を是正し、その過程において技術と経営に優れた企業が生き残り、伸びることが出来る環境整備を進めることが必要である。
 このため、従来から入札・契約制度の改革を通じて、不良・不適格業者の排除の徹底やダンピング受注の防止などを図り、公正な競争環境を整備するとともに、コスト管理の徹底や分業・外注による経営の効率化、資機材調達の共同化や積算・設計の協業化等の企業間連携、合併や協業組合の設立等の経営統合、これまで培ってきた技術とノウハウを活かした農業・福祉・環境等の新分野への進出等、経営革新の取組みを促進している。
 平成16年度においては、「地域における中小・中堅建設業の企業連携・新分野進出モデル構築支援事業」や「建設業再生アドバイザー事業」を展開し、中小・中堅建設業の経営革新の取組みを後押ししている。さらに、建設業の新分野進出の促進については、「建設業の新分野進出を促進するための関係省庁連携会議」において検討し、支援策を取りまとめるなど、関係省庁の連携による支援の強化を図っている。
 また、こうした経営革新促進施策の展開とあわせて、中小・中堅建設業の資金繰り悪化の防止等を図るとともに、労働移動の円滑化等の促進について、厚生労働省や建設業団体と建設業雇用問題協議会等を通じて連携し、セーフティネット(安全網)の確立に向けて取り組んでいる。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む