第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

(5)大規模被害の可能性

 人口、資産、交通等が集中している都市部においては、前述の脆弱性に関連して、自然災害が発生した場合、その被害が甚大になり得る。
 震災による被害については、平成16年12月及び17年2月に中央防災会議に設置された首都直下地震対策専門調査会において公表された被害想定結果によると、想定される地震のうちある程度の切迫性が高いと考えられ、都心部の揺れが強く、強い揺れの分布が広域的に広がる東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の地震では、最大で、死者数約1万1千人、建物全壊棟数約85万棟、経済被害は約112兆円と想定されている(注1)。被害がこのように甚大になる原因の1つとして、既述した都市の脆弱性が挙げられる。具体的には、地震火災の出火・延焼による焼失棟数は約65万棟と想定されているが、不燃焼率(注2)が小さい密集市街地が広域的に連担している環状6号線から環状7号線の間を中心に、地域によっては環状8号線にかけて、地震火災が同時多発し、大規模な延焼に至る可能性が高いため、焼失棟数が他の地域より多いと想定されている。

 
図表I-2-3-8 東京における焼失棟数分布と重点密集市街地の関係



 また、都市部に集中する交通インフラが被災した場合は、我が国の交通ネットワーク全体の機能低下を招くとともに全国的な経済活動の継続性を阻害する要因となり、前述の首都直下地震の被害想定結果では、交通寸断による機会損失・時間損失は6.2兆円と想定されている。
 さらに、公共交通機関、道路等の機能が低下した場合には、膨大な数の帰宅困難者(注3)の発生が予測され、前述の首都直下地震の被害想定結果において、東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の地震が昼12時に発生した場合では、1都3県にまたがり約650万人(うち東京都で約390万人)の帰宅困難者が発生することが想定されている。

 水害による被害を見ると、単位面積当たりの被害額は、15大都市とその他の地域を比較した場合、資産が集中している前者が後者よりも著しく大きくなっている。

 
図表I-2-3-9 15大都市とその他の地域における一般資産水害密度の比較

都市部とその他の地域における一般資産等水害密度を比較すると、都市部が一ヘクタール当たり一億二千七百八十一万円であり、その他の地域が一ヘクタール当たり三千九百六十八万五千円である。
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(注1) ここでは、想定シーンとして、冬、夕方18時、風速15m/s、と設定している。
(注2)地域面積に対する耐火建築物及び一定規模以上の道路・公園等の公共空地面積の占める割合。地区の耐火性能を測る指標となる。
(注3)各地区の滞留者のうち、帰宅までの距離が遠く、徒歩による帰宅が困難な人

 

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