第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

1 地震対策の推進

 近年、平成16年新潟県中越地震を始めとした被害の大きな地震が相次いで発生していること、東海、東南海・南海地震等の大規模地震発生の切迫性が高まっていること、さらには構造計算書偽装問題により、建築物の安全・安心に対する信頼が大きく揺らいでいる状況にあることも踏まえ、平成18年を「耐震元年」と位置付け、被害軽減の最も効果的な対策である建造物の耐震化を進めるなど、地震発生時に被害が発生・拡大しないための取組みを行う必要がある。

(住宅・建築物の耐震化等)
 地震発生時における死者数の軽減のため、今後10年間で住宅及び特定建築物(学校・病院・百貨店等)の耐震化率(平成15年現在75%)を9割に向上させることを目標に、耐震診断及び耐震改修を全国展開するとともに、緊急輸送道路の沿道にある建築物の耐震化を促進するなど、住宅・建築物の耐震化を緊急に推進する必要がある。

 
図表I-3-1-1 住宅の耐震化の目標

住宅の耐震化の状況は、現在、総戸数約4,700万戸のうち、耐震性がある戸数が約3,550万戸、耐震性がない戸数が約1,150万戸であり、耐震化率は約75%である。10年後には、総戸数約4,950万戸のうち、耐震性がある戸数を約4,450万戸に、耐震性がない戸数を約500万戸にし、耐震化率を9割に向上させることを目標としている。
Excel形式のファイルはこちら


 また、住宅・建築物の耐震化と合わせて、地震発生時における高層建築物のエレベーターの閉じ込め防止、高層建築物の窓ガラスや大規模施設の天井等の落下防止等についても対策を推進する必要がある。

(交通インフラの耐震性、多重性及び代替性の向上等)
 地震発生時における人的・物的被害の拡大、被災後の混乱の長期化を防ぐため、交通インフラの耐震性、多重性及び代替性を向上させるとともに、機能が停止した場合でもできるだけ早期に復旧できるような体制の整備が必要である。また、これらの対策を行う際には、地域内の交通インフラ間の役割分担を定め、圏域人口や他の交通インフラとの位置関係等を考慮するなど効率的な実施が重要である。

(緊急輸送道路等の確保)
 地震発生時における円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送にとって不可欠な緊急輸送道路を確保するとともに、新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の落橋等による甚大な二次被害を防止するため、橋梁の耐震補強3箇年プログラム(平成17年度〜19年度)に基づき、緊急輸送道路、新幹線の高架橋柱、新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の耐震補強を緊急に推進する必要がある。また、海上からの緊急輸送物資等の輸送を確保するため、臨海部防災拠点機能を強化する必要がある。
 さらに、被災地への緊急物資の輸送が確実かつ迅速に実施されるよう、関係行政機関や輸送事業者と連携して広域的な緊急輸送ネットワークを確保するための体制を整備する必要がある。

(密集市街地の重点整備)
 首都直下地震による死因の約6割が火災であるとの想定を踏まえ、大規模火災や延焼の可能性がある密集市街地における防災力の向上を図るため、幹線道路の沿道にある建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった防災環境軸等を重点整備するとともに、地震による火災の延焼危険性、避難困難性等を示した地震危険度マップ等の作成を推進する必要がある。

(その他の社会資本等の耐震化等)
 全国に約1,000箇所存在する危険な大規模盛土造成地の耐震化、地震発生時に避難地及び防災拠点等となる防災公園等の整備、下水処理場の耐震化等を推進する必要がある。
 また、地震に起因する土砂災害から生命・財産を守るため、土砂災害対策を重点的に実施する必要がある。

(帰宅困難者への情報提供)
 大規模地震を始めとする自然災害、事故、輸送障害等により公共交通機関、道路等の機能が低下した場合の帰宅困難者に対し、運行情報、代替輸送情報、復旧に向けた今後の見通し等の情報を適時・適切に提供することが必要である。

(孤立集落における対策)
 地震、土砂災害、大雪等により、交通網等が遮断され役場や病院等の重要施設が孤立するおそれのある地域では、災害時に人的被害の拡大や救助・救援活動の困難が懸念されるため、災害時にあっても最低限の安全度を確保でき壊滅的な被害を防げるよう、重要施設を保全する砂防施設、雪崩防止施設の整備等を行うとともに、避難・救援活動及び生活の維持に不可欠な道路等を確保することが重要である。

(実効性のあるBCPの策定)
 首都直下地震対策専門調査会報告によると、首都中枢機能を構成する各主体は、災害発生時の機能継続性を確保するための計画として事業継続計画(BCP)を策定すべきだとされている。
 事業継続計画(BCP):一般的に、ある事業体において、不測の事態が発生した場合に、できるだけ業務を中断することなく、通常業務に復帰できるように平常時から戦略的に準備をしておく計画。特に、不測の事態が発生した直後における業務レベルの低下をできるだけ少なくするとともに、平常時の業務レベルへの復旧期間の短縮を目的とする。
 国土交通省では、大規模地震を始めとする自然災害、事故、輸送障害等の発生時におけるBCPの策定を進める必要がある。また、基礎的なインフラである道路、港湾、空港等に関しては、どのように継続・復旧させるのかを検討するとともに、鉄道、建設業等の国土交通省関係民間企業のBCPの策定についても促進する必要がある。

(円滑かつ迅速な復興)
 大規模地震を始めとする大規模自然災害の発生時においては、インフラやライフラインの迅速な復旧や事業継続とともに、いかに円滑かつ迅速に復興を進めるかが大きな課題となる。復興は、防災の観点のみならず、まちづくり、インフラ整備、観光振興等様々な観点から、関連する多様な主体の緊密な連携の下、進めなければならないものであり、災害発生時に円滑かつ迅速な復興を図ることはもとより、平常時から検討を行っておくことが望まれる。また、自然災害による財産的損害を補償する地震保険等の損害保険を普及・活用することにより、災害が発生した場合の円滑かつ迅速な復興に資することが期待される。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む