第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

第6節 技術の開発や導入・活用の促進

 安全・安心な社会の実現に向けて取り組むべき課題を解決するには、政策による手段のみならず、科学技術による手段が重要である。例えば、津波被害を軽減するためには、政策による手段としての防護施設の整備、避難地の確保等とともに、科学技術による手段としての被害予測、津波観測の高度化等が考えられる。また、交通分野においては、ヒューマンエラー事故の防止のために、「予防安全型技術」の開発が求められるとともに、テロ対策、情報セキュリティ対策に関する技術開発を進めることも重要である。
 今後は、様々な要素技術をすりあわせ・統合、高度化し、国民の暮らしへ還元する科学技術(社会的技術)と、政策による手段との相互補完・連携により社会的な重要課題を解決し、“新たな社会基盤”の構築を目指すこととしている。

(重点的に取り組むべき研究開発)
 自然災害による被害の防止・軽減を図るため、地域防災力の向上及び早期復旧・想定外事象への適応を技術研究開発の焦点として重点的に取り組んでいく。
○自助・共助による災害被害の防止・軽減
  ・自然現象の高精度な観測・監視と精緻な予測
  ・局地的な被害予測
  ・迅速・確実な情報伝達システム
○国土・都市の機能喪失の防止
  ・被害状況の初期把握
  ・長周期地震動等の影響予測・対策
  ・地震時の鉄道脱線メカニズム解明
  ・海面上昇や巨大地震等による超過外力への対応
  ・既存の建築物等への安価で簡易な耐震・復旧工法
  ・建築物の安全性の検証
  ・大深度地下空間の有効活用

(通信基盤の高信頼化)
 自然災害による被害の軽減を図るためには、災害発生時における迅速な情報の収集・提供が極めて重要である。国土交通省では、光ファイバ、多重無線通信回線、衛星通信等の通信基盤を構成しており、過去の災害でも重要な役割を果たしてきた。情報通信技術の進展及び災害時における情報の重要性の高まりにかんがみ、最新技術の導入による通信基盤の耐災害性の強化、機能の強化が求められており、光ファイバと無線系をIP(インターネットプロトコル)で有機的に統合する次世代の情報通信基盤の構築が求められている。

(緊急地震速報について)
 緊急地震速報は、震源に近い観測点で得られた地震波を使って、震源の位置や地震の規模を求め、各地での主要動(大きな揺れ)の到達時刻や震度を推定し、主要動が到達する前に発表するものである。緊急地震速報については、1)主要動の到達に間に合わない場合があること、2)予測震度等の誤差があること、3)誤報(落雷等地震以外の原因で発信される緊急地震速報)のおそれがあることといった限界があるものの、その適正な利活用を行うことにより、地震や津波による被害の軽減に有効である。

(予防安全型技術の開発)
 交通機関の高度化、交通の高密度化等に伴い、今後ますます交通機関に関するヒューマン・マシン・システムの高度化・複雑化も加速していく中で、単に新しい高度技術システムを導入するだけでは、交通機関の事故の問題は解決しないことも考えられる。
 交通分野においては、鉄道における速度超過防止用ATS等の緊急整備等事故防止技術の導入を促進し、安全対策の強化に努めているが、高度技術システムの導入が、安全確保・向上に真に寄与するには、人間と機械が状況認識を共有し、人間が機械の意図や判断根拠を容易に理解でき、機械の能力限界をも理解できるようなヒューマン・マシン・インターフェイスを提供する必要がある。
 また、ヒューマン・マシン・システムにおいて、状況に応じて人間と機械の役割分担を調整することができる仕組み、すなわち、人間が最終決定権を持つことを基本としつつも、人間の対応が遅れている場合は、機械が自律的な安全確保手段を講じることもできるような仕組みの検討を進める必要がある。
 このような考え方を踏まえ、運転者側の潜在的危険状態(未だ危険は発生していないが、通常からは逸脱している状態)への移行を早期に検出し、通常状態への復帰を促進する技術、運転者の状況認識の強化(気づきの支援)を図る技術、運航(行)管理側からの状況把握・支援を可能とする技術等、ヒューマンエラー事故を防止する「予防安全型技術」の開発を行うことが求められている。

(ITSに関する技術開発・普及促進)
 高度道路交通システム(ITS)は、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築するものであり、道路交通の安全性向上にも寄与するものである。中でも走行支援道路システム(AHS)は、ITを活用して道路と車両を連携させて運転者の安全走行を支援するものであり、一層の研究開発が求められている。
 さらに、自動車単体の安全性向上の観点からも、国土交通省では、産・学・官の協力の下、エレクトロニクス技術等の新技術を活用し、高知能化を図ることにより安全性を格段に向上させた先進安全自動車(ASV)技術の開発・普及の促進を行っている。今後は、通信技術の活用により安全性を向上させたASVの実用化を推進するとともに、ASVの効果評価を踏まえた普及策の検討を進める必要がある。

(鉄道、航空、海運の安全に関する技術開発・導入)
 鉄道に関しては、運転士の誤操作に対するバックアップ設備の充実の観点から、曲線、線路終端部等重大な事故を起こすおそれのある箇所への速度制限装置の設置及び運転士の異常時に列車を自動的に停止させる装置の設置を行い、脱線等が発生した際の二次被害防止の観点から、防護無線の信頼性向上に努め、事故原因究明による再発防止の観点から、事故時の運転状況を把握するための記録装置の設置等を行い、安全性の向上を図る必要がある。
 航空に関しては、交通量の増大に適切に対応できるよう、人工衛星等の技術を活用して空域や航空路の容量を拡大する次世代航空保安システムの構築を図る必要がある。
 海運に関しては、衝突予防援助装置(ARPA)、船舶自動識別装置(AIS)等船員の作業を補佐・分担する技術の導入促進を図るとともに、操船作業の負担を評価し、作業を適正化するための作業分析技術等の研究を推進する必要がある。

(交通機関におけるテロ対策等強化のための技術開発)
 交通機関を標的としたテロ事件の危険性や、テロ事件に使用されるような危険物等が一般の貨物に紛れて運搬される危険性が指摘されており、このような事態の未然防止のため、危険物の検知能力を向上させる次世代検査技術の研究開発や、新技術を用いた保安検査機器の実用化等を進めていくことが求められている。

(重要インフラにおける情報セキュリティ対策)
 IT障害に伴い国民生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれのある鉄道・航空・物流といった重要インフラにおける情報セキュリティ対策として、分野横断的な対策強化、情報セキュリティ水準の向上、情報共有・提供体制の強化等に関係機関や関係事業者と連携しつつ取り組む必要がある。

 

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