第II部 国土交通行政の動向 

(3)治水対策

 我が国の都市の大部分は、洪水時の河川水位より低い土地により形成される沖積平野に位置しており、水害に対して脆弱な構造となっている。国土の約10%の想定氾濫区域(洪水が氾濫する可能性のある区域)には、人口の1/2、資産の3/4が集中しており、治水対策は国民の生命や財産を守るため極めて重要である。
 また、平成16年における観測史上最多の10個の台風の上陸や、17年における連続雨量1,000mmを超える降雨等に見られるような、気候変動等の影響による近年の集中豪雨の増加、施設能力を超える規模の大規模降雨等の自然的条件の変化、少子高齢化による災害時要援護者の増加、従来型コミュニティの衰退による地域の防災力の低下等の社会的な状況の変化に起因した新たな災害の様相も見られる。このような新たな課題に対応すべく、以下のようなハード整備とソフト対策を一体的に推進している。

 
図表II-6-1-5 地盤の大半が洪水時の水位より低い日本の都市

ロンドンの市街地はテムズ川の洪水時の水位よりも高いところに位置している。一方、例えば東京の市街地の多くは、江戸川、荒川、隅田川の洪水時の水位よりも低いところに位置している。日本の都市の大部分は洪水時の河川水位より低い位置にあり、水害を受けやすい地理的条件にある。

1)豪雨災害対策緊急アクションプランの実施
 平成16年を始めとする近年の豪雨災害の課題を踏まえ、緊急に対応すべき事項を同年12月に取りまとめた。各種施策について時限や数値目標を設けてその具現化を図っている。

 
図表II-6-1-6 豪雨災害対策緊急アクションプランの主な項目の実施状況

平成16年12月に豪雨災害対策緊急アクションプランを取りまとめた。被災経験の減少等により市町村の避難勧告の判断が遅れたことから、避難勧告の目安となる特別警戒水位を設定し、情報を提供することとし、17年度末までに約1,000河川、21年度までに約2,000河川で実施することとしている。また、中小河川は流下能力が十分把握されていないことから、全国で航空レーザー計測を行い各河川の安全度を調査・評価・公表することとし、17年度末までに航空レーザー計測を約2万平方キロメートル、19年度までにすべての一級水系河川に係わる約12万平方キロメートルで実施することとしている。さらに、施設能力を超える洪水により破ていが多数発生したことから、市街地等を流れる区間で堤防の質的強化を実施することとし、17年度末までに直轄河川で約6,000キロメートルの詳細点検、中小河川で約7,700キロメートルのカルテの作成、21年度までに直轄河川約10,000キロメートルで実施、中小河川はカルテを作成し、順次実施する予定である。加えて、集中豪雨等が増加傾向にあることから、早期に効果的に安全度を高めるため既存施設を徹底的に活用することとし、17年度末までに事前放流を直轄の延べ26ダムで試行、今後は直轄・水機構のすべてのダムで事前放流を検討している。

2)水害予防対策の推進
 全国で見れば洪水による氾濫(注)から守られる区域の割合は未だ59.1%(平成16年末)にとどまっており、引き続き計画的かつ重点的な治水対策が必要である。
 また、災害後に事後対策を講じるよりも、事前に災害を防ぐための投資を着実に推進することが、より効率的・効果的である。例えば、平成12年9月に名古屋市を中心に発生した東海豪雨水害を受け、約716億円を投じて緊急対策を実施したが、この投資をもし事前に実施していれば、被害額を約5,500億円軽減することが可能であったと推定されている。

 
図表II-6-1-7 事前投資による被害軽減効果(平成12年東海豪雨)

平成12年9月に名古屋市を中心に発生した東海豪雨水害を受け、約716億円を投じて緊急対策を実施したが、この投資をもし事前に実施していれば、約6,700億円の被害額を約5,500億円軽減することが可能であったと推定されている。

3)洪水氾濫が発生した場合における氾濫域での減災対策
 これまでの治水対策は、一定の外力を想定し、河川や洪水調節施設等の整備によって、洪水から国民の生命と財産を守ることを目指しており、整備計画を超える洪水が発生した場合は、計画規模を高めて施設整備を行うのが一般的であった。
 こうした手法は今後とも重要であるが、施設整備には時間がかかり、また、防災施設の整備途上で災害が発生するという状況が常にあることを再認識し、氾濫流の制御や警戒避難体制の確立等、洪水氾濫が発生した場合でも被害を最小限にするための施策を充実していく必要がある。
 このため、洪水氾濫が発生した場合における氾濫域での減災対策について、「大規模降雨災害対策検討会」の提言を踏まえ、地域づくりや住まい方、個々人の対応等の観点も含めた対策を実施している。

4)大規模水害の再発防止対策
 水害により大きな被害を受けた地域を対象として、同規模の災害を再び発生させないための対策を短期間かつ集中的に実施している。

 
図表II-6-1-8 大規模水害の再発防止対策

河川激甚災害対策特別緊急事業は、洪水等により非常に激しい災害(浸水家屋数2,000戸以上、または流失(全壊)家屋数50戸以上)が発生した地域について、おおむね5箇年をめどに河川整備を緊急的に実施する事業であり、平成17年度は、直轄3箇所、補助9箇所、合計12箇所で実施した。床上浸水対策特別緊急事業は、床上浸水が頻発している地域で、特に必要と認められる河川(おおむね10年間で延べ床上浸水家屋数が50戸以上、延べ浸水家屋数が200戸以上、かつ床上浸水回数が2回以上)について、おおむね5箇年をめどに河川整備を緊急的に実施する事業であり、17年度は、直轄15箇所、補助29箇所、合計44箇所で実施した。河川災害復旧等関連緊急事業は、川の上流における災害後の集中的な河川整備の結果生じる下流部での流量増加に対応するために、当該下流区域で、おおむね4年間で集中的に河川整備を行う事業であり、17年度は、直轄4箇所、補助4箇所、合計8箇所で実施した。
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5)水系全体で取り組む効果的な治水対策
 増加する水害・土砂災害に対して限られた予算の中で効率的・効果的に対策を行うためには、水害・土砂災害の対策、国の事業と地方の事業、ハードとソフトを水系全体で推進する必要がある。このため、水系ごとに国と地方が事業内容や進度の調整等を行う「総合流域防災協議会」の設置、水系を単位に包括的に事業を実施する総合流域防災事業を平成17年度より開始している。

6)河川の安全度や防災施設の整備状況の調査・評価・公表
 中小河川の多くは事業実施区間の流下能力の把握のみで水系全体の安全度が十分に把握されていない。このため、航空レーザー計測で河道断面等を把握することにより流下能力を算定し、平成19年春をめどに全国の中小河川の安全度(整備状況)を評価・公表することとしている。


(注)当面の計画として、大河川においては30〜40年に一度程度、中小河川においては5〜10年に一度程度の規模の降雨により発生する氾濫被害

 

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