2 住宅に関する現状と課題
前項では、意識調査等をとおして、人が「住まう」に関してどのようなことを感じているかをみたが、本項では、その「住まう」の器となる住宅の現況をみる。
(1)住宅のストックと性能(→
第2章第1節1、
第2節1、
第4節)
(住宅のストック量)
住宅ストックについては、日本全体でみると、2003年時点で、総世帯数約4,700万世帯に対して住宅ストック数は約5,400万戸となっている。住宅のストック数は、1960年代後半以降、常に世帯数を上回っており
(注1)、量的には充足しているといえる。住宅の広さについては、全体の戸あたり床面積は95m
2 であり、欧州水準並みであるが
(注2)、所有関係別にみると持家124m
2 、借家46m
2 となっており、特に借家において規模が小さい。
図表I-1-1-8 住宅の広さの国際比較
(住宅の性能)
住宅の性能に関しては、まず、耐震性については、新耐震基準を満たしていないなど耐震性不十分の戸数は既存のストックの4分の1を占めている。バリアフリーについては、2箇所以上の手すりの設置、屋内の段差解消及び車椅子で通行可能な廊下幅の確保の全てに該当する高度なバリアフリー化がなされた住宅は5.4%と低く、とりわけ、借家で2.6%と低くなっている。また、省エネルギー対応は、新築住宅の建設では少しずつ進んでいる。
また、老朽化が進んだものについては、改修や建替えを検討するなど再生に向けた取組みが必要である。特に分譲マンションでは、築30年以上の物件は、2008年末で73万戸あり、2011年末には100万戸を超え、さらに2020年末には200万戸を超えるなど、今後急速に増えることが見込まれている。老朽化したストックの増大の中でスラム化を防ぐため、マンション再生のための合意形成等が問題となることがある。
図表I-1-1-9 住宅の性能(耐震性、バリアフリー、省エネルギー対応)
(2)住宅の確保(→
第2章第2節1、
第4節)
(住宅の確保とかかる費用)
勤労者世帯全体の家計をみると、住居費(家賃やローン返済額等)は、近年ほぼ横ばいである。他方、実収入は平成9年以降減少傾向にあるため、住居費支出割合(実収入に占める住居費の割合)は増加傾向であったが、平成15年から20年にかけては実収入が横ばいとなり、住居費支出割合は約10%でおおむね横ばいとなっている。これを、住宅を購入したり、民間アパート等を借りたりしている人についてみると、持ち家世帯(ローンを支払っている世帯に限る)は約18%、民営借家世帯は約15%となり、家計に占める住宅費の負担は高くなっている。
図表I-1-1-10 住居費支出割合の推移
住宅取得にかかる費用を、住宅取得者が多く、また地価水準が高い首都圏についてみると、昭和62年以降平成2年にかけて大幅に上昇した後、下落・横ばい状態が続いた。しかし、近年は地価や資材価格等の高騰に伴い住宅価格は上昇し、平成19年における住宅価格の年収に対する倍率(年収倍率)は、マンション、一戸建てともに約6倍となっている。また、購入後の住宅ローンの返済状況についてみると、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)における延滞債権等のリスク管理債権額がやや増加傾向にある。
図表I-1-1-11 住宅の取得にかかる費用の推移
図表I-1-1-12 住宅金融支援機構のリスク管理債権額の状況
(長期にわたって使える住宅)
このような費用を投じて確保した住宅がどれだけの期間使われているかをみると、滅失した住宅の平均築後年数は約30年であり、アメリカ等と比較して短くなっている(注3)。高い費用をかけて取得した住宅が利用される期間が短いということは、住む人にとって1年あたりの建築費相当の負担が大きくなり、かつ解体のコストも余計にかかることになり、それだけ住居費の負担が重くなることを意味している。このような負担を軽くするためにも、住宅を長寿命化し、長期にわたって使えるストック型社会へ転換することが求められる。
図表I-1-1-13 滅失住宅の平均築後年数の国際比較
図表I-1-1-14 住宅の長寿命化による住居費負担の軽減効果
住宅市場の側からみると、取引はほとんどが新築住宅となっている。また、世帯類型別に住宅ストックの分布をみると、65歳以上の単身及び夫婦の持家世帯の54%が100m2 以上の広い住宅に住む一方で、4人以上家族の29%がそれ未満であるなど、既存の住宅ストックと取得ニーズにミスマッチがみられる。
こうしたことの背景に、既存住宅の流通などストックの活用が未成熟なことがあり、それが結果として住宅取得における選択肢を狭めている。今後、既存住宅の市場価値が適切に評価され、流通をスムーズにすることによって、人々のニーズに合った手に入りやすい既存住宅が豊富に提供されることが必要であろう。
図表I-1-1-15 住宅市場の国際比較
図表I-1-1-16 世帯類型別の住宅の床面積
(住宅確保の困難性)
また、様々な理由で、住宅の確保が困難な状況におかれている人もいる。
住宅に困窮する低額所得者に対しては、公営住宅が供給されているが、応募倍率は、東京都34.3倍、大阪府14.3倍、全国平均9.6倍など大都市部を中心に高い水準にあり、この10年間では増加傾向にある。
図表I-1-1-17 公営住宅の応募状況の推移
図表I-1-1-18 公営住宅の管理戸数と募集戸数
特に、昨今の厳しい経済状況により、雇用不安に伴う住居の確保も新たな問題となっており、雇用政策と連携した対応が求められる。
他方で、民間賃貸住宅では、家賃滞納への不安などから高齢者等に対する入居制限が行われている場合がある。全体の約16%の家主が入居を制限しており、「単身の高齢者」(8.4%)、「高齢者のみの世帯」(7.1%)、「外国人」(11.6%)などとなっている。
「住まう」場所を確保することは人の暮らしの基礎であり、不安定な立場におかれた人に対するセーフティネットの観点からの対応も必要となる。
図表I-1-1-19 民間賃貸住宅における入居制限
(注1)総務省「住宅・土地統計調査」(平成15年)による。
(注2)庭を含む敷地面積では、国土構造や人口が違うため単純な比較はできないが、戸建・長屋建住宅の平均敷地面積が日本の272m2 (平成15年、住宅・土地統計調査)に対し、米国は1,400m2 以上(2005年、US Census Bureau, Current Housing Reports)あり、フランスでは戸建住宅の庭(建物部分の面積を含まない)の平均面積が600m2 (2006年、INSEE(国立統計経済研究所)調べ)ある。
(注3)日本人が住宅建築を粗略にし、建ててはすぐ壊してしまうさまは、明治のはじめに書かれた次の文章にも表れている。「・・・欧洲ノ民ハ一タヒ家ヲ建レハ、世ヲ嗣キテ之ヲ修繕シ、益其美ヲナス、・・・我日本ハ・・・之ヲ建ルニ鋭ニシテ、其工ヲ省キ、已ニ成レハ、又毀ツテ改立ス、是ヲ以テ進歩改良ノコト少シ、・・・」
(出典)久米邦武編『特命全権大使 米欧回覧実記』第二十五巻 倫敦府ノ記下