第2節 「社会で活動する」 

2 「社会で活動する」に関する現状と課題

 前項では、意識調査等をとおして、様々な「活動」に関して人がどのようなことを感じているかをみたが、本項では、その活動を支える社会の現状をみる。

(1)“用事を済ます”を支えるもの(→第2章第2節2第3節12第5節1
 まちが持ついろいろな機能が、「用事を済ます」ことを支えている。利便性が強く求められている一方で、現実のまちでは中心市街地の衰退など機能の低下が指摘されており、このことについてみる。また、見えないところで生活を支える物流についても考える。

1)日々の活動を支えるまちの抱える問題
(まちの中心部の衰退)
 人は、日々いろいろな用事をまちの中で済ませている。5割近い人が週に1回程度以上はまちの中心部へ行っており(注1)、まちの中心部は生活活動の拠点としての役割を果たしてきた。しかし、公共機能や商業機能等の中心市街地から郊外への移転が進んでいる。
 公共機能については、市役所の約3割、公立病院の約7割が郊外部に立地している。商業機能をみると、特に人口20万人未満の市では、約4割が、中心市街地から郊外への移転が「大変進んでいる」としている。住宅に関しても、主に郊外部への立地が進んでいることがうかがえる。利用者からみても、中心市街地の「店の数」は減っていると感じられており、さらに、「にぎわい・活気」や「魅力」も減少している。
 
図表I-1-2-12 公共機能の立地状況

図表I-1-2-12 公共機能の立地状況
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図表I-1-2-13 商業機能の中心市街地から郊外への移転

図表I-1-2-13 商業機能の中心市街地から郊外への移転
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図表I-1-2-14 住宅の立地状況

図表I-1-2-14 住宅の立地状況
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図表I-1-2-15 中心市街地の状況変化

図表I-1-2-15 中心市街地の状況変化
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 また、商店街の規模別に景況感をみると、普段の買い物を済ますような近隣型・地域型商店街の衰退が著しい。かつては「大規模店舗に客足が取られている」ことが原因と言われていたが、現在では商店街自身からみても、「魅力ある店舗が少ない」という段階になっている(注2)
 
図表I-1-2-16 商店街の規模別景況感

図表I-1-2-16 商店街の規模別景況感
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 このように、日常の生活を支えてきた場の弱体化が懸念される。意識調査でもみたように、“身近なところ”で“一度に用事を済ませたい”というニーズは強い。中心市街地や商店街を活性化させるためには、商店自体の魅力を高め、商業や公共公益の機能を利用者に便利なように集積し、同時に居住空間や交通アクセスの充実を図ることが望まれる。

(地方部における利便性)
 他方で、過疎地域の町村では、日常の買い物についても、家から離れた郊外の大型店を選ぶ人が一番多くなるなど、そもそも近くに生活の拠点となるような場が少ないことがうかがえる。
 他のサービスについても、例えば、いざという時に欠かせない高度医療サービスへの到達を考えると、都市部から離れたところを中心に30分や60分以内に到達できない地域がある。選択の機会から遠く離れている人の存在も考慮することが必要である。
 
図表I-1-2-17 日常の買い物をおこなう場所

図表I-1-2-17 日常の買い物をおこなう場所
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2)日々の活動を支える見えない物流
(物流は縁の下の力持ち)
 私たちの生活を支える生活物資のありとあらゆるものは、国内外からを問わず運ばれてきている。いつでもコンビニエンスストアやスーパーなどには様々な産地からの多様な商品が並んでおり、また、最近ではインターネットで商品を購入し自宅で受け取ることが普及するなど、ますます便利になっている。
 このように、私たちの生活と活動は物流(注3)によって支えられている。もし物流の機能がストップしてしまうと、生活に必要な物が生産者から私たち消費者のもとにスムーズに流れなくなってしまい、極端な場合には、生活が成り立たなくなってしまう。

(重要性が認識されていない状況)
 このような重要性にもかかわらず、日常生活の中で目にすることが少ないことや、物流が現実に止まってしまうことも起きていないことなどから、モノを消費する際、それがどのような手段・どのような過程を経て自分の手元にあるかといった物流の機能を意識し、内容を知っている人は少ない。実際、意識調査では、70.4%の人は、「内容までは詳しく知らない」又は「認識していない」と回答している。年齢別でみると、高齢になるにつれ、物流について「認識しているし、内容まで知っている」と回答した人の割合が高くなっている。
 
図表I-1-2-18 物流に関する認識

図表I-1-2-18 物流に関する認識
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 そして、物流の果たす役割については、78.0%の人が「衣食住など私たちの暮らしを支えている面」を重要だと考え、また、60.7%の人が「企業活動や経済を支えている面」を重要であると回答している。他方、「安全・安心を支えている面」(33.7%)や「環境への負荷を減らしうる面」(22.9%)については、重要だと認識していると回答した人の割合が低くなっている。
 
図表I-1-2-19 物流の果たす役割

図表I-1-2-19 物流の果たす役割
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(効率化・迅速化されてきた物流)
 企業側における経営効率化の取組みの一環として、また、物流に携わる事業者の創意工夫と努力により、物流コストの低減が進んできている。
 また、私たちが消費する物の流れは、以前に比べて、より効率化・迅速化されてきている。例えば、我が国の港湾において船舶入港から貨物引取りが可能となるまでの時間は、約2.1日にまで短縮している。
 
図表I-1-2-20 入港から貨物引取可能までの時間の推移

図表I-1-2-20 入港から貨物引取可能までの時間の推移
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 さらに、宅配便における速達サービスの導入などにより、例えば東京から福岡へは、平成12年では平均32時間かかっていたのが、平成17年では平均20.5時間に短縮している。
 
図表I-1-2-21 東京都から主要道府県への物流時間の推移(件数ベース)

図表I-1-2-21 東京都から主要道府県への物流時間の推移(件数ベース)
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(効率化と併せての物流セキュリティの確保と環境負荷の低減)
 テロに対する懸念の増大や安全・安心意識の高まりなどを背景として、物流セキュリティの確保が要請されており、効率性追求の中で併せてセキュリティの確保を図ることが重要なポイントとなる。また、京都議定書の下でCO2の排出削減目標の確実な達成が求められるなど、国民や企業、消費者の間で地球環境問題に対する関心が高まっている中で、物流についても、効率化と併せて様々な関係者が連携してこれらの問題に適切に対応することが求められる。

(グローバルな繋がりの中での物流)
 経済のグローバル化が進展し、企業の調達・生産・販売活動が国境を越えて広く展開している。特に、中国を始めとした東アジア地域は、平成20年の貿易額内訳において全体の44.7%を占めており、東アジア地域市場は準国内化していると言える。
 
図表I-1-2-22 2008年の貿易額内訳

図表I-1-2-22 2008年の貿易額内訳
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 こうした動きはますます拡大し、今後相互依存関係が一層深まるとともに、国際物流の重要性がさらに高まることが想定される。
 グローバルな繋がりの中での物流を確保することは、我が国の産業活動を支え、日常生活においても豊かな生活を実現するために必要不可欠であり、引き続き物流機能の強化に向けた取組みを進めることが重要である。

(2)“働く”を支えるもの(→第2章第3節12第4節第5節12
 「働く」ことに関しては、雇用問題、マクロ経済問題、また、最近ではワーク・ライフ・バランスの重視など、いろいろな面からの課題があるが、ここでは意識調査で不満の大きかった、雇用の機会と、働く時間と自分や家族に対する時間の2つについてみる。

1)雇用の機会
(雇用機会の現状)
 雇用者数は、全体としてはこの20年以上増加傾向にある。しかし、これは非正規雇用者数の伸びによるものであり、正規雇用者数は近年減少傾向にあり、雇用者の立場は不安定化している。
 
図表I-1-2-23 正規雇用者と非正規雇用者の推移

図表I-1-2-23 正規雇用者と非正規雇用者の推移
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 意識調査によれば、特に地方部において、そもそも就業機会が少ないこと、さらに希望にそった仕事・職場につくための選択肢が少ないことが、大きな課題であった。有効求人倍率をみると、最近の経済情勢の悪化により、全国的に低下傾向にあるが、北海道、東北、四国、九州等で特に低い状況が続いている。また、産業別の就業者構成比をみると、これらの地域では、第一次産業の比率が比較的高く、第二次産業の比率が比較的低くなっている。
 
図表I-1-2-24 地域ブロック別の有効求人倍率の推移

図表I-1-2-24 地域ブロック別の有効求人倍率の推移
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図表I-1-2-25 地域ブロック別の産業別就業者構成比

図表I-1-2-25 地域ブロック別の産業別就業者構成比
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 ただし、単に“地方部=雇用が少ない”といった単色でみることはできない。市町村別の工場立地件数をみると、大都市やその周辺だけではなく、地方部でも工場の立地が進んでいるところがみられる。企業の立地と地域の諸条件は密接に関係しており、交通アクセスの良否などにより立地は左右される。また、第三次産業として観光産業を活性化させることにより、雇用を期待している地域もある。雇用を巡る厳しい現状とともに、地方部がおかれた状況にも濃淡があることに注意する必要がある。
 
図表I-1-2-26 企業の立地状況

図表I-1-2-26 企業の立地状況

(地域の活力と雇用機会の確保を支える基盤)
 立地関連投資を計画する企業が、立地を選定するにあたって考慮する条件としては、「交通アクセスの容易さ」が最も重要視されており、次いで「周辺の居住環境」となっている。
 実際に、新規に立地する工場の8割以上が高速道路のICから10km以内に立地しており、交通アクセスの容易さの重要性がうかがえる。このほか、港湾等の整備による雇用・所得創出事例もある(第II部第3章第2節コラムを参照)。
 
図表I-1-2-27 企業の立地要因

図表I-1-2-27 企業の立地要因
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図表I-1-2-28 高速道路ICからの距離別立地件数

図表I-1-2-28 高速道路ICからの距離別立地件数
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 また、詳細は後述するが、特に地方部にとっては豊かな自然や伝統文化等を生かした観光も、雇用の場として重要な役割を果たしている。例えば、北海道のニセコでは、パウダースノーを求めて外国からの観光客が急増する中、滞在型観光の促進や景観ポイントの整備や観光交通の充実など官民一体の取組みがなされてきている。観光を土台として、地域が活性化されたり、雇用機会が確保・創出されたりしてきている。
 
図表I-1-2-29 ニセコ町・倶知安町におけるオーストラリア人宿泊延数の推移

図表I-1-2-29 ニセコ町・倶知安町におけるオーストラリア人宿泊延数の推移
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図表I-1-2-30 ニセコ・羊蹄地域における観光による経済波及効果

図表I-1-2-30 ニセコ・羊蹄地域における観光による経済波及効果

 このように、暮らしの基礎に関わる雇用について、国土交通行政は、雇用機会の確保・創出のための環境整備に大きく関わっている。厳しい経済情勢下にある地域が活力を取り戻し、さらに将来に向けた成長の基礎をつくるため、こうした取組みを通じて暮らしを支えていくことが重要である。

2)働く時間と自分や家族に対する時間
 意識調査では、仕事に対して自分や家族の時間を優先させたいと多くの人が考える一方で、仕事のためにその時間が不十分と答える人も多かった。年間の総労働時間は約2,000時間(注4)であり、他の先進国と比べれば長い(注5)。また、不十分と答えた人の3分の1は、「通勤時間がかかる」ことも不満としている。例えば、東京近郊では、約4割の人が片道1時間以上を通勤に費やしている(注6)
 家族と過ごす時間との関係をみると、1日当たりの労働時間・通勤時間が長いほど家族と過ごす時間は少なくなっている。
 
図表I-1-2-31 労働時間及び通勤時間の合計別家族と過ごす時間

図表I-1-2-31 労働時間及び通勤時間の合計別家族と過ごす時間
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 職住の乖離は、長年の人口変動の上にある国土の構造的な問題でもあるが、近年ではその改善の動きもみられる。職住乖離の対応策として、テレワークなども考えられているが、テレワーカー(注7)の就業者人口に占める割合は、2005年時点で10.4%と推計されている(注8)。テレワーク実施上の問題や課題としては、労働時間管理の問題に加え、情報セキュリティ確保の問題もある。ワーク・ライフ・バランスのとれた生活実現を図るため、今後、ICT環境や実施制度の整備が必要である。
 
図表I-1-2-32 東京圏における人口の増減

図表I-1-2-32 東京圏における人口の増減

 
図表I-1-2-33 テレワークに関する課題

図表I-1-2-33 テレワークに関する課題
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(3)“余暇を愉しむ”を支えるもの
 今後の生活において特に力を入れたいと思うものとして、「レジャー・余暇生活」が最も高い割合となっている。ただし、その数値は減少傾向にある。参加した余暇活動を種類別にみると、「国内観光旅行」が5割を超えており、「ドライブ」、「動物園等」が続く。また、潜在需要では、国内外の旅行が上位となっている。
 このように、人は「余暇を愉しむ」ことを重視したいと考えており、観光旅行が注目されている。しかし、休暇の取得といった従来からの問題や、余暇を愉しむ環境の地域偏在、厳しい経済社会情勢といった最近のマイナス要因がある。以下、余暇を取り巻く環境、観光に関する動向などをみる。
 
図表I-1-2-34 今後の生活の力点

図表I-1-2-34 今後の生活の力点
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図表I-1-2-35 余暇活動の参加率と潜在需要(上位5種目)

図表I-1-2-35 余暇活動の参加率と潜在需要(上位5種目)
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1)余暇を取り巻く環境(→第2章第3節1第4節第5節12
 意識調査でみたとおり、余暇を愉しむことに関して、経済的・時間的余裕がないことが大きな不満となっている。また、自宅近くや気軽に出かけられる範囲に余暇を過ごすのに適する場所や施設、環境が整っていないことについても、特に地方部で高くなっている。

(経済的・時間的余裕のなさ)
 日常的な余暇活動への支出をみると、コンサート等や自己啓発、スポーツ活動に関しては、平成19年までは人々は増やすとの意向を持っていたが、20年に入っていずれも減らす方向に急落した。レストラン等外食や遊園地等娯楽は、もともと減らす意向であったものが、最近その傾向はより強くなっている。
 
図表I-1-2-36 日常的な余暇活動への支出意向の推移

図表I-1-2-36 日常的な余暇活動への支出意向の推移
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 時間に関しては、人々は、暮らし向きが悪くなると感じるのにあわせてレジャーにかける時間を減らす傾向がある。余暇活動へのゆとりが低下していることがうかがえる。
 休暇については、ハッピーマンデー制度のような取組みがある一方で、年次有給休暇の取得率は減少傾向にあり、休暇の取得が進んでいない状況にある。
 
図表I-1-2-37 暮らし向きとレジャーにかける時間

図表I-1-2-37 暮らし向きとレジャーにかける時間
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図表I-1-2-38 労働者の年次有給休暇の推移

図表I-1-2-38 労働者の年次有給休暇の推移
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(余暇活動を愉しむ場所や機会)
 余暇を愉しむ場所としてレジャー施設(注9)をみると、施設数は東京都が圧倒的に多いが、1万人当たりの数は、それほど大きな差とはならない。意識調査では、特に地方部で、自宅の近く等に余暇に適する場所がないという結果があったが、これは、都市部ほど、人口が密集していることによりレジャー施設数が多くなる、さらに、多くなることによって差別化・多様化が進む、ことで魅力が高まっていると推測される。
 コンサートなど舞台芸術・芸術公演の開催をみると、大都市部において開催件数が多くなっているが、これは人口が多いことが開催件数の多さとなり、それが機会の多さとなっている。さらに、通常は採算に乗りにくい「マイナー」な文化・娯楽サービスも、人口が多ければ成立しやすいということも、選択肢を多くしていると考えられる(注10)
 こうした事情から、地域により余暇を愉しむ機会に差が生じていることがうかがえる(注11)。身近な地域の魅力を高めるほか、地方部の情報通信基盤整備を促進する、交通の便を良くするといったことが必要であると考えられる。
 
図表I-1-2-39 レジャー施設数と1万人当たりレジャー施設数

図表I-1-2-39 レジャー施設数と1万人当たりレジャー施設数
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図表I-1-2-40 舞台芸術・芸術公演実施件数

図表I-1-2-40 舞台芸術・芸術公演実施件数
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2)観光旅行(→第2章第5節2
(観光旅行に対する潜在需要)
 前述のとおり、余暇活動に対する潜在需要の中では、旅行は国内外問わず上位であった。また、(社)日本観光協会の「第26回国民の観光に関する動向調査」では、旅行に対する好みについて73.4%は「旅行は好きな方」と回答、さらに今後1年間に国内の宿泊観光旅行をしたいと回答した人の割合も78.6%と高く、余暇活動の中での観光旅行に対する需要は極めて高いと言える。

(宿泊観光旅行に行けなかった理由)
 宿泊観光旅行を実施しなかった理由についてみると、「時間的余裕がない」(43.3%)が圧倒的に多く、次いで「経済的な余裕がない」(24.1%)、「なんとなくしないまま過ぎた」(19.4%)となっている。
 
図表I-1-2-41 宿泊観光旅行を実施しなかった理由(上位5位)

図表I-1-2-41 宿泊観光旅行を実施しなかった理由(上位5位)
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 また、内閣府の「観光立国と観光庁に関する特別世論調査」では、国内旅行に行きたいと思うようになるための条件として、経済的事項(「宿泊料や入場料などが安いこと」(59.6%)、「移動手段が安いこと」(47.7%))や時間的事項(「家族と一緒に休みが取れること」(39.7%)、「連続して休めること」(38.4%))に関する回答が上位に挙げられた。こうしたことからも、旅行への潜在需要は高いものの、現実問題として、経済的・時間的余裕のなさがネックとなっていることがうかがわれる。
 
図表I-1-2-42 国内旅行に行きたいと思うようになるための条件

図表I-1-2-42 国内旅行に行きたいと思うようになるための条件
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(人々が「観光」に期待すること)
 意識調査では、観光に期待する効果として、65.1%の人が「健康でゆとりのある生活の実現に役立つこと」を、次いで32.5%の人が「住民が誇りや愛着を持つことができるような活力ある地域づくりにつながること」を、23.7%の人が「国際相互理解を通じた国際平和の実現に役立つこと」を、また23.6%の人が「観光産業が新たな就業機会を提供すること」をそれぞれ挙げている。
 
図表I-1-2-43 「観光」に期待する効果

図表I-1-2-43 「観光」に期待する効果
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 また、過疎地域では「住民が誇りや愛着を持つことができるような活力ある地域づくりにつながること」が40.8%、「観光産業が新たな就業機会を提供すること」も37.1%と非過疎地域に比べ高くなっている。まちの機能維持や雇用の厳しい現状を背景に、観光へのこうした期待が相対的に高くなっているものと思われる。年齢別では、高齢になるほど「健康でゆとりのある生活の実現に役立つこと」を期待していることがわかる。
 
図表I-1-2-44 「観光」に期待する効果(過疎・非過疎別)

図表I-1-2-44 「観光」に期待する効果(過疎・非過疎別)
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図表I-1-2-45 「観光」に期待する効果(年齢別)

図表I-1-2-45 「観光」に期待する効果(年齢別)
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(健康でゆとりのある生活を実現する上で観光が果たす役割)
 観光が果たす役割のうち、人々が最も期待する「健康でゆとりのある生活の実現に役立つこと」とは、例えば、日常生活から一歩離れたところで休息を取ったり、様々な出会いや交流ができたり、知識や見聞を深めたり、あるいは共に旅行する者との親交を深めたりすることで得られる効果である。意識調査で、どのようなところに観光旅行したいかについて聞いてみたところ、1位は「温泉・海水浴場・遊園地・スキー場などの保養地やレジャー施設」(57.9%)、2位は「山・川・海や動植物などの自然のあるところ」(51.8%)、3位は「優れた景色・景観」(50.0%)となった。なお、1位の保養地等を挙げた人の割合は、過疎地域・非過疎地域において差はなかったが、2位と3位の自然・景観関係を挙げた人の割合については、過疎地域の方が非過疎地域よりも1、2割程度低くなっている(注12)
 
図表I-1-2-46 旅行に行きたい場所

図表I-1-2-46 旅行に行きたい場所
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(観光を通じた、地域住民が誇りや愛着を持つことができるような活力ある地域社会の持続可能な発展)
 次いで観光が果たす役割として人々が期待する「住民が誇りや愛着を持つことができるような活力ある地域づくりにつながること」について、意識調査では、自分の住む地域を「誇りに感じている」又は「どちらかといえば誇りに感じている」と回答した人の割合は27.5%であり、そのうち87.8%は、その地域に「観光客を呼び込むような魅力」(以下、「観光資源」という。)があると回答している。また、逆に自分の住む地域に観光資源があると回答した人の割合は58.6%であり、そのうち41.1%は、その地域を誇りに感じている。
 こうしたことから、地域における観光資源の有無と地域に対する誇りや愛着の有無とが大きく関連していることがうかがえる。
 
図表I-1-2-47 観光資源と地域に対する誇りの有無

図表I-1-2-47 観光資源と地域に対する誇りの有無
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 観光資源はどの地域にもあるわけではないが、観光資源たりうる魅力を見出せる地域では、それを掘り起こしていくことで住民自身が誇りや愛着を持てるようなまちにしていくことが期待できる。いずれにしても、自分の地域に関する理解を深めることは重要である。
 なお、最近では、観光文化検定試験などを導入する自治体が増えてきているが、同試験は、その地域に関する理解を深めることを通じて誇りを醸成していくのに有効な手段の1つである。
 また、例えば農林漁業・手作り工業・座禅といった「体験型観光メニュー」に魅力を感じる人も12.5%いるが、それが自分の住む地域の観光資源と考える人は3.7%にとどまっている。こうした新たな観光資源の発掘も、地域に関する深い理解があってこそである。そうした意味でも、まずは自分の住む地域のことをよく理解する必要がある。
(観光産業による就業機会の増加等)
 旅行消費がもたらす直接の雇用誘発効果は全雇用者の3.3%にあたる211万人と推計される。今後本格的な少子高齢化の時代を迎え、定住人口が減少していく中、平成19年度の旅行消費額が23.5兆円と推計される旅行市場を取り込み、地域の経済社会を支えていくことは、観光に伴う交流人口の拡大等と相俟って、地域の発展に正の循環を作っていく糸口となるものである。
 
図表I-1-2-48 旅行消費の経済波及効果(平成19年度)

図表I-1-2-48 旅行消費の経済波及効果(平成19年度)
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(国際相互理解の増進とこれを通じた国際平和のために果たす役割)
 国際観光を通じて、外国人が日本について見聞や見識を深めたり、日本人が外国について見聞や見識を深めたりすることは、国民の草の根レベルも含めた国際交流を深め、国際相互理解を促進することになる。

(観光庁に期待する施策)
 平成20年10月に国土交通省の外局として観光庁が発足したところであるが、内閣府の「観光立国と観光庁に関する特別世論調査」では、観光立国の実現に向けて特に重要だと思う施策として、「魅力ある観光地づくり」が58.6%で1位に、次いで「観光をしやすい環境の整備」(46.5%)、「観光に関する人材の育成」(34.4%)などが挙げられている。
 今後とも、こうしたニーズに対応し、人々のゆとりある生活を実現するためにも、引き続き国を挙げて観光立国の実現を目指していくことが重要である。
 
図表I-1-2-49 観光立国の実現に向けて特に重要だと思う観光庁の施策

図表I-1-2-49 観光立国の実現に向けて特に重要だと思う観光庁の施策
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3)まちづくりなど地域活動(→第2章第3節1
(地域活動への参加)
 居住者による様々な地域の活動は、地域社会を支える手段として今後重要度が増すと考えられるが、現状では「参加したい」と答える人は約3割と高くない。「自分のことだけで精一杯」、「時間に余裕がない」、「経済的な余裕がない」など、地域活動にまで手が回らない状況がうかがえる。
 
図表I-1-2-50 地域活動への参加意欲

図表I-1-2-50 地域活動への参加意欲
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 しかし、高齢者についてみれば、参加意欲は少し高くなり4割を超える。先に見たように、余暇の過ごし方に関する高齢者の活動は、行動範囲は狭くなる傾向があるが、自宅にこもろうとする訳ではない。高齢化には、活力の低下や新たなサポートが必要となる面がある一方で、高齢者の自由時間の総和が増えるという面もある。高齢者自身も、社会の支え手・担い手の側にまわる意欲は強い(注13)。地域活動は、高齢者自身にとって交流の機会となるのみならず、“新たな公”(注14)として地域の担い手としての期待も高い。高齢者の意欲を、身近なまちづくりや福祉などに活かしていくことが考えられる。
 
図表I-1-2-51 地域活動への意識

図表I-1-2-51 地域活動への意識
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(注1)内閣府「小売店舗等に関する世論調査」(平成17年調査)
(注2)中小企業庁「商店街実態調査」(平成18年度)によれば、商店街が抱える問題として、平成7年度は、「大規模店舗に客足が取られている」が最も回答が多く、「後継者難」、「大規模店出店ラッシュに押され気味」が続くが、平成18年度は、「魅力ある店舗が少ない」が最も多く、「商店街活動への商業者の参加意識が薄い」、「経営者の高齢化等による後継者難」が続いている。
(注3)「物流」は、日本では約23兆円の事業規模を有し、日本経済の中でも非常に大きな産業である。物流には、調達→生産→流通→使用・消費という流れで使用者・消費者に供給されていくプロセス(動脈物流)と、その供給された製品や容器・包装等が消費等された後に回収→再資源化や最終廃棄へ至る流れによるプロセス(静脈物流)があり、商品等は動脈物流と静脈物流を環流しているのである(環流物流)が、ここでは、日常生活にとってより身近なものと感じられる動脈物流を念頭に置いて取り扱うこととする。
(注4)厚生労働省「毎月勤労統計調査」(平成20年)を基に、「一般労働者(常用労働者のうちパートタイム労働者以外の者)1人平均月間総実労働時間(事業所規模5人以上)を12倍」することにより算出すると、年間2,032時間となる。なお、常用労働者全体では、1,792時間となる。
(注5)例えば、「データブック国際労働比較2008(独立行政法人労働政策研究・研修機構)」によれば、生産労働者(製造業、2005年)の年間総実労働時間は、日本1,988時間、アメリカ1,943時間、イギリス1,869時間、ドイツ1,525時間、フランス1,537時間となっている。
(注6)総務省「住宅土地統計調査」(平成15年)を基に、家計主(雇用者である場合)の通勤時間をみると、通勤に1時間以上かける割合は、埼玉県43.9%、千葉県45.2%、神奈川県46.2%となっている。
(注7)週8時間以上テレワークを実施する者
(注8)国土交通省「テレワーク実態調査」(平成17年)より
(注9)ここでレジャー施設とは、総務省「サービス業基本調査」(平成16年)の産業分類における娯楽業に係る施設(映画館、興行場・興行団、競輪・競馬等の競走場・競技団、スポーツ施設、公園、遊園地、遊戯場、その他の娯楽業(カラオケボックス等))を指す。
(注10)一例として、渋谷(東京都)におけるいわゆる「ミニシアター」の立地があげられる。通常の興行にのりにくい、作家性の強い作品を上映する小規模な映画館が、渋谷駅周辺だけで20スクリーン以上存在する。
(注11)ただし、コンサート、オペラ等のインターネット配信はすでに始まっており、全国の人々が楽しめるようになってきた。映画はすでにDVD化されビデオ店やインターネットでの貸出しが普及しているが、家庭への直接インターネット配信も始まっている。このように、技術の進歩が地域格差を縮小していく側面もある。
(注12)過疎地域では、「山川海や動植物などの自然のあるところ」(36.3%)、「優れた景色・景観」(38.0%)、非過疎地域では、「山川海や動植物などの自然のあるところ」(53.1%)、「優れた景色・景観」(51.0%)となっている。
(注13)内閣府「高齢社会対策に関する特別世論調査」(平成17年10月)によれば、「高齢者も社会の支え手・担い手の側にまわるべきという見方」について、89.0%の人が「そう思う」と答えている。
(注14)新たな公とは、多様な民間主体を地域づくりの担い手として捉え、民間主体が相互に、あるいは民間主体と行政とが有機的に連携する仕組みを構築することで、地域課題に対応していくという考え方

 

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