第I部 私たちの暮らしを支える国土交通行政の展開 〜厳しい経済状況下でも暮らしを守り活力づくりに挑む〜 

序章 これまでの私たちの暮らし

 私たちの日常のありふれた暮らしや生活環境における願望、不満、不安等の一例を、生活風景を具体的に想定しながら振り返ってみる。ここでは、ライフステージやおかれた環境の異なる仮想の人物の声に耳を傾けて、個別具体的な事例に沿って、暮らしを見つめ直す。

【A子さん 首都圏在住の33歳。会社勤め、夫と子供と3人暮らし】
  ・仕事と子育ての両方って、想像してたより厳しい。夫は残業もあるし通勤が長いから、全然戦力にならない。
  ・夫は出張が多いけど、空港までの行き来だけで旅行だってこぼしている。
  ・私もノロノロの通勤電車で体力を消耗しちゃう。もっと速く楽ちんになってくれればいいのに。
  ・近くでくつろげる場所があるといいのに、この辺は家ばっかりごちゃごちゃ建っていて、うるおいが感じられない。
  ・周囲は建物が建て込んでいて、大きな地震でもあったらどうなるか、不安…。
  ・家の近くの道路は、歩道もないし電柱があって、子供と一緒だと歩きにくくって困っちゃう。
  ・ママチャリで少し遠出したいけど、子供を乗せて車すれすれを走る人を見ていると、見ているこっちがドキドキする。
  ・もっと便利で環境のいいところに住めればいいけど、給料も抑えられたままで減らされるかもしれない中で、ローンを組むのは怖い。
  ・2人目も欲しいけど、これじゃ無理かな。でも、弟は「超氷河期」世代で、給料も全然安いみたいだし、もっと大変そう。結婚して子供を持つことなんてできるのかな。住む場所だってあるのかどうか。

【B夫さん 地方都市在住の60歳】
  ・この町に越してきて20年。若い人も少なくなって、職場もどんどん減って、まちに活気がなくなった気がする。
  ・にぎわいがほしいけれど、人が見に来るようなぱっとしたものは見当たらない。
  ・自分の故郷の、虫取りや魚採りをした山や川を思い出すけど、この辺にはないな。生活排水で水も汚いし。うんと田舎に行かないとだめなのかなあ。
  ・お店も大分減ったので、欲しいものが近くで買えない。車でスーパーに行けば一通りそろうけど。
  ・そういえば町内会とかさぼってきたけど、退職を機に少しは地域の活動でもしたいなあ。

【C子さん 過疎地域在住の82歳】
  ・年のせいか、家の中でよく転びそうになる。骨でも折ったら寝たきりになりかねないから、気をつけないと。
  ・息子夫婦は、自分を気にかけてくれて来てくれるが、往復の移動も大変だろうに、申し訳ない。
  ・買い物や病院通いで町に行きたくても、バスは少ないし乗降も大変だ。
  ・自分が急病で倒れたとき早く病院に連れて行ってもらえるのだろうか。大きな病院は遠い。
  ・地域には、自分のような年寄りだけとなり、空き家も多い。
  ・自分の介護で迷惑をかけさせたくない。ケア付きの住まいとかがあるといいのに。

【D夫さん 地方都市在住の18歳】
  ・この町はさびれているけど、自分の生まれた町だから愛着がある。ここで働きたい、できれば安定した形で。でも、そもそも働く場所がない。工場だって、景気がものすごく悪くなっている今時、新たに来てくれるところはなかなかないだろう。

 ここで描かれた生活風景は、多くの人々の不安や不満を示すほんの一例である。そこからは、私たちはより良い暮らしに向けた思いを持ちながらも、社会で働きつつ家族生活を満足に送れなかったり、第一線を退いた後に余生を安心して過ごせなかったりするなど、ある種、社会生活を送るにあたって当然に期待していたことについて、実現が困難である様子がうかがわれる。さらに、急速に厳しくなる経済社会情勢に直面し、将来への不安も大きい。
 国土交通省では、暮らしにおける多様な不満や不安を解消して暮らしを支える取組みを行っている。もとより国土交通省だけで全ての問題が解決できるわけでなく、国土交通省を含めた政府全体で、幅広い関係者とともに、国民の暮らしのために日々努力しているところである。以下、第1章では、暮らしにおける不満や不安等の意識の動向と、これを取り巻く環境について分析し課題を抽出し、第2章では、国土交通省としての取組みを中心に記述を行う。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む