第2節 自然災害対策 

1 災害に強い安全な国土づくり

(1)気候の変動と災害リスクの増大
 地球温暖化に伴う大雨の頻度の増加、台風の強度の増大、海面水位の上昇等が予測される中、洪水や土砂災害、高潮災害等の災害リスクの増大が懸念される。IPCCは第4次評価報告書において、今後実施する緩和策の規模に関わらず気温の上昇等の影響が数世紀続くと予測しており、気候変動による悪影響を低減する適応策が必要であるとしている。このように、気候変動への対応は緩和策と適応策を車の両輪としてともに推進していく必要がある。このため、治水政策や港湾政策において、気候変動による影響を把握するためのモニタリングを強化するとともに、増大する災害リスクの評価を行う。これに基づき、関係機関等が役割分担しつつ、長期的視点に立った予防的な施設の整備や、地域づくり・危機管理の観点から適応策の立案と確実な実施により、持続可能な社会・経済活動や生活を行うことができる、災害に適応した強靱な社会を目指していく。
 
図表II-6-2-1 洪水に対する治水政策の重層化

図表II-6-2-1 洪水に対する治水政策の重層化

(2)治水対策
 近年頻発する記録的な集中豪雨は、河川堤防の決壊や土石流等による深刻な被害をもたらし、最近では、平成16年に2兆円を超える水害被害が発生した。水害に強い地域づくりは、地域の自立的発展と活性化を支える大前提であることを踏まえ、予防対策を重点的に実施するとともに再発防止を徹底している。また、ハード・ソフト一体の減災対策を推進している。
1)水害予防対策の推進
 水害は一度発生すると、多くの人命・財産が失われ、地域経済活動に多大な影響を与えるだけでなく、事後的な対応にも復旧費用等の多大なコストを要する。このため、水害を未然に防ぐ対策として、治水施設の量的整備や堤防の浸透対策等の質的整備を計画的に実施している。
2)大規模水害の再発防止対策
 水害による被災箇所の復旧工事を行うだけでは、同規模の洪水で再び被災する可能性がある。このため、大規模水害を受けた地域を対象に、河川の流下能力を向上させる改良工事や内水排除のための排水機場の能力強化等の対策を短期間かつ集中的に実施し、再発防止を徹底している。
3)洪水はん濫が発生した場合におけるはん濫域での減災対策
 現況の治水施設の能力を超える洪水が発生した場合でも被害を極力回避・軽減するための減災対策を推進する必要がある。具体的には、土地の利用状況等を踏まえつつ、輪中堤や二線堤の整備のほか、ハザードマップの整備や災害情報の収集・提供等のハード・ソフト一体となった対策を地方公共団体等と協力して進めている。また、堤防、緊急河川敷道路等を活用し、防災拠点と災害箇所等を結ぶ広域防災ネットワークを構築していく。
4)豪雨災害対策緊急アクションプランの実施
 平成16年を始めとする近年の豪雨災害の課題を踏まえ、緊急に対応すべき事項を同年12月に取りまとめた。各種施策について時限や数値目標を設けてその具現化を図っている。
 
図表II-6-2-2 豪雨災害対策緊急アクションプラン(平成16年12月策定)の主な項目の実施状況

図表II-6-2-2 豪雨災害対策緊急アクションプラン(平成16年12月策定)の主な項目の実施状況

(3)都市型水害対策
1)流域一体となった総合的な治水対策の推進
 都市部の河川流域での浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水を防ぐため、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が共同して流域水害対策を講じる枠組みである「特定都市河川浸水被害対策法」による取組みを推進している。
 
図表II-6-2-3 「特定都市河川浸水被害対策法」の概要

図表II-6-2-3 「特定都市河川浸水被害対策法」の概要

2)雨水の貯留・浸透の推進
 都市の浸水被害をできる限り軽減させるためには、雨水の排除のみならず、地域全体で雨水の流出抑制を目的とした貯留浸透に取り組むことが重要である。このため、平成20年度に創設した雨に強い都市づくり支援事業等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。
 
図表II-6-2-4 雨水貯留浸透による雨水対策のイメージ

図表II-6-2-4 雨水貯留浸透による雨水対策のイメージ

3)計画規模を上回る集中豪雨等への対応
 近年、集中豪雨の頻発等により、都市において深刻な内水はん濫被害が発生している。また、都市化の進展により資産の集中や地下空間利用の進展等都市機能の高度化が進み、内水はん濫の被害リスクが増大している。このため、平成18年度に創設した下水道総合浸水対策緊急事業により、対象地区を限定し、短期間で重点的な施設整備を行うとともに、ソフト対策と自助を組み合わせることにより総合的かつ効率的な浸水対策を推進している。
4)局地的な大雨に対する管きょ内工事等の安全対策の強化
 平成20年8月5日に東京都雑司ヶ谷幹線で発生した事故を踏まえ、雨水が流入する下水道管きょ内における工事等を安全に実施するため、予防対策の強化等を基本的な考え方として、「局地的な大雨に対する下水道管渠内工事等安全対策の手引き(案)」をとりまとめ、事故の再発防止に努めている。
5)大都市の壊滅的被害の防止
 流域に人口・資産等が高密度に集積している荒川(東京都区域)、淀川(大阪府区域)等の大河川では、壊滅的被害から大都市圏を防御する高規格堤防(スーパー堤防)や、堤防拡幅等による堤防強化対策を推進している。

(4)土砂災害対策
 我が国では、集中豪雨や地震等に伴う土石流、地すべり、がけ崩れ等の土砂災害が、過去10年(平成11〜20年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害を与えている。また、自然災害による犠牲者のうち、土砂災害によるものが大きな割合を占めている。このように、依然として施設整備が追いつかず、安全が確保されていない箇所が多数存在し、さらに災害発生前の円滑な住民避難等ができていない状況である。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防施設整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備等、「土砂災害による死者ゼロ」の実現を目指して、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策を推進している。
 
図表II-6-2-5 過去10年(平成11〜20年)の土砂災害の発生件数

図表II-6-2-5 過去10年(平成11〜20年)の土砂災害の発生件数
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1)根幹的な土砂災害対策
 荒廃した山地を源流域に持つ河川は、そこから流れ出す土砂により流域全体に渡って甚大な被害をもたらす。このような土砂災害から国土を保全し人命保護を図るため、砂防関係施設の整備を推進している。
2)土砂災害発生地域の緊急防災対策
 土砂災害発生箇所及び周辺地域を含めた集中的な砂防関係施設の整備により、近年甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を強力に推進している。
3)都市山麓における土砂災害対策
 都市域における土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面に一連の樹林帯(グリーンベルト)を形成することを推進している。平成20年度は、六甲地区(兵庫県)等15地区において実施している。
4)警戒避難と一体となった土砂災害対策
 少なくとも土砂災害から人的被害を回避するため、住民の避難のための支援体制を強化するとともに、砂防関係施設の整備による避難場所や地域防災の核となる集落等の保全を重点的に推進している。
5)土砂災害防止法の推進
(ア)土砂災害警戒区域等の指定の推進
 「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害が発生するおそれのある「土砂災害警戒区域」を明らかにし、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、著しい土砂災害が発生するおそれのある「土砂災害特別警戒区域」において、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等のソフト対策を講じている。平成20年12月末現在、全国で土砂災害警戒区域は108,393箇所、土砂災害特別警戒区域は42,498箇所が指定されている。また、「土砂災害警戒避難ガイドライン」を策定し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制の整備を支援している。
(イ)危険住宅の移転の促進
 崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、「がけ地近接等危険住宅移転制度」の活用等により移転が促進されている。平成19年度は、この制度により危険住宅36戸が除却され、危険住宅に代わる住宅34戸が建設された。

(5)地震対策
1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
 近年、大規模地震はいつどこで発生してもおかしくないとの認識が広まっていることを背景に、平成17年1月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が改正され、(18年1月施行)、国の基本方針において、住宅や多数の方が利用する建築物の耐震化率を17年の75%から27年までに少なくとも9割とする目標を定め、建築物に対する指導等の強化や計画的な耐震化の促進を図っている。この法改正により、各都道府県は耐震改修促進計画の作成が義務付けられ、19年8月までに全ての都道府県において計画が策定された。
 耐震診断・耐震改修等については、住宅・建築物耐震改修等事業等により支援しているところであるが、20年度には、一定収入以下の世帯の住宅に対する要件の撤廃、避難所等に対する補助率のかさ上げ等の拡充を行うとともに、事業用建築物に係る耐震改修促進税制の適用期限を延長するなど、支援制度の拡充を図っている。
2)宅地耐震化の推進
 大地震時における盛土の滑動崩落による被害を軽減するため、平成18年に「宅地造成等規制法」等が改正され、新規盛土宅地についての技術基準が強化されるとともに、既存宅地については宅地耐震化推進事業により、造成宅地防災区域の指定等に必要な調査や防止工事を実施している。
3)被災地における住宅・建築物及び宅地の危険度判定の実施
 住宅・建築物においては、余震による被災建築物の倒壊等の二次災害を防止するため、被災後速やかに応急危険度判定を実施できるよう、業務マニュアルの整備や全国連絡訓練等により都道府県と協力して体制整備を図っている。平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震では、4,043棟の応急危険度判定を実施した。
 宅地においては、二次災害を防止し住民の安全確保を図るため、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力し、平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の被災地では、378箇所の危険度判定を実施した。
4)密集市街地の緊急整備
 防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善のため、都市再生プロジェクト第三次決定(平成13年12月)及び住生活基本計画(全国計画)においては、特に大火の可能性が高い危険な密集市街地(重点密集市街地、東京・大阪各約2,000ha、全国約8,000ha)を重点整備し、23年度までに最低限の安全性を確保することとされている。この実現に向け、国土交通省では、(ア)幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、(イ)防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と併せた耐火建築物等への共同建替え等による、密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。
 
図表II-6-2-6 防災環境軸

図表II-6-2-6 防災環境軸

5)オープンスペースの確保
 安全・安心な都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点や生活物資等の輸送中継基地等となる広域防災拠点・地域防災拠点、周辺地区からの避難者の収容や市街地火災等から避難者の生命を保護する広域避難地、地域周辺の集結場所や消防救護活動の拠点等として機能する一次避難地となる防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を外語大跡地公園(東京都)等9地域で実施している。
6)総合的な耐震安全性を確保した防災拠点官庁施設等の整備の推進
 平成20年度は、災害応急対策活動に必要な官庁施設等について、耐震性の現況及び今後の耐震化の目標を公表するとともに、中央合同庁舎第1号館本館(霞が関地区)等の耐震対策を推進している。
7)公共施設等の耐震性向上
 河川事業においては、いわゆるレベル2地震動(関東地震や兵庫県南部地震級の地震動)に対する河川構造物の耐震性能を確保するため、耐震点検、耐震対策を実施している。
 海岸事業においては、平成19年度に海岸耐震対策緊急事業を創設し、ゼロメートル地帯等に地域中枢機能集積地区を有する海岸の耐震対策を緊急的に実施している。
 道路事業においては、地震による被災時には、円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送道路を確保するため、緊急輸送道路のうち、広域応援部隊等が移動するための県庁所在地間を結ぶ道路について、橋梁の重大な損傷を防止する対策を実施している。
 港湾事業においては、大規模地震発生時に避難者や緊急物資等の輸送を確保するため、基幹的広域防災拠点や耐震強化岸壁を整備するとともに、緊急輸送ルートに接続する臨港道路の耐震補強、緑地等のオープンスペースの整備を推進している。
 空港事業においては、地震災害時の空港機能の確保を図るため、羽田空港の耐震化を引き続き実施するとともに、仙台空港の耐震化に着手した。その他の空港についても庁舎・管制塔等の耐震診断を実施している。
 下水道事業においては、避難地等におけるトイレ機能や消毒機能等地震時において下水道が果たすべき機能を確保するため、18年度に創設した下水道地震対策緊急整備事業により、避難地等と処理場とを接続する管きょや水処理施設等の耐震化等を緊急かつ重点的に実施している。
8)大規模地震に対応する土砂災害対策
 首都直下地震、東南海・南海地震等の将来起こり得る大規模地震等に起因する土砂災害から被害を軽減するための土砂災害対策を推進している。

(6)津波・高潮・侵食等対策
1)総合的な津波・高潮対策の推進
 インド洋大津波や米国のハリケーン・カトリーナによる大規模な被害を受けて、ハード整備とソフト対策を合わせた総合的な津波・高潮対策を推進している。平成20年度には、老朽化対策が喫緊の課題であることから海岸堤防等老朽化対策緊急事業を創設し、老朽化調査、老朽化対策計画の策定、計画に基づく対策工事を一体的に推進している。
2)高波災害への対応
 平成20年2月の富山県等における激しい高波による浸水被害等の発生を受け、災害発生のメカニズムの検証や今後の対策のあり方等の検討を行い、ハード・ソフト両面に渡る高波災害対策に係る考え方を踏まえ、関連施策を推進している。
3)海岸侵食対策の推進
 土砂供給量の減少、各種構造物の設置等による沿岸方向の土砂の流れの変化等様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じ、特に近年は早いペースで侵食が進行している。河川、海岸、港湾、漁港等の各事業者と連携し、異常堆積土砂の除去対策と合わせ海岸侵食対策を推進している。
4)港内における船舶津波対策の推進
 全国の「港則法」の特定港(84港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。

(7)雪害対策
1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
 「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、豪雪時における通行止めや除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報連絡本部の設置を進めている。
2)豪雪地帯における雪崩災害対策
 全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設を整備するハード整備を推進するとともに、雪崩が頻発する地域においては、雪崩監視装置の設置や警戒避難体制の整備等のソフト対策を実施している。
3)雪対策砂防モデル事業の実施
 豪雪地帯において、雪崩等による土砂流出防止の砂防えん堤、流雪機能を発揮できる低水路等の整備を行っており、平成20年度は、白馬川(長野県)等20箇所で実施している。
4)消流雪用水導入事業の実施
 豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。

(8)火山砂防対策
1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
 噴火等の活発な火山活動に伴う火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害への対策として、砂防えん堤等の整備を実施している。また、光ファイバ網の整備等により、火山活動や土砂災害に関する情報を関係機関と共有し、防災活動を行う体制を整備している。
2)火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定
 火山噴火時の土砂災害による被害を軽減するため、関係機関と連携して火山毎に、緊急ハード対策の施工やリアルタイムハザードマップによる危険区域の設定等の緊急対応等、ハード・ソフト対策からなる火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定を推進している。
 
図表II-6-2-7 緊急時への備え〜火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定〜

図表II-6-2-7 緊急時への備え〜火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定〜

 

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