第5節 危機管理・安全保障対策 

第5節 危機管理・安全保障対策

1 犯罪・テロ対策等の推進

(1)各国との連携による危機管理・安全保障対策
1)国際交通セキュリティ大臣会合における成果の具体化
 我が国が平成18年1月に主催した「国際交通セキュリティ大臣会合」に基づき創設された「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ」にて、鉄道セキュリティに関する情報の共有により、各国間の協力強化を推進している。第2、3回会合を日本で主催し、第4回会合は、米国にて開催された。
 一方、航空保安検査に関するフォーラムを19年6月に、航空貨物保安に関するワークショップを20年3月に日本で開催し、航空セキュリティの更なる向上に主体的に取り組むとともに、G8、IMO、ICAO、APEC等における交通セキュリティに関する議論へ参加し、セキュリティ対策の国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。
2)海賊対策
 世界の海上輸送路の要衝であるソマリア沖・アデン湾において、海賊等が商船を襲撃する事件が頻発しており、我が国経済や国民生活に必要な物資の安定輸送に大きな影響を及ぼしかねない状況になっている。国連安全保障理事会は平成20年6月、10月及び12月にソマリア沖の海賊・武装強盗行為対策に関する決議を採択し、我が国も共同提案国として成立に貢献した。国土交通省としては、IMOの主導により、海賊対策に関する地域協力協定が早期に締結されるよう、周辺国のキャパシティビルディングのためのセミナー開催等に積極的に協力したほか、21年3月に発令された海上警備行動により自衛艦が護衛活動を円滑に実施できるよう、防衛省及び船舶運航事業者等との連絡調整を開始した。
 また、海上保安庁では、海上警備行動発令のもと自衛艦がソマリア沖に派遣されるに際し、海賊に対する司法警察業務に的確に対応するため、海上保安官8名を同乗させている。さらに、東南アジア周辺海域における海賊対策として、12年から毎年、巡視船派遣による連携訓練や研修の実施などにより、沿岸国海上保安機関に対する人材育成、技術供与等の協力を行ってきているところであり、ソマリア沖海賊対策としても、JICAスキームによりイエメン沿岸警備隊等を招聘するなどしている。
 
図表II-6-5-1 日本関係船舶における海賊等事案の発生場所(2007年)

図表II-6-5-1 日本関係船舶における海賊等事案の発生場所(2007年)

 
図表II-6-5-2 最近の海賊及び船舶に対する武装強盗事件等の発生状況

図表II-6-5-2 最近の海賊及び船舶に対する武装強盗事件等の発生状況
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3)港湾保安対策
 平成19年2月の「日ASEAN港湾保安向上行動計画」に基づき、日ASEANが参加する共同訓練や各種マニュアルの整備を実施するなど、ASEAN諸国の港湾保安対策の支援を推進している。

(2)公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化
 国土交通省では、重大事件発生時の初動体制を整えるとともに、多客期にはテロ対策の徹底指示や点検を実施するほか、各分野ごとに次のとおりテロ対策に取り組んでいる。
1)鉄道におけるテロ対策の推進
 駅構内の防犯カメラの増設や巡回警備の強化等に加え、国土交通省では、鉄道事業者等と「鉄道テロ対策連絡会議」を開催し、「危機管理レベル」の設定・運用、「鉄道テロへの対応ガイドライン」の策定を行うとともに、「見せる警備・利用者の参加」(注1)を軸としたテロ対策を推進している。また、主要国との鉄道テロ対策の情報共有等にも積極的に取り組んでいる。
 
図表II-6-5-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策

図表II-6-5-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策


2)船舶・港湾におけるテロ対策の推進
 「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」による、国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びPSCを通じて、海事保安の確保に取り組んでいる。また、同法が適用されない内航船舶や内航船舶が利用する港湾施設においても、警戒強化、不審物等への注意喚起、ゴミ箱の集約等のテロ対策の実施を指導している。
 
図表II-6-5-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置

図表II-6-5-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置

3)航空におけるテロ対策の推進
 我が国では航空機に対するテロ未然防止に万全を期すため、平成17年4月以降、旅客及び手荷物の保安検査、航空機の保安強化、空港警備強化等を柱とする新しい航空保安体制に移行するとともに、国際民間航空条約に規定される国際標準に従って、航空保安体制の強化を図っている。このような状況の中、我が国内外でのテロ・不法侵入等の事案に対応し、液体性爆発物の機内への持ち込みを防ぐために国際線への液体物機内持込制限を実施する一方、各空港においては、車両侵入想定箇所へのガードレール・杭等を設置拡充するとともに、人の侵入に対応するためフェンスの強化に加え、侵入があった場合にも侵入者の迅速な発見・捕捉ができるよう、センサーの設置を拡充するなど、航空保安対策について引き続き強力に推進していくこととしている。
4)自動車におけるテロ対策の推進
 平成20年7月の東名高速道路における高速バスのバスジャック事件発生を受け、バス事業者と連携し、マニュアル見直しや緊急連絡装置等の整備の推進等について検討を行ったほか、車内の点検、営業所・車庫内外における巡回強化、警備要員等の主要バス乗降場への派遣等を実施するよう、関係事業者に対し指示している。
5)重要施設等におけるテロ対策の推進
 河川関係施設では、河川点検・巡視時の不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。道路関係施設では、高速道路や直轄国道での巡回強化及びサービスエリア・パーキングエリアのゴミ箱の撤去・集約等を行っている。また、国営公園では、巡回強化、はり紙掲示等の注意喚起等、工事現場では、看板設置等の注意喚起等を行っている。

(3)自動車に関する犯罪防止策
 自動車の登録事項等証明書の不正取得や悪用を防ぐため、平成19年11月から証明書の交付請求手続きを厳格化し、原則として、自動車登録番号のほかに車台番号の明示を義務付けた。

(4)物流におけるセキュリティと効率化の両立
 米国同時多発テロ以降、国際物流においてもセキュリティ強化が求められている。一方、セキュリティ強化は円滑な物流を阻害する恐れがあるため、米国でのC-TPAT(注2)の実施や世界税関機構(WCO)におけるAEO制度(注3)に係るガイドラインの策定等、物流分野におけるセキュリティと効率化の両立に向けた取組みが先進国や国際機関を中心として行われている。我が国においては、平成20年4月より、特定保税運送制度を導入し、サプライチェーンを構成する物流事業者等をAEOの対象に追加しており、今後は同制度の普及促進を進めていく。また、全国のコンテナターミナルにおけるトラック運転手等の本人確認を共通カードや生体認証により確実かつ迅速に行うための出入管理システムを構築している。

(5)情報セキュリティ対策
 社会経済活動全般のITへの依存度の高まりに伴い、情報セキュリティ対策への取組みの重要性が増している。国土交通省においても、政府の「情報セキュリティ政策会議」で決定された方針に基づき、情報漏洩の防止対策等、国土交通省の情報セキュリティ対策及びIT障害による事業停止を防止するためのガイドラインの策定等、重要インフラ(鉄道・航空・物流)に係る情報セキュリティ対策を推進している。


(注1)「見せる警備」…テロの未然防止を図るため、人々の目に触れる形で警備を行う施策
    「利用者の参加」…テロに対する監視ネットワークを強めるため、一人ひとりの利用者にテロ防止のための意識を持ち行動することを促す施策
(注2)米国への輸入貨物に関係する事業者を対象に、高度なセキュリティ対策が確認された事業者を通関上優遇する制度
(注3)サプライチェーンにおいて高度なセキュリティ措置を講じている輸出入者等を税関がAEO(認定優良事業者)として認定し、通関手続の簡素化等の利益を付与する制度

 

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