第1節 変貌する経済社会 

第1節 変貌する経済社会

 経済社会の趨勢に大きな変化が生じている。ここでは、基本的な経済の動向とそれを支える産業活動の変化、またそれらとつながる個人の生活の変化も含め、起こっている変化をいくつか取り上げる。

(伸び悩む経済)
 経済の動向が大きく変わってきている。
 図表11は、約30年間の経済成長の推移をみたものである。1990年代前半を境に成長率が低下し、また名目GDPが実質GDPを下回るなど、基調が変わったことがうかがえる。2008、09年は、いわゆる経済危機により急激な落ち込みを経験した。(注1)
 今後の人口減少の進展を考えると、GDPの総額ではなく、一人当たりの額から国民の豊かさをみることも大切である。図表12は、一人当たりの名目GDPの推移であるが、90年代後半以降は頭打ちとなっており、OECD諸国における順位も、1993年の2位から2008年には19位となっている。
 
図表11 GDP成長率の推移

図表11 GDP成長率の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
図表12 一人当たりの名目GDPの推移

図表12 一人当たりの名目GDPの推移
Excel形式のファイルはこちら

 図表13は、三大都市圏と地方圏にわけて県民所得の伸びをみたものである。戦後、三大都市圏を牽引役に地方圏も含めて伸びてきたが、ここ十数年では減少も経験するなど停滞している状態がみられる。
 
図表13 県民所得の推移

図表13 県民所得の推移
Excel形式のファイルはこちら

(身近な経済活動の主役の交代)
 このような経済に関して、需要サイドからみた消費活動の主体が変化している。
 図表14は、1995年と2009年について、世代別の消費支出額にその世代の人口をかけることにより消費支出の世代別の割合を概観したものである。いくつかの仮定に基づいておりあくまで試算であるが、消費活動の重心が高齢者世代へ移動しつつある様子がわかる。また、第3節でも触れるが、若い世代の消費性向が変化するなど消費の内容にも変化がみられ、併せて、社会における経済活動の主役が交代していく様子がうかがえる。
 
図表14 消費について全体に占める各世代の割合の試算

図表14 消費について全体に占める各世代の割合の試算
Excel形式のファイルはこちら

(産業活動の趨勢の変化)
 モノやサービスを生み出す供給サイドの趨勢も変わってきている。
 図表15は、第1,2,3次産業について地域ブロック別に就業者数の構成比をみたものである。ブロックにより産業の構成に特徴があることがわかる。
 図表16は、さらにいくつかの産業分野について、就業者数の推移を三大都市圏と地方圏にわけてみたものである。製造業の就業者数は、まず三大都市圏を中心に増加したのち地方圏でも増加し、90年代前半を境に減少に転じている。建設業は、一貫して地方圏で多く90年代後半までは伸びたもののそこから減少に転じている。運輸業は、現在では三大都市圏で多くなっているが、就業者数は同様に90年代後半から減少している。このように、産業分野ごとに就業者の地域分布と増減に特徴があることがわかる。これらが各ブロックで産業活動と雇用の特色をつくってきたが、現在では製造業や建設業、運輸業の就業者数は減少傾向にあり、日本全体と地域の産業活動の枠組みに変化をもたらすことが考えられる。
 
図表15 ブロック別第1,2,3次産業の就業者数構成比

図表15 ブロック別第1,2,3次産業の就業者数構成比
Excel形式のファイルはこちら

 
図表16 産業別就業者数の推移

図表16 産業別就業者数の推移
Excel形式のファイルはこちら

(働き方の変化)
 労働は、普段の生活時間の中で大きな割合を占めるが、このような経済社会状況の変化の下、個人の働き方にも変化が生じた部分がある。
 正規・非正規雇用をみると、正規雇用の割合は、1990年には79.8%であったものが、2009年には66.3%となっている(注2)。図表17は、地域ブロック別に02年と09年の正規・非正規雇用者数をみたものである。ほとんどのブロックで、正規雇用者数が減少するなか、非正規雇用者数が増加している様子がわかる(注3)
 
図表17 ブロック別正規・非正規雇用者数の変化

図表17 ブロック別正規・非正規雇用者数の変化
Excel形式のファイルはこちら

 夫婦の働き方については、共働き世帯・片働き世帯の数は1990年の823万世帯・897万世帯から、共働き世帯が大幅に増加する等により、2009年には995万世帯・831万世帯(注4)となり、逆転している(図表98(50ページ)参照)。
 また、労働時間については、1990年には2124時間(生産労働者(製造業))であったものが、2000年1970時間、2006年2003時間となり、減少傾向にあるもののこの数年は微増している(注5)。これは、米国(1,962時間)、英国(1,874時間)、ドイツ(1,538時間)、フランス(1,537時間)(注6)などと比較すると依然として長い。年次有給休暇の取得日数は、1990年の8.2日に対し2008年は8.5日と大きな変化はない(注7)(注8)
 近年ワークライフバランスに注目が集まっているが、働き方に大きな変化がみられる一方で労働の負荷は軽くなっておらず、厳しい状況にあることがわかる。

(社会の格差の拡大)
 これらの状況の下、社会の格差がどうなっているかをみる。
 図表18は都道府県単位の一人当たり県民所得のばらつきをみたものであるが、この数年は格差が広がる傾向にあり、07年も高い水準にとどまっていることがわかる。
 また図表19は、世帯収入により5つのグループにわけ、上位20%の世帯(V)と下位20%の世帯(I)の収入の推移をみたものである。おおむね2000年代に入ったころから、Vの世帯の収入がおよそ横ばいであるのに対し、Iの世帯では収入が大幅に減少している。収入の高い世帯と低い世帯の収入格差が広がっている。
 このように、地域間で、個人の間で、格差が広がる傾向にある様子の一端がうかがえる。
 
図表18 県民所得からみた都道府県格差の推移

図表18 県民所得からみた都道府県格差の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
図表19 世帯収入別にみる収入額の推移

図表19 世帯収入別にみる収入額の推移
Excel形式のファイルはこちら

(日本のイメージの変化)
 このように日本ではさまざまな変化が生じているが、さらに、人々が国に対して感じていることにも変化がみられる。図表20は、日本について誇りに思うものを尋ねたものであるが、社会の安定、経済的繁栄、教育水準等に対する評価が低くなる一方で、文化・芸術、自然、歴史・伝統等が高くなっている。
 
図表20 日本について誇りに思うものの変化

図表20 日本について誇りに思うものの変化
Excel形式のファイルはこちら

(グローバル化の進展と日本の相対的な位置の変化)
 日本を取り巻く世界の様子も大きく変化している。
 急速に進むグローバル化は日々の生活を大きく変える可能性がある。特に、昨今の経済危機は、図表11(9ページ)でもみたとおり我が国の経済、さらには社会を大きく揺るがし、日本の普段の生活が直接世界とつながっていることを改めて示した。図表21は、グローバル化が個人の生活や地域にどのような影響を与えるかを尋ねている。8割近い人が何らかの影響があると考えるが、それが総じてプラスの影響であると答える人は16.4%にとどまっており、多くの人が影響を図りかねている様子がわかる。
 
図表21 グローバル化に対する意識

図表21 グローバル化に対する意識
Excel形式のファイルはこちら

 グローバル化した世界経済において、日本の位置は変化しつつある。図表22は、国・地域のGDPが世界全体に占める割合の推移であるが、アジア諸国は急速にその割合を増やしている。一方で、日本は1980年代後半から90年代中頃まではおよそ15%以上あったものの減少し、2008年には約8%となっている。
 
図表22 GDPの世界全体に占める割合の推移

図表22 GDPの世界全体に占める割合の推移
Excel形式のファイルはこちら

 また、グローバル化により、世界で人やモノの動きが活発になっている。図表23は、世界の国際線(定期輸送ベース)による旅客数である。1989年の約2.6億人と比較し2008年は約8.7億人と約3.3倍に伸びており、世界における人の動きはダイナミックになっていることがわかる。一方で、図表24は、日本の出入国者数の推移である。外国人入国者数は増加傾向にあるが、日本人出国者数は、90年代後半以降あまり伸びていない。
 また図表25は、世界の港湾別にコンテナ取扱個数を比較したものである。1980年には上位20位までに日本の3港湾が入っていたが、世界の各港湾で取扱量が飛躍的に伸びるなか、2008年では東京の24位が最高となっている。人だけではなくモノについても、その流れが変化している。
 
図表23 世界の国際線(定期輸送ベース)旅客数の推移

図表23 世界の国際線(定期輸送ベース)旅客数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
図表24 日本の出入国者数

図表24 日本の出入国者数
Excel形式のファイルはこちら

 
図表25 世界の港湾別コンテナ取扱個数

図表25 世界の港湾別コンテナ取扱個数
Excel形式のファイルはこちら

 このように、経済や産業の趨勢、さらに取り巻く国際環境は変わりつつあり、個人の側からみても、消費活動や働き方、さらには国に対する意識も変わってきていることがうかがえる。日本の経済社会は、まさに転換のステージにあるといえる。


(注1)リーマンショック(2008年9月)前後の2008年1〜6月と2009年1〜6月について国土交通分野の指標をみると、例えば、住宅分野(新設住宅着工戸数)約54万4千戸→約39万7千戸、運輸分野(貨物輸送量(トラックとJR(貨物)の計)5,344万トン→4,574万トンなどとなっている。
(注2)1990年については総務省「労働力調査特別調査」、2009年については同「労働力調査詳細集計」より。なお、1990年については同年2月の値、2009年については同年の平均の値。
(注3)ただし2009年(全国)については、直近の10年では初めて、前年と比べて非正規雇用者数は減少している。
(注4)総務省「労働力調査詳細集計」より。共働き世帯とは夫婦ともに非農林業雇用者の世帯、片働き世帯とは夫が非農林業雇用者で妻が非就業者の世帯。
(注5)独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2009」によれば、生産労働者(製造業)の年間総実労働時間は1980年2,162時間、1990年2,124時間、2000年1,970時間、2006年2,003時間。2001年以降は、日本の労働時間は微増傾向にあり、とりわけ所定外労働時間が増加している。
(注6)同上より。いずれも2006年の数値。
(注7)1990年については厚生労働省「賃金労働時間制度等総合調査」、2008年については同「就労条件総合調査」による。対象は、「本社の常用労働者が30人以上の民営企業」の労働者。
(注8)これらのほかにも、例えば休む曜日について変化がみられる。平成7年と17年を比較すると、土曜日が休みの人57%→54%、日曜日が休みの人77%→72%となる一方、決まっていない人19%→25%となっている(資料:NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」)。対象は、「勤め人」(販売職・サービス職、技能職・作業職、事務職・技術職、経営者・管理職))。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む