第3節 我が国の経験・技術・ノウハウを活かした国際協力・国際展開
(1)国際協力の展開
開発途上国の発展には、経済社会基盤の整備を始め、計画・政策策定や管理・運営を担う人材の育成が不可欠であり、国土交通分野の国際協力に対するニーズが高いことから、1)政策対話を通じた国際交流の実施やNGO等民間団体による国際協力の支援と研修生受入れ等を通じた人材育成、2)地球環境問題への対応や安全性向上のための技術開発等の実施、3)専門家等の派遣、要人招へい等による日本の技術・基準の移転、4)JICA等関係機関を通じた技術・ノウハウの移転や国際機関と連携した国際協力などを推進している。
(2)広域的な経済社会基盤の整備等への協力
国際的な相互依存関係の拡大を踏まえ、アジアハイウェイ、メコン地域開発等地理的位置や影響が複数国にわたる広域的な経済社会基盤整備を支援している。
アジアハイウェイについては、「アジアハイウェイ道路網に関する政府間協定」(同協定では、「東京−福岡」が路線「AH1」として位置づけ)に基づき、アジアハイウェイ整備促進に向けた技術協力等を推進している。メコン地域開発については、「メコン地域のインフラ分野における今後の支援のあり方(提言)」に基づき、技術協力等を推進している。なお、1959年(昭和34年)に始まったアジアハイウェイプロジェクトは、50周年を記念し、2010年(平成22年)2月に本プロジェクトの半世紀を振り返りつつ、今後を展望するセミナーを開催した。
アフリカ広域インフラについては、第4回アフリカ開発会議(TICADIV)の合意に基づき、広域運輸回廊及び国際港湾の計画・建設・改良に向け、技術・ノウハウを活用した整備支援を推進している。
さらに、産業界から要望の強いASEANやインドにおける物流インフラ整備、ロシアにおける貨物輸送の円滑化等について、関係国政府等と共同で検討を行っている。
(3)環境・安全面での協力
環境面において、京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)の社会資本整備分野での活用を促進するため、技術検討会や国内外でのセミナーを通じた環境整備を実施している。また、アジアの自動車行政官に対する研修やASEANにおける都市公共交通の改善に資する取組みを実施している。
安全面では、インドネシアに対し航空機事故調査レベルの向上に資する研修等の技術協力を行っている。また、開発途上国の保安担当官を対象に、港湾、航空各分野のセキュリティに関する専門家会合や集団研修を行っている。海上保安庁でもこのようなキャパシティビルディングを積極的に推進しており、アジア地域等の海上保安機関の能力向上を目的とした研修、訓練を実施している。
災害対策等への協力については、国際緊急援助隊として派遣される救助チームに海上保安庁、専門家チームに国土交通省及び海上保安庁が参加している。また、被災地等への政府調査団等にも参加している。インドネシア西スマトラ州パダン沖地震、バングラデシュ及びミャンマーのサイクロン被害、ツバルの気候変動問題に関する調査団への参加等、各分野の専門家を派遣している。
さらに、都市、河川、道路、住宅、地図、鉄道、海事、気象等の各分野においても各国で技術移転を目的とした専門家派遣、研修等の技術協力を実施している。
(4)海外における官民協働型インフラ整備プロジェクトの促進への取組み
開発途上国における膨大なインフラ需要が見込まれるなか、民間のノウハウや資金力を活用したインフラの整備手法が重要性を増している。このような背景の下、官民協働型(PPP)のインフラ整備への本邦企業の参画を促進するため、産官学によるベトナム国道路官民研究会、モンゴル国水資源官民研究会を設置し、協働体制の検討を行った。ベトナムについては、3回の高速道路セミナーを開催し、我が国民間企業による事業参画にあたっての課題を解決するための取組みをアクションプランとして整理し、最終取りまとめを行った。
(5)建設・運輸産業の国際展開
国内の建設投資が中・長期的に減少傾向にある一方で、アジア等の地域においては、引き続きインフラ整備への大きな需要が見込まれている。我が国の建設産業が発展を続けていくためには、海外建設市場に対して積極的に進出することが求められるが、現状では、大手のスーパーゼネコンでも海外売上比率が2割程度にとどまっているのが現状である。
このため、海外の大規模プロジェクトの受注を図るための官民連携した取組み、国際建設プロジェクトで能力を発揮できる人材の育成、個別企業では対応が困難なリスクに対する支援等を行い、我が国建設業の国際競争力強化を図っていく。
また、海外建設プロジェクトにおける施工技術、施工管理マネジメントに関する本邦企業からの相談窓口(海外建設ホットライン)を省内に設置した。問題解決を行い、我が国建設企業の海外展開を促進するため、ベトナム等において、外務省等関係機関と連携し、相手国政府関係機関と協議等を行っている。
世界の水ビジネス市場は、2025年には100兆円規模に成長することが予想されており、我が国の優れた水関連技術の海外展開に向けた取組みを進めている。2009年(平成21年)4月には、産学官が連携して下水道グローバルセンター(GCUS)を設立し、官民共同セミナーの開催や国際標準化に向けた検討を進めている。また、国内の水関連企業の海外展開を支援するため、世界の水ビジネスや国内外の水資源に関する情報を収集し提供した。さらに、2010年(22年)2月にはベトナム国建設大臣を我が国に招聘し、国土交通省幹部によるトップセールスや、GCUSとも連携した産学官連携セミナーを開催するなど、我が国の技術の優位性等のPRとベトナム国との協力関係強化を行った。
運輸産業については、経済のグローバル化の進展の中、官民連携の下、我が国の優れた鉄道技術を海外に普及させる観点から、米国、ブラジル、ベトナム等の高速鉄道計画について、省エネルギー性に優れ、安全・安定・高頻度・大量輸送を強みとする我が国の新幹線技術の導入に向けた取組みを進めている。2010年(22年)1月には、副大臣・政務官等国土交通省幹部が米国、ブラジルに渡り、セミナーの開催、政府要人との会談等を通じてトップセールスを実施した。また、渋滞の緩和や環境改善に資する都市鉄道、モノレール、新交通システム等についても技術的な協力を実施し海外展開を積極的に推進している。さらに、港湾分野においても、ベトナム等で港湾開発のプロジェクトが進行中であり、今後も、相手国との協議・調整、技術面での協力、人材育成・技術移転などの環境整備を行うとともに、官民連携して多角的な活動を実施していく。