参考資料 

(5)地域経済活動の再生

1) 企業・イノベーション

企業への支援
 東北地域は、地域経済における製造業が占める割合が高い。東北地域の製造業は、国内外の製造業の供給網(サプライチェーン)のなかでも重要な役割を果たしている。今回の震災はわが国経済に大きな影響を及ぼした。
 全国的に見ても、震災の復興過程で事業を再開・継続する企業は、借入依存度を高め、資本が毀損しており、これに対する対応策を講じなければならない。また、企業の事業継続のため、企業に対する資金繰り支援等を十分な規模で実施する必要がある。

立地促進策
 今回の震災を契機に、生産拠点を日本から海外に移転するなど、産業の空洞化が生じ、雇用を喪失するおそれがある。この点について、企業のわが国における立地環境の改善を図るため、供給網(サプライチェーン)の再生支援を含む立地促進策をとることにより、地域経済の復興とわが国産業の再生、雇用の維持、創出に積極的に取り組まねばならない。
 また、今回の震災で、企業による事業継続計画策定の重要性が改めて確認された。その導入が促進されるべきである。

中小企業
 製造業に加え、商業・観光業など様々な分野において、中小企業は、雇用者を多く抱えるなど、経済社会において大きな役割を果たしているが、今回の震災により、深刻な影響を受けた。すでに資金繰り支援や事業用施設の復旧・整備支援等が講じられている。しかし、さらに必要とされる支援が広く行き渡るよう、十分な事業規模をもって、さまざまな支援措置が確保されなければならない。また、震災の影響による風評被害などに対応するため、国内外への新たな販路開拓支援に早期に取り組むことが必要である。
 被災した中小企業に加え、農林水産業等の事業性ローンや住宅ローンの借入者が、今後、復興へ向けての再スタートを切るにあたり、既往債務が負担となって新規資金調達が困難となるなどの問題(いわゆる二重債務問題)が生じることが想定される。これについては、金融機関・被災者のみならず、国・自治体を含め関係者がそれぞれ痛みを分かち合い、一体となって問題の対応にあたる必要がある。過去の震災などでの取り扱いとの公平感にも留意しつつ、可能な限りの支援策を講ずべきである。
 一方、地域経済や中小企業の資金繰りを支えてきた金融機関にも震災により様々な影響が懸念されている。そこで、国の資本参加を通じて、金融機関の金融仲介機能を強化する枠組みである金融機能強化法の震災特例が活用されることを期待したい。

産業・技術集積とイノベーション
 東北大学をはじめとして、多くの大学・大学病院、高専、研究機関、民間企業等が、地域における重要な知的基盤・人材育成機関として共存している。このような東北の強みを生かし、知と技術革新(イノベーション)の拠点機能を形成することが重要である。このため、被災した大学・大学病院、研究機関等の施設・設備をはじめ、教育研究基盤の早期回復を図り、より一層の強化をする必要がある。また、産学官の連携により、スピード感のある技術革新を可能にするため、中長期的、継続的、弾力的な支援スキームを構築せねばならない。さらに被災地の大学を中心に地域復興のセンター的機能を整備し、様々な地域ニーズに応えることが求められる。
 これまでの実績を踏まえ、研究開発の促進による技術革新を通じて、「成長の核」となる新産業および雇用を創出するとともに、地域産業の再生をもたらし、東北に産業と技術が集積する地域を創り出すことが期待される。
 東北における技術革新を通じた新産業・雇用の創出の具体例としては、以下が考えられる。

2) 農林業

すみやかな復旧から復興へ
 農地や水利施設の1日も早い復旧を目指すとともに、営農を再開するまでの間、その担い手を支援する観点から、復旧に係る共同作業を支援する必要がある。
 復旧の完了した農地から順に営農を再開しつつ、市町村の復興計画の検討と並行して各集落において将来計画を検討する必要がある。

3つの戦略
 被災地は、地形、風土、文化などの実態が多様であり、それに伴って、農業復興の方向も地域により多様である。集落単位での徹底した議論を行い、地域資源を活かした農業再生の戦略を考えていく必要がある。そこで、そのような議論を促すために、地域の類型別に下記の3つの戦略を組み合わせた将来像を示す必要がある。
a) 高付加価値化……6次産業化(第1次産業と第2次、第3次産業の融合による新事業の創出)やブランド化、先端技術の導入などにより、雇用の確保と所得の向上を図る戦略
b) 低コスト化……各種土地利用計画の見直しや大区画化を通じた生産コストの縮減により、農家の所得向上を図る戦略
c) 農業経営の多角化……農業・農村の魅力を活かしたグリーンツーリズム、バイオマスエネルギー等により、新たな収入源の確保を図る戦略

平野部
 大規模な平野が広がる地域や集落営農が盛んな地域では、「低コスト化戦略」を中心とすべきである。
 その際、「高付加価値化戦略」や「農業経営の多角化戦略」を組み合わせた地域戦略を取ることが最も有効である。集落のなかで徹底的な話合いを行い、大規模農業の担い手を選ぶとともに集落の土地利用を再編することが望まれる。その際、その担い手に集落単位の土地をまとめて任せることで、「低コスト化」を推進すべきである。一方で、大規模化しない農業者が施設園芸に従事したり、集落で再生・誘致した食品関連産業に従事したりすることで、農地の集約化を推進できる。このように、「高付加価値化戦略」や「農業経営の多角化戦略」を組み合わせることで、「低コスト化戦略」を推進すべきである。
 こうした地域の農業構造の転換を、復興事業のための集落での徹底した話合いを契機に実現することにより、この地域が日本の土地利用型農業のトップランナーとなることを目指すべきである。

三陸海岸沿いほか
 平地に乏しい三陸地域やすでに果実等のブランド化が進んでいる地域では、水産物などの特産物と組み合わせた「高付加価値化戦略」や、グリーンツーリズムやバイオディーゼル燃料の製造など「農業経営の多角化戦略」を適切に組み合わせた戦略を取ることが有効である。
 内陸部では、地域の特性に応じ、例えば、集落営農による「低コスト化」や「高付加価値化」の戦略を組み合わせた取組を推進すべきである。

林業
 林業の復興にあたっては、大規模合板工場などの再建を起点として、木材の安定供給を図り、被災地の復興に貢献すると同時に、持続的な森林経営を確立し、産業としての自立を目指す必要がある。このため、作業道の整備、森林施業の集約化などをより一層推進しなければならない。
 復興過程で発生する木質系震災廃棄物を発電や熱利用に結び付け、木質バイオマスによるエネルギー供給の拠点を形成する必要がある。これを間伐材利用のエネルギー供給に移行することで、将来的に持続可能な林業経営・エネルギー供給体制を構築しなければならない。

3) 水産業

水産業の重要性
 全国の漁業生産量の5割を占める7道県(北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城および千葉)を中心に広範な範囲で大きな被害が発生した。とりわけ、日本有数の漁業地域である三陸地方の津波被害は深刻であった。
 水産業は関連産業との結びつきが強く、地域経済や雇用の観点からも重要な役割を果たしている。特に、三陸地方では、拠点となるいくつかの水産都市のほか、漁業を中心に成り立っている集落が点在している。

沿岸漁業・地域
 沿岸漁業は、漁村コミュニティにおける生業を核として、多様かつ新鮮な水産物を供給している。小規模な漁業者が多く、漁業者単独での自力復旧が難しい場合が多いことから、漁協による子会社の設立や漁協・漁業者による共同事業化により、漁船・漁具などの生産基盤の共同化や集約を図っていくことが必要である。あわせて、あわびなどの地元特産水産物を活かした6次産業化を視野に入れた流通加工体制を復興していくことも必要である。
 沿岸漁業の基盤となる漁港の多くは小規模な漁港である。地先の漁場、背後の漁業集落と漁港が一体となって住民の生産、生活の場を形成している。その復興にあたっては、地域住民の意見を十分に踏まえ、圏域ごとの漁港機能の集約・役割分担や漁業集落のあり方を一体的に検討する必要がある。この場合、復旧・復興事業の必要性の高い漁港から事業に着手すべきである。

沖合遠洋漁業・水産基地
 沖合・遠洋漁業は、水揚量や市場の取扱規模が大きいだけでなく、関連産業の裾野も広い。適切な資源管理の推進、漁船・船団の近代化・合理化を進めるなどの漁業の構造改革に加え、漁業生産と一体的な流通加工業の効率化・高度化を図ることが必要である。
 関連産業との結び付きが強いことから、加工流通業、造船業などの関連産業が歩調を合わせて復興することが必要である。
 沖合・遠洋漁業の基盤となる漁港は、基地港であると同時に他地域の漁船によって水揚げされた水産物や周辺の漁港からの水産物が集積される拠点漁港となっている。市場や水産加工場などをもち、水産都市を形成し、水産物の全国流通に大きな役割を果たしている。したがって、一刻も早く漁業が再開されるよう、緊急的に復旧事業を実施するとともに、さらなる流通機能などの高度化を検討すべきである。

漁場・資源の回復、漁業者と民間企業との連携促進
 津波により、漁場を含めた海洋生態系が激変したことから、科学的知見も活用しながら漁場や資源の回復を図るとともに、これを契機により積極的に資源管理を推進すべきである。
 漁業の再生には、漁業者が主体的に民間企業と連携し、民間の資金と知恵を活用することも有効である。地域の理解を基礎としつつ、国と地方公共団体が連携して、地元のニーズや民間企業の意向を把握し、地元漁業者が主体的に民間企業と様々な形で連携できるよう、仲介・マッチングを進めるべきである。
 必要な地域では、以下の取組を「特区」手法の活用により実現すべきである。具体的には、地元漁業者が主体となった法人が漁協に劣後しないで漁業権を取得できる仕組みとする。ただし、民間企業が単独で免許を求める場合にはそのようにせず地元漁業者の生業の保全に留意した仕組みとする。その際、関係者間の協議・調整を行う第三者機関を設置するなど、所要の対応を行うべきである。

4) 観光

地域観光資源の活用と新たな観光スタイルの創出
 観光業は裾野の広い経済効果を生み、農林水産業と並び、復興を支える主要産業である。美しい海など自然の景観や豊かな「食」、祭・神社仏閣等の原文化、国立公園や世界遺産などのブランドなどの地域観光資源を広く活用して、東北ならではの新しい観光スタイルを作り上げ、「東北」を全国、そして全世界に発信することが期待される。
 その際、復興の過程において、美しい景観に配慮した地域づくりを行い、観光資源とすることも重要である。また、農林水産業等の地場産業への観光の視点を盛り込み、海からのアプローチも意識した新たな観光ルートを形成するなどの創意工夫が必要である。
 また、人材育成などを通じ、観光産業にかかわる者だけではなく、農林水産業などの地場産業、地域づくりNPOなど地域の幅広い関係者が「地域ぐるみ」で観光客を受け入れるような体制(プラットフォーム)を形成することが求められる。

復興を通じた人の交流と観光振興
 短期的には、風評被害防止のための正確な情報発信や観光キャンペーンの強化などにより、国内外旅行の需要の回復、喚起に早急に取り組むべきである。
 また、震災を機に生まれた絆を大切にし、復興プロセスを被災地以外の人々が分かち合うことも大切である。


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