1) 企業・イノベーション
企業への支援
東北地域は、地域経済における製造業が占める割合が高い。東北地域の製造業は、国内外の製造業の供給網(サプライチェーン)のなかでも重要な役割を果たしている。今回の震災はわが国経済に大きな影響を及ぼした。
全国的に見ても、震災の復興過程で事業を再開・継続する企業は、借入依存度を高め、資本が毀損しており、これに対する対応策を講じなければならない。また、企業の事業継続のため、企業に対する資金繰り支援等を十分な規模で実施する必要がある。
立地促進策
今回の震災を契機に、生産拠点を日本から海外に移転するなど、産業の空洞化が生じ、雇用を喪失するおそれがある。この点について、企業のわが国における立地環境の改善を図るため、供給網(サプライチェーン)の再生支援を含む立地促進策をとることにより、地域経済の復興とわが国産業の再生、雇用の維持、創出に積極的に取り組まねばならない。
また、今回の震災で、企業による事業継続計画策定の重要性が改めて確認された。その導入が促進されるべきである。
中小企業
製造業に加え、商業・観光業など様々な分野において、中小企業は、雇用者を多く抱えるなど、経済社会において大きな役割を果たしているが、今回の震災により、深刻な影響を受けた。すでに資金繰り支援や事業用施設の復旧・整備支援等が講じられている。しかし、さらに必要とされる支援が広く行き渡るよう、十分な事業規模をもって、さまざまな支援措置が確保されなければならない。また、震災の影響による風評被害などに対応するため、国内外への新たな販路開拓支援に早期に取り組むことが必要である。
被災した中小企業に加え、農林水産業等の事業性ローンや住宅ローンの借入者が、今後、復興へ向けての再スタートを切るにあたり、既往債務が負担となって新規資金調達が困難となるなどの問題(いわゆる二重債務問題)が生じることが想定される。これについては、金融機関・被災者のみならず、国・自治体を含め関係者がそれぞれ痛みを分かち合い、一体となって問題の対応にあたる必要がある。過去の震災などでの取り扱いとの公平感にも留意しつつ、可能な限りの支援策を講ずべきである。
一方、地域経済や中小企業の資金繰りを支えてきた金融機関にも震災により様々な影響が懸念されている。そこで、国の資本参加を通じて、金融機関の金融仲介機能を強化する枠組みである金融機能強化法の震災特例が活用されることを期待したい。
産業・技術集積とイノベーション
東北大学をはじめとして、多くの大学・大学病院、高専、研究機関、民間企業等が、地域における重要な知的基盤・人材育成機関として共存している。このような東北の強みを生かし、知と技術革新(イノベーション)の拠点機能を形成することが重要である。このため、被災した大学・大学病院、研究機関等の施設・設備をはじめ、教育研究基盤の早期回復を図り、より一層の強化をする必要がある。また、産学官の連携により、スピード感のある技術革新を可能にするため、中長期的、継続的、弾力的な支援スキームを構築せねばならない。さらに被災地の大学を中心に地域復興のセンター的機能を整備し、様々な地域ニーズに応えることが求められる。
これまでの実績を踏まえ、研究開発の促進による技術革新を通じて、「成長の核」となる新産業および雇用を創出するとともに、地域産業の再生をもたらし、東北に産業と技術が集積する地域を創り出すことが期待される。
東北における技術革新を通じた新産業・雇用の創出の具体例としては、以下が考えられる。
- 三陸沿岸域を拠点とする大学、研究機関、民間企業等によるネットワークを形成し、震災により激変した海洋生態系を解明し、漁場を復興させるほか、関連産業の創出にも役立たせる。
- 東北の製造業が強みを有する電子部品、デバイス・電子回路などの分野と、東北の大学が強みを有する材料、光やナノテク分野等の協働により、世界レベルの新規事業を興す。すでに、材料開発や情報技術分野等においては、高専における産学連携も進んでおり、より一層優秀な技術者が育成されることが期待される。
- 地域医療を復興するため、大学病院を核とする医療人材育成システムを構築するとともに、医療・健康情報の電子化・ネットワーク化とそれを活用した次世代医療体系を構築する。また、地元企業と連携して創薬・橋渡し研究等を実施し、新たな医療産業の創出に努める。
- 先端的な農業技術を駆使した大規模な実証研究を行い、成長産業としての新たな農業を日本全国に提案する。
2) 農林業
すみやかな復旧から復興へ
農地や水利施設の1日も早い復旧を目指すとともに、営農を再開するまでの間、その担い手を支援する観点から、復旧に係る共同作業を支援する必要がある。
復旧の完了した農地から順に営農を再開しつつ、市町村の復興計画の検討と並行して各集落において将来計画を検討する必要がある。
3つの戦略
被災地は、地形、風土、文化などの実態が多様であり、それに伴って、農業復興の方向も地域により多様である。集落単位での徹底した議論を行い、地域資源を活かした農業再生の戦略を考えていく必要がある。そこで、そのような議論を促すために、地域の類型別に下記の3つの戦略を組み合わせた将来像を示す必要がある。