(5)災害に強い国づくり
1) 震災に関する学術調査
今回の大震災は、わが国の歴史においても、また、世界史的にも稀な巨大災害であった。したがって、今後の防災対策を検討するため、東日本大震災について、各分野において詳細な調査研究を行うことが極めて重要である。
その際、地震・津波の発生メカニズムの分析や、防潮堤等構造物の効果、防災教育・訓練等ソフト対策の効果など、これまでの防災対策の長短あわせた再検証等が必要である。これに加え、避難行動など被災者が有する情報は、今後の教訓として重要である。さらに、被災者の心情や調査回数、個人情報保護の観点等に十分配慮しながら、被災者に対する聞き取りなどを実施することが重要である。
また、現在、各機関が様々な調査研究を実施・予定しているが、それらを有機的に連携し、総合的な調査となるような配慮が必要である。その調査結果については、研究者をはじめ広く一般にもアクセス可能で海外にも開かれたデータベース等を構築することが求められる。
今回の震災の経験を踏まえ、地震・津波災害と大震災からの復興過程に関する国際共同研究を推進すべきである。
2) 今後の地震・津波災害への備え
わが国はプレート境界部に位置し、甚大な被害をもたらす地震・津波は、全国どこでも発生する可能性がある。また、沿岸低地部に人口や資産が集中しており、津波による被害を受けやすい状況となっている。地震・津波の大きなリスクの存在を再認識し、被災した場合であっても、これをしなやかに受け止め、経済活動をはじめ諸活動が円滑に行われていくような災害に強い国づくりを進めるべきである。こうした「減災」の考え方に基づく国づくりは、日本の一つの強みとなる。
国は、被害想定のあり方と地震・津波対策の方向性を提示し、防災基本計画の見直し等に反映することが必要である。特に、今世紀前半の発生が懸念され、大きな津波を伴うことが想定される東海・東南海・南海地震への対策については、今回の教訓を踏まえ、新しい対策の方向性を示す必要がある。また、同じく発生が懸念される首都直下地震については、日本のみならず、世界への影響も十分考慮して、対策を強化するべきである。加えて、地震・津波の観測体制の強化、津波予報のあり方等の検討を図るべきである。
大規模な災害においては、国や地方公共団体が行う「公助」、国民一人一人や企業等が自ら取り組む「自助」、地域の人々や企業、団体が力を合わせて助け合う「共助」が、ともに重要である。少子高齢化、グローバル化の進展等を踏まえ、高齢者、外国人などの災害時要援護者への配慮も重要である。その際、災害発生時に治安上の問題が生じないように、住宅、店舗等の防犯対策など、犯罪の起きにくい地域づくりを推進する。また、今回の救援活動における警察、消防、海上保安庁、自衛隊などの役割の大きさを踏まえ、国と地方公共団体との連携強化も重要な課題である。
3) 防災・「減災」と国土利用
今回の大震災のように未曾有の大災害が生じた場合でも、わが国全体としての経済社会活動が円滑に行われるよう、国土利用のあり方そのものを考えねばならない。その際には、「減災」という考え方に基づいて、生命・身体・財産を守る安全面に十分配慮する必要がある。
そのため、防災拠点の整備とともに、広域交通・情報通信網、石油・ガスなどのエネルギー供給網や施設、上下水道などの社会基盤について、施設そのものの防災対策の強化と同時に、これらのルートの多重化が必要である。また、産業の空洞化を防止する上でも、災害に強い供給網(サプライチェーン)の構築を図ることが不可欠である。
国土の防災性を高める観点から、首都直下地震の可能性などを考慮し、各種機能のバックアップのあり方、機能分担・配置のあり方など広域的な国土政策の検討が必要である。
4) 災害の記録と伝承
わが国は、過去、幾度となく災害を経験し、その度ごとに、その教訓を活かし、防災対策を強化してきた。一方、特に歴史上数少ない災害については、時間の経過とともにその教訓は、忘却され、風化しやすい面もある。今後、同様の被害を起こさないために、地域・世代を超えて今回の教訓を共有化することが必要である。
今回の大震災時における日本人の態度に対し、海外において賞賛する報道も少なくない。そこで、海外からの大きな支援を受けたわが国にとり、今回の教訓を国際公共財として海外と共有することが必要である。こうして、防災・「減災」の分野で国際社会に積極的に貢献していくことは、わが国が今後果たすべき責務である。復旧・復興過程での教訓を活かして、アジアをはじめとする途上国の人材を育成するなど、人の絆を大切にした国際協力を積極的に推進すべきである。その観点から、被災地における国内・国際会議の開催・誘致を検討しなければならない。
地震・津波災害、原子力災害の記録・教訓について、中核的な施設を整備した上で、地方公共団体や大学など地元との十分な連携を図り、さらに官民コンソーシアムを活用した保存・公開体制をつくり出すべきである。また、原資料、津波災害遺産などを早期に収集し、国内外を問わず、誰もがアクセス可能な一元的に保存・活用できる仕組みを構築することが重要である。その際、関係する資料・映像等のデジタル化にも取り組み、新しい情報通信技術を用いたフィールドミュージアムの構築も推進すべきである。
そして、この大震災を忘れないためにも、多くの人々が参加し、地元発意のもと、地域特性に応じた樹種を選定して、「鎮魂の森」を整備することが望まれる。