第1節 震災からの復興 

コラム 東日本大震災に伴う被災状況の推計

 今回の大震災が生産活動に与えた影響は、被災地のみならず日本全国に広範に及ぶものであった。国土交通省においては、一定の前提を置いた経済モデルにおいて、震災により資本所得(資本ストックから得られるフローの所得で、産業連関表上の営業余剰と資本減耗引当の和)が減少したことによる波及的な影響について地域別に算定を試みた。
 
図1 被災状況の推計結果(域内総生産)

図1 被災状況の推計結果(域内総生産)

 その結果、域内総生産については、全国約1.25兆円の減少(0.25%減)、県別では宮城、岩手、福島、茨城、千葉の順で減少が大きい。ゾーン別では、岩手県沿岸部(3,222億円、約48%減)、宮城県内陸部(3,139億円、約10%減)、宮城県沿岸南部(2,345億円、約6%減)の順で減少額が大きい(図1)。被災地(本試算において被災率を算定した地域で、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県)以外は生産の代替効果等によりプラスの影響があったとの結果が得られているが、同被災地からの中間投入の減少による影響のみを抽出すると、いわゆるサプライチェーンの寸断による部品調達の支障が全国の全てのエリアにわたっていることがわかる(図2)。
 
図2 被災状況の推計結果(岩手、宮城、福島、千葉、茨城からの中間投入減少額)

図2 被災状況の推計結果(岩手、宮城、福島、千葉、茨城からの中間投入減少額)
Excel形式のファイルはこちら

 また、一人当たり実質所得水準も全ての地域でマイナスとなっており(図3)、被災による影響は家計部門においても全国的に拡大している。
 
図3 被災状況の推計結果(一人当たり実質所得水準)

図3 被災状況の推計結果(一人当たり実質所得水準)
Excel形式のファイルはこちら

 本試算においては、一部の資本が毀損したことを前提としており、社会資本ストックの毀損の影響は加味していないが、経済機能が集中している首都圏等において大規模地震等が発生した場合に全国に与えるインパクトは更に大きなものとなることが予想される。今後起こりえる大規模災害に対しては、全国的なレベルでストックの毀損に対する影響を抑える総合的な取組みが必要である。

〈本試算の留意点〉
○本モデルでは、震災による資本所得の減少が1年間回復しなかった場合の経済的影響のみを測定しているため、復興関連事業の実施等の影響、原発事故やそれに伴う風評被害の影響、震災後の経済変化(タイ集中豪雨による自動車産業等への影響、円高による輸出への影響等)は一切考慮されていない。
○本試算で、資本所得の減少の算定基礎となる被害率を算定した地域以外の地域(特に復興特区の対象区域である北海道、青森県、栃木県、埼玉県、新潟県、長野県)は資本所得の減少がないという前提となっている。
○このため、傾向的に被災によるマイナスの影響が小さくなる傾向があり、被災地の現場感覚とズレが生ずる可能性がある。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む