第1節 震災からの復興 

第I部 復興を通じた国土交通行政の転換〜持続可能で活力ある国土・地域づくりへ向けて〜

第1章 震災からの復興と国土交通行政の転換

第1節 震災からの復興

1 東北地方の現状

 未曾有の大震災であった東日本大震災の発生から1年余が過ぎ、被災地においてインフラ・交通の復旧が進むとともに、新しいまちづくりへ向けた復興が動きはじめている。被災地を含む東北地方の現状を概観する。

(人口の減少)
 被害の多かった岩手県・宮城県・福島県の3県においては、死者・行方不明者数18,870人に加え、県外への転出超過数(転出人口−転入人口)は41,216人(前年同期の約4倍)となっており、震災関連死の死者数を含め、人口が約6万1千人減少している。これら住民基本台帳上の住所の移転届出のあった転出超過数のうち3万人余が福島県からの転出超過数であるが、福島県による調査では、62,736人が県外へ避難とされており、住民基本台帳上の住所を移転していない避難者も多くいる。
 3県ともに震災直後は転出超過数が大きかったが、岩手県と宮城県では、平成23年7月から24年2月まで転入超過が続いた。福島県では、転出超過幅は縮小しているものの、転出超過が続いている。24年3月には、再び3県ともに転出超過となった。
 
図表1 岩手県・宮城県・福島県の人口減少

図表1 岩手県・宮城県・福島県の人口減少
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図表2 岩手県・宮城県・福島県の転出超過数の推移

図表2 岩手県・宮城県・福島県の転出超過数の推移
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 さらに、23年3月から11月までの3県の人口転出先を見ると、岩手県、宮城県からは首都圏(1都3県)への転出がほとんどを占める(岩手県86.2%、宮城県91.0%)のに対し、福島県からは全国に転出しており、首都圏への転出超過は全体の38.4%と少ない。
 
図表3 岩手県・宮城県・福島県からの人口転出先(平成23年3月〜11月期)

図表3 岩手県・宮城県・福島県からの人口転出先(平成23年3月〜11月期)

 さらに、平成23年における3県の転入・転出超過数を年齢別に見ると、宮城県で20歳代の転出超過数が急増したほか、福島県では、0〜14歳の区分と、25〜44歳の区分において転出超過数が急増している。岩手県では15〜24歳の区分の転出超過数が多いが、震災以前からの傾向でもある。
 
図表4 年齢5歳階級別転出超過数

図表4 年齢5歳階級別転出超過数
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 岩手県、宮城県、福島県内の状況を見ると、津波被害の大きかった沿岸部で人口が減少する一方で、盛岡市、仙台市においては人口が増加している(平成23年3月〜24年2月:仙台市7,080人増、盛岡市1,349人増)。沿岸被災地や福島県の被災者の一部が両県の中核都市及びその周辺へ移動していると推察される。
 また、千葉県では、液状化で大きな被害を受けた東京湾沿いの京葉地域の一部をはじめとして人口が転出超過となり、23年の人口は、昭和31年以来、55年ぶりの転出超過となった。同様に液状化等の被害を受けた茨城県でも、人口が平成20年以来3年ぶりに転出超過に転じた。
 
図表5 市区町村別の推計人口増減数(平成23年3月〜24年2月の累計)

図表5 市区町村別の推計人口増減数(平成23年3月〜24年2月の累計)

(生産は回復基調だが、業種によっては停滞)
 東北地方では、東日本大震災の影響により、景気は依然として厳しい状況にあるものの、持ち直している。東北地方の鉱工業生産は、他の地域に比べて震災後に大幅に減少し、未だ震災前の水準を下回っているものの、震災後の減産分を取り戻す動きや被災企業の復旧等から、緩やかな増加傾向にある。輸送機械工業は、自動車サプライチェーンの寸断の影響等により全国的に急落したものの、平成23年6月には、全国に先んじて震災前の水準まで回復した。震災直後に生産が停止していた鉄鋼業、パルプ・紙・紙加工品工業については、太平洋沿岸部の生産設備復旧に伴い、回復の動きが見られる。しかしながら、食料品・たばこ工業の生産水準は弱含みで推移している。
 
図表6 東北地方における鉱工業生産指数の推移

図表6 東北地方における鉱工業生産指数の推移
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(消費は、震災特需の影響も寄与し増加傾向)
 消費動向は、震災後の復旧・復興特需もあって増加を続け、震災前の水準まで回復している。大型小売店(百貨店・スーパー)では、衣料品や食料品の販売好調から前年の水準及び全国水準を上回っている。コンビニエンスストアでも、復興支援者の需要等から同様に前年の水準及び全国水準を上回っている。
 
図表7 東北地方における個人消費の推移

図表7 東北地方における個人消費の推移
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 また、乗用車についても、宮城県14万6千台、岩手県4万台、福島県5万台が津波により流失したと推計されているところであるが、震災による買い換え需要等から前年比増加が見られる。
 
図表8 岩手県・宮城県・福島県の新車販売台数及び中古車登録台数の推移

図表8 岩手県・宮城県・福島県の新車販売台数及び中古車登録台数の推移
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(公共投資の大幅増加)
 建設投資注1は、平成23年度は41兆9,900億円となる見込みであり、24年度は45兆3,100億円となる見通しである。うち、東北への建設投資は、23年度は4兆5,200億円となる見込みであり、24年度は、5兆8,700億円の見通しである。東北3県における公共工事(請負金額ベース)は、復旧・復興需要が寄与し、前年同月比増で推移している。国土交通省では、東日本大震災からの復旧・復興等に係る建設投資によって、23年度に17万4千人程度、24年度に49万8千人程度の雇用創出効果を見込んでいる。
 
図表9 建設投資額の推移

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図表10 公共工事請負金額

図表10 公共工事請負金額
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(住宅着工は持ち直しの動き)
 東北3県の住宅着工戸数は、震災直後前年同月比減で推移した後、持ち直しの動きが見られる。
 
図表11 住宅着工戸数

図表11 住宅着工戸数
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(復興のための民間投資も活発化)
 復旧・復興需要を主な背景として、その他の民間投資も活発である。東北3県の民間土木工事受注額を見ると、前年同月比が高い水準で推移している。
 
図表12 民間等からの土木工事等受注額

図表12 民間等からの土木工事等受注額
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 さらに、事務所、倉庫等の非居住用建築物の着工動向も活発であり、前年同月比で増加基調となっている。
 
図表13 非住居用着工建築物床面積

図表13 非住居用着工建築物床面積
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図表14 有効求人倍率(季節調整値)の推移(東北3県:全国)

図表14 有効求人倍率(季節調整値)の推移(東北3県:全国)
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 しかしながら、例えば宮城県においては、建設業等における有効求人倍率が6.84倍(建設躯体工事)、11.04倍(保安[警備員等])と高くなっており、回復基調の産業分野も1.42倍(金属加工)、1.09倍(輸送用機械)となっている一方で、地場産業である食料品製造業における有効求人倍率が0.50倍と全国より低い倍率で推移するなど、求人と求職のミスマッチが見られる。
 
図表15 有効求人倍率(建設躯体工事、保安、金属加工、輸送用機械、食料品製造)

図表15 有効求人倍率(建設躯体工事、保安、金属加工、輸送用機械、食料品製造)
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(輸送は回復基調)
 東北3県のトラック輸送について見ると、インフラやサプライチェーンの寸断等により、大幅に落ち込んだものの、復旧・復興に伴い、輸送量が回復しつつある。
 また、現地の企業動向を反映する一般貨物注2に比べ、宅配便が多い特別積合せ貨物注3のほうが回復は早く、平成23年5月以降はほぼ前年並みで推移している。
 
図表16 トラック輸送の推移(東北3県:全国)

図表16 トラック輸送の推移(東北3県:全国)
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 港湾取扱量については、太平洋側は、港湾の被災等により、取扱量が大幅に落ち込んだものの、港の復旧に伴って回復し、23年10月以降前年同月比増となった。国際拠点港湾である仙台塩釜港においては、震災後、コンテナ取扱個数が急落し、ゼロとなったが、23年6月の一部供用開始以降回復を見せ、23年12月には前年比の約7割まで回復、13,031TEU注4となっている。日本海側(秋田・山形)については、太平洋側(青森・岩手・宮城・福島・茨城)の代替輸送により、大幅に増加した。
 
図表17 東北地方の港湾別取扱量の推移

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図表18 仙台塩釜港のコンテナ取扱個数の推移

図表18 仙台塩釜港のコンテナ取扱個数の推移
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 航空貨物輸送は、仙台空港において、震災後急落し、23年8月から回復基調にあるものの、前年同月比は5割程度と低調に推移している。
 
図表19 空港利用概況(東北地区)貨物量

図表19 空港利用概況(東北地区)貨物量
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 航空旅客輸送については、仙台空港において、震災後急落したが、23年4月を底として輸送人員は増加し、震災前である22年の水準に戻っている。また、その他の空港についても、震災前の水準に戻っている。
 
図表20 東北地区の空港利用旅客数の推移

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(観光の落ち込み)
 観光は、震災後、大きく落ち込んだ後、回復基調にあるものの、依然として厳しい状況である。他県からの宿泊者数を見ると、福島県では平成23年3月に前年同月比で約6割減、12月時点でなお前年同月比約2割減である。宮城県も震災以降前年同月比が概ねマイナスで推移している。
 
図表21 各県毎の他県からの宿泊者数対前年同月比(H23/H22)の推移(観光客中心の施設)

図表21 各県毎の他県からの宿泊者数対前年同月比(H23/H22)の推移(観光客中心の施設)
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注1 「建設投資」とは、我が国の全国の建設活動の見通しを出来高ベースで把握したもの。建築(住宅、非住宅)、土木(政府、民間)から構成される。
注2 一般貨物とは、主に荷主ごとにまとまった荷物を車両単位で貸し切って目的地まで直接運ぶものをいう。
注3 特別積合せとは、複数の荷主の貨物を積み合わせてターミナル間での幹線輸送等を定期的に行うものをいう。宅配便はここに含まれる。
注4 TEU(Twenty-foot equivalent unit)とは、コンテナ船の積載能力やコンテナターミナルの貨物取扱数等を示すために使われる、貨物容量を表す単位。1TEUは20フィートコンテナ1個分を示す。

 

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