第1節 持続可能で活力ある国土・地域づくりをめぐる現状と課題 

4 地球温暖化・気候変動により脆弱となる国土

 持続可能な国土・地域づくりに向けては、前述した人口減少、高齢社会、財政制約、国際競争の激化といった社会経済的制約要因とともに、地球温暖化に伴う気候変動による国土の脆弱化が深刻な課題である。

(地球温暖化の状況)
 IPCC(国連の「気候変動に関する政府間パネル」)の第4次評価報告書(2007年)によると、大気中の温室効果ガスは、人為的排出量(2000〜2005年)が約72億炭素トン/年で、自然の吸収量の約31億炭素トン/年の2倍以上となっている。2005年の大気中のCO2濃度は379ppm注1で、年1.9ppm(1995〜2005年平均)の割合で増加している。我が国のCO2濃度についても、2012年には、気象庁の観測地点において1987年の観測開始以降初めて大気中のCO2濃度(月平均値)が400ppmを超えた注2
 
図表108 日本の年平均気温偏差

図表108 日本の年平均気温偏差

 このような温室効果ガス濃度の増加が気候に及ぼす影響については、気象庁の分析によると、世界の年平均気温は、100年当たり約0.68度C上昇している。日本については、100年当たり約1.15度C上昇と世界平均より高く、東京はヒートアイランド現象注3等の影響もあり、約3度C上昇している。
 
図表109 主要都市の年平均気温の推移

図表109 主要都市の年平均気温の推移

(「極端現象」の増加)
 IPCC第4次評価報告書では、「気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である」とされ、さらに、「極端な高温や熱波、大雨の頻度は引き続き増加する可能性が非常に高い」「将来の熱帯低気圧(台風及びハリケーン)の強度は増大し、最大風速や降水強度は増加する可能性が高い」と指摘されている。
 
図表110 2005年以降の世界の主な災害

図表110 2005年以降の世界の主な災害

 また、IPCCが2011年11月のIPCC第34回総会で承認・受諾した「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク管理に関する特別報告書」では、地球温暖化に伴う気候変動の影響により、暑い日/夜の数の増加、寒い日/夜の数の減少、強い降雨の強度の増加、平均海面水位上昇による沿岸域の極端な高潮の増加、熱帯低気圧の活動(風速、発生数、持続期間)の変化が生じた可能性が指摘されており、気候予測モデルを使って21世紀末までの極端現象についての大幅な増加を予測している。特に東アジア地域では、日最高気温について20年に一度の確率で現在起きている極端現象が2046〜65年において約2〜5年に一度の頻度となり、2081〜2100年において約1〜3年に一度の頻度となること、日降水量について20年に一度の確率で現在起きている極端現象が2046〜65年において約7〜12年に一度の頻度となり、2081〜2100年において約5〜10年に一度の頻度となる可能性が指摘されている。
 
図表111 日降水量の20年再現値の再現期間の変化予測(年)

図表111 日降水量の20年再現値の再現期間の変化予測(年)

 このように、地球温暖化が進むと極端現象の発生頻度が変化すると考えられ、異常気象や気象災害の多発が懸念される。
 世界の状況を見ると、2011年の主な異常気象・気象災害は下図のとおりであり、タイで起きたチャオプラヤ川流域の洪水は記憶に新しいところである。
 
図表112 主な異常気象・気象災害の分布図(2011年)

図表112 主な異常気象・気象災害の分布図(2011年)

 我が国の状況を見ると、1時間降水量50ミリ(mm)を超える大雨の発生回数は長期的に増加傾向(30年で約1.3倍)にあり、1時間降水量100ミリを超える大雨の発生回数も増加傾向にある。
 
図表113 1時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点当たり)

図表113 1時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点当たり)
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 また、年平均の土砂災害発生件数もここ30年間で約1.3倍に増加している。
 
図表114 1時間降水量100mm以上の年間発生回数(1,000地点当たり)

図表114 1時間降水量100mm以上の年間発生回数(1,000地点当たり)
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 台風についても、平成23年8月25日に発生した台風第12号が猛威を振るったことは記憶に新しい。マリアナ諸島の西の海上で発生した大型の台風第12号は、発達しながらゆっくりとした速さで北上し、9月3日10時頃に高知県東部に上陸、その後もゆっくりと北上した。このため、西日本から北日本にかけて、山沿いを中心に広い範囲で記録的な大雨となった。特に紀伊半島では、8月30日17時から9月5日24時までの総降水量は広い範囲で1,000ミリを超え、奈良県上北山村上北山では72時間雨量が1,652.5ミリとこれまでの国内の観測記録である1,322ミリ(宮崎県美郷町神門(みかど))を大幅に上回り、総降水量は1,814.5ミリに達し、一部の地域では解析雨量で 2,000ミリを超えるなど、記録的な大雨となった。このため、土砂災害、浸水、河川のはん濫等により、和歌山県、奈良県、三重県等で死者78名、行方不明者16名となった。また、複数の深層崩壊注4が発生し大きな被害が生じたほか、大規模な斜面崩壊に起因する河道閉塞注517箇所が形成され、そのうち5箇所において、その後の降雨による河道閉塞の決壊に伴う重大な二次災害のおそれが生じた。また、9月13日に発生した台風第15号は、20日には中心気圧が940ヘクトパスカル、最大風速が45m/秒の非常に強い台風となった。21日に静岡県浜松市付近に上陸した後、強い勢力を保ったまま東海地方から関東地方、そして東北地方へと進んだことにより、西日本から北日本にかけての広い範囲で暴風や記録的な大雨となった。風については、東京都江戸川区臨海町で最大風速が30.5m/秒となり、統計開始以来の観測史上1位を更新するなど、各地で暴風を観測した。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大72時間降水量で36地点、最大風速で20地点が統計開始以来の観測史上1位を更新した。台風第15号により、宮城県、静岡県、愛知県等で死者18名、行方不明者1名となり、沖縄地方から北海道地方の広い範囲で住家損壊、土砂災害、浸水害等が発生した。
 
図表115 土砂災害発生件数の推移

図表115 土砂災害発生件数の推移
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(低炭素社会への厳しいみちのり)
 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減については、平成9年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、先進国及び市場経済移行国の排出削減について数値目標を定めた京都議定書が採択された(平成17年発効)。同議定書においては、平成20年から24年までの5年間で、先進国全体で少なくとも基準年(原則平成2年(1990年))比5%の削減を目指すこととされており、我が国の削減目標は6%とされた。
 平成23年12月に南アフリカのダーバンで開催された気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)においては、京都議定書の温室効果ガス削減義務を平成25年以降も継続し、米国や中国を含むすべての国が参加する新たな枠組みを平成32年(2020年)に発効させるとした「ダーバン合意」が採択された。日本は議定書そのものからは離脱しないものの、削減義務の延長には参加せず、自主的な取組みを続け、削減量等の報告義務を負うこととされた。国土交通省としても、省エネや再生可能エネルギーの利用を推進し、気候変動分野での国際協力に積極的に貢献することが必要である。
 一方、最近における我が国の温室効果ガスの排出量を見ると、平成22年度において、前年度比で+4.2%、基準年比で−0.3%であり、吸収源対策と海外クレジットを考慮すると、基準年比−10.1%である。国土交通行政は、CO2排出の過半を占める運輸部門、家庭部門、業務その他部門に関わっている。同年度のCO2排出量の内訳を見ると、運輸部門からの排出量は約2億3,200万トンとなり、運輸部門からの排出量は減少傾向にあるものの、依然として産業部門に次いで排出量が多く、全体の約2割を占める。また、家庭部門、業務その他部門からの排出量はそれぞれ1億7,200万トン、2億1,700万トンで、それぞれ全体の14.4%、18.2%を占めている。
 
図表116 我が国の温室効果ガスの排出量の状況

図表116 我が国の温室効果ガスの排出量の状況
 
図表117 部門別のCO2排出量の推移と目標

図表117 部門別のCO2排出量の推移と目標
 
図表118 日本の各部門におけるCO2排出量

図表118 日本の各部門におけるCO2排出量
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図表119 運輸部門のCO2排出量(2010年度)の内訳

図表119 運輸部門のCO2排出量(2010年度)の内訳
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 京都議定書目標達成計画に基づき多くの対策・施策を展開し、大きな削減効果が得られたものが多いが、目標達成の見込みが低いと評価された対策もある。今後の対策・施策を検討するに際し、これまでの取組みと効果にしっかりと評価を加えるとともに、欧米諸国の先進的事例等を参考としつつ、必要となる対策・施策の追加・強化を実施することが重要な課題である。これらの取組みは、地域経済の活性化の観点からも、関連産業の競争力強化により雇用の創出につながる可能性が期待できるとともに、再生可能エネルギーの導入は、災害に対する対応力の高い自立分散型のエネルギーシステムの確立にも資することとなる。
 
図表120 京都議定書目標達成計画における国土交通省の地球温暖化対策

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注1 ppm(100万分の1)は、乾燥空気中の全分子数に占める温室効果ガスの分子数の割合
注2 岩手県大船渡市綾里において、平成24年3月、4月の月平均値が、それぞれ401.2ppm、402.2ppm(ともに速報値)を記録した。
注3 ヒートアイランド現象とは、都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象を指す。
注4 斜面崩壊のうち、表土層だけでなく深い地盤まで一体的に崩れる現象。大規模な崩壊となることが多い。
注5 大雨や地震で斜面が崩れ、崩落した土砂が河川をせき止める現象。「天然ダム」「土砂ダム」等とも呼ばれる。上流の水位が上昇し越流した場合、大規模な土石流や洪水氾濫が発生することがある。

 

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