第3節 将来を見越した取組み

第3節 将来を見越した取組み

◯1 「社会資本メンテナンス元年」の取組みとその未来への継承

 今ある社会インフラが、長期の未来にわたってその便益を発揮することを確保していくために、国土交通省では「将来を見越した」取組みとして戦略的・計画的な社会インフラのメンテナンスを実施している。

(1)「当面構ずべき措置」等に基づく総合的・横断的な取組みの進展
 高度成長期以降に整備した社会資本が今後急速に老朽化することを踏まえ、省を挙げて老朽化対策に取り組むため、2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、同年1月、国土交通大臣を議長とする「社会資本の老朽化対策会議」を設置した。同年3月、同会議において、老朽化対策の全体像を今後3箇年にわたる「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」としてとりまとめ、総合的・横断的な取組みを推進してきた(図表3-6)。
 
図表3-6 社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置工程表(概要)(2013.3.21決定)
図表3-6 社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置工程表(概要)(2013.3.21決定)

 その基本的な考え方は、国民が安心して既存のインフラを利用し続けることができるよう、適切な点検による現状確認及びその結果に基づく適確な修繕の実施並びにこれらの取組みを戦略的・計画的に進めるためのPDCAサイクルの要となる長寿命化計画等の策定・充実を推進するというものであり、具体的には、以下の取組みを進めてきた。

1)総点検の実施と修繕
 笹子トンネル天井板落下事故等を踏まえた緊急点検、また、利用者や第三者の被害の回避を最優先とした集中点検については、2013年度を目標におおむね完了し、点検結果を踏まえ、速やかに修繕を実施している。

2)基準・マニュアルの策定・見直し
 これまでの知見や点検結果等を踏まえ、点検内容や頻度等に係る各種基準・マニュアルについて、2013年度に予定していた策定・見直しをおおむね完了し、2014年度から新基準等での運用を開始しているところである。

3)維持管理・更新に係る情報の整備
 的確な情報に基づく維持管理・更新に係るPDCAサイクルの推進を図るため、台帳整備と合わせ、施設ごとの現況等の情報について、データベースの整備を進めている。また、施設・分野横断的な情報の共有・活用のために、2013年度には当該情報のプラットフォームのプロトタイプを整備した。さらに、2014年度にこれらの一部運用を開始するための機能構築を進めているところである。

4)新技術の開発・導入等
 劣化・損傷箇所の早期発見等に繋がる点検・診断技術の開発・導入のうち、非破壊検査等については、2013年度から、新技術情報提供システム(NETIS)等を活用し、公募による現場での試行と評価を実施するとともに、維持管理技術を対象とした維持管理支援サイトを設立し、技術特性の明確化に取り組んだ。また、ロボット等については、維持管理等の場面におけるニーズや分野を明確化するなど実用化に向けた方策を検討するため、2013年度に「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入検討会」を開催し、2014年度からは、民間企業や大学等の有用な技術を公募し、「次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会」により、現場検証と評価を実施し、活用と開発の両面を促進しているところである。
 さらに、モニタリング技術については、産学官が連携しながら、現場ニーズとシーズをマッチングさせ、現場実証を通じてその有用性を評価・分析すること等により技術開発等を推進するため、2013年度に「社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委員会」を開催し、2014年度からは、モニタリング技術に関して公募による現場実証と評価を実施する。

5)地方公共団体への支援
 地方公共団体は管理するインフラの施設数が多い一方、財政力や技術力、人員等の体制が厳しい状況のなかで老朽化対策に取り組んでいることから、2012年度補正予算で創設した防災・安全交付金により、施設の点検・修繕や長寿命化計画の策定に対して財政的な支援を実施している。また、体制的な支援として、地方公共団体等からの相談受付のワンストップ化を図るため、2013年7月に、各地方整備局等に老朽化対策に関する支援相談窓口を設置した。あわせて、維持管理に係る基準・マニュアルの提供や技術講習・研修制度の充実等を推進している。

6)維持管理等の担い手支援
 維持管理・更新の適切な実施を確保するためには、現場での点検や修繕等に実際に携わる人材の確保や技術力の向上が欠かせない。このため、地域における建設産業の技術力を維持・継承していく観点から、複数業務の包括発注、複数年契約の更なる活用等の入札契約制度の見直しに関する対策等を検討・実施している。
 また、官民が連携して維持管理・更新等を進めるために、地域との協働やPPP/PFIの活用により、適確な維持管理・更新が行われるような環境整備を推進している。

7)国の一元的なマネジメント体制や法令等の整備
 インフラの老朽化対策を分野横断的に適切に進め、現場での適確な維持管理・更新等を推進していく必要があることから、2013年3月、国土交通省に「社会資本老朽化対策推進室」を設置し、一元的なマネジメント体制を強化した。
 加えて、法令等については、点検等の維持管理に関する基準の位置付けの明確化等が課題となっていたことから、同年、道路法、河川法及び港湾法等について所要の改正を行った。

8)長寿命化計画の推進
 進捗に遅れが見られる地方公共団体等の長寿命化計画の策定については、海岸保全施設、ダム施設、砂防設備等を新たに防災・安全交付金等の対象とするとともに、河川施設・公園施設は防災・安全交付金等の対象となる期間を延長するなど、重点的な支援を行っている。
 また、国土交通省では、2012年7月に社会資本整備審議会・交通政策審議会の下に社会資本メンテナンス戦略小委員会を設置して調査・審議を進め、2013年12月に、「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について」の答申がとりまとめられた。答申においては、国土交通省や地方公共団体等が重点的に講ずべき施策が提言されており、今後、答申に基づき、同委員会において、点検・診断に関する資格制度や専門の技術者から構成される組織の創設、中小規模の市町村の行政界を越えた新たなメンテナンスの組織体制の確立等について、施策の具体化に向けた検討を行っていく。

(2)あらゆるインフラへの取組みの展開と未来への継承
 このような取組みを政府全体、さらには地方公共団体や民間事業者等にも広げ、あらゆるインフラに展開していくため、我が国の老朽化対策の全体像として、2013年11月に「インフラ長寿命化基本計画(以下「基本計画」という。)」が「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」においてとりまとめられた。
 その考え方は、点検・診断の結果に基づき、適切な時期に必要な対策を着実に実施するとともに、施設の状態や対策履歴等の情報を記録し、次期点検・診断等に活用するという、メンテンナンスのPDCAサイクルをしっかりと回すというものである。この取組みを進めることで、インフラの長寿命化を図り、大規模な修繕や更新をできるだけ回避することにより、中長期的な維持管理・更新等に係るトータルコストを縮減し、予算を平準化することに繋がるのみならず、成長戦略として、点検・診断や修繕・更新といった取組みに関わる新たな市場を生み出すことにも繋がる。
 基本計画は、これらの考え方に基づく必要な施策が位置付けられているが、それらを全国のあらゆるインフラで着実に実施していくため、各インフラの管理者等がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成することになっている。
 国土交通省としては、2014年5月21日に開催した「社会資本の老朽化対策会議」において、「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」のフォローアップを実施した上で、審議会の答申も踏まえつつ、基本計画に基づく国土交通省の行動計画をとりまとめたところである(図表3-7)。
 
図表3-7 国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画) 概要 (2014.5.21決定)
図表3-7 国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画) 概要 (2014.5.21決定)

 国土交通省の行動計画は、自らが管理するインフラに加え、地方公共団体等が管理するインフラについても個別施設毎の長寿命化計画等の策定や計画に基づく取組みが進むよう、国土交通省の具体的な取組みを確定・見える化し、メンテナンスエンジニアリングの構築に向けた道筋を提示した「メンテナンスの指針」である。
 行動計画に基づき、メンテナンスサイクルを全国に根付かせ、メンテナンス元年の危機感と行動を未来へ継承していくため、老朽化対策について、今後さらに重点的・計画的に取り組んでいく。


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