第1節 我が国における人口の動向

■2 合計特殊出生率と女性の就業

(1)合計特殊出生率の状況・傾向
 2013年の都道府県別の出生率注6を見ると、沖縄、南九州、山陰等で高く、南関東、近畿、北海道等では低い状況となっている(図表1-1-12)。
 
図表1-1-12 都道府県別に見た合計特殊出生率(2013年)
図表1-1-12 都道府県別に見た合計特殊出生率(2013年)

 出生率と都道府県における20歳〜49歳の未婚率を見ると、出生率の低い地域の方において未婚率が高い傾向が見られる(図表1-1-13)注7
 
図表1-1-13 合計特殊出生率と20歳〜49歳の未婚率・男女別(2010年)
図表1-1-13 合計特殊出生率と20歳〜49歳の未婚率・男女別(2010年)
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 また、平均初婚年齢では、全国的に妻の年齢より夫の年齢が1歳〜2歳高く、その分布は、夫、妻とも同じ傾向となっており、南関東及び京都府、大阪府等出生率の低い地域で初婚年齢が高くなっている(図表1-1-14)。
 
図表1-1-14 合計特殊出生率と平均初婚年齢(2012年)
図表1-1-14 合計特殊出生率と平均初婚年齢(2012年)
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(2)合計特殊出生率と女性の就業の関係
 人口減少が進み、生産年齢人口の減少も見込まれる中、女性は最大の潜在力を有しており、女性の社会参画は、持続可能な地域社会をつくっていく上でも有効であると考えられる。このような社会環境の中で、出生率を改善してくことが重要であることを踏まえ、以下、出生率と女性の就業の関係について、都道府県別のデータを基に分析してみる。

(男女別、配偶者の有無別での比較)
 まず、男女別、配偶者の有無別により、就業率注8の傾向に差があるかどうかを見てみる。
 20歳〜49歳男女の就業率を配偶者のあり・なしで比較すると、配偶者なしでは男女共に就業率は70%を超え、全国値で見ると男女の就業率はほぼ変わらない(図表1-1-15)。
 
図表1-1-15 合計特殊出生率と20〜49歳男女における就業率(配偶者なし)(2012年)
図表1-1-15 合計特殊出生率と20〜49歳男女における就業率(配偶者なし)(2012年)
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 しかし、配偶者ありでは、男性の就業率は一番低い沖縄県でも96%以上となっている一方、女性では一番低い兵庫県の55.3%と一番高い山形県の80.2%とでは大きな開きがあり、出生率の低い地域において女性の就業率が低い傾向となっている(図表1-1-16)。
 
図表1-1-16 合計特殊出生率と20〜49歳男女における就業率(配偶者あり)(2012年)
図表1-1-16 合計特殊出生率と20〜49歳男女における就業率(配偶者あり)(2012年)
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 以下、出生率とこれに関係する要素に即しながら、配偶者のいる女性の就業率に着目して分析することとする。

(地域毎の傾向について)
 出生率と就業の地域毎の傾向を見るため、図表1-1-16の中から、女性の有配偶就業率のみをプロットして詳しく見てみる(図表1-1-17)。これを見ると、出生率・女性有配偶就業率共に全国値より低い左下のエリアに東京都等の都市部の都府県が、両者が共に全国値より高い右上のエリアに中国地方等の地方部の県が比較的多く集まっているという分布の傾向が見てとれる。すなわち、都市部の都府県において出生率・女性有配偶就業率が低い一方、地方部の県においては共に高い傾向が認められる。
 
図表1-1-17 合計特殊出生率と20〜49歳女性(配偶者あり)の就業率の関係(2012年)
図表1-1-17 合計特殊出生率と20〜49歳女性(配偶者あり)の就業率の関係(2012年)
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(女性のライフステージとの関係)
 次に、女性は「結婚」と「出産・子育て」の2つの局面においてライフスタイルが大きく変わると考えられることから、これらの要素と就業率・出生率との関係について考察してみる。
 まず、図表1-1-15及び図表1-1-16から女性のデータのみを重ね合わせて見ると、出生率の低い地域の方が配偶者なしと配偶者ありの就業率の差が大きい傾向があることがわかる(図表1-1-18)。
 
図表1-1-18 合計特殊出生率と20〜49歳女性の就業率(配偶者あり・配偶者なし)(2012年)
図表1-1-18 合計特殊出生率と20〜49歳女性の就業率(配偶者あり・配偶者なし)(2012年)
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 次に、15歳以上有業者の平日における行動者平均仕事時間注9を男女別、ライフステージ別に見ると、男性では「独身期注10」より「子育て期注11」において仕事時間が長くなっているが、地域による平均仕事時間の傾向はあまりかわらない。
 一方、女性は逆に「独身期」より「子育て期」において平均仕事時間が短くなり、かつ、出生率の低い地域での仕事時間の大幅な減少に伴い、散布の傾向が大きく変化している(図表1-1-19)。図表1-1-18と併せて見ると、出生率の低い地域においては、女性の有配偶就業率が低いことに加え、有業者であっても仕事時間が短いという特徴が見られる。
 
図表1-1-19 合計特殊出生率と15歳以上有業者の行動者平均仕事時間(平日男女・ライフステージ別)(2011年)
図表1-1-19 合計特殊出生率と15歳以上有業者の行動者平均仕事時間(平日男女・ライフステージ別)(2011年)
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 つまり、出生率の低い地域では、女性の多くが「結婚」や「出産・子育て」により、離職または就業時間の短い仕事へ転職している可能性が高いと推察される。
 さらに、出生率と女性の有配偶就業率(以下、本項の本文中では単に「就業率」という。)の関係について、年齢階級別、雇用形態別に詳しく見るため、都市部・地方部それぞれの地域から東京都・大阪府、及び島根県・福井県を例にとり、比較・分析して見る。
 はじめに、年齢階級別の出生率注12と女性の就業率について見ると、出生率、就業率共に低い地域では、出産や子育てに関係すると見られる20代後半から30代の就業率が停滞若しくは低くなる、いわゆる「M字カーブ」を描く傾向があるが、どちらも高い地域では、M字の形は見られない(図表1-1-20)。
 
図表1-1-20 年齢階級別出生率と女性の有配偶就業率の比較(2010年)
図表1-1-20 年齢階級別出生率と女性の有配偶就業率の比較(2010年)
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 さらに、雇用状況(正規雇用・非正規雇用の割合)を見ると、出生率の高い地域のほうが男女とも正規雇用者率が高い。また、出生率が低い地域は、女性が子育て期に入ると見られる30代後半から正規雇用者率と非正規雇用者率の反転が見られるが、より出生率が高い地域の女性正規雇用者率は50代前半まで約50%前後の水準を保っている(図表1-1-21)。前者の地域において年齢と共に非正規雇用者率が増加している背景としては、子育てが一段落して社会復帰する際に、労働時間の短い仕事が選好される傾向がある、又は非正規雇用しか就けない傾向があるものと考えられる。
 
図表1-1-21 年齢階級別出生率と雇用状況の比較(2010年)
図表1-1-21 年齢階級別出生率と雇用状況の比較(2010年)
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 以上のことから、就業率の高い県においては、出産や育児のために離職する率が低く、女性が安定して仕事を続けられる環境があることにより、出産・育児の機会費用が低くなっているものと推察される。一方で、就業率の低い県においては、何らかの理由により「出産・育児」と「仕事」の両立にハードルがあり、やむを得ず二者択一を迫られている傾向にあることが背景にあるものと推察される。

(要因分析〜「出産・育児」か「仕事」か〜)
 では、女性が離職せず出産や子育てをすることができる要因とはなにか。
 一般的には、三世代世帯同居率や潜在的保育所定員率注13等が主な要因として挙げられており、この2つの要素は、女性の就業率に正の影響を与えていると考えられる(図表1-1-22)。
 
図表1-1-22 女性の就業率と三世代世帯率・潜在的保育所定員率(2010年)
図表1-1-22 女性の就業率と三世代世帯率・潜在的保育所定員率(2010年)
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 その他、通勤に要する時間が長い神奈川、奈良、東京、大阪は就業率・出生率も低く、通勤に要する時間が短い島根、福井等は就業率・出生率も高い(図表1-1-23)。また、宮崎、鹿児島等は三世代世帯率及び潜在的保育所定員率が高いとはいえない一方で、通勤に要する時間は短くなっており、職住近接であることも女性の就業率に影響を与えていると考えられる。
 
図表1-1-23 15〜64歳女性就業率と通勤時間(行動者平均時間)
図表1-1-23 15〜64歳女性就業率と通勤時間(行動者平均時間)
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 以上のことから、改めて図表1-1-17の散布図に説明を加えると、出生率・女性の就業率共に全国値より低い左下のエリア(都市部の都府県が多く集まっているエリア)に属する地域は、子育てと仕事の両立がしにくい地域であり、両者が共に全国値より高い右上のエリア(地方部の県が多く集まっているエリア)に属する地域は、子育てと仕事の両立がしやすい地域であるといえる(図表1-1-24)注14
 
図表1-1-24 合計特殊出生率と20〜49歳女性(配偶者あり)の就業率の関係(2012年)
図表1-1-24 合計特殊出生率と20〜49歳女性(配偶者あり)の就業率の関係(2012年)
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(まとめ)
 以上のように、女性が離職せずに出産や子育てができるためには、三世代世帯の同居率や保育所の定員率、職住近接等の要素が関係していると考えられる。
 このような環境が比較的恵まれていると考えられる地方部においては、その魅力を更に磨いた上で、雇用環境の確保等により、都市部から若者や女性に来てもらいやすい魅力ある地域づくりをすることが重要である。
 一方で、都市部については、子育てと仕事の両立の観点からは、上記の要素を改善することが必要であり、例えば、職住近接を可能とするような都市・地域構造にすることも、重要であろう。
 いずれにしても、今後、人口減少が進み、女性が働く機会を求められるのであれば、多様で柔軟な働き方の推進や、ワークライフバランスの更なる推進を図ることにより、女性だけでなく男性も共に、子育てと仕事の両立ができるようになり、女性が「出産・育児」か「仕事」かの選択を迫られずに済むような環境を整備していくことが重要であると考えられる。

【参考】合計特殊出生率について
 合計特殊出生率注15は、ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15〜49歳)の女性に限定し、年齢ごとの出生率を足し合わせたもの。一人の女性が生涯、何人の子供を産むのかを推計したものである(図表1-1-25)。これは、女性人口の年齢構成の違いを除いた「その年の出生率」を表しており、年次比較、国際比較、地域比較等に用いられている。
 
図表1-1-25 期間合計特殊出生率の計算
図表1-1-25 期間合計特殊出生率の計算


注6 本節「1.(1)」で定義したとおり、以下、「2.」の本文中では、合計特殊出生率を出生率と記載している。
注7 本項では図表内の実線(ピンク)は全国値を示す。
注8 本項中で総務省「就業構造基本調査」より図表を作成している場合、本文や図表のタイトルでは「有業率」を「就業率」と表記している。
注9 行動者平均仕事時間とは、一人1日当たりの平均仕事時間数である。
注10 独身期とは、子供、配偶者のいない者である。
注11 子育て期とは、配偶者と30歳未満の無業の子供がいる者である。
注12 ここでいう出生率は各年齢階級の女性1000人あたりの出生数である。
注13 潜在的保育所定員率とは、保育所定員を20〜39歳の女性の人口で除したもの。潜在的保育所定員率=保育所定員/20〜39歳女性人口。
注14 2012年の47都道府県における合計特殊出生率と20-49歳有配偶女性就業率のデータ(図表1-1-24)について、線形は正の傾きを示しているが、係数で見ると相関はほとんど認められない。
参考までに、合計特殊出生率が全国値に比べて突出して高くなっている沖縄県を除いて係数を算出した場合、弱い相関関係が認められる。ただし、相関関係は必ずしも因果関係を意味するものではない。なお、沖縄県の合計特殊出生率は、全国平均値から標準偏差の3倍を超える値となっている。
注15 ここで説明している合計特殊出生率は「期間」合計特殊出生率である。他に「コーホート」合計特殊出生率があるが、一般的に合計特殊出生率といった場合、「期間」合計特殊出生率を利用するため、ここでは「コーホート」合計特殊出生率についての説明はしていない。詳しくは、厚生労働省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html)参照。


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