第2節 自然災害対策

■2 災害に強い安全な国土づくり・危機管理に備えた体制の充実強化

(1)水害対策
 我が国の大都市の多くは洪水時の河川水位より低い低平地に位置しており、洪水氾濫に対する潜在的な危険性が極めて高い。これまで、洪水を安全に流下させるための河道の拡幅、築堤、放水路の整備や、洪水を一時的に貯留するダム、遊水地等の治水対策を進めてきたことにより、治水安全度は着実に向上してきている。しかしながら平成26年にも、相次いで日本に接近した台風第12号、第11号による四国での豪雨災害や25年に続く京都府北部での豪雨災害等、各地で水害が発生している。頻発する集中豪雨等による被害を防止・軽減するため、近年の災害の形態や気候変動の影響等も踏まえながら、予防的な治水対策や再度災害防止対策等のハード整備や、水防体制の強化、河川情報の提供等のソフト施策を総合的に推進している。
 また26年に発生した洪水等において、各地でこれまでの治水事業が効果を発揮している。例えば、台風第18号による大雨では鶴見川流域で戦後2番目の雨量を記録したが、鶴見川多目的遊水地における154万m3(過去最大)の貯留など、これまで講じてきた対策が効果を発揮し浸水被害を大幅に軽減した。
 
図表II-7-2-2 鶴見川多目的遊水地
図表II-7-2-2 鶴見川多目的遊水地

1)予防的な治水対策
 大規模な水害が発生すると、人的、経済的被害が発生するなど、社会経済活動に大きな影響を与え、その復旧・復興には、多大な時間と費用を要することから、それを未然に防止する予防的治水対策が重要である。そのため、築堤、河道掘削、ダム、放水路等の治水施設の整備を計画的に実施している。また、既存施設の有効活用として、既設ダムのかさ上げや容量再編等による治水機能の増強等のダム再生事業にも取り組んでいる。さらに、既設の堤防については、洪水時における浸透破壊や侵食に対して安全性が不十分なものについて、強化対策を推進している。
 また、「人口が集中した区域で、堤防が決壊すると甚大な人的被害が発生する可能性が高い区間」においては、まちづくり事業と一体となって、地域住民の人命を守る安全で良好な住環境を形成するとともに、河川から離れた地域の安全度も高めるため、施設の計画規模を上回る洪水に対しても決壊しない高規格堤防の整備を実施している。

2)水害の再度災害防止対策
 近年、甚大な水害を受けた地域においては、同規模の洪水で再び被災することがないよう、河川の流下能力を向上させるための河道掘削や築堤等の実施、内水氾濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し、浸水被害の防止、軽減に努めている。

3)流域の特性等を踏まえた様々な治水対策
 流域の開発に伴う治水安全度の低下が著しい河川や、従来から浸水被害が著しい既成市街地の河川においては、流域の持つ保水、遊水機能の確保が重要である。このような河川では流域対策の推進を図るなど、地域の特性を踏まえた多様な手法により安全・安心の確保を図っている。

(ア)総合的な治水対策
 近年、流域の都市開発による不浸透域の拡大に伴う洪水時の河川への流出量の増大等により、治水安全度の低下が著しい都市河川においては、河川の整備に加えて流域の持つ保水・遊水機能の確保、災害発生のおそれが高い地域での土地利用の誘導、及び警戒避難体制の確立等、総合的な治水対策が重要である。その一環として雨水貯留施設の整備を促進するため、流域貯留浸透事業、税制措置等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。
 さらに、都市部において浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水被害を防ぐため、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づき、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が協働して、雨水貯留浸透施設の整備、雨水の流出の抑制のための規制等の流域水害対策を推進している。

(イ)局地的な大雨への対応
 近年、短時間の局地的な大雨等により浸水被害が多発していることから、計画を超えるような局地的な大雨に対しても住民が安心して暮らせるよう、河川と下水道の整備に加え、住民(団体)や民間企業等の参画の下、浸水被害の軽減を図るために実施する総合的な取組みを定めた計画を「100mm/h安心プラン」として登録し、浸水被害の軽減対策を推進する取組みを実施している。
 
図表II-7-2-3 岐阜県多治見市における100mm/h安心プランに基づく対策事例
図表II-7-2-3 岐阜県多治見市における100mm/h安心プランに基づく対策事例

(ウ)土地利用と一体となった治水対策
 近年、浸水被害が著しい地域であり、土地利用状況等により、連続した堤防を整備することに比べて効率的かつ効果的な場合には、輪中堤注1の整備等と災害危険区域の指定等による土地利用規制とを組み合わせる土地利用と一体となった治水対策を地方公共団体等と協力して推進している。

(エ)内水対策
 内水氾濫による浸水を防除し都市等の健全な発達を図るため、下水管きょや排水機場等の整備を進めている。しかしながら、近年、計画規模を上回る局地的な大雨等の多発、都市化の進展による雨水流出量の増大、人口・資産の集中や地下空間利用の拡大等による都市構造の高度化等により都市部等における内水氾濫の被害リスクが増大している。このため、下水道浸水被害軽減総合事業や総合内水緊急対策事業等を活用し、地方公共団体・関係住民等が一体となって、雨水流出抑制施設を積極的に取り入れるなどの効率的なハード対策に加え、降雨情報の提供、土地利用規制や内水ハザードマップの作成等のソフト対策、止水板や土のう等の設置や避難活動といった自助の取組みを組み合わせた総合的な浸水対策を推進している。

4)水防体制の強化
 都道府県や水防管理団体と連携し、出水期前に堤防等の合同巡視や情報伝達訓練、水防技術講習会、水防演習等を実施し、水防上特に注意を要する箇所の周知や水防技術の普及を図るなど、水害による被害を最小限にするための水防体制の強化に向けた支援を行っている。
 また、多様な主体の参画により地域の水防力の強化を図るため、浸水想定区域内の地下街等、要配慮者利用施設、大規模工場等における自主的な避難確保・浸水防止計画の取組みを支援している。特に地下街等については、接続ビル等を経由して浸水することも想定されるため、隣接する施設と共同で避難確保・浸水防止計画を作成する取組みを促進している。

5)洪水時の予報・警報の発表や河川情報の提供
 国土交通大臣又は都道府県知事は、流域面積が大きい河川で洪水によって国民経済上重大又は相当な損害が生じるおそれのある河川を洪水予報河川として指定し、気象庁長官と共同して水位又は流量を示した洪水予報を発表している。また、洪水予報河川以外の主要な河川を水位周知河川として指定し、洪水時に氾濫危険水位(特別警戒水位)への到達情報を発表している。平成27年3月末現在、洪水予報河川は419河川、水位周知河川は1,568河川が指定されている。
 河川の水位、雨量、洪水予報、水防警報等の河川情報をリアルタイムに収集、加工、編集し、ウェブサイト「川の防災情報」注2において、河川管理者、市町村、住民等に提供を行っており、洪水時の警戒や避難等に役立てられている。
 また、放送局等と協力して地上デジタルテレビのデータ放送により、河川の水位や雨量情報を提供する取組みを進めており、27年3月までに全国51放送局にて提供が開始されている。雨量観測に当たっては、従来のレーダ雨量計(Cバンドレーダ)・地上観測網に加え、近年増加する集中豪雨や局地的大雨による水害や土砂災害等に対して、適切な河川管理や防災活動等に役立てるために、リアルタイムでより詳細な雨量観測が可能なXRAIN(国土交通省XバンドMPレーダネットワーク)注3の整備を行っている。インターネット上でも雨量情報の提供を行っており、27年3月末現在、38基での観測体制を構築している。

6)浸水想定区域の指定
 洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、「水防法」に基づき、河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域(浸水想定区域)を指定し、想定される浸水の深さ等を公表している。
 また、洪水が発生した場合でも住民が適切な避難行動をとることができるよう、洪水予報や水位到達情報の伝達方法、避難場所等を住民に周知するための洪水ハザードマップについて、市町村に対して作成や周知の技術的支援を行っているほか、全国の洪水ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注4を提供している。
 浸水想定区域については、洪水予報河川及び水位周知河川の約97%において指定・公表済みであり、洪水ハザードマップについては、浸水想定区域を含む市町村の約98%で作成済みである(平成27年3月末現在)。
 国土交通省では、浸水想定区域内の地下街等が浸水防止計画に基づき取得した浸水防止用設備に係る税制上の支援のほか、全国の河川関係事務所に設置した災害情報普及支援室を相談窓口として地下街等、要配慮者利用施設、大規模工場等による自衛水防の取組みに対する支援を行っている。

7)河川の戦略的な維持管理
 整備された河川管理施設等が洪水時等に本来の機能を発揮することができるよう、河道や施設等の状況を把握し、その変化に応じた適切な維持管理を実施している。
 これまで河川整備が進められてきた中で、堤防、堰、水門、排水機場等の管理対象施設が増大し、更にそれら構造物の経年劣化等が進行している。河川構造物については、点検等により、劣化状態やその進行を監視して適切な時期に対策を行う状態監視型の保全手法への移行を図りつつ、計画的に施設の長寿命化や更新を図ることとしている。また、社会資本整備重点計画において、国の管理する主要な河川構造物について、平成28年度までに長寿命化計画を作成することとしている。あわせて、長寿命化のために必要な技術開発等を進めていくとともに、中小河川についても適切な維持管理が進むよう、中小河川の維持管理に関する技術基準の検討を都道府県等と連携して進めている。さらに、各地方整備局等に常設の相談窓口を設け、技術支援等を行っている。
 25年の「河川法」の一部改正に伴い、河川管理施設又は許可工作物の管理者が、河川管理施設又は許可工作物を良好な状態に保つように維持、修繕すべきことを明確化し、政令において河川管理施設等の維持、修繕に関し、管理者が共通して遵守すべき最低限の技術的基準等を定めるとともに、これを踏まえ河川砂防技術基準維持管理編(河川編)の改訂を行い適切な維持管理を推進している。

8)河川における不法係留船対策
 河川における不法係留船は、治水対策上の支障(河川工事実施の支障、洪水時の流下阻害、河川管理施設の損傷等)やその他の河川管理上の支障(燃料漏出による水質汚濁、河川利用の支障等)の原因となっている。このような不法係留船については、適法な係留施設への移動の指導、撤去を進めている。
 平成25年5月には、放置艇(不法係留船)の解消に向けて「プレジャーボートの適正管理及び利用環境改善のための総合的対策に関する推進計画」を策定した。同年12月には河川法施行令を改正し、河川に船舶等を放置する行為を禁止した。

9)道路における冠水対策
 道路においては、平成20年8月及び9月の集中豪雨により、栃木県、広島県において道路のアンダーパス部が冠水し、車両が水没する事故が発生したことを踏まえ、各道路管理者、警察、消防等と冠水危険個所に関する情報を共有し、情報連絡及び通行止め体制を構築するとともに、冠水の警報装置や監視施設の整備、ウェブサイト注5による冠水危険箇所の公開等を推進している。

(2)土砂災害対策
 我が国は、地形が急峻で脆弱な地質が広く分布している。また、平地が少なく、経済の発展・人口の増加に伴い、丘陵地や山麓斜面にまで宅地開発等が進展した結果、土石流、地すべり、がけ崩れのおそれのある土砂災害危険箇所は約52万箇所存在し、多くの人々が土砂災害の危険と常に隣り合わせの生活を余儀なくされている。豪雨や地震等に伴う土砂災害は、過去10年(平成17年〜26年)の平均で年1,000件に達し、26年は1,184件、死者81名となる等、多大な被害が生じている。
 土砂災害による被害の防止・軽減を図るため、土砂災害防止施設の整備や警戒避難体制の充実・強化等、ハード・ソフト一体となった総合的な土砂災害対策を推進している。平成26年8月豪雨では、広島県広島市で土砂災害等が多数発生し、死者74名等の甚大な被害が発生したが、安佐南区大町地区では、整備されていた砂防堰堤が土石流を捕捉し、32戸の人家、80世帯の共同住宅等を土砂災害から守った。この他にも、各地で整備済みの土砂災害防止施設が効果を発揮した。
 
図表II-7-2-4 平成26年8月豪雨における砂防堰堤の効果
図表II-7-2-4 平成26年8月豪雨における砂防堰堤の効果

1)根幹的な土砂災害対策
 荒廃地域等からの大規模な土砂流出は、下流の市街地や道路・鉄道等の重要な公共施設に甚大な被害をもたらすおそれがある。荒廃地域等からの大規模な土砂流出及びそれに伴う下流の河床上昇を防ぎ、土砂流出に伴う被害から人命・財産・公共施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備を推進している。

2)土砂災害発生地域における緊急的な土砂災害対策
 土砂災害により人命被害や国民の生活に大きな支障が生じた地域において、安全・安心を確保し、社会経済の活力を維持・増進していくため、再度災害を防止する土砂災害防止施設の集中的な整備を推進している。

3)要配慮者を守る土砂災害対策
 自力避難が困難な高齢者や幼児等の要配慮者は、土砂災害の被害を受けやすく、土砂災害による死亡・行方不明者のうち、要配慮者が占める割合は高い。このため社会福祉施設、医療施設等の要配慮者利用施設を保全するため、砂防堰堤等の土砂災害防止施設の整備を重点的に推進している。
 
図表II-7-2-5 土砂災害による死亡・行方不明者に占める要配慮者の割合(平成22〜26年)
図表II-7-2-5 土砂災害による死亡・行方不明者に占める要配慮者の割合(平成22〜26年)

 また、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害特別警戒区域において、要配慮者利用施設等に係る開発行為を制限するとともに、市町村地域防災計画において施設の名称及び所在地、土砂災害に関する情報伝達等に関する事項を定める等、ハード・ソフト一体となった対策を推進している。

4)市街地に隣接する山麓斜面における土砂災害対策
 山麓斜面に市街地が接している都市において、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を保全・創出するために、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成を図っている。

5)道路に隣接する法面の防災対策
 道路に隣接する、崩壊の危険性のある法面に対し、法面防災対策を実施している。

6)地域防災力向上に資する土砂災害対策
 土砂災害リスクが高く、土砂災害の発生による地域住民の暮らしへの影響が大きい中山間地域において、地域社会の維持・発展を図るため、人命を守るとともに、避難場所や避難路、役場等の地域防災上重要な役割を果たす施設を保全する土砂災害防止施設の整備を推進している。

7)土砂災害防止法に基づく土砂災害対策の推進
(ア)土砂災害警戒区域等の指定等による土砂災害対策の推進
 「土砂災害防止法」に基づき、住民等の身体等に危害が生ずる土砂災害が発生するおそれのある区域を土砂災害警戒区域に指定し、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、建築物に損壊が生じ、住民等の身体等に著しい危害が生ずる土砂災害が発生するおそれのある区域を土砂災害特別警戒区域に指定し、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等を図るなどのソフト対策を講じている。また、警戒避難体制の整備やハザードマップの作成のためのガイドラインや事例集を示し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制やハザードマップの整備を促進している。
 
図表II-7-2-6 全国の土砂災害警戒区域等の指定状況(平成27年3月末)
図表II-7-2-6 全国の土砂災害警戒区域等の指定状況(平成27年3月末)
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 崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、がけ地近接等危険住宅移転事業の活用等により移転を促進している。平成26年度は、この制度により危険住宅17戸が除却され、危険住宅に代わる住宅7戸が建設された

(イ)土砂災害防止法の改正
 平成26年8月豪雨による広島市での土砂災害等において、土砂災害警戒区域等の指定や基礎調査がなされていない地域が多く、住民等に土砂災害の危険性が十分に伝わっていなかったことなど、土砂災害に関する避難体制の課題が明らかとなった。
 このような課題を踏まえ、「土砂災害防止法」の一部を改正し、27年1月に施行した。
 今回の改正によって、都道府県に対する基礎調査の結果の公表の義務付け、都道府県知事に対する土砂災害警戒情報の市町村長への通知及び一般への周知の義務付け、土砂災害警戒区域の指定があった場合の市町村地域防災計画への記載事項の具体化等の措置を講ずることとなった。

8)大規模な土砂災害への対応
 深層崩壊による被害を軽減するため、土砂災害防止施設の整備や深層崩壊の危険度評価マップ活用等による警戒避難体制の強化等ハード・ソフト一体となった土砂災害対策を推進している。
 河道閉塞(天然ダム)、火山噴火に伴う土石流等のおそれがある場合、「土砂災害防止法」に基づく緊急調査を行い、土砂災害が想定される土地の区域及び時期の情報を市町村へ提供している。近年、雨の降り方の局地化・集中化・激甚化や火山活動の活発化に伴う土砂災害が頻発しているため、緊急調査実施のための対応力向上を図る訓練や関係機関との連携強化を推進している。
 平成26年度は、9月に噴火した御嶽山において緊急調査を実施し、降雨に対する土砂災害に関する注意事項等について、情報提供を行った。

9)土砂災害警戒情報の発表
 大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時に、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう対象となる市町村等を特定し、とるべき措置等をお知らせする土砂災害警戒情報を都道府県と気象庁が共同で発表している。また、よりきめ細かな情報として、土砂災害発生の危険度をより詳細に示したメッシュ情報や雨量情報を提供している。
 
図表II-7-2-7 土砂災害警戒情報及び土砂災害警戒判定メッシュ情報・高解像度降水ナウキャスト
図表II-7-2-7 土砂災害警戒情報及び土砂災害警戒判定メッシュ情報・高解像度降水ナウキャスト

(3)火山災害対策
1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
 火山噴火活動に伴い発生する火山泥流や降雨による土石流等に備え、被害を防止・軽減する砂防堰堤や導流堤等の整備を進めている。また、継続的かつ大量の土砂流出により適正に機能を確保することが著しく困難な施設は、除石等を行い機能の確保を図っている。
 火山噴火活動に伴う土砂災害は、大規模となるおそれがあるとともに、あらかじめ噴火位置や規模を正確に予測することが困難であり、被害が大きくなる。このため、火山活動が活発かつ社会的影響が大きい29火山を対象に、事前の施設整備とともに刻々と変化する火山噴火活動と影響範囲に応じた機動的な対応を実施し、被害を軽減するため「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の策定を進めている。また、火山噴火活動から住民等の円滑な避難が行えるよう、市町村が策定する「火山防災マップ」の作成支援を行う。
 
図表II-7-2-8 「火山防災のために監視・観測体制の充実が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された火山における火山ハザードマップ、リアルタイム火山砂防ハザードマップ、噴火警戒レベルの整備状況
図表II-7-2-8 「火山防災のために監視・観測体制の充実が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された火山における火山ハザードマップ、リアルタイム火山砂防ハザードマップ、噴火警戒レベルの整備状況

 平成26年9月の御嶽山噴火に対しては、降灰後の土砂災害防止のため、「土砂災害防止法」に基づく緊急調査として、ヘリや現地調査により降灰状況を把握し、降灰後の土石流に関するシミュレーション結果を地元自治体へ提供した。また、監視カメラやセンサーの設置、緊急的なブロック積み砂防堰堤の整備を行った。

2)活発な火山活動に伴う降灰対策
 道路においては、噴火に伴う路上への降灰が交通の支障になるなど、社会的影響が大きいことから、路面清掃車による迅速かつ的確な除灰作業を行うための体制整備を推進している。

3)気象庁における取組み
 火山噴火災害の防止と軽減のため、全国の火山活動の監視を行い、噴火警報等の迅速かつ的確な発表に努めている。特に「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山については、観測施設を整備し、24時間体制で火山活動を監視している。
 また、各火山の火山防災協議会における避難計画の共同検討を通じて、噴火警戒レベル(平成27年3月末現在30火山で運用中)の設定・改善を進めている。

4)海上保安庁における取組み
 海域火山噴火の前兆として、周辺海域に認められる変色水等の現象を観測し、航行船舶に情報を提供している。また、海域火山噴火予知の基礎資料とするため、総合的な調査を実施し、海底地形、地質構造等の基礎情報の整備を行うとともに、伊豆諸島海域においてGNSS連続観測を実施し、地殻変動を監視している。
 平成25年11月に39年振りに噴火を開始した西之島火山については、27年3月時点で面積は約2.5km2(旧西之島を含む)まで拡大しており、引き続き、航空機により火山活動と島の変化の状況を継続して監視している。

5)国土地理院における取組み
(ア)火山活動観測・監視体制の強化
 全国の活動的な火山において、電子基準点(GNSS注6連続観測施設)によるGNSS連続観測、自動測距測角装置等の火山変動測量、GNSS火山変動リモート観測装置(REGMOS)等による連続観測を実施し、地殻の三次元的な監視を行っている。さらに、他機関のGNSS観測データを合わせた統合解析を実施し、火山周辺の地殻のより詳細な監視を行っている。また、陸域観測技術衛星2号(だいち2号)の干渉SAR注7による山体表面の変化の監視を開始した。なお、御嶽山の噴火時には空中写真撮影等を実施した。
 
図表II-7-2-9 GNSS連続観測がとらえた日本列島の動き
図表II-7-2-9 GNSS連続観測がとらえた日本列島の動き


(イ)火山噴火等に伴う自然災害に関する研究等
 GNSSや干渉SAR等の観測と解析の精度を向上する研究や、それらの観測データの解析結果から火山活動のメカニズムを解明する研究を行っている。

(4)高潮・侵食等対策
1)高潮・高波対策の推進
 頻発する高潮や風浪による高潮・高波災害等から人命や財産を守るため、海岸堤防等の整備や水防警報の発令等ハード・ソフト両面から施策を進めている。

2)海岸侵食対策の推進
 様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じていることから、河川、海岸、港湾、漁港の各管理者間で連携し、サンドバイパス注8やサンドリサイクル注9等による対策を進めている。

3)高潮にかかる防災情報の提供
 市町村の防災担当者がより的確に防災対応を実施できるよう、気象庁では高潮警報等を市町村単位で発表している。
 また、東日本大震災により地盤沈下が発生した地域の被災者や復興作業を支援するため、天文潮位(潮位の予測値)をまとめた「毎時潮位カレンダー」の公開等、高潮に関する情報提供を行っている。

(5)津波対策
1)津波対策の推進
 南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、最大クラスの津波に対してはハードとソフトの施策を組み合わせた多重防御による津波防災地域づくりを進めており、津波浸水想定の設定や津波災害警戒区域等の指定、避難計画の立案等において地方公共団体を支援してきている。
 海岸の津波対策においては、比較的発生頻度の高い津波を対象に必要な海岸堤防等の整備や耐震・液状化対策、水門等の自動化・遠隔操作化、「緑の防潮堤」等の多様な構造を含めた粘り強い構造の海岸堤防、防波堤等の整備等のハード対策を行うとともに、津波・高潮ハザードマップの作成支援や水門等の効果的な管理運用等のソフト対策を推進している。また、平成26年6月に「海岸法」が改正され、海岸の防災・減災対策の強化を図るため、堤防と一体的に整備される減災機能を有する樹林等を海岸保全施設に位置付けるとともに、水門等に関する操作規則等の策定が義務付けられた。なお、人口・機能が集積する三大湾の港湾においては比較的発生頻度の高い津波を越える津波を想定した防護水準の確保を検討している。
 港湾の津波対策については、大規模津波発生時にも港湾機能を維持するため、「粘り強い構造」の防波堤の整備や緊急確保航路等の航路啓開計画の策定等の防災・減災対策を推進している。
 さらに、全国の「港則法」の特定港(86港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。
 河川津波対策については、東日本大震災における堤防の液状化や津波の河川遡上による被害、水門操作員の被災等を踏まえ、河川堤防のかさ上げ、堤防等の耐震・液状化対策等を推進している。
 また、東北地方における4つの水系について、東日本大震災の教訓を踏まえた地震・津波対策の考え方や、地震に伴う地盤沈下等による河口周辺の地形変化を踏まえ、変更を行った河川整備基本方針、同基本方針に沿って策定・変更を行った河川整備計画に基づき地域と連携しつつ、河口部の河川堤防の整備等、地域の復興・まちづくりに向けた取組みを推進している。
 空港の津波対策については、南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、津波被災の可能性のある空港で、人命保護のため津波発生時の空港利用者等の避難方法等を定めた津波避難計画を策定し、計画に基づき津波避難訓練等の取組みを引き続き実施している。また、津波被災後に空港機能を早期に復旧するための計画を策定し、計画に基づき関係機関との協力体制構築等の取組みを推進している。
 鉄道の津波対策については、東日本大震災における、津波発生時の避難誘導などの状況を検証し、南海トラフ巨大地震等による最大クラスの津波からの避難の基本的な考え方(素早い避難が最も有効かつ重要な対策であること等)を踏まえた津波発生時における鉄道旅客の安全確保への対応方針と具体例等を取りまとめており、鉄道事業者における取組みを推進している。

2)津波にかかる防災情報の提供
 津波による災害の防止・軽減を図るため、気象庁は、全国の地震活動を24時間体制で監視し、津波警報、津波情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。また、東日本大震災によって明らかになった課題を受け、気象庁は、マグニチュード8を超える巨大地震の場合には「巨大」という言葉を使った大津波警報で非常事態であることを伝えるなど、新しい津波警報等を平成25年3月より運用している。
 27年3月末現在、気象庁は、38箇所の海底津波計、18箇所のGPS波浪計、172箇所の沿岸の津波観測点を監視し、津波警報の更新や津波情報等に活用している。
 船舶の津波対策に役立てるため、海上保安庁では、南海トラフ巨大地震の新しい想定(24年8月:内閣府)に基づいて、港湾域において予想される津波の挙動を示した津波防災情報図を作成・提供している。

3)津波避難対策
 将来、南海トラフ巨大地震をはじめとする巨大地震の発生による津波被害が懸念されることから、都市計画の基礎的なデータを活用した避難施設等の適正な配置を行うための方法を取りまとめた技術的な指針を策定し、平成25年6月に公表した。
 港湾の堤外地で活動する就労者等が津波等の災害時に安全に避難・退避できるよう、港湾の特殊性を考慮した津波避難計画策定の取組みを促進している。また、地方自治体が整備する津波避難施設について、防災・安全交付金等の活用により、整備の促進を図るとともに、津波等からの退避機能を備えた物流施設等を整備する民間事業者に対しても、(一財)民間都市開発推進機構による支援を行っている。

4)津波被害軽減の機能を発揮する公園緑地の整備
 東日本大震災の教訓を踏まえ、地方公共団体が復興まちづくり計画の検討等に活用できるよう「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」を平成24年3月に取りまとめ、公園緑地が多重防御の1つとしての機能、避難路・避難地としての機能、復旧・復興支援の機能、防災教育機能の4つの機能を有するものとし、減災効果が発揮されるための公園緑地の計画・設計等の考え方を示している。

5)官庁施設における津波対策
 官庁施設は、災害応急対策活動の拠点施設として、あるいは、一時的な避難場所として、人命の救済に資するものであるため、津波等の災害発生時において必要な機能を確保することが重要である。
 平成25年2月に社会資本整備審議会より答申を受けた「大津波等を想定した官庁施設の機能確保の在り方について」において示されたハード・ソフトの対策の組み合わせによる津波対策の考え方を踏まえ、官庁施設を運用管理する機関と連携しつつ、総合的かつ効果的な津波対策を推進している。

(6)地震対策
1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
 住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率を平成32年までに95%とする目標を定めるとともに、25年11月に施行された改正「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に基づき、不特定多数の人が利用する大規模建築物等に対する耐震診断結果の報告の義務付け、建築物の耐震性に係る表示制度の創設等により耐震化の促進を図っている。
 住宅・建築物の耐震化については、社会資本整備総合交付金等により支援しているが、25年度からは、診断義務付け対象建築物について、通常の支援に加え、重点的かつ緊急的な支援を実施している。

2)宅地耐震化の推進
 大地震時の滑動崩落被害を防止・軽減するため、改正「宅地造成等規制法」等により新規盛土造成の技術基準を強化している。また、滑動崩落や液状化による既存宅地等の被害を防止するため、宅地耐震化推進事業により、地方公共団体等が実施する変動予測調査や防止対策への支援等を実施している。

3)被災地における宅地の危険度判定の実施
 宅地において、二次災害を防止し、住民の安全確保を図るため、被災後に迅速かつ的確に危険度判定を実施できるよう、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力して体制整備を図っている。

4)密集市街地の改善整備
 防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な改善整備は喫緊の課題であり、「地震時等に著しく危険な密集市街地」(約6,000ha)について平成32年度までに最低限の安全性を確保することとしている。
 この実現に向け、幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え、避難や消防活動の向上を図る狭あい道路の拡幅等の対策を推進している。
 
図表II-7-2-10 密集市街地の整備イメージ
図表II-7-2-10 密集市街地の整備イメージ

5)オープンスペースの確保
 防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点、生活物資等の中継基地等となる防災拠点や周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容し、市街地火災等から避難者の生命を保護する避難地等として機能する防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を新川防災公園(東京都三鷹市)等8地域で実施している。

6)防災拠点となる官庁施設等の整備の推進
 官庁施設については、来訪者等の安全を確保するとともに、大規模地震発生時に災害応急対策活動の拠点施設として機能を十分に発揮できるよう、総合的な耐震安全性を確保する必要がある。このため、官庁施設の耐震化の目標を定め、計画的かつ重点的に整備を推進しており、平成26年度は中央合同庁舎第4号館(東京都千代田区)の耐震改修等を実施している。

7)公共施設等の耐震性向上
 河川事業においては、いわゆるレベル2地震動においても堤防、水門等の河川構造物が果たすべき機能を確保するため、耐震照査を実施するとともに、必要な対策を推進している。
 海岸事業においては、ゼロメートル地帯等において地震により堤防等が損傷し、大規模な浸水が生じないよう、また、南海トラフ地震等において、津波到達前に堤防等の機能が損なわれないよう、施設の機能や背後地の重要度等を考慮して、耐震対策を推進している。
 道路事業においては、地震による被災時に円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送を確保するため、緊急輸送道路等の重要な道路を優先して、橋梁の耐震補強対策や無電柱化を実施している。
 港湾事業においては、甚大な被害が想定される南海トラフ地震や首都直下地震等に対し、機能不全に陥らない経済社会システムを確保し、我が国の競争力を向上させ、国際的な信頼を獲得するため、災害の切迫性や港湾機能の重要度に応じて国内外の広域ネットワークの拠点となる港湾施設の耐震性の向上やコンビナート港湾の強靱化を図っている。
 空港事業においては、地震等被災時に救急・救命活動や緊急輸送の拠点となるとともに、航空ネットワークの維持、背後圏経済活動の継続性確保において重要と考えられる航空輸送上重要な空港等において、必要な管制機能を確保するための庁舎等及び最低限必要となる基本施設等の耐震化等を実施している。さらに今後発生が予想される南海トラフ地震等広域的な大規模災害を想定し、ハード・ソフト両面から空港施設の災害対策のあり方を検討している。
 鉄道事業においては、南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震に備えて、主要駅や高架橋等の鉄道施設の耐震対策を推進している。また、本州四国連絡橋(本四備讃線)の耐震補強を着実に実施し、南海トラフ地震等による被害を回避・軽減するとともに、本州と四国を結ぶ鉄道ネットワークの確保を図っている。
 下水道事業においては、地震時においても下水道が果たすべき機能を確保するため、防災拠点等と処理場とを接続する管路施設や水処理施設等の耐震化・耐津波化を図る「防災」と、被災を想定して被害の最小化を図る「減災」を組み合わせた総合的な地震対策を推進している。

8)大規模地震に対する土砂災害対策
 南海トラフ地震等の大規模地震に備え、地震により崩壊する危険性が高く、防災拠点や重要交通網等への影響、孤立集落の発生が想定される土砂災害危険箇所において、ハード・ソフト一体となった効果的な土砂災害対策を推進している。
 また、大規模地震発生後は、降雨や余震に伴い斜面崩壊等の二次災害のおそれが広範囲で高まる。震度や地形等に基づき斜面崩壊等の発生の危険度を迅速に評価し、危険度の高い箇所において緊急的な点検を行うとともに、点検結果を踏まえた応急対策を的確に実施することにより二次災害による被害の防止を図ることが重要である。このため、危険度評価の精度向上や広範囲での点検実施のための体制強化の取組みを推進している。

9)気象庁における取組み
 地震による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動及び地震防災対策強化地域にかかる地殻変動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、地震情報、東海地震に関連する情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。
 緊急地震速報については、同時に複数の地震が発生した場合でも震源を精度良く推定する手法、巨大地震の際に強く揺れる地域を適切に予想する手法などによる予想精度の向上や情報発表の迅速化を図るため、計算システムのソフト改修や、関係機関が海域や地中深くに設置した地震計のデータの活用を進めている。
 また、長周期地震動による人的・物的被害の早期把握といった地震直後の初動対応に資する有効な情報を提供するため、平成25年3月より、長周期地震動に関する観測情報を試行的に発表している。さらに、長周期地震動に関する予報の提供に向けた検討を進めている。

10)海上保安庁における取組み
 巨大地震発生メカニズムの解明のため、海溝型巨大地震の発生が将来予想されている南海トラフ等の太平洋側海域において、海底地殻変動を観測している。また、沿岸域及び伊豆諸島において、GNSS観測による地殻変動を監視している。

11)国土地理院における取組み
(ア)地殻変動観測・監視体制の強化
 全国及び地震防災対策強化地域等において、電子基準点等約1,300点によるGNSS連続観測、GNSS測量、水準測量等による地殻変動の監視を強化している。また、だいち2号による干渉SARで地盤変動の監視を開始した。

(イ)地震に伴う自然災害に関する研究等
 GNSS、干渉SAR、水準測量等測地観測成果から、地震の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。また、国土の基本的な地理空間情報及び過去の災害履歴や震度の情報を組み合わせて解析し、災害時における迅速な情報の取得・提供に関する研究開発を行っている。さらに、関係行政機関・大学等と地震予知に関する調査・観測・研究結果等の情報交換とそれらに基づく学術的な検討を行う地震予知連絡会、地殻変動研究を目的として関係行政機関等が観測した潮位記録の収集・整理・提供を行う海岸昇降検知センターを運営している。

12)帰宅困難者対策
 大都市において大規模地震が発生した場合、都市機能が麻痺し東日本大震災以上の帰宅困難者が発生することが予想されることから、人口・都市機能が集積した地域における滞在者等の安全確保のため、平成24年に都市再生安全確保計画制度を創設した。これは、全国で62の地域が指定されている都市再生緊急整備地域において、都市再生安全確保計画の作成や、都市再生安全確保施設に関する協定の締結、各種規制緩和等により、官民の連携による都市の防災性の向上を図る制度である。同年、都市再生安全確保計画の作成や計画に基づくソフト・ハード両面の対策を総合的に支援する「都市安全確保促進事業」を創設し、25年には、主要駅周辺を補助対象地域に追加する制度拡充を行うとともに、都市再生安全確保計画に記載された備蓄倉庫に係る課税の特例措置を創設した。

13)地下街の安心安全対策
 都市内の重要な公共的空間である地下街は、大規模地震発生時に避難者等の混乱が懸念されるとともに、施設の老朽化も進んでいることから、地下街の安心避難対策ガイドラインを策定し、利用者等の安心避難のための防災対策を推進している。

(7)雪害対策
1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
 「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、平成25年11月に「積雪寒冷特別地域道路交通確保五箇年計画」を閣議決定するとともに、雪寒指定道路の見直しを行い、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、24年7月に北陸雪害対策技術センターを設置し、全国の雪害対策に関する研究・開発、人材育成、自治体等への支援、国民への情報提供・啓発を推進している。異常な降雪時には、早い段階で通行止め措置を行い、除雪作業を集中的に実施するとともに、大型車の立ち往生等が発生した場合は、26年11月に改正された「災害対策基本法」を適用し、速やかに立ち往生車両の移動措置を行うことで、迅速に交通を確保することとしている。26年12月5日に中国・四国地方を中心に発生した大雪時には、「災害対策基本法」を初適用し、国道192号の愛媛・徳島県境で発生した立ち往生の移動措置を行なった。さらに、除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報共有体制の整備を進めている。

2)豪雪地帯における雪崩災害対策
 全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設の整備を推進している。

3)消流雪用水導入事業の実施
 豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。

(8)防災情報の高度化
1)防災情報の集約
 「国土交通省防災情報提供センター」注10では、国民が防災情報を容易に入手・活用できるよう、保有する雨量等の情報を集約・提供しているほか、災害対応や防災に関する情報がワンストップで入手できるようにしている。

2)ハザードマップ等の整備
 災害発生時に住民が適切な避難行動をとれるよう、市町村によるハザードマップの作成及び住民への配布を促進するとともに、全国の各種ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注11を開設している。
 
図表II-7-2-11 ハザードマップの整備状況
図表II-7-2-11 ハザードマップの整備状況

3)防災気象情報の改善
 気象庁では、警報・注意報を市町村ごとに発表するとともに、竜巻・雷・降水に対して「ナウキャスト」という1時間先までの分布図形式の予報を発表しており、平成26年8月からは、30分先までの降水分布を250mメッシュ(従来の4倍の解像度)で確認できる「高解像度降水ナウキャスト」の提供を開始し、スマートフォンにも対応している。また、竜巻注意情報について、同年9月から、竜巻発生の目撃情報が得られた場合に、目撃情報のあった地域の周辺で更なる竜巻などの激しい突風が発生するおそれが非常に高まっていることを伝える改善を実施している。

(9)危機管理体制の強化
 自然災害への対処として、災害に結びつくおそれのある自然現象の予測(気象庁)、災害時の施設点検・応急復旧等の対応(施設管理関係部局)、海上における救助活動(海上保安庁)等を行うとともに、職員の非常参集、災害対策本部の設置等の初動対応体制を構築しているところであるが、東日本大震災における災害対応を踏まえ、危機管理体制のさらなる強化を図ることとしている。また、被災した地方公共団体等に対して、国土交通省及び関係団体等が有する資機材、マンパワー、ノウハウ等を活用した支援等をより積極的に推進する。

1)TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)による災害対応
 TEC-FORCEとは、大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体等が行う、被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施することを目的に平成20年度に設置されたものである。26年度は、7月の台風第8号及び梅雨前線、8月の台風第12号・第11号、8月16日からの大雨、8月19日からの大雨による広島土砂災害、9月の御嶽山噴火、11月の長野県北部を震源とする地震等に対して、被害を受けた32都道府県、129市町村へ約1,600名の隊員、延べ約4,400人・日を派遣し、発災直後から被災状況の把握や被害拡大防止等の技術的な支援を実施した。
 
土砂災害危険個所の緊急点検(広島県広島市)
土砂災害危険個所の緊急点検(広島県広島市)

2)業務継続体制の強化
 政府全体の業務継続に関する計画(政府業務継続計画)が決定されたことを受け、国土交通省業務継続計画(第2版)について、これまでの取組みをフォローアップし、平成26年4月1日に国土交通省業務継続計画(第3版)を取りまとめた。さらに、物資の備蓄や本省の指示を待たず他の地域からの応援体制を確保(TEC-FORCEの即時出動)するなどしながら、業務継続体制の強化を図っているところである。

3)災害に備えた情報通信システム・機械等の配備
 災害時の情報通信体制を確保するため、国土交通本省、地方支分部局、関係機関等の間で、マイクロ回線と光ファイバを用いた信頼性の高い情報通信ネットワーク整備に加え、災害現場からの情報収集体制を強化するために衛星通信回線を活用した機動性の高いシステムを整備している。また、迅速な災害対応のために全国の地方整備局、事務所等に配備している災害対策用ヘリコプター、衛星通信車、排水ポンプ車、照明車等の災害対策用機械の整備を図り、大規模災害が発生した場合には、迅速に派遣できる体制をとっている。

4)実践的・広域的な防災訓練の実施
 起こり得る最悪シナリオを想定し、関係機関との連携や全国の地方整備局からのTEC-FORCE広域派遣等の実践的かつ広域的な防災訓練を積極的に実施した。また、水防月間(主に5月)を中心に、水防団による水防活動の実践訓練に加え、自衛水防組織等の多様な主体が参画した避難訓練、情報伝達訓練等を組み合わせた総合的かつ実践的な水防演習を実施した。
 さらに、東日本大震災では、大規模災害時における関係機関の連携の重要性があらためて認識されたため、地方支分部局等を中心とした指定地方行政機関、消防機関、自衛隊等、多数の団体が一体となった各種訓練を実施するなど、巨大地震等大規模災害に備えた広域的な防災体制の充実強化を図る取組みを進めている。

5)海上での初動対策の準備
 海上保安庁では、災害発生時に迅速に対応できるよう巡視船艇・航空機を24時間体制で配備している。また、災害の規模に応じて対策本部等を設置し、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施するなど、迅速かつ的確に対応している。

(10)ICTを活用した既存ストックの管理
 光ファイバ網の構築により、ICTを活用した公共施設管理、危機管理の高度化を図っている。具体的には、光ファイバを活用した道路斜面の継続監視による管理の高度化、インターネット等を活用した防災情報の提供等、安全な道路利用のための対策を進めている。また、水門等の遠隔操作、河川の流況や火山地域等の遠隔監視のほか、下水処理場・ポンプ場等の施設間を光ファイバ等で結び、遠隔監視・操作を実施するなど、管理の高度化を図っている。
 さらに、水門等の施設を迅速かつ一元的に操作し、津波・高潮被害の未然防止を図る津波・高潮防災ステーションの整備については、防災・安全交付金等により支援している。
 
図表II-7-2-12 津波・高潮防災ステーションのイメージ図
図表II-7-2-12 津波・高潮防災ステーションのイメージ図

(11)公共土木施設の災害復旧等
 平成26年の国土交通省所管公共土木施設(河川、道路、海岸、下水道等)の被害は、8月の広島市での短時間豪雨による土砂災害や11月の長野県北部地震等の大規模な災害が全国的に多発したことにより、約1,819億円(9,085箇所)が報告されている。
 これらの自然災害による被害について、被災直後から現地にTEC-FORCEを派遣するとともに、26年度から災害復旧技術専門家派遣制度を運用することにより、地方自治体からの要請に基づき、公益社団法人全国防災協会に登録された専門家を即日現地に派遣するなど、迅速な復旧・復興及び二次災害防止に向けた技術的助言等の被災自治体の支援を行った。
 また、特に被害が集中した自治体に対し、早期復旧を支援するため、災害復旧の迅速化に向け、災害査定における総合単価の使用限度額を撤廃するとともに、実地によらず机上で査定できる限度額を通常の300万円未満から1千万円未満に拡大するなど、査定の簡素化を行うことにより、事業採択までの事務手続を大幅に短縮した。
 さらに、台風第12号・第11号及び梅雨前線等に伴う豪雨、低気圧に伴う強風・豪雪・雪崩・波浪等の自然災害により被害を受けた地区(40件)に災害対策等緊急事業推進費を執行し、住民の安全・安心の確保に資するため、緊急に再度災害防止対策等を実施した。

(12)安全・安心のための情報・広報等ソフト対策の推進
 安全・安心の確保のために、自然災害を中心として、ハード面に限らずソフト面での対策の取組みを進めるため、「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に基づき、毎年、進捗状況の点検を行ってきたが、東日本大震災を受けて、ソフトとハードの調和的かつ一体的な検討が必要であることが顕在化したことから、社会資本整備重点計画・国土交通省防災業務計画の見直しを踏まえ、検討を行っている。


注1 住宅等がある区域の周囲を取り囲む堤防
注2 「川の防災情報」ウェブサイト:[インターネット版]http://www.river.go.jp、[携帯版]http://i.river.go.jp
注3 既存のレーダに比べ、より高頻度(1分ごと)、高分解能(250mメッシュ)での観測が可能。また、これまで5〜10分程度かかっていた配信に要する時間を1〜2分に短縮。
注4 「国土交通省ハザードマップポータルサイト」ウェブサイト:http://disaportal.gsi.go.jp
注5 「道路防災情報ウェブマップ」ウェブサイト:http://www.mlit.go.jp/road/bosai/doro_bosaijoho_webmap/
注6 Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム
注7 人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
注8 海岸の構造物によって砂の移動が断たれた場合に、上手側に堆積した土砂を、下手側海岸に輸送・供給し、砂浜を復元する工法
注9 流れの下手側の海岸に堆積した土砂を、侵食を受けている上手側の海岸に戻し、砂浜を復元する工法
注10 「国土交通省防災情報提供センター」ウェブサイト:http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/
注11 「国土交通省ハザードマップポータルサイト」:http://disaportal.gsi.go.jp/


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