第4節 交通分野における安全対策の強化

■7 道路交通における安全対策

 平成28年の交通事故死者数は、昭和45年のピーク時の1万6千人より4分の1の3,904人(対前年比213人減)まで減少し、昭和24年以来67年ぶりに4千人を下回った。しかし、高齢運転者による交通事故が多発するとともに、約半数の1,870人が歩行中・自転車乗車中に発生し、そのうち約半数が自宅から500m以内の身近な場所で発生するなど依然として厳しい状況である。このため、更なる交通事故の削減を目指し、警察庁等と連携して各種対策を実施している。
 
図表II-7-4-9 交通事故件数及び死傷者数等の推移
図表II-7-4-9 交通事故件数及び死傷者数等の推移
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(1)効率的・効果的な交通事故対策の推進
 道路の機能分化を推進することで自動車交通を安全性の高い高速道路等へ転換させるとともに、交通事故死者数の約6割を占めている幹線道路については、安全性を一層高めるために都道府県公安委員会と連携した「事故危険箇所」の対策や「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」により、効果的・効率的に事故対策を推進している。
 一方、幹線道路に比べ死亡事故件数が安定した減少傾向になっていない生活道路については、車両の通過交通抑制並びに速度低減による安全な歩行空間の確保等を目的に、ETC2.0などのビッグデータを活用して速度超過箇所や急ブレーキ箇所等の急所を事前に特定し、都道府県公安委員会と連携を図りながら、面的な速度規制と組み合わせた車道幅員の縮小・路側帯の拡幅、歩道整備、ハンプや狭さくの設置等の効果的な対策を行うなど、総合的な交通事故抑止対策を推進している。
 また、自転車対歩行者の死傷事故件数が過去10年で2割の減少にとどまっている状況であり、車道通行を基本とする自転車と歩行者が分離された形態での整備を推進している。
 反対車線への飛び出しによる死亡事故の発生確率が高い、暫定2車線の高速道路については、安全確保に向けた機動的な4車線化や付加車線の設置検証に加え、正面衝突事故防止対策として、ワイヤロープの設置検証を全国約100kmで実施する。

(2)通学路の交通安全対策の推進
 通学路については、平成24年4月に相次いだ集団登校中の児童等の事故を受け、学校や教育委員会、警察等と連携した「通学路緊急合同点検」を実施しており、その結果に基づく対策への支援を重点的に実施している。
 さらに、継続的な通学路の安全確保のため、市町村ごとの「通学路交通安全プログラム」の策定などにより、定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の取組みを推進している。

(3)ITを活用した高速道路上における安全運転支援
 我が国では世界に先駆けて、全国の高速道路上の路側機と車載器を活用したETC2.0サービスを開始しており、事故多発地点、道路上の落下物等の注意喚起及び積雪や越波等の状況に関する情報を自動車のカーナビ等に提供することにより安全運転支援を推進している。また、重大事故につながる可能性が高い高速道路での逆走に対し、「高速道路での今後の逆走対策に関するロードマップ」に基づき、IC・JCT部等での物理的・視覚的対策や、逆走車両を自動検知、警告、誘導する技術の実用化に向けての取組み等により、2020年までに高速道路での逆走事故をゼロにすることを目指している。

(4)安全で安心な道路サービスを提供する計画的な道路施設の管理
 全国には道路橋が約73万橋、道路トンネルが約1万本存在するが、高度経済成長期に集中的に整備した橋梁やトンネルは、今後急速に高齢化を迎える。
 こうした状況を踏まえ、道路の適切な管理を図るため、点検を行うべきことの明確化などを内容とする「改正道路法」を平成25年に公布し、政令において、道路の維持・修繕に関する技術的基準等を定めたほか、橋梁・トンネルなどは、5年に1度、近接目視で点検する等、道路管理者の義務を明確化する省令を、26年3月31日に公布した。
 また、同年4月14日に、社会資本整備審議会道路分科会において取りまとめられた「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を受けて、メンテナンスサイクルを回す仕組みの構築に取り組んでいるところであり、特に、多くの施設を管理する地方公共団体に対しては、全都道府県に設置している「道路メンテナンス会議」を活用したメンテナンスに関する技術情報の共有、地域単位での点検業務の一括発注の実施、地方公共団体職員向けの研修の実施、国の職員による直轄診断・修繕代行事業の実施、大規模修繕・更新に対する補助制度での支援など各種支援を実施しているところである。
 さらに、高速道路の老朽化に対応するため、同年6月の「道路法」等の改正により新たに業務実施計画等に位置づけた大規模更新・修繕事業を計画的に進めているほか、28年10月には、跨線橋の計画的な維持及び修繕が図られるよう、あらかじめ鉄道事業者等との協議により、跨線橋の維持又は修繕の方法を定めておくべき旨の省令を公布し、第三者被害の予防及び鉄道の安全性確保等に取り組んでいる。

(5)軽井沢スキーバス事故を受けた対策
 平成28年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を踏まえ、二度とこのような悲惨な事故を起こさないよう、6月3日に取りまとめた「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」に掲げられた再発防止策について、実施可能なものから速やかに実施している。

(6)「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」の着実な実施
 平成24年4月に発生した関越道高速ツアーバス事故を受けて、25年4月に「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」を策定し、25・26年の2年間にわたり、高速ツアーバスの新高速乗合バスへの移行・一本化や交替運転者の配置基準の設定等の措置を実施するとともに、その実施状況について随時フォローアップ・効果検証を行ってきた。引き続き、街頭監査の実施や継続的に監視すべき事業者の把握など本プランの各措置の実効性を確保し、バス事業の安全性向上・信頼の回復に向けた取組みを推進していく。

(7)事業用自動車の安全プラン等に基づく安全対策の推進
 平成21年から30年までの10年間で,「事業用自動車の死者数・人身事故件数を半減」,「飲酒運転ゼロ」を目標として策定した「事業用自動車総合安全プラン2009」について26年11月に中間見直しを行い,業態毎の事故発生傾向、主要な要因等を踏まえた事故防止対策の実施や運転者の体調急変に伴う事故防止対策の浸透・徹底,監査情報や事故情報など各種情報を活用した事故防止対策の実施等の新たな施策を追加し,更なる事故削減に向けた各種取組みを進めている。

1)業態毎の事故発生傾向、主要な要因等を踏まえた事故防止対策
 輸送の安全を図るため、トラック・バス・タクシーの業態毎の特徴的な事故傾向を踏まえた事故防止の取組みについて評価し、更なる事故削減に向け、必要に応じて見直しを行う等、フォローアップを実施している。

2)運輸安全マネジメントを通じた安全体質の確立
 平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,28年において537者に対して実施した。

3)自動車運送事業者に対するコンプライアンスの徹底
 自動車運送事業者における関係法令の遵守及び適切な運行管理等の徹底を図るため、悪質違反を犯した事業者、や重大事故を引き起こした事業者等に対する監査の徹底及び、法令違反が疑われる事業者に対する重点的かつ優先的な監査を実施している。
 また、28年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を受け、同年6月に取りまとめられた総合的対策により、法令違反を早期に是正させる仕組みや行政処分を厳格化して違反を繰り返す事業者を退出させるなどの措置を同年12月より実施した。
 さらに、監査情報や事故情報等の統合及び分析機能の強化を図り、事故を惹起するおそれの高い事業者を抽出することにより、事故の未然防止のための監査機能の強化を図るため、「事業用自動車総合安全情報システム」の運用を開始した。

4)飲酒運転の根絶
 点呼時にアルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認の徹底や、IT点呼の対象を一定の条件を満たしたGマーク営業所以外の営業所や遠隔地にも拡大し、アルコール検知器使用の実効性の向上を図った。また、事業用自動車の運転者による覚醒剤や危険ドラッグ等薬物使用による運行の絶無を図るため、薬物に関する正しい知識や使用禁止について、運転者に対する日常的な指導・監督を徹底するよう、講習会や全国交通安全運動、年末年始の輸送等安全総点検なども活用し、機会あるごとに事業者や運行管理者等に対し指導を行っている。

5)IT・新技術を活用した安全対策の推進
 自動車運送事業者における交通事故防止のための取組みを支援する観点から、デジタル式運行記録計等の運行管理の高度化に資する機器の導入や、過労運転防止のための先進的な取組等に対し支援を行っている。また、健康や過労運転に起因した事故の未然防止のため、運転特性や体調管理等に関する情報について、ビッグデータとして集積、活用し、運転者の体調に即した運行経路の設定が可能になる等の事故防止運行モデルの検討を開始した。

6)事業用自動車の事故調査委員会の提案を踏まえた対策
 「事業用自動車事故調査委員会」において、社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故について、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析を行っているところであり、平成27年1月9日に東京都大田区で発生した、乗合バスが信号機の柱に衝突した事故などの特別重要調査対象事案等について19件の報告書を公表した。
 
図表II-7-4-10 事故調査報告書
図表II-7-4-10 事故調査報告書

7)運転者の体調急変に伴う事故防止対策の推進
 26年4月に改訂した、「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」で推奨している、睡眠呼吸障害、脳疾患、心疾患等の主要疾病の早期発見に寄与する各種スクリーニング検査をより効果的なものとして普及させるため、27年9月に、「事業用自動車健康起因事故対策協議会」を立ち上げ、普及に向けた課題を整理するための事業者へのアンケート調査等を行った。

8)国際海上コンテナの陸上運送の安全対策
 国際海上コンテナの陸上運送の安全対策を充実させるため、平成25年6月に新たな「国際海上コンテナの陸上における安全輸送ガイドライン」等を策定し、地方での関係者会議や関係業界による講習会等を通じ、ガイドライン等の浸透や関係者と連携した実効性の確保に取り組んでいる。

(8)自動車の総合的な安全対策
1)今後の車両安全対策の検討
 平成28年6月に取りまとめられた交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会の報告を踏まえ、子供・高齢者の安全対策、歩行者・自転車乗員の安全対策、大型車がからむ重大事故対策、自動走行など新技術への対応を中心に車両安全対策の推進に取り組んでいる。また、昨今相次いでいる高齢運転者による事故防止対策として、関係省庁とともに29年1月に設置した副大臣等会議において、衝突被害軽減ブレーキ等の先進安全技術を搭載した自動車の普及啓発・導入促進を図るための方策について幅広く検討を進め、同年3月に中間取りまとめを行った。

2)安全基準等の拡充・強化
 自動車の安全性の向上を図るため、11項目の国際基準を国内へ導入し、ハイブリッド自動車等に備える車両接近通報装置や、前照灯の自動点灯に関する安全基準等を新たに整備した。

3)先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進
 産学官の連携により、衝突被害軽減ブレーキなど実用化されたASV技術の本格的な普及を促進するとともに、平成28年度より第6期ASV推進計画を開始し、路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件等の検討に着手した。

4)自動車アセスメントによる安全情報の提供
 安全な自動車及びチャイルドシートの開発やユーザーによる選択を促すため、これらの安全性能を評価し結果を公表している。平成28年度より、対歩行者衝突被害軽減ブレーキの評価を新たに開始した。
 
図表II-7-4-11 対歩行者衝突被害軽減ブレーキ
図表II-7-4-11 対歩行者衝突被害軽減ブレーキ

5)自動運転の実現に向けた取組み
 国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)の下に設立された自動操舵専門家会議において、日本は共同議長を務め、高速道路での自動運転を可能とする自動操舵の基準を提案するなど、自動運転に関する国際基準の策定を主導している。自動操舵のうち、自動駐車機能及び自動車線維持機能の国際基準については、平成29年3月のWP29において成立した。

6)リコールの迅速かつ着実な実施・ユーザー等への注意喚起
 自動車のリコールの迅速かつ確実な実施のため、自動車メーカー等及びユーザーからの情報収集に努め、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導するとともに、安全・環境性に疑義のある自動車については(独)自動車技術総合機構交通安全環境研究所において技術的検証を行っている。また、リコール改修を促進するため、ウェブサイトやソーシャル・メディアを通じたユーザーへの情報発信を強化した。不具合情報の収集を強化するため、「自動車不具合情報ホットライン」(www.mlit.go.jp/RJ/)について周知活動を積極的に行っている。
 また、国土交通省に寄せられた不具合情報や事故・火災情報等を公表し、ユーザーへの注意喚起が必要な事案や適切な使用及び保守管理、不具合発生時の適切な対応について、ユーザーへの情報提供を実施している。特に、「トレーラのブレーキ引き摺りによる火災にご注意!」について報道発表等を通じ、ユーザー等への注意喚起を行った。
 なお、平成28年度のリコール届出件数は364件及び対象台数は1,585万台であった。

7)自動車検査の高度化
 不正な二次架装の防止やリコールにつながる車両不具合の早期抽出等に資するため、情報通信技術の活用による自動車検査の高度化を進めている。

(9)被害者支援
1)自動車損害賠償保障制度による被害者保護
 自動車損害賠償保障制度は、クルマ社会の支え合いの考えに基づき、自賠責保険の保険金支払い、ひき逃げ・無保険車事故による被害者の救済(政府保障事業)を行うほか、重度後遺障害者への介護料の支給や療護施設の設置等の自動車事故対策事業を実施するものであり、交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。
 
図表II-7-4-12 自動車損害賠償保障制度
図表II-7-4-12 自動車損害賠償保障制度

2)交通事故相談活動の推進
 地方公共団体に設置されている交通事故相談所等の活動を推進するため、研修や実務必携の発刊を通じて相談員の対応能力の向上を図るとともに、関係者間での連絡調整・情報共有のための会議やホームページでの相談活動の周知を行うなど、地域における相談活動を支援している。これにより、交通事故被害者等の福祉の向上に寄与している。

(10)機械式立体駐車場の安全対策
 機械式立体駐車場で死亡事故等が発生している状況にかんがみ、「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」の手引きを策定し、安全対策と適正利用について関係団体等へ要請を行った。また、機械式駐車装置の安全性の更なる向上を図ることを目的に、機械式駐車装置の安全基準のJIS規格化を進めている。


注 部品等を取り外した状態で新規検査を受検し、検査終了後に当該部品を再度取り付けて使用する行為等


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