一方、外航日本人船員は、経済安全保障等の観点から一定数の確保・育成が必要であるため、日本船舶・船員確保計画の着実な実施等による日本人船員の確保に取り組んでいる。
併せて、我が国商船隊の大宗を占めるアジア人船員の確保・育成のため、開発途上国の船員教育者の技能向上を図り、より優秀な船員を養成することを目的とした研修を行っている。
国土交通省が所管する船員養成機関として(独)海技教育機構(JMETS)が設置されている。JMETSは、我が国最大の船員養成機関として、新人船員の養成、海運会社のニーズに対応した実務教育及び商船系大学・高等専門学校の学生等に対する航海訓練を実施している。
JMETSは、今後とも、教育内容の高度化に取り組み、保有するリソースを最大限に活用して、若手船員の確保・育成を着実に推進していく。
こうした船員の確保・育成のための取組みに加えて、船員の職業的魅力を高めるために、船員災害の持続的減少を図る取組みである「船内労働安全衛生マネジメントシステム」及び「船内向け自主改善活動(WIB)」の普及についても、引き続き取り組んでいく。
3)海洋に関する国民の理解の増進
安定的な海上輸送の確保は、我が国の経済、国民生活を支える上で極めて重要なものであるが、国民の海に対する理解は必ずしも十分でない。このため、国民各層、特に若年層を対象として、自治体・事業者・関係団体・学校・教育委員会等と協力・連携しながら、「海の日」を中心とする「海の月間」において、海フェスタ(平成29年は神戸市で開催)をはじめとする各種イベント、海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣表彰)等海洋に関する国民の理解の増進に関する活動を推進している。さらに、年間を通して海と日本プロジェクトに取り組んでいる。
また、29年3月に改訂された、小学校・中学校の学習指導要領において、海洋・海事の重要性についての記載が充実されたことを受け、初等中等教育における海洋教育プログラム等を作成した。今後、地方運輸局・関係団体と教育委員会等との連携を更に強化して、各地の特色を踏まえ、小中学校を中心とした海洋教育に取り組んでいく。
(2)海上輸送産業
1)外航海運
平成28年の世界の海上荷動き量は、110億910万トン(前年比2.7%増)で、我が国の海上貿易量は9億3,522万トン(前年比1.2%減)となった。
29年度の外航海運は、前年後半からの米国や中国等を中心とした緩やかな景気回復、燃料油価格の低下等、外航海運を取り巻く事業環境に改善が見られたものの、運賃市況の歴史的低水準の影響を受け、全体としては厳しい事業環境となった。
2)国内旅客船事業
平成28年度の国内旅客船事業の輸送需要は87百万人(前年度比0.5%減)と、長期的には人口構造の変化等に伴い減少傾向にあり、近年、燃油価格が安定しつつあるものの、経営環境は依然として厳しい状況にある。国内旅客船事業は地域住民の移動や生活物資の輸送手段として重要な役割を担っており、また、海上の景観等を活かした観光利用の拡大も期待される。さらに、フェリー事業についてはモーダルシフトの受け皿として、また、災害時の輸送にも重要な役割を担っている。
図表II-6-3-8 国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移
このため、(独)鉄道・運輸機構の船舶共有建造制度や税制特例措置により省エネ性能の高い船舶の建造等を支援している。さらに、海運へのモーダルシフトの更なる推進を図るため、29年11月に、RORO船・コンテナ船・フェリー事業者のほか、利用運送事業者、トラック事業者、荷主企業、行政等から成る「海運モーダルシフト推進協議会」を設置し、モーダルシフト船の運航情報等一括情報検索システムの構築や新たな表彰制度である「海運モーダルシフト大賞(仮称)」の創設に向けた議論を進めている。
また、28年4月より「船旅活性化モデル地区」制度を設け観光に係る新サービスの創出を支援(30年3月末現在18地区を認定)している。さらに、「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」により、無料公衆無線LAN環境の整備、案内標識等の多言語化等を支援するなど、訪日外国人旅行者の利便性向上を図るために必要な取組みを推進している。
造船業については、平成24年末以降、過度な円高が是正されるなど、競争条件が改善されたこと等により、高性能・高品質な日本船への回帰が進み、我が国の受注量は3年連続で増加したものの、海運市況の悪化、船腹過剰等の影響により、28年に入ると世界の受注量減少と連動して激減した。
平成29年の我が国の建造量は1,317万総トン(世界の建造量6,763万総トン)、世界シェアは19.5%(前年比増減0%)となった。我が国舶用工業製品については、28年の生産額9,757億円(前年比約4.5%減)、輸出額3,870億円(前年比約9.8%増)となった。
注 毎年の利益に応じた法人税額の算出に代わり、船舶のトン数に応じた一定のみなし利益に基づいて法人税額を算出する税制。世界の主要海運国においては、同様の税制が導入されている。