第7節 海洋の安全・秩序の確保

第7節 海洋の安全・秩序の確保

(1)近年の現況
 尖閣諸島周辺海域においては、平成24年9月以降、中国公船が荒天の日等を除きほぼ毎日接続水域を航行し、領海侵入する事案も発生しており、昨今では、中国公船の大型化・武装化・増強が確認されている。28年8月には、同海域において中国公船が中国漁船に続いて領海侵入を繰り返す事案が発生し、また、30年1月には中国海軍艦艇が、同年6月には中国海軍病院船が、それぞれ接続水域を航行するなど、情勢は依然として予断を許さない状況になっている。さらに、同年7月には、中国海警局が人民武装警察部隊(武警)に編入されており、中国の動向を引き続き注視していく必要がある。海上保安庁では、現場海域に巡視船を配備するなど、我が国の領土・領海を断固として守り抜くとの方針の下、事態をエスカレートさせないよう、冷静に、かつ、毅然とした対応を続けている。
 
図表II-2-7-1 領海警備を行う巡視船
図表II-2-7-1 領海警備を行う巡視船

 また、東シナ海等の我が国排他的経済水域においては、外国海洋調査船による我が国の同意を得ない調査活動等も確認されており、海上保安庁では、関係機関と連携しつつ、巡視船等による警戒監視や中止要求等、その時々の状況に応じて適切に対応をしている。さらに、大和堆周辺海域における多数の北朝鮮漁船等の違法操業が確認されるとともに、日本海沿岸部への北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が増加する等、我が国周辺海域を巡る状況は、一層厳しさを増している。
 
図表II-2-7-2 中国公船による接続水域入域・領海侵入件数
図表II-2-7-2 中国公船による接続水域入域・領海侵入件数
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(2)海上保安体制強化の推進
 厳しさを増す我が国周辺海域を巡る情勢を踏まえ、平成28年12月21日に開催された「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」において、「法執行能力」、「海洋監視能力」及び「海洋調査能力」の強化を図るため、以下5つの柱からなる「海上保安体制強化に関する方針」が決定され、海上保安庁では、同方針に基づき、海上保安体制の強化を進めてきたところである。1)尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備、2)広大な我が国周辺海域を監視できる海洋監視体制の強化、3)テロ対処や離島・遠方海域における領海警備等の重要事案への対応体制の強化、4)我が国の海洋権益を堅守するための海洋調査体制の強化、5)以上の体制を支える人材育成など基盤整備。
 
図表II-2-7-3 海上保安体制強化に関する関係閣僚会議
図表II-2-7-3 海上保安体制強化に関する関係閣僚会議

 平成30年12月18日には、3回目となる「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」が開催された。同会議では、尖閣領海警備のための大型巡視船、新型ジェット機、海洋監視のための中型飛行機(測量機)の増強、必要な要員の確保など、引き続き海上保安体制の強化を進めることに加え、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、諸外国との連携を通じた法の支配に基づく国際的な海洋秩序を維持・強化することの重要性が確認された。
 また、平成31年3月には、同方針に基づき整備を進めてきたヘリ搭載型巡視船を含む大型巡視船3隻、大型測量船1隻が進水した。これらの大型巡視船等は、平成31年度に就役予定である。
 
図表II-2-7-4 進水式の様子
図表II-2-7-4 進水式の様子

(3)「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて
 海上保安庁では、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、インド太平洋地域でのプレゼンス発揮に係る取組みを推進するとともに、沿岸国の海上保安能力向上支援の強化を行っている。
 平成29年9月、38の国と地域、3国際機関等の海上保安機関等の長官級が参加した「第1回世界海上保安機関長官級会合」が世界で初めて東京で開催され、連携強化や対話の拡大を盛り込んだ議長総括がまとめられた。これを受け平成30年は、11月に、世界各国の海上保安機関が、地球規模の環境変化とそれに起因する課題に対し、地域の枠組みを越え、力を結集して取り組むため、58箇国、8国際機関等から海上保安機関の実務者が一堂に会する「第1回世界海上保安機関実務者会合」を東京において日本財団と共催した。会合では、「海上保安国際人材育成」等のテーマについて議論を行い、世界をつなぐ教育や研究の機会及び情報共有の構築について具体的な検討をはじめることで実務者レベルの理解が得られた。この会合で得られた結果をより高いレベルで確認し、実現していくため、令和元年、日本において「第2回世界海上保安機関長官級会合」を開催することが決定した。また、同月、しょう戒中の巡視船がオーストラリアのダーウィンに寄港するとともに、海上保安庁とオーストラリア国境警備隊が、海上保安分野の協力に関する協力意図表明文書に署名し、安倍総理大臣とスコット・モリソン・オーストラリア連邦首相の立会いのもと、協力文書を交換した。
 
図表II-2-7-5 オーストラリア国境警備隊との協力文書交換式
図表II-2-7-5 オーストラリア国境警備隊との協力文書交換式

 海上保安庁では、これらの取組み等を通じて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化を図っていく。
 
図表II-2-7-6 世界海上保安機関実務者級会合
図表II-2-7-6 世界海上保安機関実務者級会合


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