第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 |
4 物流の効率化による二酸化炭素排出削減に向けた課題
貨物輸送におけるCO2排出量は平成8年度まで増加したが、その後は減少に転じており、2年度から18年度までに約5%減少している。排出量のうち約9割を貨物自動車輸送が占めているが、これについても8年度をピークに減少している(注1)。
そこで、まず1)貨物輸送におけるCO2排出量の大半を占める貨物自動車の動向と課題を整理し、次に2)貨物自動車からのモーダルシフトの動向と課題について見ていく。
(1)貨物自動車輸送の動向
(貨物自動車輸送量の増加)
貨物自動車の輸送量は、建設関連資材等の輸送量の減少を受けてトンベースでは減少しているものの、トンキロベースでは平成2年度から18年度までに約25%増加している。これは、貨物輸送の長距離化が進んでいるためである。
図表I-2-1-26 貨物自動車の輸送量と1トン当たり平均輸送距離の推移
(輸送効率の改善と燃費基準)
輸送量がトンキロベースで増加している一方で、CO2排出量は減少傾向にあるが、これには自営転換(注2)が寄与してきたと考えられる。営業用トラックの方が混載等により輸送効率が高く、自家用トラックに比べて環境負荷が小さい(単位当たりのCO2排出量を見ると、営業用トラックは自家用トラックの約7分の1にすぎない)ことから、今後さらに環境負荷を低減させるための有効な方策の一つとして、営業用トラックへの転換をさらに進めていく必要がある。
また、空荷を減らし、積載効率(注3)を向上させることも環境負荷の低減につながる。積載効率を見ると、少量多頻度の輸送が進み貨物の小口化が進んでいること等により低下傾向にあったが、複数の事業者が一体となって輸配送の共同化を進めていること等により積載効率は約44%(平成18年度)となっている。今後、積載効率をさらに向上させていくことが必要である。
図表I-2-1-27 自家用・営業用トラックの輸送量の推移(トンキロベース)
図表I-2-1-28 トラック積載効率の推移
貨物自動車の燃費の改善もCO2排出量削減に向けて重要な要素である。トラック等の重量車については、これまで燃費基準が策定されていなかったが、平成18年に、27年度を目標年度とする燃費基準を策定した。重量車の燃費基準策定は世界で初めてであり、この基準が達成された場合、27年度の重量車の燃費は14年度と比較して12.2%改善すると推定している。
(2)モーダルシフトに向けた課題
(自動車への依存の進展)
貨物輸送においても、環境負荷は輸送機関によって異なる。単位輸送量(トンキロベース)当たりのCO2排出量を見ると、営業用貨物自動車と比べて、船舶は約4分の1、鉄道は約7分の1である。したがって、貨物輸送におけるCO2排出量の削減を図るための効果的な手段の一つとして、貨物自動車から鉄道や船舶へのモーダルシフトを促進する必要がある。
しかし、実際には環境負荷の高い自動車への依存が進んできた。貨物輸送の輸送機関別の分担率の推移を見ると、トンキロベースでの自動車の分担率は50.2%(平成2年度)から59.9%(18年度)へと増加している。
図表I-2-1-29 輸送量当たりのCO2排出量(平成17年度)
図表I-2-1-30 貨物輸送の分担率の推移(トンキロベース)
(産業構造の変化と少量多頻度化の進展)
このような輸送機関の分担の変化の要因の一つとして、産業構造の変化があげられる。製造業を中心とした国際分業の進展に伴う生産拠点の海外展開等が進む中で、国際物流の動向とともに、日本国内における貨物輸送に変化が見られる。例えば、機械や、消費者向けの貨物である食料工業品・日用品等の輸送量が大幅に増加してきたが、これらは少量多頻度輸送であることが多く、内航海運よりも自動車で輸送されることが多いため、自動車の輸送量の増加につながってきた。その一方で、産業基礎物資である鉱産品、石油製品、セメント等は、大量輸送を必要とし、内航海運の主要輸送品となっているが、輸送量は横ばいとなっている。このような変化が、内航海運の分担率の減少と自動車の分担率の増加につながっている。また、貨物鉄道についても、主な輸送品目であったセメント・石灰石等の輸送量が大幅に減少している。
図表I-2-1-31 各輸送機関における主要品目の輸送量の推移
また、ジャストインタイムに対応するため少量多頻度輸送の必要性が高まっていることがあげられる。荷主企業等は極力無駄な在庫を持たないサプライチェーンマネジメント(注4)の徹底を進めており、このような要請に応えるため、リードタイムが短く少量多頻度の輸送に適している自動車の分担率が増加している可能性がある。
図表I-2-1-32 多頻度小口輸送への対応
(モーダルシフトに向けた新たな動きと課題)
省エネ法が改正(平成18年4月施行)されたことにより、貨物の輸送量が一定規模以上の荷主(全国で約800社)が特定荷主として指定され、輸送に係るエネルギー使用合理化に関する計画書や定期報告書の提出が義務付けられた。特定荷主は省エネに対する取組みを求められるため、モーダルシフトをはじめ、共同輸配送や営業用トラックへの転換など、輸送に係るCO2排出量削減への取組みが進むことが期待される。その際、物流は特定荷主の意向によって大きく影響を受けることを踏まえ、グリーン物流パートナーシップ会議(注5)の枠組み等を活用することにより、特定荷主と物流事業者の連携を促進していく必要がある。
モーダルシフトを促進するためには、海上輸送や鉄道輸送を積極的に活用できる環境整備を進めることが必要である。内航海運については、港での積み替えや端末輸送も含めた結節点における利便性の向上を図り、海上輸送を積極的に活用できる環境整備を進めることが必要である。一方、鉄道については、鉄道事業者自らによる事故等の未然防止対策の策定やトラブル発生時の早期復旧体制の確立により、安全安定輸送を確保し、信頼性の向上を図ることが必要である。さらに、国による貨物輸送力増強への支援を引き続き図るとともに、国、鉄道事業者、利用運送事業者、荷主からなる懇談会の場を活用しつつ、鉄道事業者と利用運送事業者が一体となって、既存輸送力の最大活用のための具体的方策の確立や荷主ニーズに応じたきめ細やかな輸送品質の向上を図っていくことが重要である。
(3)宅配便・商品輸送における二酸化炭素排出削減と消費者意識
わたしたちのくらしに欠かせない宅配便や日用品・食料品等の商品輸送は、消費者のニーズの高度化・多様化に伴い、輸送の迅速化や少量多頻度化が求められてきた。一方で、このような消費者ニーズに応えることは、CO2排出量の増加にもつながってもいると考えられる。したがって、物流におけるCO2排出量の削減は荷主企業だけでなく、最終的な利便を享受する消費者もキープレーヤーである。そこで、わたしたちのくらしに直結し、消費者と物流の接点でもある宅配便や商品輸送について、課題や消費者意識を見ていく。
(宅配便輸送と消費者意識)
宅配便の利用は年々増加しているが、それに伴いサービスも多様化してきている。例えば、不在時の宅配物の再配達はその一例である。再配達は消費者にとって便利なサービスではあるが、その一方で、再配達すると宅配トラックの走行距離が長くなり、CO2排出量の増加につながり得る。これに対して、宅配事業者では、自宅以外の場所(営業所や店頭、駅前のロッカー等)で宅配物を受け取れるサービスを行っているところもある。不在の時に何度も配達してもらうのではなく、徒歩や自転車などで宅配業者の営業所などに直接取りに行けば、CO2排出量の削減につながると考えられる。
図表I-2-1-33 家庭への宅配の再配達について(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月国土交通省実施))
そこで、消費者が宅配の利便性と環境についてどのように考えているのかについて、国土交通省が意識調査を行った。これによると、「荷物を受け取る側で事前に配達時間の指定ができるようになれば、一度目の配達時に必ず在宅するようにし、再配達など環境負荷の高いサービスは利用しない」、「荷物を受け取れる場所が増えるなど利便性が高まれば、再配達など環境負荷の高いサービスは利用しない」とする回答が大半を占めている。一方で、「どのようなことがあっても、再配達などのサービスは利用したい」とする回答は1割程度にとどまっており、一定の利便性が確保されれば環境負荷をかけないようにしたいとする消費者の意識がうかがえる。
(商品の輸送手段によって異なる環境負荷と消費者意識)
日用品や食料品等の商品については、輸送の迅速化や少量多頻度化により、品切れの頻度が少なくなり品揃えが良くなるなど、最終的には消費者の利便性の向上に寄与しているが、その一方で、環境負荷の高いトラック輸送への依存が高まることにもつながっている。輸送区間にもよるが、トラック輸送は、鉄道や船舶での輸送と比較すると輸送時間が短くなるメリットがある一方で、CO2排出量は増加する。例えば、福岡から東京まで物資をトラック、鉄道、船舶、飛行機で輸送した場合で試算すると、飛行機やトラックは鉄道や船舶に比べて、輸送時間が短いがCO2排出量は多くなる。
図表I-2-1-34 福岡県〜東京都間輸送時のモード別 輸送時間・費用・CO2排出量の試算
このように商品が同じ区間を輸送されたとしても、その輸送手段によってCO2排出量が異なることについて、消費者はどのような意識なのであろうか。国土交通省が実施した意識調査によると、このようにCO2排出量が異なることを「知っていた」と回答した人は半数に達しておらず、「知らなかった」とする人が多い。地球温暖化全般に対する意識が高い一方で、わたしたちのくらしに身近な商品について、その輸送手段によるCO2排出量の違いが消費者に広く認知されているわけではないことがうかがえる。
また、店で売られている商品について、仮に、環境にやさしい輸送手段を利用しているかどうかがわかった場合にどのような商品を購入するかについて聞いたところ、「輸送手段にかかわらず、価格が安く、品切れの頻度が少ない商品」との回答が最も多かった。ただし、「品切れが少なければ」あるいは「価格が安ければ」という条件付きも含めて、「環境にやさしい輸送手段を利用した商品を購入したい」との回答が合計で約50%を占めており、一定条件を満たせばではあるが環境にやさしい輸送手段を利用した商品に関心を示す消費者像がうかがえる。
図表I-2-1-35 輸送方法によりCO2排出量が異なることを知っていたか(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月国土交通省実施))
図表I-2-1-36 輸送手段による環境への影響がわかった場合の商品選択(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月国土交通省実施))
消費者に対して環境負荷の小さい商品の選択を促すためには、どの商品が環境負荷の小さい輸送手段を利用して輸送されているかについてわかりやすく伝えることが必要である。例えば、環境負荷の小さい鉄道貨物輸送を活用して地球環境問題に積極的に取り組んでいる企業や商品であることを表示する「エコレールマーク」制度があり、20商品・40企業が認定を受けている(平成20年3月現在)。この「エコレールマーク」の一層の普及を図り、認知度を高めることにより、消費者による商品選択を通じて、鉄道へのモーダルシフトが促進されることが期待される。
エコレールマーク
(注1)国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」
(注2)自家用トラック(会社や店が自ら所有するトラック)から営業用トラック(荷物を有償で輸送する事業者のトラック)に転換すること
(注3)輸送トンキロを輸送可能な最大量である能力トンキロで除したもの
(注4)商品供給に関するすべての企業連鎖を統合管理し、その全体最適化を図ること。原材料調達から生産、販売までを一貫したシステムとしてとらえ、消費者の購買情報を関係者が共有し、在庫の削減、リードタイムの短縮、適時・適量の商品供給等の実現を目指すこと
(注5)グリーン物流パートナーシップ会議については、
第II部第7章参照