第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

コラム 欧州の小都市における地球環境負荷の軽減と地域活性化の取組み

 都市機能の集約化が効果を発揮するには、ある程度の人口規模が必要と考えられますが、例えば、欧州では、人口数千人の小規模な都市が、都市機能の集約化とは別の方法で、地域の自然資源を活かして環境保全と地域活性化を両立させている事例があります。
 オーストリアにある人口2,000人のシュタインバッハは、鉄と果樹の生産地として繁栄しましたが、1970年(昭和45年)以降、グローバル化に伴う競争激化等による工場閉鎖等の経済不振に喘ぎ、若者を中心に人口が流出し、街は荒廃しました。これに対し、90年代より、持続可能な発展と定住を目指し、街おこしが始まりました。競争から共助へという理念のもと、住民一人一人がリーダーになり、60の地域再生プロジェクトを立ち上げるとともに、地元金融機関が貸し手と借り手を仲介し低利融資を行いました。
 

シュタインバッハ(オーストリア)
 

シュタインバッハにおける雇用数と企業数の推移
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 環境関係では、豊富にある森林資源を利用した小規模なバイオマス熱供給ネットワークを複数つくることにより、熱供給に加え、新たな収入、森林の管理、CO2排出量の削減を実現したほか、経済的な分散型の下水道システムの構築や山の生態を守る農家の経営の支援等が実施されました。これらは、「ローカルアジェンダ21(注1)」を実行に移す取組みであり、2010年(平成22年)までにCO2を50%削減するという目標はほぼ達成される見通しです。
 また、当初の目標である雇用や人口も増加しました。このため、この取組みは、地球環境への負荷の軽減とこれを通じた地域雇用の増加に寄与するとともに、街のアイデンティティ確立や若者の定着による担い手の確保等、経済と環境の両面で地域の持続的な発展に貢献することから、小規模な自治体の可能性を示す事例としてEUの報告書でも評価されています(注2)
 欧州では、この他にも、このような小規模な自治体が、豊富な自然資源を利用することによって経済と環境の両面で持続可能性を達成している例が多数あり、多くの環境団体等がこれらを支援しています。例えば、Climate Allianceは、環境面で優れた取組みを行った自治体を表彰しており(http://www.climate-star.net)、このうち、Category1は人口1万人までの自治体が対象となっています。


(注1)1992年(平成4年)地球サミットで持続可能な開発の実現に向けた行動計画として採択された「アジェンダ21」では、地方公共団体が市民、民間企業等と対話を行い、「ローカルアジェンダ21」を策定することを求めている。
(注2)Final Report of the Working Group on Urban Design for Sustainability to the European Union Expert Group on the Urban Environment(http://ec.europa.eu/environment/urban/pdf/0404final_report.pdf
参考文献:岡部明子「欧州自治体レベルのCO2削減策とは」 季刊まちづくり16号 2007.9

 

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