第II部 国土交通行政の動向 

第2節 豊かな住生活の実現

1 住生活基本計画(全国計画)の推進

 本格的な少子高齢社会、人口・世帯減少社会の到来を目前に控え、現在及び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、「住生活基本計画(全国計画)」(平成18年9月閣議決定)に基づき、1)良質な住宅ストックの形成及び将来世代への承継、2)良好な居住環境の形成、3)多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備、4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保という4つの目標の達成に向け、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を推進している。
 また、19年度においては、関係省庁による「住生活安定向上施策推進会議」を開催し、施策の実施状況を取りまとめるとともに、「住生活安定向上施策連携マニュアル」を作成した。

(1)良質な住宅ストックの形成と将来世代への承継
1)住宅リフォーム市場の環境整備
 既存ストックが有効活用されるためには、適切な維持管理、耐震性の向上、省エネ化、バリアフリー化に向けたリフォームが重要である。このため、増改築工事における瑕疵(かし)保証制度の普及、リフォームに係る様々な情報の提供等を行うリフォネットの普及、耐震化に係る総合的な助成等の施策を推進している。
 なお、悪質リフォームの社会問題化を踏まえて、消費者が安心して適切なリフォームを実施できる環境を整備するため、各地域にリフォーム相談窓口が設置されるよう取組みを進めるとともに、建設業法に基づく事業者への指導・監督の徹底、住宅リフォームに関する情報提供の強化等にも取り組んでいる。
 
図表II-4-2-1 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)

図表II-4-2-1 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)
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2)マンション管理の適正化と建替えの円滑化
 マンションのストック戸数は約505万戸(平成18年末現在)に達し、主要な居住形態となっている。
 区分所有者がマンションの管理状況を把握することで適正な管理を一層推進するため、管理組合の運営状況等を登録し、閲覧できる「マンションみらいネット」の普及を推進するとともに、マンション管理組合の運営等の標準的な対応を示した「マンション管理標準指針」の周知を図っている。
 また、老朽化マンションの建替えを円滑に行うため、補助、融資、税制措置等の活用の促進を図っている。19年10月1日までに「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を活用したマンション建替事業の実績は、全国で36件となっている。
 さらに、「マンション耐震化マニュアル」を19年6月に策定した。
 
図表II-4-2-2 マンションストックの推移

図表II-4-2-2 マンションストックの推移
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(2)多様な居住ニーズが実現される住宅市場の環境整備
1)住宅の品質確保の促進
 「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保法)」に基づき、新築住宅の基本構造部分に係る10年間の瑕疵担保責任を義務付けるとともに、新築住宅及び既存住宅に対し、耐震性、省エネ対策、シックハウス対策、防犯対策等、住宅の基本的な性能を客観的に評価し、表示する住宅性能表示制度を実施している。平成18年度の実績は、設計図書の段階で評価した設計住宅性能評価書の交付が255,507戸、現場検査を経て評価した建設住宅性能評価書(新築住宅が対象)の交付が148,875戸となっている。19年4月より免震建築物等の評価・表示を開始するなど、評価内容の充実を図っている。
 建設住宅性能評価を受けた住宅に係る紛争については、指定住宅紛争処理機関が裁判によらず迅速かつ適正な処理を図ることとしており、住宅紛争処理支援センターがその支援業務を行っている。また、同センターは、住宅全般に関する様々な相談も受け付けている。18年度の実績は、指定住宅紛争処理機関における紛争処理の申請受付件数は23件、住宅紛争処理支援センターの相談受付件数は9,087件となっている。
2)住宅金融
 平成19年4月、独立行政法人住宅金融支援機構が設立された。同機構の主業務は、民間金融機関による相対的に低利な長期・固定金利住宅ローンの供給を支援する証券化支援業務で、15年10月に民間金融機関の住宅ローン債権を集約し証券化する買取型を開始した。19年12月末までの実績は、買取申請件数181,131件、買取件数125,526件で、336の金融機関が参加している。また、19年1月から民間金融機関自らが行う証券化を支援する保証型を開始し、同年12月時点で3機関が参加している。証券化支援業務の対象となる住宅には、耐久性等の技術基準を定め、物件検査を行うことで住宅の質の確保を図っている。さらに、17年度から耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性が優れた住宅の取得につき、金利引下げにより支援する優良住宅取得支援制度を実施しており、19年度からは対象に耐久性・可変性が優れた住宅を追加した。機構の直接融資業務は、災害対応、密集市街地建替、子育て世帯・高齢者向け賃貸住宅、耐震改修等、政策的に重要でかつ民間では対応が困難な分野に限定して実施している。
 
図表II-4-2-3 証券化支援事業(買取型)スキーム図

図表II-4-2-3 証券化支援事業(買取型)スキーム図

3)住宅税制の充実
(ア)住宅の長寿命化(「200年住宅」)促進税制の創設
 持続可能な社会の実現を目指し、良質な住宅を長く大切に使うことによる地球環境への負荷の低減を図るとともに、建替えコストの削減による国民の住宅負担の軽減を図るため、一定の基準に適合する認定を受けた長期優良住宅(後述の「200年住宅」)の普及を促進することとしており、平成20年度税制改正において、当該住宅の新築を支援するため、登録免許税、不動産取得税及び固定資産税について、一般の住宅に比べ更に軽減する特例措置を創設することとしている。
(イ)住宅に係る省エネ改修促進税制の創設
 地球温暖化防止に向けて家庭部門のCO2排出量の削減を図るため、既存住宅において一定の省エネ改修工事を行った場合に、一定の要件の下、所得税や固定資産税を軽減する特例措置を講ずることとしている。
4)既存住宅流通市場の環境整備
 既存ストックが有効活用されるためには、質の高い既存住宅を安心して売買できる市場の形成が重要である。しかしながら、現在の我が国の住宅市場は、全住宅取引に占める既存住宅取引の割合が米国等と比較して低い水準にあり、新築住宅中心の市場である。このため、既存住宅の性能表示制度や瑕疵保証制度の普及、不動産市況情報の提供、既存住宅の質を考慮した価格査定システムの普及等を推進している。また、平成17年度から住宅ローン減税等の税制特例において、一定の耐震性を備えた既存住宅については、築後経過年数要件にかかわらず対象とする措置を講じた。
 
図表II-4-2-4 既存住宅流通シェアの国際比較

図表II-4-2-4 既存住宅流通シェアの国際比較
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5)賃貸住宅市場の整備
 賃貸住宅市場においては、戸建て住宅、マンション等の持家ストックの賃貸化等を通じたストックの質の向上を図るため、定期借家制度の普及、サブリース事業(注)の適正化等の環境整備に取り組んでいる。
6)街なか居住の推進
 少子高齢化の進展に伴って、高齢者や子育て世帯等を中心に歩いて暮らせるまちづくりが求められるとともに、中心市街地の空洞化が進む中、街なか居住の推進によるにぎわいの再生が必要となっている。このため、ゆとりある生活を実現し、職と住が近接した都市構造の形成、居住機能を含む多様な都市機能が複合した魅力ある市街地への更新を図る必要があることから、総合設計制度(平成18年3月末現在2,898件)、高層住居誘導地区(18年3月末現在2地区)、用途別容積型地区計画(18年3月末現在56地区)、「中心市街地の活性化に関する法律」に基づく中心市街地共同住宅供給事業等により、都心部や中心市街地における住宅供給を誘導・促進し、街なか居住を推進している。

(3)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
 平成19年7月に制定された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」の趣旨を踏まえ、公的賃貸住宅の供給及び民間賃貸住宅の活用等を図ることとしている。
1)公的賃貸住宅等の供給
 住宅市場において十分に供給されない住宅サービス等について、適切に市場を補完するため公的賃貸住宅制度等を活用して良質な賃貸住宅が供給されている。平成19年度には、公営住宅制度を補完する公的賃貸住宅(特定優良賃貸住宅・高齢者向け優良賃貸住宅)制度を再編して、地域優良賃貸住宅制度を創設し、子育て世帯、高齢者世帯等各地域における居住の安定に特に配慮が必要な世帯等を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進している。
 
図表II-4-2-5 公的賃貸住宅等の趣旨と実績

図表II-4-2-5 公的賃貸住宅等の趣旨と実績
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2)民間賃貸住宅の活用
 民間賃貸住宅のセーフティネット機能の向上を図る観点から、あんしん賃貸支援事業により、地方公共団体、NPO・社会福祉法人、関係団体等と連携しながら、高齢者、障害者、外国人、子育て世帯等の入居を受け入れる民間賃貸住宅の情報を提供し、様々な居住支援を行うことにより、入居の円滑化と安心できる賃貸借関係の構築の支援に取り組んでいる。

(4)住宅の寿命を延ばす「200年住宅」への取組みの推進
 住生活基本計画(全国計画)に則り、「つくっては壊す」フロー消費型社会から「いいものをつくって、きちんと手入れして、長く大切に使う」ストック型社会への転換を図る観点から、良質な住宅ストックを形成し、何世代にもわたって社会全体の資産として利用していくことは、国民の住居費負担や環境負荷等の低減に大きく貢献する重要な課題である。
 このため、国土交通省では住宅の長寿命化の推進に向け、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律案」を第169回国会へ提出した。


(注)賃貸住宅管理会社が建物所有者(家主)等から建物を転貸目的で賃借し、自ら転貸人となって転借人に賃貸する事業

 

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