第II部 国土交通行政の動向 

第4節 利便性の高い交通の実現

(1)都市・地域における総合交通戦略の推進
 安全で円滑な交通が確保された集約型のまちづくりを実現するためには、自動車、鉄道、バス等の輸送モード別、事業者別ではなく、利用者の立場でモード横断的にとらえる必要がある。この視点・考え方に基づき、都市・地域の交通サービスに第一義的な責任を有する地方公共団体(特に市町村)が、公共交通事業者等の関係者からなる協議会を設立し、協議会において目指すべき都市・地域の将来像と提供すべき交通サービス等を明確にした上で、必要となる交通施策や実施プログラム等を内容とする「都市・地域総合交通戦略」を策定し、関係者がそれぞれの責任の下、同戦略に基づく施策・事業を実行する仕組みを構築することが必要である。
 国は、同戦略に基づき実施されるLRTや高速輸送バスシステム(BRT)(注1)等の公共交通の導入・利用促進、交通結節点の改善、自転車・歩行者の移動環境の整備、環状道路の整備など、交通事業とまちづくりが連携した総合的かつ戦略的な交通施策の推進を支援することとしている。

(2)渋滞緩和に向けたTDM等の推進
 自動車交通の状況や道路交通の混雑を解決する処方せんは都市ごとに異なるものであるが、TDMは都市の特性に応じて措置ができる施策であり、総合的かつ効果的なTDM(注2)の普及を推進している。
 朝夕のラッシュ時等に発生している渋滞を緩和するために、交通容量拡大策に加え、バス・鉄道共通ICカードやバスロケーションシステムの導入等の公共交通機関の利用促進策や、パークアンドライド(注3)、時差通勤等のTDM施策を実施している。また、地域によっては、バス路線マップや個別冊子を住民に配布することで、自動車の使い方の見直しを促し、公共交通を有効に使うモビリティマネジメント(注4)を実施している。

(3)公共交通の活性化に向けた取組み
 公共交通の活性化は、地域再生・都市再生、少子高齢化対策、環境対策といった、我が国の抱える主要な課題を解決し得る有効な手段である一方、関係者の考え方や利害が複雑に絡み合うこと等により、なかなか進まない状況にある。
 こうした状況を打破するため、地方運輸局が中心となって、地方公共団体、交通事業者、地域住民等と共に検討を行い、具体的方策とその実施のための役割分担等について定める「公共交通活性化総合プログラム」の策定を推進し、地域における公共交通の活性化の取組みを後押ししている。具体的には、ターミナル駅の乗継利便性向上策の一体的推進や鉄道、バス、旅客船等の利用促進施策の展開を始め、各地域において様々なプログラムを策定中である。

(4)都市鉄道ネットワークの充実
 都市鉄道ネットワークは、輸送力増強や混雑緩和を主眼とした整備により、相当程度拡充されてきた。その結果、大都市圏における鉄道の通勤・通学時の混雑は少子高齢化の進展等と相まって低下傾向にあるが、一部の路線では依然として混雑率が高く、引き続き混雑緩和に取り組む必要がある。
 一方、路線間の接続の不備、駅と周辺との一体的な整備の欠如など、「質」の面における課題がなお見られることから、既存施設を有効活用しつつ、速達性の向上や交通結節機能の高度化を図る「都市鉄道等利便増進法」の活用により、利用者利便を増進するなど、都市鉄道ネットワークを一層充実させていく。
 また、新たに平成20年1月に京都市営地下鉄東西線(二条〜太秦天神川)、同年3月には横浜市営地下鉄グリーンライン(日吉〜中山)及びJR西日本おおさか東線(放出〜久宝寺)が開業した。
 
図表II-4-4-1 整備中の主な都市鉄道新線

図表II-4-4-1 整備中の主な都市鉄道新線
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図表II-4-4-2 三大都市圏の最混雑区間における平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移(指数:50年度=100)

図表II-4-4-2 三大都市圏の最混雑区間における平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移(指数:50年度=100)
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(5)都市モノレール・新交通システム・LRTの整備
 少子高齢化に対応した交通弱者のモビリティの確保を図るとともに、都市内交通の円滑化、環境負荷の軽減、中心市街地の活性化の観点から公共交通機関への利用転換を促進するために、都市モノレール・新交通システム・LRTの整備を支援している。新交通システムでは、新たに日暮里・舎人ライナーが平成20年3月30日に開業した。
 
日暮里・舎人ライナー

日暮里・舎人ライナー

(6)バス・タクシーの利便性の向上
 平成19年6月に取りまとめられた交通政策審議会「今後のバスサービス活性化方策検討小委員会報告書」において、バスの活性化に向けては、バス事業者、地方公共団体、住民等がそれぞれの役割分担を明確にするとともに、連携することが必要であると指摘された。
 これを踏まえて、各都道府県に設置された地域協議会等の枠組みを活用しながら、バスを中心としたまちづくりを目指すオムニバスタウンの整備、都道府県公安委員会による公共車両優先システム(PTPS)の整備等のバスの走行環境の改善と、連節ノンステップバスの導入を一体的に行い、バスの定時性・高速性を確保する日本型BRTの導入、コミュニティバス等地域のニーズに即した輸送形態の導入等に対し、引き続き支援を行っていくこととしている。
 タクシーについては、18年度から、利用者の呼び出し地点から最短距離にあるタクシーの配車を行うデジタル式GPS-AVMシステムや、タクシー乗場の車両待機情報を一元的に集約・管理し、運転者に情報提供を行うタクシー乗場情報提供システム(TIS)の導入を支援することにより、利便性の向上を図っている。

(7)高速道路ネットワークの効率的活用・機能強化
 都市部の交通集中による深刻な渋滞の解消、地域活性化の支援、物流の効率化等の政策的な課題に対応するため、「道路特定財源の見直しに関する具体策」(平成18年12月8日閣議決定)に基づき、高速道路料金の引下げ等による既存高速ネットワークの効率的活用・機能強化を検討し、必要な措置を講じている。
1)多様で弾力的な料金施策の実施
 平成19年度においては、料金引下げに伴う物流、交通渋滞、交通事故、環境等に与える効果と影響及びその際の減収額等を把握することを目的とした社会実験を実施している。
 
図表II-4-4-3 平成19年度の社会実験の内容

図表II-4-4-3 平成19年度の社会実験の内容

2)スマートインターチェンジの整備等の促進
 高速道路までのアクセス時間の短縮、利便性の向上による地域経済の活性化や生活の充実、安全・安心の向上に向けて、スマートインターチェンジの整備等を促進している。
 
図表II-4-4-4 スマートインターチェンジ周辺地域の開発誘発の例(静岡県・遠州豊田スマートIC)

図表II-4-4-4 スマートインターチェンジ周辺地域の開発誘発の例(静岡県・遠州豊田スマートIC)


(注1)バスの定時性、速達性の確保のため、輸送力を向上させた高度なバスサービス
(注2)都市又は地域レベルの道路交通混雑を緩和するため、道路利用者の時間の変更、経路の変更、手段の変更、自動車の効率的利用、発生源の調整等により、交通需要量を調整(=交通行動の調整)する手法
(注3)交通混雑緩和のため、自動車を都市郊外の駐車場に駐車し(パーク)、鉄道、バス等の公共交通機関に乗り換え(ライド)、目的地に入るシステム
(注4)一人一人のモビリティ(移動)が、個人的にも社会的にも望ましい方向(過度な自動車利用から公共交通・自転車等を適切に利用する方向)へ自発的に変化することを促す、コミュニケーション施策を中心とした交通政策

 

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