第II部 国土交通行政の動向 

第4節 危機管理・安全保障対策

1 犯罪・テロ対策等の推進

(1)各国との連携による危機管理・安全保障対策
1)国際交通セキュリティ大臣会合における成果の具体化
 国際的な交通セキュリティの確保のため、我が国が平成18年1月に東京で主催した「国際交通セキュリティ大臣会合」に基づき、「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ」が創設され、G8ハイリンゲンダム・サミット「テロ対策に関するG8首脳宣言」において歓迎された。同グループの第2、3回会合を、それぞれ19年10月と20年2月に日本で開催し、陸上交通におけるテロ対策について議論を行った。
 一方、航空保安検査に関するフォーラムを19年6月に、航空貨物保安に関するワークショップを20年3月に日本で開催し、航空セキュリティの更なる向上に主体的に取り組むとともに、G8、IMO、ICAO及びAPEC等における交通セキュリティに関する議論へ参加し、セキュリティ対策の国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。
2)海賊対策
 海上保安庁を始め国土交通省では、図表に示すような海賊等事案の発生状況を受け、平成18年3月の「海賊等対策会議」において策定された「海賊・海上武装強盗対策の強化について」を踏まえて、日本関係船舶における自主警備対策の推進等を図っている。19年3月にはフィリピン、インドネシア等の海事政策担当者を招聘して「海賊被害防止対策セミナー」を開催し、海事セキュリティの強化等について意見交換を行った。
 また、海上保安庁では、12年から毎年、東南アジア周辺諸国へ巡視船・航空機を派遣し、連携訓練等を通じて沿岸国海上保安機関に対する人材育成、技術供与等の協力を行うなど、19年1月に設置した「海賊対策室」を中心に、各国との相互協力及び連携を強化している。
 
図表II-6-4-1 日本関係船舶における海賊等事案の発生場所(2006年)

図表II-6-4-1 日本関係船舶における海賊等事案の発生場所(2006年)
 
図表II-6-4-2 最近の海賊等事案の発生状況

図表II-6-4-2 最近の海賊等事案の発生状況
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3)港湾保安対策
 平成19年2月に「日ASEAN港湾保安向上行動計画」を承認し、同計画に基づき、日ASEANが参加する行動訓練や各種マニュアルの整備を実施するなど、ASEAN諸国の港湾保安対策を推進している。
4)海上におけるテロ対策・PSIへの取組み
 国際社会の平和と安定に対する深刻な脅威となっている大量破壊兵器、その運搬手段及びそれらの関連物資の拡散を阻止することを目的とする「拡散に対する安全保障構想」(PSI)に、我が国も積極的に参加している。海上保安庁は、関係会合への出席や、海上阻止訓練への巡視船・職員の派遣等により、PSIに貢献している。

(2)公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化
 国土交通省では、重大事件発生時の初動体制を整えるとともに、多客期にはテロ対策の徹底指示や点検を実施するほか、各分野ごとに次のとおりテロ対策に取り組んでいる。
1)鉄道におけるテロ対策の推進
 駅構内の防犯カメラの増設や巡回警備の強化等に加え、国土交通省では、鉄道事業者等と「鉄道テロ対策連絡会議」を開催し、「危機管理レベル」の設定・運用、「鉄道テロへの対応ガイドライン」の策定を行うとともに、「見せる警備・利用者の参加」(注1)を軸としたテロ対策を推進している。また、主要国との鉄道テロ対策の情報共有等にも積極的に取り組んでいる。
 
図表II-6-4-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策

図表II-6-4-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策

2)船舶・港湾におけるテロ対策の推進
 「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」の施行を受け、国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びPSCを通じて、海事保安の確保に取り組んでいる。
 また、同法が適用されない内航船舶や内航船舶が利用する港湾施設においても、警戒強化、不審物等への注意喚起、ゴミ箱の集約等のテロ対策の実施を指導している。
3)航空におけるテロ対策の推進
 我が国では航空機に対するテロ未然防止に万全を期すため、平成17年4月以降、旅客及び手荷物の保安検査、航空機の保安強化、空港警備強化等を柱とする新しい航空保安体制に移行するとともに、国際民間航空条約に規定される国際標準に従って、航空保安体制の強化を図っている。
 このような状況の中、18年8月英国において、液体性爆発物を使用した航空機爆破テロ計画が未然に摘発される事案が発生したことから、我が国においても19年3月から日本発国際線への液体物機内持込制限を実施した。また、同年4月以降、神戸空港における車両侵入に加え、東京国際空港(羽田)、宮崎空港においても不法侵入事案が発生したことから、各空港においては、車両侵入想定箇所へのガードレール・杭等を設置拡充するとともに、人の侵入に対応するため、フェンスの強化に加え、侵入があった場合にも侵入者の迅速な発見・捕捉ができるよう、センサーの設置を拡充した。
 また、19年6月の英国グラスゴー空港車両突入事案、同年9月の独フランクフルト空港等への爆弾テロ未遂事案等、航空保安をめぐる情勢は依然として厳しい情勢にあることから、航空保安対策については引き続き強力に推進していくこととしている。
 
図表II-6-4-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置

図表II-6-4-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置

4)自動車におけるテロ対策の推進
 バス及びバスターミナルの事業者に対し、主要バスターミナルの巡回警戒、車内の点検、監視カメラによる監視、利用者への不審物発見に係る放送による協力要請の実施等を指示している。また、トラック、タクシー、レンタカーの事業者に対し、車内の点検等のテロ対策の実施を指示している。
5)重要施設等におけるテロ対策の推進
 河川関係施設では、河川点検・巡視時の不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。
 道路関係施設では、高速道路や直轄国道での巡回強化や、サービスエリア・パーキングエリアのゴミ箱の撤去・集約等を行っている。
 また、国営公園では、巡回強化、はり紙掲示等の注意喚起等、工事現場では、看板設置等の注意喚起等を行っている。

(3)自動車に関する犯罪防止対策
1)登録事項等証明書の交付請求手続の厳格化
 自動車の登録事項等証明書の不正取得・悪用を防ぐため、平成19年11月から、証明書の交付請求の際に、原則自動車登録番号のほかに車台番号の明示を義務付けた。
2)港湾における盗難自動車の不正輸出防止対策
 「港湾における盗難自動車の不正輸出防止のためのスキーム」の推進に向け、中古自動車不正輸出防止の実証実験による課題を踏まえ、関係機関と盗難車検出手法を検討することとしている。

(4)物流におけるセキュリティと効率化の両立
 米国同時多発テロ以降、国際物流においてもセキュリティ強化が求められている。一方、セキュリティ強化は円滑な物流を阻害するおそれがあるため、米国でのC-TPAT(注2)の実施や世界税関機構(WCO)におけるAEO制度(注3)に係るガイドラインの策定等、物流分野におけるセキュリティと効率化の両立に向けた取組みが先進国や国際機関を中心として行われている。
 我が国においても、日本版AEO制度の構築を進めており、特にサプライチェーン(供給連鎖)を構築する物流事業者についてもAEO認定の対象とすべく取組みを進めている。

(5)情報セキュリティ対策
 経済社会活動全般のICTへの依存度の高まりに伴い、情報セキュリティ対策への取組みの重要性が増している。国土交通省においても、政府の「情報セキュリティ政策会議」で決定された方針に基づき、情報漏洩の防止対策等、国土交通省の情報セキュリティ対策及びICT障害による事業停止を防止するためのガイドラインの策定等、重要インフラ(鉄道・航空・物流)に係る情報セキュリティ対策を推進している。


(注1)「見せる警備」…テロの未然防止を図るため、人々の目に触れる形で警備を行う施策
    「利用者の参加」…テロに対する監視ネットワークを強めるため、一人一人の利用者にテロ防止のための意識を持ち行動することを促す施策
(注2)米国への輸入貨物に関係する事業者を対象に、高度なセキュリティ対策が確認された事業者を通関上優遇する制度
(注3)サプライチェーンにおいて高度なセキュリティ措置を講じている輸出入者等を税関がAEO(認定優良事業者)として認定し、通関手続の簡素化等の利益を付与する制度

 

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