国土交通省ロゴ

国土交通白書 2020

第1節 我が国を取り巻く環境変化

■6 観光振興の発展

(1)世界の観光動向

 国連世界観光機関(UNWTO)の発表による国際観光客数の推移を見ると、過去20年の国際観光客数は、2009年(平成21年)はリーマンショック・ドバイショックの影響から減少したものの、おおむね増加傾向で推移し、2018年は14億人となった。UNWTOは国際観光市場の拡大要因について、世界経済が総じて成長傾向にあることをはじめ、新興国・地域での中間層の拡大、ビザ手続きの円滑化(電子ビザ注27、到着ビザ注28)等によるものと分析している。

 国際観光収入も国際観光者数に比例して増加し、2018年の国際観光収入は対前年比4.4%増となる1兆4,510億米ドルであった(図表I-1-1-46)。これは、2018年の世界経済(GDP)の対前年比3.6%を上回る高い伸び率であった。国際観光市場は2010年以降、GDPの輸出区分でエネルギーや化学に次ぐ第3位の輸出産業であるなど経済効果の高い重要な産業として発展してきた。

図表I-1-1-46 国際観光客数と国際観光収入の推移
図表I-1-1-46 国際観光客数と国際観光収入の推移
Excel形式のファイルはこちら

 出発地域別国際観光客数の割合を見ると、世界最大の送客市場である欧州は2000年58%であったが、2018年には48%へと縮小した。一方で、アジア・太平洋の割合は2000年17%から2018年26%と拡大しており、特に中国やインドの急速な経済成長がアジア・太平洋における国際観光客数の増加に寄与している(図表I-1-1-47)。

図表I-1-1-47 出発地域別国際観光客数の割合
図表I-1-1-38 図表I-1-1-47 出発地域別国際観光客数の割合
Excel形式のファイルはこちら

(2)国際観光の振興

(訪日外国人旅行者の増加)

 訪日外国人旅行者は、2001年(平成13年)477万人から緩やかに増加しつつも世界的不況や東日本大震災の影響等により落ち込んだ。しかしながら、2013年に1,000万人を達成したことを皮切りに、2016年には2,000万人、2018年には3,000万人を超え、2019年には過去最高の3,188万人となるなど18年間で6.7倍にまで急速に拡大してきた。ただし、2020年に入り、新型コロナウイルスの影響により日本向けに限らず世界中で旅行控えが発生していること等により、3月の訪日外国人旅行者数が前年比93%減少となるなどの状況も見られる。

 訪日外国人旅行者数の増加に比例してその旅行消費額も増加しており、1,000万人を達成した2013年に1.4兆円だった訪日外国人旅行消費額は、2019年には3.4倍の過去最高となる4.8兆円となった(図表I-1-1-48)。

図表I-1-1-48 訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移
図表I-1-1-48 訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移
Excel形式のファイルはこちら

 訪日外国人旅行消費額が我が国経済に与える影響も大きくなっている。国内の旅行消費額を見れば、訪日外国人旅行者消費額の割合は、2013年には全体の6%であったが2019年には17%まで拡大している(図表I-1-1-49)。日本の旅行収支注29は2015年から黒字に転じ、その後も黒字幅を拡大させ2019年には2.7兆円と過去最大となった。また、物の輸出額と訪日外国人旅行消費額の規模を比較すると、2016年以降、日本の輸出区分注30において訪日外国人旅行消費額は、半導体等電子部品を上回って自動車に次ぐ第2位の輸出産業となるなど、日本の輸出主要産業の一つとなっている(図表I-1-1-50)。

図表I-1-1-49 日本国内における旅行観光消費額の比較
図表I-1-1-49 日本国内における旅行観光消費額の比較
Excel形式のファイルはこちら
図表I-1-1-50 観光収入が及ぼす経済効果(訪日外国人旅行消費額と主な製品別輸出額との比較(2019年))
図表I-1-1-50 観光収入が及ぼす経済効果(訪日外国人旅行消費額と主な製品別輸出額との比較(2019年))
Excel形式のファイルはこちら

(訪日外国人旅行者の国・地域や求めるものの変化)

 国・地域別訪日外国人旅行者の変化を、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」注31を開始した2003年と2019年で比較すると、中国からの旅行者の大幅な拡大に加え、東南アジア、香港が拡大した(図表I-1-1-51)注32

図表I-1-1-51 国・地域別訪日外国人旅行者の比較(2003年、2019年)
図表I-1-1-51 国・地域別訪日外国人旅行者の比較(2003年、2019年)
Excel形式のファイルはこちら

 訪日外国人旅行者が「訪日前に最も期待していたこと」は、2014年で、「日本食を食べること」と「ショッピング」を合わせて48.5%であったが、2019年には38.9%へ減少している。一方、自然・景勝地観光、花見・紅葉等の四季の体感、美術館・博物館・動植物園・水族館、スキー・スノーボード等の項目の回答率が上がっており、関心の対象が多様化していると考えられる(図表I-1-1-52)。また、娯楽サービス費の購入率は、2011年23.8%から年々増加し、2019年には42.0%となった。いわゆる「コト消費」への関心が高まっていると考えられる(図表I-1-1-53)。

図表I-1-1-52 訪日前に最も期待していたことランキング
図表I-1-1-52 訪日前に最も期待していたことランキング
Excel形式のファイルはこちら
図表I-1-1-53 訪日外国人娯楽サービス費購入率と購入者数の推移
図表I-1-1-53 訪日外国人娯楽サービス費購入率と購入者数の推移
Excel形式のファイルはこちら

(3)アウトバウンドの増加

 日本人の海外旅行者数については、1991年(平成3年)までに1,000万人にすることを目指す「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」が1987年より展開された。急激な円高も追い風となり出国日本人数は右肩上がりに上昇し、この目標は1990年に達成される。1993年から2002年は平均3.7%の伸び率で推移し、2012年に初めて1,800万人を超え、2019年に過去最高の2,008万人に達した(図表I-1-1-54)。

図表I-1-1-54 出国日本人数
図表I-1-1-54 出国日本人数
Excel形式のファイルはこちら

(4)国内観光

 国内の観光旅行の動向を10年程度のスパンで見ると、平成の前半(1993年-2002年)は一人当たり国内観光の回数や宿泊数は、減少傾向であった。これは航空路線の拡大による旅行日数の短縮等で、海外旅行の環境が整ってきたことや割安な海外旅行商品の販売等が要因と考えられる。

 平成の中盤(2003年-2012年)は、世界的な金融危機による景気低迷の影響や趣味・レジャーの多様化による旅行の魅力の相対的な低下、年次有給休暇取得率も微増にとどまるなど引き続き減少傾向であった。

 平成の後半(2013年-2018年)は景気の回復基調を背景に増加も見られたが、天候不順、災害等の影響により足踏み状態であった。また、この20年間では、団体旅行等の大人数の旅行よりも一人旅など少人数の旅行が増えるなど旅行スタイルの変化が見られた(図表I-1-1-55)。

図表I-1-1-55 国内宿泊観光旅行の回数及び宿泊数の推移
図表I-1-1-55 国内宿泊観光旅行の回数及び宿泊数の推移
Excel形式のファイルはこちら
  1. 注27 インターネットで申請しスマートフォンなどに保存できるビザ(オーストラリア、ロシア等)
  2. 注28 現地到着時に空港で取得可能なビザ(インド、カンボジア、スリランカ等)
  3. 注29 日本人旅行者の海外での消費を「支出」、訪日外国人の日本での消費を「収入」とし、収入から支出を引いたもの。
  4. 注30 輸出入には、自動車、家電製品など目に見える製品以外に金融、通信、運送等各国サービス産業によるサービスの貿易が行われており、観光もサービス貿易の一つである。
  5. 注31 国、地方公共団体及び民間事業者が共同して行う戦略的な訪日促進の取組み(訪日旅行商品の造成支援や海外への情報発信等)。2010年より「ビジット・ジャパン事業」に継承。
  6. 注32 2019年の韓国からの旅行者数については、二国間関係の影響等により7月から航空便の減数等で大幅減となった。