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国土交通白書 2020

第1節 我が国を取り巻く環境変化

■8 危機管理の重要性の拡大

(1)海上保安を巡る動向

 我が国は四方を海に囲まれており、海上の治安確保は危機管理の観点からも非常に重要である。

 2000年(平成12年)以降の動向を見ても、我が国周辺海域を巡る情勢は一層厳しさを増している。2001年には、九州南西諸島沖における北朝鮮工作船事件が発生した。日中EEZ(排他的経済水域)境界線上をジグザグ航行していた不審船に対して、海上保安庁の巡視船が威嚇等を行ったものの逃走し、攻撃を受けたため、巡視船による正当防衛射撃を実施した。その後同船は自爆用爆発物によるものと思われる爆発を起こして沈没したが、その後の捜査の過程で、同船が北朝鮮の工作船であったこと、過去に、薬物の密輸入に関与していたこと等が判明した注35

 中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域での航行・領海への侵入も予断を許さない状況である。2008年に、中国公船による領海侵入を初めて確認し、2010年には、尖閣諸島周辺の我が国領海で海上保安庁の船舶に中国漁船が衝突する事件が発生した。このような状況を踏まえ、日本政府は2012年に尖閣諸島の長期にわたる平穏かつ安定的な維持・管理を図るため尖閣三島(魚釣島、南小島、北小島)を取得・保有した。しかしながら、取得・保有以後、中国公船の尖閣諸島周辺の接続水域での航行・領海への侵入は増加し、2016年には中国公船が中国漁船に続いて領海侵入を繰り返す事案が発生した。2019年には、尖閣諸島周辺の接続水域における中国公船の確認日数が今までで最も多い282日に上るなど、我が国周辺海域を巡る状況は、一層厳しさを増している(図表I-1-1-67)。

図表I-1-1-67 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動向
図表I-1-1-67 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動向
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(2)海賊被害の推移

 我が国は、エネルギー資源や農・水産物、その他資源の多くを海外から輸入しており、貿易量(輸出入合計、トン数ベース)の99.6%を海上輸送に依存している。特に、アラビア半島周辺海域は、原油輸入やスエズ運河を通じた欧州への輸出入等、地理的に重要な地域となっている。

 この地域において、2005年(平成17年)頃からソマリアの海賊が活動を活発化させており、2008年には、日本企業が保有する大型原油タンカーが海賊の被害に遭っている。こうした状況に対処するため、各国の海軍による海賊対処活動が行われたほか、我が国においても自衛のために武装警備員を乗船させることが認められた。こうした対策が功を奏したこと、2012年にソマリアにおいて連邦共和国が成立したことなどもあり、2012年頃から海賊被害は減少し始め、近年では、ソマリアの地域での海賊被害は年間で10件未満となっている(図表I-1-1-68)。

図表I-1-1-68 海賊被害発生状況
図表I-1-1-68 海賊被害発生状況
  1. 注35 同船は、自爆用爆発物によるものと思われる爆発で沈没した後、海上保安庁により引き揚げられ、海上保安資料館横浜館で現在も公開されている。