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国土交通白書 2020

第1節 我が国を取り巻く環境変化

■9 情報技術の発展

(1)情報処理技術の発展

(スーパーコンピューターの処理能力の推移)

 情報化が進む中で、データを処理する技術は急速に発展してきた。例えば、大量の計算を高速で行うことができるスーパーコンピューターの最大処理能力は、おおよそ20年間で約1万倍向上している。2000年代初頭や2010年代初頭には、日本の技術が世界一に輝くこともあったが、近年に目を向けると、日本のスーパーコンピューターの処理能力の成長は鈍化する一方で、中国のプレゼンスが高まっている(図表I-1-1-69)。

図表I-1-1-69 スーパーコンピューターの処理能力の推移注36
図表I-1-1-69 図表I-1-1-69 スーパーコンピューターの処理能力の推移<sup>注36</sup>
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 スーパーコンピューターは、気候や交通といった多様な要素からなる複雑な現象の分析に向いているため、天気予報等にも用いられ、私たちの日々の生活にも役立っている。

(AIの発展)

 近年、情報化の進展とともに社会の中でデータの蓄積が進んだことなどもあり、AIの技術開発や実用化が急速に進められており、我々の生活の至るところに普及してきている。

 AIの一分野であるディープラーニングは、対象のビッグデータ内に共通する特徴を見つけることに優れており、画像認識等の分野で活用されている。2015年(平成27年)のILSVRC(画像認識の世界大会)において、画像を見せてその画像を分類させるテストを行ったところ、ディープラーニングを用いた方が人間よりも誤った回答をする可能性は低くなった(図表I-1-1-70)。ディープラーニングは、画像認識のほかにも、言語処理や音声認識等にも用いられており、例えば、Google翻訳では、2016年にディープラーニングを採用したことで、翻訳精度が飛躍的に向上した。

図表I-1-1-70 画像認識のエラー率推移
図表I-1-1-70 画像認識のエラー率推移

(2)情報通信技術の進展とサービスの普及

(通信速度の向上)

 我々を取り巻く情報通信環境は約20年間で大きく進展してきた。2001年(平成13年)に(株)NTTドコモが世界に先駆けてサービスを開始した3Gは、それまでの通信よりも10倍近い速さでの通信が可能となり、モバイル端末での画像等のやりとりが容易になった。その後2006年には、3Gよりも40倍近い速さで通信が可能な3.5Gが導入され、動画等の容量の大きいファイルのやりとりもできるようになった。2015年に導入された4Gでは従来をはるかに上回る高速通信が可能となり、約2時間の映画を30秒でダウンロードすることが可能となった(図表I-1-1-71)。2020年に導入される5Gでは、30年前の約10万倍もの速さの高速通信が可能となり、こうした技術を利用してVR/ARといった新たなサービスが発展していくことへの期待が高まっている。

図表I-1-1-71 通信速度の向上
図表I-1-1-71 通信速度の向上

(情報通信端末の普及)

 情報化が進む中で、情報通信端末も急速に普及してきた。携帯電話の世帯普及率は、2001年(平成13年)には78.2%であったが、2017年には94.8%まで増加している。特に、2010年頃からスマートフォンの世帯普及率は顕著な伸びを示しており、2010年には9.7%だった世帯普及率が、2017年には75.1%まで伸びている。一方、スマートフォンやタブレット等の普及に伴い、パソコンの世帯保有率は2009年にピークを迎えた後に減少傾向が続いている(図表I-1-1-72)。

図表I-1-1-72 情報通信端末の世帯保有率
図表I-1-1-72 情報通信端末の世帯保有率
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(サービスの普及)

 スマートフォンでは、今までの携帯電話よりも多くのアプリケーションを使うことができる。そのため、電話やメール、インターネットといった従来同様の用途にとどまらず、道案内や読書、画像編集等の様々な用途に用いることが可能となっている。また、一部の携帯電話は、決済用の非接触ICチップを搭載しており、こうした端末で日常の支払いを行うことが可能となった。

 東日本旅客鉄道(株)が提供するモバイルSuicaは、決済用ICチップを搭載する携帯電話によって交通機関等での支払いを行うことができるサービスであり、10年間で利用者数は約4倍にまで成長している(図表I-1-1-73)。

図表I-1-1-73 モバイルSuicaの普及
図表I-1-1-73 モバイルSuicaの普及

 近年、交通事業者をはじめとした民間企業を中心に、「MaaS(マース)注37」(Mobility as a Service)の取組みが進められている。MaaSとは、ドア・ツー・ドアの移動に対し、様々な移動手法・サービスを組み合わせて一つの移動サービスとして捉えるものであり、乗換え拠点等フィジカル空間の整備と連携しながら、これが実現することで、ワンストップでシームレスな移動が可能となる。MaaSの取組みは、欧州を中心に海外で先行した取組みが進められているが、我が国においても、交通事業者のほか、自動車メーカーやIT企業等も参入して各地で取組みが進められている。

 MaaSは、様々な移動手段の価格を統合して、一つのサービスとしてプライシングすることにより、いわば「統合一貫サービス」を新たに生み出すものであり、価格面における利便性の向上により、利用者の移動行動に変化をもたらし、移動需要・交通流のマネジメント、供給の効率化が期待されている。加えて、小売・飲食等の商業、宿泊・観光、物流等あらゆるサービス分野との連携や、医療、福祉、教育、行政等との連携により、移動手段・サービスの高付加価値化、より一層の需要の拡大も期待されている。

  1. 注36 FLOPSとは、1秒間にできる浮動小数点演算の回数によってコンピュータの演算性能を表す指標である。
  2. 注37 出発地から目的地まで、利用者にとっての最適経路を提示するとともに、複数の交通手段やその他のサービスを含め、一括して提供するサービス。