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国土交通白書 2020

第2節 環境変化に対する国土交通省の取組み

■4 国際情勢への対応

(1)航空ネットワークの強化

 少子高齢化をはじめとする様々な課題に直面する我が国にとって、成長を続けるアジアをはじめとした海外の成長や活力を取り込むことは重要である。2002年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」では、羽田空港を再拡張し、2000年代後半までに国際定期便の就航を図ることとされた。国土交通省では、我が国の空港の機能強化に向けて、着実な取組みを進めている。

 2007年5月に、「航空自由化(アジア・オープンスカイ)」に向けた航空政策等を盛り込んだ「アジア・ゲートウェイ構想」が策定注87された。これにより、首都圏空港を除き注88、オープンスカイを推進し、同年に韓国、タイと合意して以降、我が国との往来の増加が見込まれる国・地域へのオープンスカイ実現により、戦略的な国際航空ネットワークを構築してきた注89。2013年には、日・ASEAN航空協定の締結可能性を検討すること等で一致した「日・ASEAN特別首脳会議」を受けて、我が国として初の地域的な航空協定(日・ASEAN航空協定)を目指し交渉を行っている。

 また、羽田空港は、更なる国際化大都市圏国際空港として、24時間化にも取り組んできた。さらに、インバウンドの増加、地方創生、東京2020大会の円滑な開催等の観点から、羽田空港、成田空港の両空港を合わせて、世界最高水準の年間約100万回の発着容量とする取組みを進めている(図表I-1-2-25)。地方空港についても、那覇空港、福岡空港では滑走路を増設し、新千歳空港ではエプロンを拡張し、CIQ施設を整備するなど、空港の機能強化を進めている。

図表I-1-2-25 首都圏空港(羽田・成田)の空港発着容量
図表I-1-2-25 首都圏空港(羽田・成田)の空港発着容量

(2)港湾の国際競争力強化

 我が国経済の国際競争力を強化するため、国際基幹航路注90に就航するコンテナ船の寄港回数の維持又は増加や、主要な資源・エネルギー等の輸入の効率化・安定化への対応は重要である。

 「総合物流施策大綱」(2001年(平成13年)閣議決定)において、国際コンテナ港湾の機能強化を推進することが明記され、また、2002年に交通政策審議会において、国際コンテナ港湾のコスト、サービス構造を改革するため「スーパー中枢港湾の育成」が提案されたことを踏まえ、国土交通省では、2004年に京浜港、伊勢湾、阪神港をスーパー中枢港湾として指定するとともに、大規模ターミナルの機能強化・一体運営のためのメガターミナル・オペレーターの育成等の取組みを進めてきた。しかし、なお近隣諸国の港湾との競争が激化し、我が国港湾における国際基幹航路に就航するコンテナ船の寄港回数の維持は極めて厳しい状況にあったことから、2010年には阪神港及び京浜港を国際コンテナ戦略港湾として選定し、それ以降、大水深岸壁の整備や効率的な港湾運営等、ハード・ソフト一体となった総合的な施策を実施しつつ、2011年には、コンテナターミナルの一体的運用を可能とする港湾運営会社制度の創設を内容とする「港湾法」の改正が行われた。さらに2014年からは、国際コンテナ戦略港湾への国内外からの貨物集約等による「集貨」、港湾背後における貨物の創出による「創貨」、ヒトを支援するAIターミナルの実現による良好な労働環境と世界最高水準の生産性の創出、大水深コンテナターミナルの機能強化等による「競争力強化」を3つの柱として、国際コンテナ戦略港湾政策の取組みを進めてきた。

 また、国際戦略港湾の港湾運営会社の運営計画への国際基幹航路に就航するコンテナ船の寄港回数の維持又は増加に関する取組みの追加や、国土交通大臣による港湾運営会社に対する必要な情報の提供や指導、助言を可能とする規定の整備等を内容とする「港湾法の一部を改正する法律」が2019年11月に成立した。さらに、国際戦略港湾の入出港コストの低減を図るため、とん税・特別とん税の負担を軽減する特例措置が創設され、2020年10月に施行されることとなった。

図表I-1-2-26 国際コンテナ戦略港湾における取組み
図表I-1-2-26 国際コンテナ戦略港湾における取組み

 さらに、資源・エネルギー等のばら積み貨物を安定的かつ安価に輸入するための拠点として、2011年度に「国際バルク戦略港湾」を選定した。大型船が入港できる岸壁等の整備に加えて、企業間連携による大型船を活用した効率的な輸送ネットワークの構築に取り組んでいる。

(3)インフラシステム輸出の推進

 少子高齢化の進展等により国内市場の縮小が懸念されることから、我が国の持続的な成長を確保するためには、我が国の強みである「質の高いインフラシステム」のコンセプトを最大限に活かして、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことが重要である。このため、2013年(平成25年)3月に、我が国企業によるインフラシステムの海外展開等を支援し、海外経済協力に関する重要事項の戦略的かつ効率的な実施を図ることを目的とした「経協インフラ戦略会議」注91が設置された。同年5月には、我が国企業が「2020 年に約30兆円のインフラシステムの受注注92」を目指すことや目標達成に向けた施策等を盛り込んだ「インフラシステム輸出戦略」が取りまとめられた。

 国土交通省では、「インフラシステム輸出戦略」の下、国土交通分野の取組みを深掘りした「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画」を2016年3月に策定、以降毎年改定し、鉄道、港湾、空港、都市開発・不動産開発、水、防災、道路等の国土交通分野の関係者と情報・戦略を共有し、官民一体となった取組みを進めている。

 国土交通関連分野では、2014年に、我が国企業の交通事業・都市開発事業の海外市場への参入促進を図るため、「株式会社海外交通・都市開発事業支援機構法」が制定され、海外の交通・都市開発事業に対して「出資」と「事業参画」を一体的に行う(株)海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が設立された。JOINは、海外進出を目指す我が国企業と協調して現地事業体に出資等の資金供給を行うとともに、現地への役員等の人材派遣や相手国との交渉などの支援を行っている。令和元年度には、港湾、都市開発、鉄道、道路及び物流分野において国土交通大臣の認可の下、新たに7案件の支援決定を行っており、引き続き、JOINによる積極的な支援が期待されている。また、関係機関と連携し、インドネシア初の地下鉄となるジャカルタ都市高速鉄道システムの建設を支援し、2019年3月開通した(図表I-1-2-27)。

図表I-1-2-27 JOINによる累計支援決定数及び累計支援決定額とジャカルタ都市高速鉄道システム(JICA)
図表I-1-2-27 JOINによる累計支援決定数及び累計支援決定額とジャカルタ都市高速鉄道システム(JICA)

 なお、2018年には、「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律(海外インフラ展開法)」が施行され、国土交通大臣の定める基本方針の下、独立行政法人等注93に必要な海外業務を行わせること等を通じて、官民一体となったインフラシステム輸出を強力に推進している。

(4)危機管理体制の強化

(領海等の安全の確保)

 我が国の周辺海域を巡る情勢が大きく変化する中、国土交通省では、様々な取組みを進めてきた。

 1999年(平成11年)の「能登半島沖不審船事案注94」の教訓・反省を踏まえ、2001年には、海上保安庁法について、海上保安官等が武器を使用する場合の要件についての改正を行った注95。これにより、同年末に発生した九州南西海域における工作船事件で、工作船からの攻撃を受け巡視船が被弾し海上保安官3名が負傷する中、正当防衛射撃等を実施するなど適切な対応を取ることが可能となった。

 海上保安庁法等は、2012年にも改正され注96、警察官が速やかに対処することが困難な遠方離島における犯罪については、海上保安官による対処が可能となり、また領海及び内水で停留・徘徊する船舶に対して、勧告を経た上で立入検査を行わずに退去命令を行うことも可能となった。

 2016年12月、関係閣僚会議において、「海上保安体制強化に関する方針」が決定され、これに基づき、巡視船や航空機の整備等を着実に進めているところである。

 海上保安に向けては、海で繋がる海上保安機関間の結束も極めて重要である。2017年には、世界海上保安機関長官級会合を東京で初開催し、各国の先進事例の共有を行うとともに、連携の強化及び対話の拡大の重要性等を確認した。2019年には第2回会合を開催し、海上保安分野に係る地球規模の課題に対応できる人材の育成に向けた取組みの着手に合意するなど国際的な協力体制の構築に努めている(図表I-1-2-28)。

図表I-1-2-28 第2回世界海上保安機関長官級会合
図表I-1-2-28 第2回世界海上保安機関長官級会合

(海賊への対応)

 貿易の大部分を海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全確保は、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であることから、国土交通省では様々な海賊対策に取り組んでいる。

 2005年(平成17年)頃からアラビア半島周辺海域で海賊行為が増加したことを受けて、2009年に「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」が制定された。これにより、海上保安庁および防衛省は海賊行為に対して対処活動を本格的に行えるようになった。国土交通省では、海賊対処のために派遣されている海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官が同乗すること等を通じて、船舶航行の安全確保に取り組んでいる。また、2013年に制定された「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」では、凶悪な海賊行為が多発している海域を航行する日本籍原油タンカー等において民間武装警備員が乗船し警備することが可能となった。海上保安庁ではこうした民間武装警備員の技能確認なども行っている。

 さらに、諸外国の海上保安能力向上の支援にも取り組んでいる。2014年には、JICAの枠組みにより、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関職員を招き、海賊対策や捜査資器材の取扱いに関する「海上犯罪取締り研修」を実施した。これら外国の海上保安機関等への様々な能力向上支援を通じて、我が国の海上輸送の安全確保に努めている。

  1. 注87 第165回国会における内閣総理大臣所信表明演説において、アジア・ゲートウェイ構想を取りまとめると表明。内閣総理大臣、内閣官房長官及び内閣総理大臣補佐官(経済財政担当)並びに有識者により構成する「アジア・ゲートウェイ戦略会議」において策定。
  2. 注88 その後、2010年「新成長戦略」において首都圏空港を含めオープンスカイを推進するとしている。
  3. 注89 2019年3月現在、33カ国・地域との合意に至る。
  4. 注90 国際戦略港湾と本邦以外の地域の港との間の航路のうち、コンテナ船が就航するものであって、北米、欧州等の地域の港を寄港地とするもの。
  5. 注91 内閣官房長官、副総理兼財務大臣、総務大臣、外務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策)で構成される。
  6. 注92 事業投資による収入額等を含む。
  7. 注93 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、独立行政法人水資源機構、独立行政法人都市再生機構、独立行政法人住宅金融支援機構、日本下水道事業団、成田国際空港株式会社、中部国際空港株式会社、高速道路株式会社、国際戦略港湾運営会社
  8. 注94 1999年3月23日、海上保安庁は能登半島沖の不審な漁船2隻に関する情報を入手し、停船命令や威嚇射撃を実施した。しかしながら、両船はこれを無視し高速で逃走を続けたため、政府は同月24日、自衛隊法82条に基づき海上警備行動を発令し、海上保安庁はその後も海上自衛隊と共に不審船の追跡を継続したが、不審船が我が国の防空識別圏を出域したため追跡を断念した事案。
  9. 注95 不審船に対し、適確な立入検査を実施する目的で停船を繰り返し命じても、乗組員等がこれに応じず抵抗し、逃亡しようとする場合において、海上保安庁長官が一定の要件に該当する事態であると認めた時には、海上保安官等が停船させる目的で行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう明定した。この改正により、海上保安庁では、より一層有効な不審船対策を実施することが可能となった。
  10. 注96 「海上保安庁法の一部改正」では、1)遠方離島における犯罪対処、2)質問権の対象範囲の拡大、3)任務・所掌事務の整理についての法律改正が行われ、「領海等における外国船舶の航行に関する法律の一部改正」では、外国船舶に対する退去命令を可能にする等の法改正が行われた。