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国土交通白書 2020

第2節 環境変化に対する国土交通省の取組み

■3 観光立国の実現に向けた対応

(1)観光立国としての歩み

(観光基本法制定と観光庁発足)

 我が国では、1963年(昭和38年)に国際収支の改善及び外国との経済文化の交流の促進を目的とした「観光基本法」が制定された。これが外国人旅行者の訪日促進を第一の政策目標に掲げた最初の取組みであり、ここから観光立国への歩みが始まった。観光基本法制定の翌年には東京オリンピックが開催された。東海道新幹線や高速道路の建設、宿泊施設の整備や接遇の向上が推進され、訪日外国人旅行者を受け入れるための基礎となっていった。

 訪日外国人旅行者の促進については、1996年に「ウェルカムプラン21(訪日観光交流倍増計画)」において、「2005年までに700万人」という数値目標が定められた。その後、2003年には、バブル崩壊後の長引く経済低迷の打開に向け観光への関心が高まる中、第162回国会における総理大臣施政方針演説において、「2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人にする」との目標が掲げられた。これを受け観光立国懇談会注80において、我が国の観光立国としての基本的なあり方が検討された。

 国土交通省では、2003年に、訪日旅行の飛躍的拡大のための国を挙げた戦略的な取組みとして「ビジット・ジャパン・キャンペーン(2010年より「ビジット・ジャパン事業」)」を開始した。その後2006年には、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進すること等を目的とした「観光立国推進基本法」が制定され、観光は21世紀における日本の重要な政策の柱として初めて明確に位置付けられた。国土交通省も組織の体制強化を図り、2008年に外局として観光庁が発足した。

 「観光立国」の実現に向けては、国内の観光資源の磨き上げが重要である。このような観点から、2008年には「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律(観光圏整備法)」が制定され、「観光圏」注81の形成支援等を通じて、魅力ある観光地域づくりを推進してきた。

 また、訪日旅行の促進の観点からは、旅行者の満足度を高めるため、質の高い観光案内の提供にも取り組んでいる。1949年に導入された国家資格である「通訳案内士」については、2005年に外国人観光旅客に対する接遇の向上を図り、国際観光の振興に寄与することを目的とした通訳案内業法の改正により「通訳案内士法」が制定され、「通訳案内業」の免許制から「通訳案内士」の登録制に変更した。2007年には、一定レベルの語学力と各県に関する知識を備えた者により各県の観光振興等を推進するため、「地域限定通訳案内士制度」を導入している。

(観光立国に向けた取組み)

 2013年(平成25年)には、観光立国を実現するための施策について、関係行政機関の緊密な連携を確保し、その効果的かつ総合的な推進を図ることを目的として、全閣僚が構成員となる「観光立国推進閣僚会議」が立ち上げられた。訪日外国人旅行者数の推移については、第1章第1節6に示しているが、官民一体となった取組み注82により、同年に、目標であった1,000万人を達成した。さらに翌年、外国人旅行者向け消費税免税制度が改正されるとともに、観光地における案内板の英語表記の導入等受入環境の整備も着実に進めていった。

 クルーズ船の寄港についても対策を講じた。2013年6月に、関係各省庁と連携し、主に外国のクルーズ船社からの寄港に関する問い合わせに一元的に対応する「クルーズの振興のためのワンストップ窓口」を設置した。それ以降、港湾の施設情報(岸壁やターミナル等)や寄港地の観光情報の提供を一元的に行うなど、外航クルーズ船の寄港促進に向けた取組みも行ってきた。その結果、我が国へのクルーズ船の寄港回数は、2009年の876回から2019年には2,867回と着実に増加し続けている。

 MICE注83誘致についても、関係省庁の連携による新たなMICE推進施策を進めており、日本で開催された国際会議開催件数は、2004年の132件から2019年には過去最高の527件に増加している。

 ただし、2020年に入り、新型コロナウイルスの影響により日本向けに限らず世界中で旅行控えが発生していること等により、4月の訪日外国人旅行者数が前年比99%減少となるなどの状況も見られる。

図表I-1-2-22 観光立国に向けたこれまでの取組みと成果
図表I-1-2-22 観光立国に向けたこれまでの取組みと成果
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(2)観光先進国への挑戦

(新たな目標の達成に向けて)

 観光立国に向けた取組みについては、2016年(平成18年)3月、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」注84において、「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人、訪日外国人旅行消費額を2020年に8兆円、2030年に、15兆円とする新たな目標を目指すこととした(図表I-1-2-23)。

図表I-1-2-23 明日の日本を支える観光ビジョン「新たな目標値」
図表I-1-2-23 明日の日本を支える観光ビジョン「新たな目標値

 観光は、地方都市の再生・活性化など地方創生の切り札でもある。2015年(平成27年)には、地域の「稼ぐ力」を引き出し、地域への誇りと愛着を醸成することを目的として、観光地域づくり法人(DMO)(Destination Management / Marketing Organization。地域経営の視点に立った観光地づくりの司令塔としての役割を果たす法人)の登録制度を創設した。現在281法人(候補法人含む) が登録されており、観光庁では、世界に誇る観光地の形成に向けて、観光地域づくり法人(DMO)全般の底上げに向けた取組を行っている。

 訪日外国人旅行者の増加により、宿泊ニーズの多様化への対応も必要となった。このため、一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図ることを目的として、2017年に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が制定された。届出数は24,850件と急速に拡大している(図表I-1-2-24)。

図表I-1-2-24 住宅宿泊事業法に基づく届出件数の分布図(2020年3月11日時点)
図表I-1-2-24 住宅宿泊事業法に基づく届出件数の分布図(2020年3月11日時点)

 また、通訳案内士の制度注85については、2018年に資格を有さなくても観光案内が行えるようになるなど大きな転換期を迎えた。これにより、通訳案内士の量的不足やガイドニーズの多様化に対応していくこととしている。

 新たな目標の確実な達成に向けては、観光促進のための財源確保も重要な課題であった。そのため、2019年1月より国際観光旅客税が創設され、日本から出国する者(日本人・外国人含む)を対象に国際観光旅客税が徴収されている。その使途は、1)ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備、2)我が国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化、3)地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験滞在の満足度向上の3つの分野となっている。

(日本人の旅行需要喚起)

 国内の観光市場を見れば、訪日外国人旅行消費額の割合は、2013年(平成25年)の6%(1.4兆円)から2019年の17%(4.8兆円)まで拡大しているものの、図表I-1-1-49に示すとおり、日本人の旅行(宿泊・日帰り)の割合は2013年には89%(20.2兆円)、2019年には79%(22兆円)と依然として高い。観光庁ではこれまで、休暇改革や観光教育等により日本人の旅行需要の喚起にも取り組んでいるところである。また、日本人が質の高い観光資源やサービスを海外現地で体験することは、国内の観光産業の発展に必要な人材の育成に大きく寄与する。若年層が海外旅行を経験することは、観光産業のみならず、我が国のグローバル化への対応にもつながることから、若年層の海外旅行について旅行費用軽減等の促進策を講じている。

(3)災害への対応

 2011年度(平成23年度)末に決定された観光立国推進基本計画では、2011年に発生した東日本大震災を踏まえて、「国民経済の発展」、「国際相互理解の増進」、「国民生活の安定向上」に加え、「震災からの復興」を基本的な方針として掲げた。そして、被災した観光産業の再生のため、官民合同による国内旅行振興キャンペーン(「がんばろう!日本」)や東北地方に旅行需要を喚起させること目的に、東北地域全体を一種の博覧会会場と見立てた「東北観光博」を行うなど復興に向けた支援を行った。

 2016年に発生した熊本地震については、「九州の観光復興に向けての総合支援プログラム」の一環として「九州観光支援のための割引付旅行プラン助成制度(ふっこう割注86)」を創設した。

 2018年の大規模な災害に際しては、訪日外国人旅行者が交通機関の運行状況等の情報を適切に入手できないという新たな課題も浮き彫りになった。そのため、日本政府観光局(JNTO)の災害発信用Twitterアカウント(Japan Safe Travel)の新設や、鉄道・空港における情報提供の充実(多言語対応)等の取組みを強化している。

  1. 注80 内閣総理大臣が開催し、有識者で構成
  2. 注81 自然・歴史・文化等において密接な関係のある観光地を一体とした区域
  3. 注82 ビジット・ジャパン事業による訪日プロモーション、首都圏空港の発着枠の拡大やLCC路線の増加、ビザ緩和等
  4. 注83 ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビション/イベントを総称した用語
  5. 注84 安倍内閣総理大臣をはじめ関係各省庁大臣及び有識者で構成
  6. 注85 「通訳案内士」については、定期的な研修の受講を義務付けるとともに、名称を「全国通訳案内士」に変更。また、「地域限定通訳案内士」の名称についても「地域通訳案内士」に変更。改正通訳案内士法が施行され、資格を持たない人でも有償で通訳案内業務を行うことが可能となったが、全国通訳案内士や地域通訳案内士は質の高い観光案内を提供する者として、訪日外国人旅行者の満足度の高い旅行を支える上で、引き続き重要な役割を担っている。また、これら資格を持たない人は全国通訳案内士、地域通訳案内士、又これに類似する名称を使用することはできない。
  7. 注86 その後、相次いで発生した大規模な災害についても、風評被害を最小限に留め、災害からの復興をいち早く遂げるための「ふっこう割」をはじめ各種観光支援策を講じている。