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国土交通白書 2020

第1節 技術の進歩を踏まえた変化

コラム 持続的な社会を目指して~新「国立競技場」にみる技術~

 2021年(令和3年)に開催予定の東京2020大会のメイン会場となる新たな国立競技場が2019年11月30日に完成しました。その大きな特徴は、日本のスタジアムでは最大級の約60mの片持ちの大屋根構造となっていることです。もうひとつは、建物外周の軒庇(のきびさし)や、室内にも積極的に木材利用を図り、そして、アスリートや全ての観客席からよく見える大屋根裏の構造部材にも木材を利用した、温もりが感じられる日本的なスタジアムとなっていることです。ここでは、国立競技場の構造上の工夫、木材の利用方法及び維持管理について紹介していきます。

国立競技場の構造上の工夫、木材の利用方法及び維持管理について紹介

 構造上の工夫の一つは、基礎から屋根まで大部分の部材を工場で造り、現場で組み立てていることです。これにより、全国どこからでも材料を調達することができ、天候に左右されず工期を確保できました。また、地震対策注1としては、約60mの片持ち屋根の揺れを抑えるため、スタジアムでは初めての採用となる「ソフトファーストストーリー制振」構造としました。下の層は、柔らかいフレームで構成され、オイルダンパーを入れエネルギーを吸収し、2、3層スタンドは一般的なブレースで固めて、免震注2に近い効果が出る制振注3構造となっています。

 木材を利用した屋根のトラス注4は、鉄骨と木材のハイブリット部材で構成されています。木材は森林認証を得た集成材を利用し、強度が必要な部分にはカラマツを、それ以外はスギを使用しています。これらの木材については、国土交通省制定の木造計画設計基準注5に沿った防腐防蟻処理を施すことにより、長期にわたっての耐久性と安全性を確保しています。また、屋根は鉄骨だけでもレベル2注6の大地震に耐えられる設計となっていますが、想定以上の地震や台風などの強風でも変形を抑える余力として木材を使用しています。

木材を利用した屋根のトラス注4は、鉄骨と木材のハイブリット部材で構成
強度が必要な部分にはカラマツを、それ以外はスギを使用しています

 屋根トラスの木材の日常の点検は、トラスの下を全周にわたり走行するメンテナンス用のゴンドラを使用して目視確認を行います。木材自体は50~60年は取り換えの必要はないと想定されていますが、万が一、割れがあってもボルトを外して部分的に交換が可能です。その他も木材が使用されている軒庇の格子材(105mm×30mm)、競技場の内部の大和貼り注7、木の障子なども小さな部材で構成しているため、部分的な交換が可能です。このように、新しい国立競技場は、50年、100年後も日本の代表的なスタジアムとして存在し続ける、持続的な建物です。

内装に使用されている写真
内装に使用されている写真

 我が国では、木材利用促進法注8により公共建築物について国が率先して木材利用に取り組むとともに地方公共団体や民間事業者にも主体的な取組みを促し、木材全体の需要が拡大することを目指しています。2018年には、対象となる低層の国の公共建築物の木造化率が9割を超えました。木材の利用が内装にとどまらず、他の材料を組み合わせた構造材としての技術が成熟することで、高層建築物への利用など様々な可能性が期待されます。

CLT注9を活用した国、地方公共団体の整備事例
CLTを活用した国、地方公共団体の整備事例
  1. 注1 免震、耐震、制振
  2. 注2 建物と基礎との間に免震装置を設置して、地震の揺れを建物に伝えにくくする。
  3. 注3 建物内部に重りやダンパーなどの制振材を組み込み、地震の揺れを熱エネルギーなどに転換し、吸収する。
  4. 注4 三角形を基本単位とした集合体で構成する構造形式
  5. 注5 木造計画設計基準 http://www.mlit.go.jp/common/001178738.pdf
    施設を50~60年使用する場合の外部に面する柱等には、木材の薬剤処理等を行い、塗装を施した上で屋根の先端(軒)から90cm内側に使用他
  6. 注6 構造物の耐震設計に用いる入力地震動で、現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さをもつ地震動。
  7. 注7 板を1枚おきにズラして、少し重ねて張る方法のこと。仕上がりは、規則的な凸凹になる。
  8. 注8 公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(第174回通常国会において成立、平成22年5月26日に公布され、同年10月1日施行。)
  9. 注9 Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略。板の繊維方向が直交するように交互に張り合わせた集成材