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国土交通白書 2020

第2節 地球環境・自然災害に関する予測

■1 地球温暖化

(1)気候変動が国民生活に与える影響

(世界の気温上昇)

 第1章第1節5に示すとおり、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では、気候システムの温暖化には疑う余地がないという評価が示されている。同報告書では、地球温暖化を引き起こす原因として、大気中の温室効果ガス濃度等による放射強制力の変化を4つのシナリオで仮定し、将来の気象変動を予測している。その予測の中で、最も温室効果ガスの排出が多いシナリオ(RCP8.5注16)では、21世紀末(2081年~2100年)の世界平均の地上気温は現在(1986年~2005年)と比較して2.6~4.8℃上昇し、最も温室効果ガスの排出が小さいシナリオ(RCP2.6注17)でも0.3~1.7℃上昇することが示されている。

(日本の気温上昇)

 気象庁では、2017年(平成29年)3月に「地球温暖化予測情報第9巻(予測情報第9巻)」を公表した。これは、IPCCの第5次評価報告書のRCP8.5に基づき、地球温暖化による影響が最も大きく現れる場合の気象に関する将来予測を取り上げている。

 予測情報第9巻では、将来(2076年~2095年)の平均気温は、20世紀末(1980年~1999年)と比べて全国平均で4.5℃上昇すると予測している。同期間で地域別に比較すると、北日本日本海側では4.8℃、北日本太平洋側では4.9℃、東日本日本海側では4.5℃、東日本太平洋側では4.3℃、西日本日本海側では4.1℃、西日本太平洋側では4.1℃、沖縄・奄美では3.3℃の上昇となる予測である(図表I-2-2-1)。例えば、東日本太平洋側に属する東京は1981年~2010年の年平均気温が15.4℃であったが、これに上記の予測を重ねると、屋久島の1981年~2010年の年平均気温(19.4℃)に近い値になることに相当する。

図表I-2-2-1 年平均気温の地域別変化量(左)と変化分布図(右)
図表I-2-2-1 年平均気温の地域別変化量(左)と変化分布図(右)

(気温上昇に伴う気象現象の変化)

 予測情報第9巻では、平均気温以外にも我が国の様々な気象現象の変化を示している。

 将来(2076年~2095年)の猛暑日(最高気温が35℃以上の日)については、20世紀末(1980年~1999年)と比べて沖縄・奄美で54日増加するなど、猛暑日や真夏日(最高気温が30℃以上の日)、熱帯夜(ここでは最低気温が25℃以上の日を便宜的に熱帯夜と定義している)の年間日数は、全国的に増加すると予測している(図表I-2-2-2)。

図表I-2-2-2 猛暑日の年間日数の地域別変化量(左)と変化分布図(右)
図表I-2-2-2 猛暑日の年間日数の地域別変化量(左)と変化分布図(右)

 将来(2076年~2095年)の真冬日(最高気温が0℃未満の日)については、20世紀末(1980年~1999年)と比べて北日本日本海側で38日程度減少するなど、真冬日や冬日(最低気温が0℃未満の日)の年間日数は、20世紀末においても出現日数がゼロである沖縄・奄美を除いて、全国的に減少する予測である。この予測を前提とすれば、北日本日本海側に属する札幌では、1981年~2010年における真冬日の平均年間日数は45.0日であったが、7日程度まで減少することに相当する(図表I-2-2-3)。

図表I-2-2-3 真冬日の年間日数の地域別変化量(左)と 変化分布図(右)
図表I-2-2-3 真冬日の年間日数の地域別変化量(左)と変化分布図(右)

 降水量については、将来(2076年~2095年)の年最大日降水量が、20世紀末(1980年~1999年)と比べて全国平均で32.8mm増加する予測である(図表I-2-2-4)。また、ほとんどの地域で将来変化量(桃色棒グラフの上端)が現在気候の年々変動の幅(現在気候の細縦線)より大きいことから、将来気候では、現在ではほとんど観測されないような年最大日降水量が例年のように出現することを示している。なお、日降水量200mm以上の年間日数や1時間降水量50mm以上の年間発生回数についても、全国平均で2倍以上となるなど大雨や短時間強雨は全国的に増加すると予測している。

図表I-2-2-4 年最大日降水量の将来変化
図表I-2-2-4 年最大日降水量の将来変化

 一方、無降水日(ここでは日降水量が1mm未満の日と定義する)については沖縄・奄美で8.0日の増加など、多くの地域及び期間で有意に増加すると予測されている(図表I-2-2-5)。この要因としては、気温の上昇に伴って、大気が水蒸気を保持する上限(飽和水蒸気量)が増加することで、飽和に達するまでにより長い時間が必要になることがあげられる。

図表I-2-2-5 無降水日の将来変化
図表I-2-2-5 無降水日の将来変化

 このほか、年最深積雪・年降雪量については北海道の一部を除き全国的に減少する(現在気候と同程度の積雪量となる年もあり得る)という結果も出ている。

 2000~2019年と比べた2081~2100年の熱帯低気圧について、IPCCの第5次評価報告書では、地球全体での発生頻度は減少するか、又は基本的に変わらない可能性が高く、それと同時に地球全体で平均した最大風速及び降雨量は増加する可能性が高いと予測されている。

 また、2019年9月に公表された「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」では、世界の海面水位は既に上昇しており、今後も継続する可能性が高いと予測されている。

(国民生活への影響)

 「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018注18」では、気象現象の変化による国民生活への様々な影響を指摘している。

 災害面では、気候変動に伴い豪雨の頻度・強度が増加することによる大規模な土砂災害や洪水被害が懸念される。また、台風の勢力が強まることにより、高潮による大規模な浸水被害が発生する可能性もある。健康面では、温暖化による熱中症の増加が挙げられ、環境省「熱中症環境保健マニュアル 2018」では、真夏日や熱帯夜の日数と熱中症による死亡者数の相関が示される中、熱中症対策の重要性が増している。さらに、国内における気温の上昇によるコメや果実の品質低下等に加えて、海外で発生した洪水被害がサプライチェーンを通じて国内の産業・経済に影響を及ぼすことなども考えられる。

 このように、国民生活のあらゆる分野への影響が懸念される中、温暖化対策に一層取り組んでいくことが求められている。

  1. 注16 2100年時点での放射強制力が約8.5W/m2:現時点を超える政策的な緩和策をせず4つのシナリオの中で温室効果ガスの排出量が最も多いシナリオ。
  2. 注17 2100年時点での放射強制力が約2.6W/m2:将来の気温上昇を工業化以前に比べて2度以下に抑えるという目標の下に温暖化対策を実施し、4つのシナリオの中で温室効果ガスの排出量が最も小さいシナリオ。
  3. 注18 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁より。